気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 隠れ鬼の鬼役となり、隠れ役を探す。達成状況は6/7。残りは1名。



64 Hiders

 

 足を滑らせて落ちた先、私は壁にはえた赤っぽいブロックの横穴の中にいた。

 

 …、…。これと言って深い事情はない。私はちょっと前の記憶を思い出した。

 自分が最後のハイダーでないことに若干納得いっていなさそうなシックスは、しかし気を取り直したように『君の見つける力も見ておこう』と、言った。シーカー役の“ぼく”は眠りに落ちて勝負は決したものの、最後まで残ったブロブを私が探して良いらしい。

『“ぼく”の勝敗は変わらないけどね』とも念押しされたが。

 

 で、周囲を探索していた私は、現在ただただ着地に失敗して穴に転がっているのだった。

 ブロブが隠れているなら、今までに見ていない壁に突き出たブロックの暗がりか、と見当をつけていたのだが。

 

 床に打ち付けた頭を擦りつつ、起き上がった私は周囲を見回す。暗いので奥行きがわかり辛い。

 

 …あれ?

 私は目を瞬いた。暗い廊下の先。明かりが見える。仄かに照らされたそこにあるのは…扉だ。

 

 ―――こんな所にも入れる部屋があったのか。

 

 絶好の隠れ場所なのかもしれない。

 私はその紫の扉に近寄った。

 

 扉は、上部に設置されたライトで照らされている。すぐ横の壁には見覚えのあるパネル。キーカードを使うタイプの見慣れた扉だが、2枚の板が打ち付けられていて封鎖されている。何の気なしに板に手をやって少し引っ張ってみた私は、バキリと鳴った存外に大きな音で固まった。

 …目を凝らすと、木の板はちょっと罅割れて、いる…。え…いや…本当にちょっと引っ張っただけの、つもり…。

 慎重に手を離して、私は青い指先とひび割れた板を見つめた。もしかして“ぼく”、怪力疑惑…。そういや以前ウスマンも観葉植物の木を折って杖を作ってたっけな…そうかぁ…。

 

 …、…。

 私は木の板をそっとしとくことにした。すみません。

 キーカードを使ってみる。パネルに『おかえりなさいCase4』の文字が表示され、扉は開かれた。壁に打ち付けられた木の板はそのままだが、木の板の隙間を、慎重に潜り抜ける。体が小さいので可能だ。キーカードで扉を閉めれば原状回復もできる。…完壁な侵入!…うん…。

 

 さて、かくれんぼの最も上手い相手の顔を見ようと思って視線を上げた先に居たのは、―――緑のブロブではなく、黄色のカタツムリだった。

 

 

 

 あれ…???

 

 

 

 相手は部屋の床を滑らかに移動している。

 その瞳が、こちらを捉えた。

 

『Hello~?』

 

 響くような、不思議な声。

 微笑むような、ゆったりとした話し方。

 

『―――あら~…』

 

 ……スロウセリーヌだ。

 

 彼女の、成長前の姿だ…!

 

 現在私の膝の高さ程のサイズの彼女は、するすると床を滑りながら、続けた。

 

『あなたは……わたしの見る景色に、ほとんど登場しないの~…』

 

 穏やかな知性を湛えた声は続く。

 

『なぜかしら~…ふしぎね~』

 

 私は、目を瞬かせた。……景色。登場。

 

「あの、はじめまして」

『ええ~はじめまして~…わたし、11番(イレブン)よ~…』

 

 私は、彼女の頭上に、何の数字も見えないことを確認した。Case番号も状態も見えない。他のCaseたちと違って『識別されていない』。いつぞや彼女に関して思った仮説がふと再びよぎる。時間跳躍説。

 

「私は…新入りです。番号はまだわかっていません。…イレブン、変なことを尋ねていたらごめんなさい、貴女は()()()からここへ?」

『…あら~…』

 

 彼女はのんびり答えた。

 

