気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
割り当てられた部屋で体の主と情報共有をした。
サプライズに誘われて、部屋を出る。
周囲はまだ昼寝の時間だ。
あくびをしつつ、赤いその背についていく。
シックスが持つ懐中電灯の明かりがあたりをゆらゆらと照らす。
廊下は真っ暗だ。
…、…。なんだっけ、寝る前に彼に言おうとしていたことが…あったと思ったのだけれど。
あくびを抑えて考える。ええと…。
「…そうだ、シックス。昼寝の直前、あとで今後の話をするって言ってたよね」
「……」
「私たちからも話があるんだ。これからのことについて…夜より前に話せるといいな」
「…うん、そうか。それは、じゃあ、今からの用事のあとにしよう」
シックスの足は止まらず、先へ進んでいく。
暗いプレイルームは、活動中とはまた違った雰囲気だ。
懐中電灯でなんとか足元が見えるくらいで、他には明かりはない。照らされて出来た影が色濃く床に落ちている。
…明かりになるようなものを、持ってくればよかっただろうか。私はふと、部屋に置いてある携帯端末を思い出した。活動の際に邪魔になってしまうかもと、昨日ベッドで横になった後から机の上に置きっぱなしだ。
ふあ、と私はまたあくびをした。ちょっとずつ覚醒してきた…かもしれない?
「肝試しみたいだね、シックス」
「…きもだめし」
「…うーん…、a test of courage…?」
「…勇気のテスト」
前方のシックスの手が、懐中電灯をぎゅっと握った。
…、…。……んん……。
「…ねぇシックス?」
「あれっ…」
何か声を掛けようとした途端、彼の動きはふいに止まった。扉の前で立ち止まったシックスは自分の体や地面を見回している…。
「―――…しまったな。どこかで赤いキーカードを落としたみたいだ。…ドアが開かない」
「そうなの?一緒に探すよ。どのあたりか、心当たりある?」
「…、…どこを、通って…来たんだったかな」
シックスは、少し考えた様子でやや下を向いた。
「…ごめん、考え事をしていて、ちゃんと覚えていない。でもプレイルームの中だと、思う」
「わかった」
なんだか緊張していそうなシックスの背をぽんぽんと叩く。サプライズを成功させなくてはと意気込んでいるのだろうか?…いや、なんかちょっと違う気がするが、でもそんなに肩に力を入れなくて大丈夫だ。サプライズを受ける側の私が楽しんでいる姿勢を見せておこう。
―――ふいに、近くで物音がして、私は飛び上がった。ぱっと、シックスが、音のした辺りを照らして言う。
「今のはなんだ?」
「サプライズってこれ?びっくりした!」
「いや違うよ」
「違うの?いよいよ肝試しっぽいな」
照らされた場所で何かが動く気配。
草陰から歩き出てきたのは…小柄な影だ。シックスや“ぼく”の胸くらいまでの背丈。紫っぽいピンクに白い水玉模様の頭。白くて小さい手足。つぶらな瞳。
シックスが息を吐く。
「―――トリュフトゥートじゃないか」
てゅ、とそのキノコのマスコットみたいな相手は返事をした。
そのまま、ととと、とシックスに近寄って、両腕を伸ばす。応えたシックスと軽いハグをしたその子は、うれし気ににこにこした。かわいい。
「トリュフトゥート、こんな時間に何をしているんだ?部屋に戻らないと……いや、そうしなくていいかもだな」
シックスがこちらを向いた。
「この子はトリュフトゥートだ。僕が本当に友達だと思える数少ない中のひとりだよ」
“友達”!シックスの友情観で言うと、何か素敵なことができる子なのだろうか。
「彼の最も良いところは…いや、みなまで言うのはやめておこうか。僕が言えるのは、懐中電灯が1つしかないという問題は解決したってことかな。トリュフトゥートを抱えてみてくれ。彼、抱っこされるのが好きなんだよ」
私はそのキノコの妖精さんみたいな相手を見つめた。目が合うと、彼はとことこと駆け寄ってくる。私の足元で、小さな腕がこちらに向かって伸ばされた。てゅ、と声が出される。かわいい。
失礼します、とそっと持ち上げた体は、そこそこ軽い。腕を回して抱えると、嬉しそうに声を出した。
「てゅー」
腕の中で満足気だ、かわいい。思わずこちらの口元も緩む。
「はじめまして、トリュフトゥート。新しく仲間になったんだ、これからよろしくね」
「てゅ!てゅー」
にこにこのトリュフトゥートは、ややみじろぎをした。私と向きあっていた体が半回転して、彼のおなかに私の手のひらが当たる…。
途端、ぴかっと彼が光った。比喩ではない、間違いなく発光している。
「……貴方、光るのか!」
「てゅ」
穏やかな返事だ。トリュフトゥートの体全体がぺかーっと光っている。すごい、どういう仕組み?
