気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 友達作りを達成。集団内の関係性はやや複雑な模様。青い声の主の覚醒度合いは順調に高くなっている様子。



63 Reach

 

「“ぼく”や君が、他人の気分を良くさせるのが得意なのは、よくわかった」

 

 

 セブンと別れた後。

 隣を歩いてエリアの中央へ向かうシックスは前方を見つつ言った。

 

 …、…ちょっと棘があるな?さらっと私も巻き込まれてるけど、それらは“ぼく”の性質であって私のものではない。とはいえ確かにそう考えてみると 、“ぼく”には素直さとフレンドリーさが相まって人たらしの片鱗が感じられるな…。

 

「しかしまぁ、君たちが他のことも得意かどうかは、確かめる価値があるな」

 

「と、いうと…?」

 

 シックスは真面目な声で続ける。

 

「隠されたものの発見が得意かどうかを見極めようじゃないか」

 

 …、…。

 

「…えっとつまり…そういうテストの話…?」

 

 問いかけつつちらと横目で見た彼の顔は…相変わらず舌を出した愛嬌のある表情だが、心持ち…むっと…いや…厳めしい顔をしているように見えなくもない。シックスは、真面目くさった声で、言った。

 

「つまり、『かくれんぼ』だ。―――ちなみに僕を見つけた者はまだ誰も居ない」

 

 ずんずんとエリア中央まで歩いたシックスは声を張り上げた。

 

「集合!」

 

 なんだなんだ、と周囲からブロブたちが集まってくる。

 彼らを一度見まわし、シックスが宣言する。

 

「皆、重要なお知らせだ。知っての通り新入りが加わった。伝統にのっとってかくれんぼを開催する」

 

 海賊ごっこ遊びのときと積極性が違くないか。

 私は一番近くのブロブに寄って、こそっと聞く。

 

「…伝統?」

「ああそうだな、お家芸だ。誰かさんの」

 

 ニヤと笑ったダイブ好きのブロブは、それきり口を閉じた。

 私はシックスの顔を見つめ直す。気合が入った感じのその顔を…。

 

「かくれんぼ、よくやるの?」

「いや別に。ただこのゲームは、身体能力や認識能力を用いたり他者のそれを推測したりと、駆け引きもある極めて優れた訓練だ」

 

 そうかぁ…。理屈を並べて高評価したいくらい好きで自信のある遊びなんだな…、よくわかった。

 

「鬼役は君…いや。すまないが“わたし”、今“ぼく”に代われるかい」

 

 まさにそう思っていたところだった。みんなで遊びをするなら“ぼく”が良い。頷いて内側に声をかける。

 

 ―――“ぼく”。おーい、“ぼく”…?

 

 ……返事はないし、なんだか眠そうな雰囲気を感じる。無理やりにはならないように、起こすのを試みる。

 

 ―――ねぇ“ぼく”。“ぼく”?シックスとセブンやブロブがね、いっしょに遊ぼうって。

*―――むにゃ…え…あそび…なんだろ?

 ―――かくれんぼ、知っている?

*―――うーん…しらない…どんなの…?

 

 ええと、と私はかくれんぼの遊び方を思い浮かべた。

 一般的なのは、鬼役のひとりが隠れた他のメンバーを探し、全員が見つかったら鬼の勝ち、見つからなかったら最後まで隠れていた者の勝ち、というものだが。果たしてここで言うかくれんぼが、私の知るそれそのままなのかは不明だ。ローカルルールは発生するものだし。なんと言って“ぼく”に伝えたらわかりやすいだろうか…。

 

*―――…おもしろそう!

 

 えっ、まだ説明してないが。

 虚を突かれる私をよそに、にわかに覚醒したらしき“ぼく”がわくわくと声を上げる。

 

*―――あそぶ!“わたし”も一緒にあそぼう!

 ―――…ああ、いや、貴方がまずは鬼役で誘われてるんだ。だから私と交代、してもらえる…?

*―――そうなの?わかった!でもじゃあ、あとで“わたし”もあそぼうね!