『あなたが何か思うなら…そうなのかも~…。わたし、自分でもいつどこにいるのか、確かめようがなくって~』

「ああ…そういうことも、あるでしょうね…」

 

 私の返事に、彼女はにっこり微笑んだ。

 

『あなたのこと、本当に少ししか見たことがないけど…でもあなたが登場するかすかな景色では…成長して…見知らぬ外の誰かが傍に居るわ~…』

 

 …、…。ミステリアスな物言いだ。話を信じるなら、彼女は過去から未来の景色を断片的に何らかの方法で観測している、ということでいいのだろうか。

 そうしてスロウセリーヌは、この体の主をほとんど見たことがない、と言っている。

 ―――私は、“ぼく”の体で目覚める前の、自分の記憶を思い返した。幼稚園施設の地下を進んできた自分。様々なマスコットキャラクターに出会ってきたが、私もこの"ぼく"の姿を見ていない。それに関係する記録も、発見していない。唯一私がこの目で見た、彼に関する情報は……。

 バンバンの姿で隠されていた、あのキャラクター紹介絵。そうしてそれを目撃して、ドクターにぶっ叩かれたのだ。

 シリンジョンが、見られたくなかった、情報。未来で、"ぼく"の情報は、秘されている。

 

 …ん?私は視線を下げて青い体を見た。幼体だろう"ぼく"の体を。

 

「成長したこの体の傍に、見知らぬ誰かが…」

『ええ、そう~』

「外の人…この施設の者でない人間ですか?」

『ええ~。職員じゃない人~』

「…もしかして、こう…二十歳前後の…」

『そうかも~。うえめのティーンエイジャーな感じ~…』

「…。ええと…黒い髪で黒い目の…アジア人的な…」

『あら~。ええ、そうよ~』

「…、…。…あら~…そうですか…」

 

 …、…。私だったり、するか、それ。

 でも今の私に、成長した“ぼく”と会った記憶がないから…この後…つまりシリンジョンにぶっ叩かれて気絶した後、会うことになる?

 いやぁ、でもうーん…?

 

「…ありがとう、イレブン。少しこの部屋を見て回っても…?」

『ごじゆうに~』

 

 返事を受けて、部屋を探索ことにする。

 

 部屋はそれほど広くない。“ぼく”に割り当てられた部屋と大きさはほぼ変わらないだろう。一人用の青い机と、観葉植物、それから壁際にジバニウムのドラム缶が積み上げられている。壁の2辺には大きなホワイトボードが設置されている。

 

 …机に報告書を発見。ついでに、途中の部屋で回収していた別の報告書もよく読んでおこう。

 

 一枚目。Case6(juvenile)、更新番号21。シックスについての報告書だ。

 

 

 

 Case6に投与された最新のGv株は、予期せぬ副作用を及ぼしたようだ。これらの副作用は、Case6に投与される前に新株を投与されたGvの体内では観察されなかったため、Case6の体内組織に既に存在していた旧株と新株が混ざり合った結果であると推測される。

 

 Case6は、一見不規則な周期で、非常に暴力的かつ攻撃的、不従順な行動を示し、視界に入るもの全てを攻撃した。

 

 これらの出来事中に、歯や耳が鋭くなる、目が白くなる、体格が筋肉質になるなど、身体的変化も観察されている。これらの変化は、一度この出来事が収まると元に戻る。この変化した状態は、以降の報告書ではCase6Bと呼称される。

 

 これらの副作用を取り除くことが最優先事項である。

 

 Caseはまだ幼少期だ。

 

 

 

 …、…。Caseの凶暴化した状態についての記述だ。幼少期のCase6の段階からその状態は観察され、改善が試みられていたらしい。この状態の彼はCase6Bと呼ばれる…。

 