キノコだから光るってことだろうか。しかし生物発光の色じゃないみたいだ、だいぶ明るい。
懐中電灯より照らせている範囲は広いかもしれない。
シックスが我が意を得たりと頷く。
「ね?素晴らしい特技だ。―――トリュフトゥート、キーカードを探したいんだ。手伝ってもらいたい」
「てゅ!」
シックスの問いに元気な応答が帰ってくる。
「それじゃあ君とトリュフトゥートは、あちら側半分を頼むよ。僕は向こうを探してくる」
「わかった。―――よろしくね、トリュフトゥ―ト」
「てゅ!」
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シックスと別れて探すこと数分。
幸いにもすぐに赤いキーカードは見つかった。
トリュフートに感謝をしつつ、シックスの居る場所に戻って、彼に声をかける。懐中電灯が光っているのでわかりやすい。
「シックス。見つけたよ、これで合っている?」
ぱっと顔を上げた彼が、渡したカードを見て息をついた。
「…うん、このキーカードだ、間違いない。…ありがとう。いつかこの埋め合わせはするよ」
シックスは、それを赤い扉横で使う……が、何か妙な音がした。
ブゥン、と音を立てて扉の横のパネルは真っ黒になる。
「なんだ?電気が落ちた?……時間がない時に限って、なぜか問題が立て続けに起こるな…」
「…ええと、何か手伝おうか」
「いや、問題ない。ちょっと待ってくれ、誰に連絡すればいいかわかっているから」
彼が片手で取り出したのは…アンテナ付きの、黒い箱型の機械だ。
―――どっから出てきたんだ、その通信装置は?私も欲しい。
彼がそれを操作すると…ほどなくして、扉横のパネルに光が戻った。
「すごいね。何をしたの、シックス」
「こういうのが得意な親友に頼んだんだ。もう一度そのキーカードを使えば、彼に会えるよ」
……”親友”!どんな相手だろうか。
私はシックスに渡されたキーカードをパネルに使う。
期待と共に見つめる先、扉が開かれて……、―――青い、どこか見覚えのある姿が、見えた。
私は彼をまじまじと見た。シックスが言う。
「ありがとう、
―――やっぱりそうだ!ナブナブだ!ナブナブの、小さい頃だ!