 

 いや、ええと…と言葉を濁す私は、あくびと共にぱっと内側に引っ張られた。

 

 

 青い体は元気に手を挙げた。

 

「―――かくれんぼ!ぼくやるよ、シックス!」

「よし」

 

 シックスは悠々と頷いた。彼は広場の角へ視線を向ける。何やらライトでピカピカ光った場所だ。

 

「ルールは僕が決める訳じゃない。…あそこにカウンターコーナーが見えるだろう、そこへ行って10数えるんだ。決まりも書いてあるからよく読むんだよ」

「わかった!全員見つけたらぼくの勝ちだね!」

「“全員”見つけたらね」

「がんばる!ぼく負けないよシックス!」

 

 ぴょんぴょん、青い体はスキップをするようにカウンターコーナーに向かった。

 

 辿り着いた先、カウンターコーナーの壁には文字が書かれていた。鬼役である“シーカー”と、隠れ役である“ハイダー”の決まりだ。

 

シーカーのルール

覗き見禁止。

密告者への賄賂禁止。

誰も見つけられなくても怒りださないこと。

 

自分が往生際の悪い敗者だって認める時だけルールを破ってね!

 

ハイダーのルール

密告者は縫われる。

見つかっても泣かないこと。

見つかってもシーカーを殴らないこと。

 

やれるってんならルールを破ってもいいよ!

 

 細かい所はいまいち不明だが、多分私の知るかくれんぼとルールは大きく変わらないと見ていいだろう…。私は若干不遜で物騒な感じのルールを見つめた。縫われるって何を…?誰に…?

 

 順当に考えて口を外科医に縫われるのだろうか…?考えこむ私はさておいて、“ぼく”はさらっと文章から視線を外すと、壁に体を向けて目を閉じ、大きな声で数を数え始めた。

 

 いーち、にーぃ、と元気な声が暗闇の中で聞こえる…。遠くから、"のぞいちゃダメだよ"、と楽しげなブロブの声や動く音も…。

 

「―――じゅう!」

 

 ぱっと目を開けた“ぼく”は後ろを振り返った。

 部屋は静まりかえっている。

 

「よぅし、全員見つけるからね!」

 

 青い体は、足取り軽く駆けだした。

 

 

 

 

 まずはじめ、“ぼく”はポーラエリアに向かった。きょろきょろ見回しながら走る体は、突如急ブレーキを踏む。

 

 視線が上がって、一点を見つめて止まる。

 イグルーの天辺、緑色の姿が見えた。

 

「見つけた!」

 

 喜びの滲む“ぼく”の声に、しかし見つかったはずのブロブ…船乗りのブロブである彼は、不敵な笑みを浮かべたようだった。

 

「―――フフ、甘いなルーキー!」

 

 彼は伸びあがって、胸を反らすようなしぐさをした。

 

「よく聞け!タッチするまでがかくれんぼだ!」

「そうなの???」

 

 そうらしい。

 

「そうだぜ!!さぁここまで来るんだ、このツルツルの氷っぽい壁をヒイコラ言いながら登ってな!俺は逃げも隠れもしな、」

 

 ぴょん、と“ぼく”の体はジャンプをしてイグルーの壁をひっつかむと、軽々と天辺に乗っかった。おお。

 

「タッチ!…やった!ひとりめ!」

「…なんだと!そんなにジャンプ力あんのかルーキー!這って登った俺の苦労は!?」

 

 …、…どうも“ぼく”は体を動かすのが得意らしい。

 

「ねぇねぇ、見つかった子はどうするの?」

「広場の真ん中の岩に集合だ!おお、囚われの仲間よ…。すまねぇな、今俺もそっちへ行くぞ…」

「君が最初のひとりだよ」

「うそだろ……」

 

 

 

 

 悔しがるブロブを見送った“ぼく”は、続いてまたもポーラエリアの探索に戻った。

 

 イグルーの中に入って辺りを見回していく。室内は、机やら椅子やらが並べられていて小さな教室のような様相だ。おなじみのジョウロやボウリングピンやバスケットボールが前を向いて着席している。この時からすでに彼らは生徒役をこなしているらしい。―――視界にピンク色のリボンを収めた“ぼく”はにっこりと笑んだようだった。

 

「見つけたよ、セブン」

 

 イグルーの壁に身を寄せてしゃがんでいた彼女と目が合う。

 

「…覗いてないわよね?」

 

 ちょっと拗ねたような声に、“ぼく”は明るく答えた。

 

「ふふ、見てないよ!でもきっと、君はここの部屋が好きかなって思って!」

 