 「B」…。私はふと以前にシックスが言った言葉を思い出した。

 『Bみたいなものかな』。

 ……、“わたし”と“ぼく”の状態を二重人格として説明したときにそうと言ったのなら、現在の彼も自身の状態について全く知らないというわけではないかもしれない。

 

 続いて、もう一枚の報告書に目を通す。

 

 Case6C(juvenile)更新番号1。呼称は、反悪魔。

 

 

 6Cの外殻は成形され、Gvと推奨量の遺伝子が注入された。ジバニウムの融合が独自のペースで自然に進行するよう、収容室内のベッドの上に置かれた状態になっている。

 

 6Cは数日中に意識が覚醒すると予測されており、その後、正式に条件付けが開始される予定だ。

 

 すべての新たな意識をもつCaseと同様に、6Cの収容室内にはデジタル形式のアンケートが設置されており、回答を求めている。職員との最初の接触は、アンケートへの回答が完了した後にのみ行われる。これにより、アンケートの回答は、それらによる影響や偏見が最も少なくありのままの形で提供されることが保証される。

 

 Case6は、6Cが覚醒して機能するまで、他のCaseと共に残留される。その後、その資源は管理者の承認を得て再利用される。

 

 Caseは無生物だ。

 

 

 

 『Case6は再利用』『Caseは無生物だ』…。

 …、…。

 私はもう一度、報告書を最初から最後まで読んだ。

 『6Cは数日中に意識が覚醒する』『室内のベッドの上に置かれている』『デジタルアンケート』『反悪魔』…。

 

 …、…。状況から考えて、Case6Cは、"ぼく"だ。

 いやもしかしたらCase6に瓜二つの個体が生み出されていてその子を「Case6C」としている可能性もなくはないかもしれないが、“ぼく”の目で見たシックスは間違いなく「Case6」と表示されているし、現状では姿形が似ているのは“ぼく”だ。“ぼく”が「Case6C」である可能性が高い。

 

 6Bという課題のあったCase6のシックスは、Case6Cの"ぼく"に代わられて、再利用、される…予定だった…。

 …、…。

 でも、未来では、そうなっていない。シックスは…あの赤い姿のキャラクター、バンバンは、最上階での壁にも描かれている。代わりに見当たらないのは、青い姿の"ぼく"の方だ…。

 

 ―――この後、何かの理由で、立場がひっくり返る?

 

 …、…。壁画を見た私へのシリンジョンの反応からして、彼は間違いなく何かを知っている。

 報告書を置きつつ、続いて壁に目を向けた。

 

 ホワイトボードに『Case19 Type6』『ジバニウムの増殖』の文字が書かれている。横には、緑の滴のイラスト。1つの滴から矢印が出て、倍々に増えていく絵だ。小さく『いつ止める?無限増殖可能か?』の文字。

 さらに隣のホワイトボードにも目を向ける。こちらにはイラストはない。

『調整可能か?  可能:×

一時的停止可能か?可能:✓

加速可能か? 確認済み:✓

安全に加速可能か?可能:×』

 

 ジバニウムの特性に関する記述だ。以前読んだ報告書でも、ジバニウムは増える、物質を拡大させるといった特徴が書かれていたが、どうやらその増殖は調整が難しかった様子だ…。

 

 …、…。

 

「―――ありがとうございました、イレブン。一通り見て回れました」

 

『いいえ~。わたしは何もしてないわ~…』

 

 スロウセリーヌ…現在の所はイレブン…は、床でくるくると円を描くように滑っている。私は彼女の近くにしゃがんでちょっと聞いた。

 

「調子はいかがですか」

『あら~…そうね~いいちょうし~』

「それはよかった」

 

 私は、丸い軌跡を描き続けている小さな彼女を見つめた。滑らかな動きは確かに元気そうだ。

 

『あなたはいかが~?』

「私も元気です。…いえ、以前に不調を訴えていた方と出会ったので、貴女はどうかなと思ったんです。元気そうで安心しました」

 