私は彼をよくよく見つめた。青い身体。長い手足。3つの目。大きな口と舌。見知った彼とあまり姿は変わらないが、その口から覗く歯は…まだ2本で小さくて、先が丸い…。黒目がちの瞳は、やっぱり幼い印象を受ける…。
シックスにお礼を言われた彼は、無言でゆっくり頷いている。物静かな感じだ。
「エイト、こちらに居る君と同じ色の子は、新入りだ。ちょっと変わった事情で2名なんだが、サプライズが終わったらお互い詳しく紹介しよう。今はともかく移動しようか」
ぺこ、と控えめに礼をした彼に会釈を返した私は、また歩き出したシックスの背を追った。
……。
ちらと斜め前方を見る。ナブ…じゃなかった、エイトの姿。落ち着いた様子で進んでいるのだが。
彼……2足歩行、だ……。
アクロバット移動の印象が強いせいで新鮮…。でもやっぱ関節はそう曲がるんだな…そっか…。ちょっと不思議…。
明かりの少ない灰色の道を進む。
辿り着いたのは…何やら開けた空間らしい。懐中電灯の明かりは、何に遮られることもなく遠くまで伸びている。しかしその明かりだけでは部屋の全容は見えなかった。足音の響きからするにかなり広い部屋っぽい。
遠く、奥の壁に、大きな赤いライトが5つ光っている…。
シックスが口を開く。
「―――思ったより暗いな。近くに明かりのスイッチか何かあるはずだ、探してくる」
なるほど。
「私も探してくるよ。ええと…トリュフトゥート、手伝いを…頼んでも、いいかな?」
「てゅ!」
とりあえず壁際にパネルがないかと辺りを探索してみる。
…壁に書かれた文字を発見した。『アクセスには最低でも5人の承認が必須』とある。…この部屋には重要な資料や機械でも置いてあるのだろうか?その目の前の床に報告書が落ちている。Case6(juvenile)。更新番号は25。
数週間にわたった継続的な修正にもかかわらず、Case6がCase6Bへと変化する速度は低下の兆しを見せていない。
Case6Bに直接起因する負傷者数は、今週までに200人を超えており、致死率は10%だ。
Case6の変化は当初考えられていたように必ずしも不規則ではない可能性があり、恐怖や不安の感情がCase6Bの出現機会を大幅に増やす可能性があることが、観察によって一貫して示されている。ここ数週間はCase6にとって容易なことではなかった。
我々はCase6の対応に関する安全ビデオの制作を経営陣に要請している。このビデオは全職員に閲覧され、彼らの備えを強化するためのものだ。ビデオには、発見された全ての事実の要約と、これまでに実践された効果的な自己防衛技術がまとめられている。Case6Bを完全に除去するための努力は継続している。
Caseはまだ幼少期だ。
…シックスについてだ。さらりと書かれている重い事件に少し息が止まる。気を落ちつけてから読み直す。…攻撃的である「Case6B」は、シックスが強い恐怖や不安を感じた時に表に出てくる。その際の人的被害は甚大。前に見つけた更新番号21も合わせて考えると、Case6Bはその恐怖や痛みの原因が取り除かれると再び内側に引っ込む…。
ふと、内側から”ぼく”の声がした。
*―――ねぇ、“わたし”。また難しい文章だね。これ、どういうこと?シックスにも、もうひとりいるの?でも、なんだか…その子…。…こわいことする、悪い子、なの…?
……。
揺れる声を聴いて、私は一度、立ち止まった。
これまで見てきた資料による彼らの扱いや、出会った彼らの様子や言葉を思い返した。
今見た報告書の、たった数文字で示された重すぎる被害を思った。
無機質な文字の向こうにある、Caseや人間の誰かが感じただろう、痛みや、恐怖や、絶望…。
この場所で起こる出来事の1つを切り取って、どんなものでも何かや誰かを指さして「悪いものだ」と外から言ってしまうことは、酷く容易だ。
『Case6Bは悪い子か?』
私は評価者でも、裁判官でもないと思った。
……では私は、“ぼく”に…シックスとよく似ているかもしれない彼に、どんな言葉を渡せるだろう?
私はよく考えて、言葉にしようとした。
―――…この紙には、確かに、シックスがいつもと違う様子になる時のことが書いてあるね。でも、“ぼく”と私の関係とは仕組みが少し違うかもしれない。
*―――…そうなの?
―――うん。自由に交代したり話合ったりする感じじゃなさそうだ。…“ぼく”は、どの部分がこわいって思った?
*―――…けが…した人、沢山だって書いてある…。
―――…そっか。そうだね。傷ついた人がいることは、悲しいし、怖いことだと思うよね。
*―――…うん…。
―――それは、起こらない方が良いことだね。…でも、それが起きてしまったのは、その子が「悪い子」だからじゃないよ。
*―――……そう、なの?