 毒気のない声に、セブンは目を瞬かせたあと力が抜けたように微笑んだ。

 

「なぁに、それ。じゃあ次は全然違うところに隠れるわ」

「え!…で、でも次もきっと見つけるよ!」

「そう」

 

 返事は短かったが、セブンの目つきは柔らかい。

 

「続きもがんばってね、新入生の“ぼく”」

 

 じゃあ私は行くわね、と手をひらりと振って歩くセブンを見送る。“ぼく”はしばらくそちらを眺めていたが、やがてまた気合を入れて室内を探し始めた。

 

 小さな教室っぽいイグルー内は、確かにセブンが好みそうな部屋だ。体の色が白い彼女にとっては同色のイグルーは良い隠れ場所でもある。

 “ぼく”は机の下などを丁寧に覗いてみて回っている。私は努めて静かにそれを見つめ……―――あ、いや、ちょっと待って?

 

 ―――あの、“ぼく”。

*―――わ!“わたし”!ずっと静かだったから寝ちゃったのかと思った!起きてたの?

 ―――ああ、うん。遊んでるところを邪魔してごめん。あの、よかったら、それ…そこの紙を、よく見せてくれない、かな…?

*―――全然いいよ!…これのこと?

 

 “ぼく”はひょい、とイグルー内の机の上にあった資料を持ち上げた。

 

 Caseレポートだ。

 Case番号は6(Juvenile)…。

 

 …、…。

 

*―――なんだか、難しい文だね。よくわからないや…。ねぇ“わたし”、これ、なんて書いてあるの?

 

 …、…。

 

 

 最新のGv株がCase6に投与され、観察の結果は今後の報告書で示される予定だ。

 

 先週経営陣に承認されたこの新たなGv株は、Case6の職員への従順性を高めると予測されている。また温血動物やGv生物に対しても、大幅に従順性が向上する予測だ。

 

 Case6はこれまでに異常な攻撃性を示したことはないが、経営陣の指示通りに準備を整えるには、今後Caseが接触することになる個体の年齢も考慮すると、極度の身体的ダメージを受けても完璧に従順である忍耐力が必要である。

 

 Caseが本当に痛みを感じているのか、あるいはその反応が純粋に本能的なものであり且つ遺伝子情報提供者から引き継がれたものなのかは、まだ解明されていない。

 

 Caseはまだ幼少期である。

 

 

 …、…。

 

 ―――……、小さい子たちと一緒に遊ぶなら、がまん強くて、人のお話をよく聞くお友達がとても良いね、だって。

*―――そうなんだ!そうだね、ぼくもそう思う!…それをこんなに長くて難しい文で書いてあるの?なんで?大変!!

 

 思わず笑う。

 

 ―――そうだね、大人になると難しく言いすぎたりやりすぎたりするかも。

*―――そうなの…?

 ―――うん。…かくれんぼの途中でごめんね、もう大丈夫。ありがとう“ぼく”。

*―――ううん!…あの、あのね、“わたし”。やりたいことがあったら、もっと言ってね?じゃあ、ぼく、また皆を探すけど、いつでも声かけて!

 

 ……。

 うーん…。

 

 かくれんぼのシーカーを再開した“ぼく”の内側で、私はそっと思考を巡らせた。

 

 周囲にわかりやすい脅威の存在がなさそうだったので、ついつい自分の精神年齢を脇に押しやり平和な感じで周りの子たちと交流をしていたが…。

 もう一度報告書の内容を反芻し、シックスの立場を考えてみる。

 …、…。

 どうにもこの場所は、相変わらずちょっと闇深な実験施設らしい。

 私は“ぼく”がはっきり目が覚めるまでの繋ぎ役で一時的代理のつもりでいたし、実際もう“ぼく”も大丈夫そうだから後は順当に引っ込むだけなのかもと思っていたのだが…。

 

 思ったよりしっかりしないと駄目かもしれない。時間制限はあるっぽいがやれることは考えておいた方が良い。今後は集団内だけじゃなく外側の情報にも注意しよう。

 

 私は若干気を引き締め直しつつ、とりあえず今は遊ぶ“ぼく”の様子を見守ることにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 “ぼく”は続いて海エリアに向かった。

 ボートの中を見たり、ヤシの木を一周回ったりして誰かが居ないかよく確かめている…。

 

「―――あ!」

「………あ、」

 