 目の前の彼女は、以前痛がっていた腰も痛くなさそうだ。よかった。…以前といっても私にとって過去なだけで彼女にとっては未来の話だろうが…。

 ジバニウムに関する体の痛みと言うのは、何に起因するんだろう。…やっぱり増殖して体が大きくなったりするときは痛いのだろうか。

 

 止まらず床を滑り続けるイレブンは、微笑んだようだった。

 

『やさしいのね~』

「…うーん…自分では怖がりなんだと思っていますが」

『ふふ~…けんきょね~』

 

 あら~…何を言っても褒められそうな流れ。

 私は微苦笑した。

 イレブンは、にこにこしたままこちら側に少し近づいた。

 

『あなた…うまれたてのはずだけど…でもちいさい子じゃないみたい…ふしぎね~…』

 

 彼女の描く円の中心点が近寄る。

 …、…。その輪の中に入ることになった私は、彼女の様子をいくらか見つめてから、問うた。

 

「……今は一時的に、外身と中身が違う状態だと言ったら、信じられます?」

『…あら~』

 

 イレブンは変わらぬ調子で微笑んだ。穏やかな瞳が私を映した。

 

『えぇ、そういうことも…あるでしょうね~』

 

 …彼女はそれきり何も言わない。それ以上遠ざかりもしないし無理に近づきもしなかった。そうだな、互いに別に困っていない。

 

 過不足のない肯定だ。我々は微笑み合った。

 

 しばらく回る彼女の様子を眺めていたが、そういえば、と口を開く。

 

「イレブン。実は今、広場の皆でかくれんぼをしているんです。調子がよろしいのでしたら貴女もいかがですか」

『おさそいありがとう~。でも、わたし、ここに居るわ~』

 

 優しい声で彼女は言った。

 

『いずれまた、どこかで、お会いしましょうね~』

 

「…そうですね。いずれ、また、どこかで」

 

 私は立ち上がって、キーカードを手に扉へと向かった。

 

 

 ……、……。

 ………、………。

 

 

「―――あの、イレブン?貴女、閉じ込められていた訳ではありませんよね?キーカードで、シリン…ええとCase4に扉を閉められたとかでは、ありませんね?」

『…あら~…だいじょうぶよ~。閉じられていたこの部屋にたまたま着いちゃっただけなの~。そのうちまたどこかに跳んで行くから、心配しないで~』

「ああそうなのですねよかった」

『ええ~。あのお医者さま、あんまりそういういじわるを、しないひとよね~』

「あんまり」

『あんまり~』

 

 私はブチ切れているシリンジョンの顔を思い浮かべた。襲い来るノーティワンズにキレてた顔とか、助手にキレてた顔とか、市民を背負って帰った私にキレてた顔とか…。

 …怒りがあるのは、理想や期待があるから、かも…?積極的に意地悪をするタイプではないかもしれない。

 冷徹な判断ができるひとではあるのだろうが、そうか。

 

「―――そうですね。あんまり冷血なひとでは、ありませんね」

『ね~』

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 木の板をくぐって扉を閉めた後。

 部屋を後にした私は、元の目的…かくれんぼの最後のひとりを見つけに、戻ることにした。

 

 広場へ向かう方向に動く影が見えた気がして顔を出す…と、やや離れた場所のブロックの縁に、緑色の姿を見つけた。

 どうやらこれは、一か所に隠れていたというより、時折移動していた様子…。

 

 ともかくこれで全員だ。

 彼は、梯子を経由して近づく私を見上げて微笑んだ。

 

「やぁ青いキミ。見つかるとは思わなかったよ。―――いや実際ちょっとは思ったから本気出したんだけどね?」

「難しく隠れていましたね、海賊王さま」

「いやぁ、海賊王はもう降りたんだ」

 

 最後のハイダーであるブロブは体を傾げた。

 

「あちこち見れたね?いい拾い物はあったかい。元商人さん」

 

