気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 サプライズの会場らしき部屋に辿り着くが、準備ができていない様子。大扉を開けるため、追加で2名の協力者を見つけに周囲の探索をする。




68 Replacement

 来た道を一度戻って、周囲を探してみることにしよう。

 

 廊下を進んで、先程は通り過ぎた扉の前で止まった。

 ガラスで仕切られた向こう側を見るに、奥に空間がありそうだ。大扉前のプレートを押すための、何かや誰かが見つけられるかもしれない…。

 

 赤いキーカードを使って、中へ入る。

 ジバニウム缶やら電気の配版やらが置かれている通路を進む…。

 

 それほど歩かずに、小部屋に辿り着いた。壁際によくわからない銀色の機械が置かれた灰色の部屋だ。事務用品っぽい椅子や長机の色や形からしても、子ども用の部屋ではない様子。

 …机上に報告書を発見した。Case6のものだ。更新番号は28。

 

 

 投票が行われ、ほぼ全員がCase6に反対票を入れた。よって、まもなくCase6は別の運用方法に再利用される。

 チームは、つまるところ、自身の四肢と膵臓が無事であることを望んでいる。

 予想通りこの結果は、当初から人間チームと共にほぼ執心的にCase6の研究に取り組んできたCase4を大いに動揺させた。

 しかし、BanBan's幼稚園のメインキャストの中でも、Case6が重要な役割を果たしていることを考えると、経営陣はCase6の本来の役割を完全に廃止するのではなく、Case6の開発中に行われたすべてのミスを回避しながら最初からやり直すことを提案している。

 過去数ヶ月間に得られた知識をすべて活用すれば、完全なCase6は十分に達成可能だ。経営陣の決定を待っている。

 Caseはまだ幼少期だ。

 

 

 ……。

 

 報告書を見つめる私に、内側から“ぼく”の声がかかる。

 

*―――ねぇ“わたし”。これって、シックスのことだよね。

 ―――…うん。そうだね。

 

 私の返事に、“ぼく”の考えこむような声が続く。

 

*―――ええっと。今まで見てきた報告書の順番でいうと…報告書の更新16の時に、新しいジバニウム株?っていうのが使われて…その後の21でCase6Bが出てきて、25の時にはとても大変なことになってるんだよね?それで、この28では…シックスが最初に考えられていたリーダーとは違う役割に変えられようとしている…ってことで、あってる?

 

 ―――うん、そうだと思う。

*―――Case4…フォースは…動揺したって書いてあるね。シックスがそう扱われるのが嫌だったから…あんなに怖い目で“わたし”を…ぼくを、見てたの、かな。

 ―――そうかもしれない。

*―――…ねぇ、“わたし”。

 

 静かな声が、言う。

 

*―――最初からやり直そうって書いてあるよね。“すべてのミスを回避”して“完全なCase6”を目指そうとしたのが……、……ぼく?“Case6C”、なんだね。

 

 …、…。

 

 ―――…うん。

 

 私は、続きを言おうとした。

 彼が感じるだろう痛みや重圧をなんとか軽くできないだろうかと続けようとした。

 

 ……が、それは“ぼく”の発した大きな声に押し返されることとなる。

 

*―――……やっぱりそうなんだ!? ひどい!あんまりだ!シックスにもぼくにも、やさしくない!…これ、とっても、ええと、ううんとッ!…“よくないね!”だ!!

 

 …、…。胸のうちの青い星は、ぽこぽこと湯気が出そうな勢いで怒っている……。

 

 ―――……ええと。“いいね!”の反対、だから?

*―――そう!“よくないね!”!

 

 …、…えーっと。そうかぁ……。

 私は思ったより活力ある感じの相手の様子を窺った。動揺でも沈み込むでもなく憤りだ…。

 

*―――失敗したからじゃあ別の子って、何!僕も嫌だしフォースだってそりゃあ嫌だよ!

 

 ―――たしかに、貴方たちには、怒る権利があるよね…。

*―――そうだよね!?そうだよ、ぼく、おこった!

 

 ―――そうかぁ。その嫌で怒った気持ち、どうしようね。

*―――ええっ…うーん、ううーん!?