 ひょい、と覗き込んだ宝箱の後ろに緑の姿を発見し、“ぼく”は声を上げた。

 

「見っけ!タッチ!」

 

 青い手に触れられた相手…今朝はジャンプして課題を頑張っていたブロブは、ちょっとそっぽを向いた。

 

「まぁ見つかるよな。あんま上手くないし、俺」

「そう?ぼく、君を見つけるまでにたくさん探したんだよ!」

「…、…。…まぁ今回は今までで一番長く隠れてられたかも」

「そうなんだ!君、上手になってるってこと?」

「…はーん…へー…ふーん…、そうも言えなくもないかも、か…?」

 

 ふふ、と“ぼく”が笑う。

 

「ぼくも上手になって、次はきっともっと早く君を見つける!わくわくどきどきしててね」

「ええー…。加減してくれよ新入り」

「君も上手くなってるから大丈夫!」

「いや、俺なんか一瞬で追い抜かれて置いて行かれるって。アンタらとは性能が違うんだから」

「…?えっと、ええっと…?でも君のほうが先にスタートしてて、ぼくが上手くなるとき君も上手くなってるから、ずっと一緒に続くよ!」

「あ?ん?…もしかしてアキレスと亀の話してる?」

 

 ―――アキレスと亀!?!?

 

 内側で静かにしていた私はブロブを二度見した。

 

「あきれす?かめ?…だれとだれのこと?」

「あー…。アレだよアレ。めちゃくちゃ足の速い奴が遅い奴を追いかける話。最初は差があったとしても…追い越せると思う?」

「うん!」

「だろ?」

「…あれ?」

「ほら。すぐにアンタが一等賞だ。俺は亀。表彰台外」

 

 “ぼく”が首をかしげる。

 

「でも…でも、君と僕…」

 

*―――…、…一等賞…。…競争、してるわけじゃなくて…。

 

 ……。“ぼく”のもやもやが渦巻く感覚がして、私はそうっと彼に声を掛けた。

 

 ―――“ぼく”。ええと“ぼく”?相手が1回に進む程度より自分が1回に進む程度が大きいなら…差は回数ごとに縮まるし、いつか追いついて追い越す。

*―――え?…そうだね?そっかぁ…。

 

 やや元気のない声が返ってくる。そうだろうと思った。だから私は、“でも”と続けた。

 

 ―――でも、それは数学の話だね。かくれんぼに例えて言えば、相手を見つけるとか隠れるとかの、力の差が縮まる時間の話かもしれない。…アキレスと亀は速さを比べているけれど、貴方とブロブは何かの力を比べることだけをやりたくて遊んでいる訳じゃ、ないよね。

 

 にわかに、声に張りが戻る。

 

*―――うん!そう!ぼく、いっしょに楽しくがいい! 負けないよって思ったけど、勝ちたいのは本当だけど、でも…追い抜くとか置いて行くとかじゃなくて…。

 

 そうなら、“ぼく”が反論したいのは、『アキレスが亀に追いつけること』ではなく『遊び相手との能力比較』や『序列がつくこと』だ。

 

 遊びでも、勝敗はつく。順位は発生する。

 しかし勝敗のつく遊びは、結果による優劣の判断を目的としていない。…、…はずだ。

 

 ―――ブロブが見ているのは、自分と他者の力の差だけれど、貴方が一番大切に思っているのは一緒に楽しいかどうかだね。

*―――うん!でもえっと、…つまり…?

 ―――ええっと、つまり…。

 

 彼らが幼稚園施設のマスコットになるべく生み出され育てられているのだとしたら…ブロブの語る能力比較の視点は、決して間違いではないのだろう。個体による「差」を測る眼差しは彼らにいつも付いて回るもので、そうして目の前の彼はそれに理解が及んでいる賢い子だ。

 一方で“ぼく”は未だその視点になじみがない。“ぼく”にとって彼らは肩を並べる友達で、ただ一緒に遊んで成長することに喜びを見出している。その気持ちだって間違いでないし大事なものだ。

 

 ―――…“ぼく”は、彼になんて言いたいかな。競争じゃないよってこと?それとも一緒がいいよってこと?

*―――ううーん…。えっと、ええっと…。…どっちが上手いとかじゃなくて、君と一緒だと楽しいなって…君も楽しかったら嬉しいなって。

 ―――…うん。良いと思うよ、そう伝えてみたらどうかな。

*―――……“わたし”は?