 …、…。あちこちに落ちてたキーホルダーのこと…じゃなかったり、する?報告書とかジバニウムに関するホワイトボードの記述とか…。

 

「…ええと、まぁいろいろ…?」

「そりゃあよかった。じゃあ戻ろうか」

 

 …、…。

 

「あの、元海賊王さん?」

「うん?」

「…お年はおいくつです?」

「ふむ、精神年齢なんて正確に測りようがないよ、ねぇ?」

「そのコメントは多分幼少じゃないやつですね」

「キミもだろうに」

「おわぁ」

 

 私は廊下を進む相手を横目でチラと見た。まじまじとはちょっと見れずに。

 

「あの」

「わかっているよ。そう慌てずに。―――広場の目はね、音を拾わない。普段通りにしていて」

「…」

「目はあちこちにあるけど、実のところ耳は限られた場所とタイミングにしかないみたいなんだよ。キミ、融通が利きそうだったからね。色々知っておいていいと思うよ」

「…ありがとう、ございます」

「いいえ。キミたちみたいなのが来たなら、シックスも安心かな。どうやらよい風が吹き始めた」

 

 ブロブは、どっしりとそこに居る…。

 年長者ぽくて…事情に詳しそうで…あとなんか泰然自若…。

 

「―――あのう、元海賊王さん」

「はいはい?」

「私、実は近々多分消えちゃうんですけど」

 

「おおっとぉ???」

 

 迷いなく進んでいた前方の緑の体はやや傾いだ。

 

「すごいカミングアウトされそうになってる。あれ?下手に年上ぶるんじゃなかったかな…?」

「今は二重人格みたいになってますが、今しゃべっている私は居候みたいなもので。もうすぐ本来のこの体の持ち主の“ぼく”がちゃんと常に目を覚ますと思います」

「わぁ」

「元気で優しい子で、きっと貴方がたの良い仲間になるだろうと思えます。…ええと、一応ほかのひとにもある程度私から話をするつもりではいますが…いくらか事情をちゃんと知っているひとも居たほうがいいかもと…。代わりに説明してほしい訳ではなくて、知っておいてほしいだけなのですが、あの、元海賊王さん…」

「わぁ…。この流れで断り辛ぁ…」

「貴方のような仲間がいてくださって、よかったです」

「わあぁ…遺す言葉だぁ…」

 

 あッ、そういうわけでは、ない…。話を聞く元海賊王はちょっと…だいぶ…苦い顔だ…。

 私はどう言うか悩みつつ補足をした。

 

「…あの私、別に存在が消滅しちゃうわけじゃなくて。きっと元の自分の体に戻るだけなので、気に病まないでくださいね」

「それ先に言っとこうよ!」

 

 そういう反応されると思わなかったから要らない情報だと思って…。

 

「すみません…あんまり自分でもよくわかっていなくて…。後回しにしました」

「えぇ…」

 

 元海賊王は困惑した声をしている…。

 

「いやじゃあとりあえず聞くけど…つまり何…?キミ自身にも確証はないけど…?“わたし”の方であるキミは、本来の体は別にあるの…?」

「おそらく…?もうあと一日くらいだけ意識がここにいる感じで…」

「思ったよりすぐだぁ…。キミは全然別のCaseなの?本体はどこにいるの?」

「Caseじゃないんですよ。人間で…たぶん、大層遠くにいますね」

「にんげ…。…よくその状態でその役回りをやってるなキミ!自分の心配をしなさいよ。なに余所のコミュニティの関係の調整とってんの?なんで?」

「…気になっちゃって…」

「うそみたい…」

 

 呆気にとられた感じの相手の言葉に…うーん、と私はちょっと立ち止まった。

 

「…すみません。嘘ではありませんが誤魔化しですね」

 

 なんで、と言われると。

 