 

 怒っている彼は、しばらくあれこれ考えた様子で唸っている…。

 

*―――……、……ぼく、やっぱり、シックスの代わりになんかなれないし、ならない。決めた!次に行こう“わたし”!サプライズが終わったらちゃんとみんなと話をしなくちゃ!

 ―――そうか。うん、そうだね。

 

 予想より元気があるし前向きな様子の相手に安堵しつつ…私は報告書を机に戻して、先へ進むことにした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 さらに奥、何やら別の部屋があるようだ。

 

 入口横の壁には、『臨時手術室』の文字がある。その下にはジバニウムマークである緑の滴の中に、鋏とかメスとかのイラストが描かれていた。

 

 室内に足を踏み入れる…。

 

「―――ちょっと!助けてくれまセン!?!?」

 

 部屋の中にいた誰かが叫んだ。

 2色の人型。特徴的なその姿は、ビターギグル…の幼い時の姿に違いない。

 中央、謎の機械が引っ付いた台の上で横になっている彼は、続けた。

 

「ベッドに縛り付けられてそのまま放置されたんデス!そんでもって地震が起きてて麻酔のガスが漏れてマス!」

 

 彼はじたばたした。その体は銀色のアーチのようなもので拘束されていたので、大して動かないままちょっとベッドがガタガタ鳴るのみだ。

 

「黄色いキーカードがその辺にあるはずですから、なんとかして探すのが最初で…あと、ワタシがここから解放されそうなことは何でもやってください!このまんまだと、まじガス爆発デス!」

 

 …いまなんでもっていった?漏れている緑の麻酔ガスの影響もあるのか、眠気が強まって音がちょっと遠くなってきた。叫ぶ相手に、私は微笑んで返事をする。

 

「げんきそうでうれしいな、ビターギグル」

「誰が“苦笑いちゃん”デスか???―――私は17番(セブンティーン)ですよ!はじめまして!」

 

 セブンティーンはしたり顔になると続けた。

 

「ええ、道化師は変な匂いがしマス、行き倒れてますからネ。…いえ、そんなの誰も望んでませんよね?ねっ??そうならないよう助けてくだサイな???」

 

 笑んだ私は頷く。

 

「いまのはジョーク?」

「イエス!それ以外に何かあるでショウか!ジョークは私の十八番(おはこ)デス!」

「ああ、ふふ、17番だけどね」

「…あれ?もしかしてアナタ、ちょっとやかましいデスね??」

 

 面目ない。眠すぎてちょっと今思考がふわふわしてるかもしれない。

 

「ごめん、貴方に会えて嬉しいのは本当だよ。ええと…カードだよね。それを見つけて貴方を助けられないか、方法を探してみる」

「ワァ話が分かるひとで良かったデス!頼みましたよ!!」

 

 カードを見つけるため、部屋を探索する。近くの床に落ちている資料を発見した。報告書らしい。

 

 ……ええと。うまく頭が回らずあんまり内容が入ってこないが、Case27、タルタバードの最初の報告書っぽい?

 オピラバードと同じ遺伝子の動物だが違う性別にして、相互作用を確かめようとした…。

 

*―――ねぇ“わたし”。タルタバードとオピラバードって、どんな子?

 ―――ええと、『子』っていうか…。私が知っている彼らは、もう大人な気がする…。彼らには子どもがいるんだ。6にんきょうだいの。オピラは、しっかりめの、強いお母さんな感じで…タルタは…家族を守る気概に満ちたお父さんな、感じ…?

*―――へぇ…。…父…母…家族…。きょうだい…。

 

 内側で何やら思案する様子の“ぼく”だが、この報告書はセブンティーンの救出に関係なさそうだ。別の所を探そう。

 

 …部屋をあちこち見回して、黄色いキーカードを発見した。

 閉ざされた扉の横、カードリーダーのパネルに使う…が、反応はするものの開かない様子…。

 

 セブンティーンが口を開く。

 

「OK、そのキーカードだけじゃ開かないようデス!まず手動でガスの循環を止める必要があるようデスね」

 

 彼がちょっと窮屈そうに腕を使って壁際を示す。

 