 ―――え?

*―――“わたし”はなんて言いたい?

 

 全く予想外の投げかけに、私は面食らって沈黙した。

 私!?私か…。

 

 ―――ええと、…。

 

 ブロブの気持ちも否定したくないし、ぼくのブロブへの思いも邪魔したくない。…しかしどちらかと言うと後押しをしたいのは“ぼく”の意見の方だ。

 個人の思いを述べるのが許されるなら、かくれんぼは遊びであって、やらせる側に能力向上の意図があったとしてもやる側がそんなの考えなくていいと思うん…だよな…。スキルアップは副次的なものというか…それこそ数値で測れないような学びだって、きっと沢山しているはずだし…。

 楽しくない遊びって何だ?って話だし。

 

*―――…、…。

 ―――ええと、ええっと…。

*―――…、…。

 

 ブロブにも“ぼく”にも伝わる言い方はどんなものだろうか。受け取りやすい言葉はどんなもの?

 物凄く思案した私は、苦慮しつつ伝えた。

 

 ―――…、…いっぱい遊んだもん勝ちじゃないかな…。

 

*―――…そうだね、わかった!

 

 “ぼく”は深く頷いてブロブに向かって言った。

 

「楽しもう!ぼくらはともに勝者だ」

「急になに???」

 

 

 ―――ごめん、私の着地がまずかった。

 

 “ぼく”の内側で私は渋い気持ちで頭を悩ませた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 私の意見が入る前の“ぼく”の言葉の方がいいと“ぼく”に伝え、彼が無事にブロブへそれを伝えた後。

 困惑気味のブロブを送り出した“ぼく”は、砂漠エリアから梯子を登っていた。

 

 迷いのない動きで壁から突き出たブロックからブロックへ渡った青い体は…そこに居た緑の相手にタッチする。

 

「見っけ!」

「あー捕まった!」

 

 黄色いブロックの端に隠れていたブロブ…かくれんぼの前にイグルーで課題を見学していた子は、楽しそうに笑った。

 

「ここに着くまでもっと時間がかかると思ったのに!」

「ぼく登ったりジャンプしたりも得意!下から君の場所が見えたから、あとは簡単!」

「そうらしいね新入りさん!わたしも動くの好きなんだ!…パズルは、まぁそうでもないけども」

「そうなの?」

「そう」

 

 目の前のブロブの様子を思い出すに、ボードでのパズル系の課題は退屈で眠たくなってしまうのかもしれない。もうちょい全身の動作もある課題ならやり遂げられるかも?

 

 ねぇ、とブロブはこちらを見上げている。

 

「わたしで見つけたのは何番目?」

「えーっと、君は4人目だ」

 

 ぴょん、と緑の体は飛び跳ねた。

 

「なかなかいい順位じゃん、やったね」

 

 嬉しそうなブロブが下に降りていくのを見送りつつ、“ぼく”は、指折り数えて残りのハイダーの数とその相手を確認している。

 

 うん、と頷いた彼は探索を再開した。

 

 …、…。

 

 ……、……。

 

 

 

 

「…あれぇ…?」

 

 

 

 周囲を見回しながら、“ぼく”は首を傾げた。

 

「見つからない…」

 

 もう何度目かの木の後ろを覗いてやっぱり首を傾げる。

 

「…砂浜も森の木もイグルーの中も、サボテンの裏も、もう何度も探したし…あれ…?」

 

 くるくる4つのエリアを何度も歩き回る“ぼく”は若干疲れが出てきたのか、一旦足を止めた。

 

*―――…どこに隠れているんだろう。…ねぇ“わたし”、どう思う?どこにいるってわかる?

 

 声を掛けられ、内側の私は迷った。うーん…。

 ちょっと考えてから、彼を窺う。

 

 ―――…隠れ場所、私が思う場所を言っちゃっていいの?

*―――…え、うん!いいよ!いっしょに遊ぼ!

 

 おっと素直だ。

 私は言葉を選び直した。

 

 ―――最初のシーカーには“ぼく”が選ばれたけど…、でも私が手助けしちゃってもいい?

 

*―――…、…。…やっぱりぼくが全員みつける!“わたし”見てて!