 突然ここにお邪魔している身であるからとか。

 自分が体を借りている“ぼく”に何かをお願いされたとか。

 周りにいる子は、自分より小さい子らしいぞ、とか。

 責任感とか申し訳なさとか、ないわけではないけれども。

 

 …ううーん…。知っておいてほしい、とお願いするのに腹の内を明かさないままなのは、不誠実かもしれない。信じてもらいたい。

 

 そもそも初っ端はゲームをやるつもりでパソコンの前に座っていたのだとか、ここは夢なのか幻覚なのかとか。相変わらず疑問は疑問のままだし、漠然と最後まで進まなきゃとか予感が騒いでいるだけで目標がはっきりしないのにとか。

 なんでこんなに、頭をひねって動き回ってじたばたしてるかって、まぁそれは、ええと。

 …、…そりゃあ、なんでって、ねぇ。

 

 手探った自分の心の中で、触れたものを確かめる。

 何度も触って嘘偽りないか確認して、そうして、間違いないと諦めることにした。

 

「ほんとを言うと…」

 

 ひょいとしゃがんで彼と目線を合わせる。あんまり周囲に響かないようにそうっと、でもちゃんと。私は腹を括って言った。

 

「…貴方がたのことが、なんだかすきになってしまって」

 

「…はい??」

 

 元海賊王のブロブはあんぐり口を開けている。

 思わずちょっと笑った。

 嘘ではなかった。はじめから数日しか一緒にいないとわかっているのに、自分は“ぼく”の代理だとわかっているのに。…それでも()が仲良くなれたら嬉しいと思ってしまうくらいには。

 

「“ぼく”の体を借りて見た貴方がたが、好きになってしまって。そのまま居てくれたらと思ったんです。私が居なくなった後もです」

「おわぁ…」

「これは、個人の…ふらっとこの場に辿り着いて2、3日しか居ない無責任な旅行者の、『いいね!』みたいな…ごく軽いものです。そして『知っておいてほしい』とは、実はこういう者でしたというだけの情報で…正体不明さが和らいだら良いな、くらいのものです。あの…適当に、軽く、受け取ってください、ね…?」

「うーん…うぅーん!キミね…。…、…。…いやいいよわかったよ、でも期待しすぎないでおくれよ」

 

「―――はい。ありがとうございます」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 元海賊王のブロブと中央に戻る。

 先に集まっていた仲間たちは、何やら岩の前でわちゃわちゃしている様子…。

 

「―――おお良い眺めだ!おぉいここまで来られるヤツ居るか!」

「見ろリボンの囚人、あそこの頂上に居るのが極悪看守さ。覚悟はいいか?」

「フェイクストーンでしょ、何の覚悟なのよ。…いえ、やめて話しかけないで。うつるわ」

「いいや!あれは数々の囚人の心を折ってきたカンゴクの大壁だ!あれを乗り越えて俺たちは自由になる!ついてこい!」

「うええーい!イエッサー!いくよセブーン!」

「勝手に数に入れないでちょうだい、―――…ちょっと!なんでそっちから登るのよあっちからのが登りやすいでしょ…!」

「ひとり登り切ったら残りを引っ張ればよくない?…つまり、誰か俺を引き上げてくれ」

 

 脱出ごっこをやってる。楽しそうだ。

 ノリノリのブロブたちとつんけんしているセブンを見ていたシックスは、こちらに気が付いたのか顔を上げた。

 

「―――あぁ、戻ったな“わたし”。やっぱり全員見つけたね」

「うん、時間がかかったけれど。おまたせ」

 

 首を横に振ったシックスは、続いて私の隣に視線を移した。

 

「君がそれほど隠れるのが得意とは知らなかったな」

 

 元海賊王がのんびり言う。

 

「いやぁ、今日はなかなか見つからなかったな。運が良かったね」

「…ふうん」

 

 静かな黒い瞳に見つめられても全く動じない元海賊王を横目に見つつ、私はシックスに問いかける。

 