「周りのモニターが見えマスか?研究者たちがそれで設定してるのを見たことがありマス!貴方に操作を頼みたいんですけど……とっっっても気を付けてくださいね、良いデスか?」

 

 私はちょっと揺れながらも、なんとか頷いた。

 

「ええとワタシの話聞いてました???」

 

 申し訳ない。じぶんでもびっくりするくらい、ねむく、て……。

 

 

 ぐっと、いしきが、すこし、とおざかる…。

 

「―――…わぁ、代わっちゃった。…ええと!ごめんよセブンティーン。“わたし”はとっても眠いみたいだ。でも君が元気に喋ると本当にうれしいみたい」

「ハ??…誰ですって?“わたし”?いえ眠そうなのはアナタでしたけど?」

「そう!でも、さっきまでとは違うんだ。…はじめまして、ぼくは“ぼく”!よろしくね、セブンティーン。さっきは“わたし”だったけれど、眠そうだったから、今ぼくが交代したんだ!」

「…ははぁん、読めましたよ。さてはボケが大安売りデスね?柄じゃないんでワタシはツッコミしませんけど」

「つっこみ??…お返事と違うの??」

「全っ然違いマス!いいですか、話せば長くなりますが―――…いえ何を呑気してんデスかワタシたち。頼みますからガスを!止めるのを頑張ってくだサイ!」

「そっか!OK、任せて!がんばるね!」

「―――良い返事!でもなんか不安!」

 

 

 …、…。

 ……、……。

 

 

「―――……と、マァ色々と説明しましたけど、つまりモニターの電源を順番に入れていってくださいってことデス!」

「わかった!最後のモニターまで電気のリレーをすればいいんだね!…えーっと、このパネルが、モニターに信号を送るものだね。矢印ボタンで場所がスライドする。で、一番近いモニターに電波が届く…。ここに付いている5つの電球はなんだろ?」

「気を付けてくださいよ、間違ったモニターに信号が届いたら一発でおじゃん!でハイカンがボカーン!な可能性も…」

「…あ、光った!…うん、やっぱりそうだ。この電球、ミスできる回数みたい!」

「今の一瞬でもう3つ点いてんデスけど!?!?」

「大丈夫!もう仕組みが分かったからね。…安心して待っててね、セブンティーン!」

「イヤちょ、よそ見しないでくださいお願いしマス」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 いくらか時間を経て、ガスが止まった。

 ―――装置の操作は成功したようだ。“ぼく”は息を吐くと、機械に近寄って、その裏にあったパネルにキーカードを使った。

 

 セブンティーンの体を抑えていた銀色の輪がベッドに格納される。

 

 拘束がなくなり、ぱっと彼が跳ね起きた。

 

「―――ふぅ!ワタシのジョークよりずっとデンジャラスでした…。しかしまさか、あそこからノーミスとは…。やりますねアナタ!」

 

 しばらく体の調子を確かめるように動かした彼は、やがてクスクスと笑う。

 

「助けてくれてセンキューです!借りができました。ワタシは17番で、道化師(ジェスター)デス。アナタの一日を馬鹿げた笑いでいーっぱいにするために、ここに居マス!」

 

「うん、よろしくねセブンティーン!…改めて、はじめまして!ぼくは“ぼく”。新入りなんだ!」

「そうですよね、初めて見かける顔デス!」

「うん、昨日から仲間にいれてもらった!それから、さっき少し話したけれど、ぼくの中に“わたし”って子がいるよ。交代して挨拶していい?その子、きっと明日までしかいれないけれど、でも、大事な友達なんだ」

「ははーん、なんか込み入った事情がありそうデスね。別に構いませんケド」

「ありがとう!」

 

*―――おーい、“わたし”?起きられる?大丈夫?

 ―――…、…あぁ、うん。眠いけれど、ところどころ、聞こえていた。あいさつ…挨拶だね?