―――…「いい子」と「悪い子」は見た人の評価で、起きたことの理由じゃない。…どういうことが起きてそうなるのか、なら私は「こうかもしれない」って話ができるかも。
考える。伝えようと、する。
……想像してみる。
強い恐怖と不安を感じて、その場から逃げられない誰かがいたとして。その誰かが、なんとか抗おうとして自身の持ち得る力の限りを振るったのだとしたら。
…それは、何と言うか、とても。
…生き物としての、防衛反応に近いもののようにも、思える…。
―――……すごく怖かったり痛かったり、怒ったり悲しかったりして、どう頑張っても我慢ができない時。自分が自分じゃなくなっちゃうようなことが、誰にでもあるんだよ。
*―――そうなの?
―――うん。「我を忘れる」って言ったりするかもしれない。どうしていいかわからなくて、でも何とかしたくて、いつもはしないような理由が付かないようなことを、やったり言ったりする時が、みんな、あるんだよ。
*―――…、…。そうなんだ。…、…。誰でも。“わたし”も?
―――うん。私も。
*―――……。
―――この場所では、それが繰り返されているのを、どうにか、何とかしようとしている、みたいだ。
*―――…、…そっか。そっかぁ。…みんなにそれがあるなら…みんながそうならないちょっと前に、怖かったり痛かったりを軽くするの、何かできないかな。
―――そうだね。
*―――うん。ぼく、何かやれるかな。ちょっとでもやりたいな。
―――…うん。私も、そう思う。
*―――ほんと!?いっしょだね!
そうだね、と私は頷いた。
報告書に示された数字をもう一度見つめて、そうして丁寧に報告書を置きなおした。
ついでに手元の子とがっつり目が合う。
「……とぅー……?」
「…あぁごめん、ものすごく長く動きが止まってたよね。大丈夫、立ったまま寝てた訳じゃない…。…ええと、シックス?ちゃんと起きてるから、その懐中電灯降ろしてくれない…?」
割と真顔のシックスは、ピカピカに眩しいそれをすっと降ろした。…まだ照らしてただけだったけど最終的には物理になりそうな予感がしたな…。…ぼーっとしすぎないように気をつけよう…。
しばらく辺りを探索すると、入り口付近に、キーカードを使えるパネルを発見した。
2か所あるそこのスイッチを入れると、明かりが点く。
白い照明によって、空間が照らされた。
眩しそうに顔の前に手を掲げるシックスたちの姿や、部屋の様相が、やっとはっきりと見える。
白っぽい壁と床、高い天井。感じた通り、結構な広さの部屋だ。しかし物は極端に少ない。
床に5つのスイッチ…のようなもの?それから目の前には巨大な…扉?
「―――もう扉はすでに開いている、と聞いたのに」
シックスは首を振って続けた。
「サプライズはこの扉のすぐ向こうだよ。だけど開けるにはもっと人数が必要だ。僕と君と、エイトと…トリュフトゥートの重さでは、床のプレートを押し込むのに足りないだろうな」
流れた視線を受けてか、トリュフトゥートが小走りでプレートを踏む…が、シックスの言葉通り彼の体重では押し込まれないようだ。トリュフトゥートはプレートの上で数度飛び跳ねたが、それが少ししか動かないと見ると、諦めてトコトコと戻ってきた。
「…とぅ…」
心持ち気落ちした声で抱っこをせがまれたので、私はその白い体に手を回して彼を抱き上げた。
あちこち撫でると、嬉しそうな声が返って来る…。
「…えーと、…つまりあと2名必要だ。でもこの時間に出歩いてるとわかっている友達はもういないな。ちょっと辺りを見てみるしかない」
仲間を増やすか、それっぽい重さの物体を運んでくれば良いわけだ。
わかった、と私は頷いて、辺りを探索することにした。
P1:眠気で直感と思考力にデバフがかかっている。
*
青い声の主:こわさの何たるかを学び中。努めて内側で小さくなっているのだが、それにしては表に出ている側の眠気が強そうで不思議に思っている。
赤い男(幼体):危機感をもって何かを何とかしようとしている。僕ならできる。できるはず。
紫のキノコ:新入りもよく抱っこをしてくれるひとだったので喜んでいる。
青いクモ(幼体):じっと周りのひとたちの様子をよく観察している。