 

 青い体はしゃきんと背筋が伸びた。良い負けん気だ。

 

 かんばれ“ぼく”、きっとできるし応援している。

 よくよく考えて、私は声をかけた。今から伝える言葉は、ルール確認の範囲内だろう。

 

 ―――シックスは、隠れ場所を4つのエリアだけだとは言っていなかったね。

*―――!!

 

 “ぼく”は、ぱっと視線を周囲へ向けて、再び進みだした。

 

 

 

 

 

「…見つけたぁ!」

「―――おっ、見つかった」

 

 4つのエリアから出て廊下を進んだ奥。“ぼく”の部屋。

 

 その片隅で壁に寄りかかっていたブロブ…ダイブ好きの彼は、にやと笑った。

 

「灯台もと暗し、ってな」

「時間かかったぁ…!」

 

 若干バテている感じの“ぼく”が呻く。

 

「思ったより遅かったな兄弟。ドツボに嵌ってたか?」

「わぁん!そう!でも見つけた!」

「へぇ。いいな“ぼく”、ストレートだ。そうそう、そんくらいが良いぜ」

 

 ブロブは愉快そうに頭を傾けた。

 

「昨日の考えすぎな方のアンタにも、そう言ってやってくれない?」

 

 私のはもう癖みたいなもんなので許してほしい。

 

「“わたし”?それなら、今も聞いてるよ?」

「お?そうなのか。怒ってる?」

「え?ううん、全然。癖だから許してほしいって」

「ははぁん。だよな。まぁ良い塩梅ってのがあるか」

 

 ブロブは大きく伸びをした。

 

「んじゃ俺も集合場所に戻るかな。…ちなみにハイダーは俺で最後だったりする?」

 

「ううん」

 

 眠気に襲われていそうな“ぼく”は、首を振った。

 

「まだ、全員じゃない…ぼく、がんばるよ!」

「ほーん、そうか。ケントーを祈っとくぜ、兄弟?」

「うん!」

 

 青い体はあくびをしたが…しかし私は引っ張り出されなかったようだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ……。

 ……、……。

 

 

 

「―――……君、何してるの?」

 

 壁の梯子やブロックを伝った先。水色ブロックの中、押しボタンの課題の部屋の、更に奥の部屋。

 

 入口に突っ立っていた()は、部屋の角に居るシックスへの返事に窮した。

 

 机の隅にしゃがんで隠れていたシックスは、がっつり目があったまま動かぬこちらを見ている。

 

「いいかい、“ぼく”。相手を見つけたら宣言して捕まえればいい」

「あー…。ええと、」

 

 怪訝そうなシックスに、私は説明を試みようと口を開いた。

 

「ごめん、シックス、その…」

「…“わたし”?“ぼく”の方は?」

「“ぼく”は、その…」

 

 私は視線を彷徨わせた。

 

「…疲れちゃって眠そうだったんだけど、とても頑張っていた。ついさっき、ここの部屋を覗いたその瞬間まで確かに“ぼく”だったんだ。貴方を見つけた瞬間…気が抜けちゃったのかこう、プツンと糸が切れたみたいに寝ちゃって…私が引っ張り出されたというか…」

 

「そうか」

 

「私は力を貸してなくて、“ぼく”が本当に貴方を見つけたんだ。でも、タッチできなかったね…惜しかった…」

 

「なるほど」

 

 シックスは鷹揚に頷いた。

 

「つまり僕の勝ちだな?」

 

 わあそんな無慈悲な、と私が突っ込む前に、ぐんと強く内へ引っ張り込まれる感覚。

 

 

 身体の感覚が私から遠ざかる。青い手が前に伸ばされ―――。

 

 しかし急劇に力を失った手は空を切り、そうしてぺしゃっと青い体は眠そうに床に沈んだ。

 

「……~~~…く…くやし、い…~~~…」

 

 物凄く揺れて霞む視界で、うつ伏せの“ぼく”が呻く。

 

「―――ああ、“ぼく”。起きたのか。でも本当に限界らしいな」

 

 頭上からシックスの声が聞こえた。

 諦めない青い手が、ぺたぺたと床を悔し気にタッチしている。

 

「しっくすもうちょっとこっちきて…!」

「すごい根気だ。でもダメだな」

 

 滅茶苦茶バッサリとシックスが告げる。“ぼく”は心底遣るかたない、といった感じで唸った。

 