「これで全員そろったね。…このあとはどうするの?」

「―――うん。じゃあ次は役割を変えよう」

 

 集合!とシックスが声をあげ、ブロブたちが岩から降りて来る。

 

「新入りの…“わたし”の君はハイダーに。今回のシーカーは…誰でもいいけれど、立候補者は居るかい」

「…じゃあ俺!最初に見つかったからな、リベンジだ!」

「OK。新入りを発見出来たら、今までの君の負けはチャラだ」

「おっしゃ任せろー!」

 

 

 船乗りのブロブがカウンターコーナーに向かう。

 それを見送ったシックスは、こちらを向いて言った。

 

「いい隠れ場所を知っているんだ。ついて来てくれ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ここだよ」

 

 案内された場所は、広場中央の岩の裏だった。

 

「いや、実際のところ彼はそんなに見つけるのが上手くはないんだ。ここで岩のふりをしていれば見つからない。君ならできるよ」

 

 シックスはすらすらと告げる。

 

 私は、いかにも見つかりやすそうな岩影と、カウンターコーナーで元気に数を数えているシーカーをチラと窺った。

 

 なるほど。

 

「わかった。良いタイミングで見つかればいいんだね」

 

 私は頷いた。

 

「あの子が誰も見つけられなくて泣いちゃいそうになる前に…。それまではぐるぐる岩を回って上手く隠れているよ。まかせて」

 

 私が視線を戻した時、シックスは口を結んだ無の表情でこちらを見ていた。

 

 …、…。

 

 ……そうじゃなかったときの顔だ……。私は思わず真顔になった。

 

「…ごめんもしかしてツッコミ待ちだったのか」

 

 こんなとこじゃすぐ見つかっちゃうよ!みたいなやつ…。

 

「……」

 

 シックスの口はますます引き結ばれた。もはや真一文字でなく若干への字だ。……そうだったっぽい!

 空気を読んだつもりが物凄い空気を読めてないことになっている。

“ぼく”だったら多分シックスの意図通りの、揶揄いがいある反応をしてくれただろう。ごめん。いやでもシックスそういうのするかなってちょっと思っちゃったっていうか、今は思考が対大人モードだったっていうか…全力で遊ぶモードじゃなかったっていうか…。

 

 色々思うことはあるが、ともかくこのままだとバッドコミュニケーションに一直線だ。私は、リカバリーの道を探して頭をめちゃくちゃ回転させた。早急に、目の前の、かすかに膨らみつつあるほっぺたを何とかしないといけない。ごめんて。

 

 短くはない沈黙が落ちる…。

 

 

 

 ―――が、その微妙な空気は、突如広場に響いた甲高い声によって、終わりを迎えた。

 




P1:時間は限られているがやりたい気がすることは多い。タイムリミット後に自分がどうなるかは、まぁジタバタしても変わる類のものじゃないだろうと思っている。今はそれより目の前のこと。
  資料が出たのならルートからは外れていないはずだ。次へ。既定のゴールを目指せ

黄色のカタツムリ:隠れているつもりはないが発見された。目の前のひとは別に困っていないので突撃していない。部屋に居た誰かが困っていたのかもしれない。狭い場所だけどくるくる回ると速くなるかしらと考えている。

元海賊王の緑の塊:リーダーシップにも色々あると思っているので引っ込んでいる。課された目標が短期での目覚ましい成果ではなく集団の波のない維持だったら、前に出たかもしれない。良い位置にいて年上ぶったので、行き摺りの旅行者に大胆な告白をされた。

ごっこ遊び中の子ら:割と好き勝手遊んでいるが、くっついたり離れたりしながらそれなりに集団での遊びになっている。

赤い男(幼体):身体と情緒に対して認知の発達が非常に高い。

青い声の主:ぐっすり寝ているようで周囲の情報は知覚可能。しかしあまりにも眠いので引っ込んでいる。

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あけましておめでとうございます。  (不定期更新継続中)
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