*―――そう!交代するね。

 

 

 ぐっと優しい力で背中を押された心地がして、私の意識は押し出された。

 まだ続く眠気にあくびを抑えつつ、口を開く。

 

「―――、ふぁ…ええと、はじめまして、セブンティーン。きっとちょっとの間だけれど、よろしくね。貴方に会えて、嬉しいな」

「えぇどうも、ねむねむのドリーマーさん。ワタシも嬉しいですよ。なにか不思議な予感のお二人さんと会えて、スペシャルな感じです」

 

 あっと、彼は顔を上げて扉の方を見た。

 

「ガスのことを忘れてました。ここから出て話しまショウ!」

 

 彼は楽し気に笑うと、大仰なしぐさで自身の胸に手を当てる。

 

「ええ、何かがワタシに告げています。『この新たな出会いは、胸を突き刺すような素晴らしい笑いをもたらすだろう』、とね!」

 

 なかなか詩的な表現だ。足取り軽い彼は、キーカードで開いた黄色の扉を踊るように通る。

 

 

 

 ―――その先にはシックスが居た。

 

 セブンティーンは、彼を見てピタッと止まる。

 

 

「―――あぁ~…っと、はろー…シックス…」

 

 ……さっきまでの元気はどこに行ってしまったのか……?

 シックスの冷静な目が、首をすくめたセブンティーンを見つめる……。

 

「何があったんだ、17番?」

「あー、えーっと、もう、置いてかれて行き倒れるとこでした、少なくとも明日までは。…でも友達が助けてくれたんデス!ね、新入りさん!―――それから、また会えて嬉しいですよ、エイトにトリュフトゥート」

 

 声を掛けられたエイトが軽く頭を動かし、トリュフトゥートが手を振る。

 彼らをよそに、シックスが私とセブンティーンを見た。

 

「セブンティーン。君は、新入りの彼に助けられたって言ったね?…同じように僕らは君の助けが居るんだ、来てくれるかな?」

「ええ、もちろん!助けられた身デス、お供しますとも!」

 

 

 だけどあと一人必要だな、とシックスがつぶやいた時だった。

 

 

 ガサっ、と。

 唐突に、近くで音がした。

 

 

 周囲の全員の視線が一点に注がれる。

 音の出どころは、通路脇に置かれた段ボールだった。

 

 その一つが、なにやらガサガサと、小さく動いている…。

 

「…なんだ?」

 

 シックスが警戒からか訝し気に見る傍ら、セブンティーンがそちらへひょいと無警戒に近づいた。彼がその箱を屈んでよく見ようとする…。

 

 

 途端、段ボール箱は内側からの衝撃によって弾け飛んだ。

 

 

「……わぁ!」

 

 

 上がったセブンティーンの声は、悲鳴でなく、歓声だ。

 

 そこに居たのは、小柄なCaseだった。

 頭頂の三角の2つ耳。つぶらな瞳がこちらを見上げている。茶色い体とそれを支える2本の後ろ足。

 にゃお、と大きめでにこっとしたその子の口から、声が出された。

 

 

 ……キティサウルス!キティサウルスの、幼い姿だ!

 ちっちゃい…!

 

 

 セブンティーンが屈みこんで彼女に問いかける。

 

「やぁ、お嬢さん。こんなところでどうしたんデス?迷子になりましたか、キティちゃん」

 

 緑の手が小さな茶色い頭を撫でる。

 セブンティーンとほぼ同じ熱量で、私は彼女を見つめた。頭上に光るステータスは”Case27”、“友達”と見える。

 

 シックスが全員を見渡して言う。

 

「うん、これでともかく5名そろったな。あの部屋に行こう」

 

 なんて切り替えの早さなんだ。こんなにかわいい子が仲間になったのに。

 …できれば私も彼女に挨拶…。

 私は名残惜しい気持ちでセブンティーンの後ろに居るその子を見つめる…。かしかしと頭を後ろ足で掻く彼女は、にゃお、と機嫌よさげに鳴いた。

 

 シックスは別に自己紹介の必要性を感じていない様子で、さっさとセブンティーンに話しかけている。

 

「いいかいセブンティーン、あの大きい扉の部屋だ、わかるね?」

「OKデス。あ、でもちょっとお待ちを。……ジョーク、聞きたくないデス?」

「いや、それは後で頼む」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 廊下を進む。

 

 いよいよもって眠い私は、目をこすりながら、何とか歩く。ガスから遠ざかったというのに、一向に改善の兆しは訪れない。別にガスのせいって訳でもないのか。

 前方から声が掛かる。

 