「……ううう~……!…つぎは、つぎはこうじゃないもん…!」

 

 いよいよ眠気で呂律の回らなくなってきた“ぼく”が言う。

 

「……ぼく、まけないからね、ぜったい、きみをみつけてつかまえる…!」

 

 霞む視界の中で、見上げた黒い瞳がはたりと瞬かれる。

 …ふ、と頭上で小さく息が零れる音がした。

 

「そうか。がんばってくれ」

 

 …、…。

 ……、……。

 あくび。

 ……深い寝息が、内側で聞こえる……。

 

 …、…。

 体の感覚を確かめて、私は床から起き上がった。

 …まじまじと、シックスの顔を見つめる。

 いつもの表情の彼は、こちらを観察した様子で頷いた。

 

「うん、もう“わたし”だね。…僕の顔に何かついている?」

「…いいえ?」

 

「じゃあ何だい」

「ええと。…良いんじゃないかなと…思って…?」

「何が?」

 

 とても説明しづらい。ええっと…。

 

「顔が…」

「顔が」

 

 いや待って。誤解を恐れた私が言葉を選ぶための沈黙が落ちる。

 質問されたからって馬鹿正直に答えない方がいいやつだったなこれ。軽々な発言の責任を感じつつ、私は至って真面目な顔で弁明した。

 

「こう…目…雰囲気的な―――いやごめん。すぐには上手く言えそうにないかもしれない。別に容姿を褒めた訳じゃない」

「そうだろうな」

 

 返答は一応肯定の形ではあったが、変なものを見る視線が私に注がれる。

 なんというかさっきは眼差しとかが、こう…こう…。

 

「…、…いいと…おもったんだ……」

 

 はっきり指摘すると微かに見えたソレの邪魔になってしまう気がして、私は明言を避けた。結果的に薄らぼんやりした回答に着地したので、私は特に理由もないのにひとの顔を褒めた奴になっている。

 

「君が僕には知覚できない何かを見ているのは、よくわかったよ」

 

 相変わらずの珍妙なものを見る視線だ…。『まぁそういうもんなんだな』って一歩引いて納得する冷静な目だ…。甘んじて受け入れよう…。

 

 

 シックスは肩をすくめた。

 

「君たちの能力測定には、今までとは別のテストも必要かもしれないな」

 

 謎ムーブは私の所業なので“ぼく”を巻き込まないであげてほしい。ごめんほんとうに。

 

 自責の念に駆られる私をよそに、シックスは切り替えたのか、扉に向かおうとする。

 どことなくその顔は満足げだ。

 

 

「ともかく、これで全員かな。“ぼく”もまぁ、がんばったんじゃないかい。次へ行こう」

 

「ああ、いや、あと一人みつけなきゃ」

「なんだって」

 

 

 ”僕が最後じゃなかったのか…”という顔のシックスを見つつ、私は頷いた。

 

 

 

 海賊王のブロブがまだだ。

 

 




P1:かくれんぼは、わりと最後まで見つからない方だった。
  …正規のルートを進んでいるか?体の主が自ら動く方が既定のクリアへ辿り着くか?部外者が余計なことをするべきではない。

青い声の主:張り切りすぎて気力も体力も消費した。かくれんぼが好き。

赤い男(幼体):かくれんぼの勝者その1。兄より優れた弟など存在しないと古事記にもそう書かかれている、いない。

船乗りの薄緑の塊:次の誰かが来るまで、岩の前で孤独な囚人のRPを続けた。誰かが来ると、古参の囚人のRPをし始める。

ピンクリボンの先生(幼体):イグルー内で学校のごっこ遊びをするのが好き。現在囚人ごっこに付き合わされている。シーカーが彼じゃなかったらもう少し遅く見つかっただろう。

ジャンプの薄緑の塊:アキレスと亀は無限の誤用によるパラドクスの話だが、彼はこれを諦めの説明に用いた。「どんなに理屈を捏ねても現実で結局亀は追い抜かれる」。シンプルにいじけている。

宿題が残っている薄緑の塊:体を動かす方が得意。良くも悪くも計算高くない。

ダイブ好きの薄緑の塊:相手の意表を突きたい。思ったことは割とそのまま言う。

海賊王の薄緑の塊:見つからないように自分を隠すのが上手い。

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息継ぎ。不定期更新継続中。
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