「……、…君…君、あくびがすごいな。前が見えている?ついて来られるよね?」

「…あー、うん…」

「いやダメそうだな。それは観葉植物だよ、僕はこっちだ」

 

 道理で微動だにしない訳だ。私はもう一度目をこすりつつシックスに向き直る。視界がぼやぼやする…。

 

「ごめんめちゃくちゃねむい」

「そうらしいね。…ええと、物理的衝撃は…良い影響はないと言っていたっけかな…。眩しいなら多少は目が覚める?どれくらい眠い?」

「どろのようにねむい」

「泥のように」

「明るい方が暗いよりましかも…」

「わかった頑張れ抗ってくれ」

 

 シックスに押し付けられたトリュフトゥートが腕の中でぺかーっと光っている。明るい。かわいい。

 前方のシックスに引っ張られて彼を追いかけつつ…いや、それにしてもここ数時間で急激な眠気だな、と考える。後で、と思ったが、眠すぎて話せなくなってしまう前に伝えておいた方が良いこともあるかもしれない。

 

 ねぇシックス、と私は赤い背へ話しかけた。

 

「―――これは今後の話とはちょっとちがうことなんだけれど、」

「何だい」

「最初にさ、“ぼく”と私の関係を説明をしたとき、」

「…、…うん」

「眠たい“ぼく”の一時的代理が私だって話をしたでしょう」

「……」

「その『一時的』っていうのがね、しっくす、」

 

「その、話。…、…あとでじゃ、駄目、かな」

 

 …だいじょうぶかな、間に、合う?だってシックスは今は話をしたくないようだ…。

…もうちょっと頑張って、私が起きていればいい。話はサプライズの後でって、初めから言っていたし。ほんとうは自分でいいたいけれど、万が一だめでも…“ぼく”がいるし、だいじょうぶな、はず…。

 

「うん、そうだね。…わかった、シックス」

「…うん」

 

 振り返らないままの短い返事を聞く。

 ゆっくりと青い手を離したシックスの、歩みは速くなった。

 

 

 

 

 全員で、部屋に向かう。シックスが先頭でどんどん進む中、部屋の直前で、セブンティーンはちょっとスピードを落とした。私の近くに寄って口を開く。

 

「…シックスはあの扉の後ろに何があるか知ってるんでショウか?ワタシは知らないんですけれど。何かの音は聞こえました。…どうもいい物じゃない気がしマスが」

 

 彼は小声で続けた。

 

「言った通り、アナタに借りがありますし、アナタが望むならもちろんやり遂げマスよ。…ただ、ワタシが感じたことについて、話しておきたかっただけデス」

 

 私は相手を見て考えた。

 彼には何かこう、直感めいたものがあるのかも…?以前に彼とした諸々の会話を思い返す…。

 

「…セブンティーンは…」

「ハイ」

「…雰囲気やひとのことが、よく見えているのかも…」

「ハイ??えっ褒められてます?褒められてますねワタシ!」

「うん。…そっか、なんだか良くない感じが、するんだね、わかった。教えてくれてありがとう」

「イイエ!」

「うん…貴方、周囲の空気感はよくわかって…なんとかしようとするんだ…ジョークのタイミングとチョイスがあれなだけで…」

「違う褒められてない」

 

 うつらうつらして壁にぶつかった私の横で、セブンティーンが何か言っている…。

 

「この短時間で何がわかるって言うんデスか!…ちょ、またぶつかりますよ!…ああもう、眠気でボケボケなんですね?良いですよわかりました!」

 

 セブンティーンが私の体の向きを反転させた。背中を押される…。

 

 …色々言いつつツッコミ側にも回れるなんて、貴方やっぱり、すごいジョークスターだと思うよ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 半ば運ばれる形で部屋に到着した。

 

 先に中に居たシックスが、話し始める。

 

「君たちがサプライズの主役だから、真ん中のプレートに立ってくれ。―――膵臓でいっぱいの部屋というほどは約束できないけれど、きっと君は気に入ると思うよ。いや、君は心臓のほうが好きだったんだっけね」

 

 さすがに部屋いっぱいに詰まってたら動揺する。ジョークか本気か判断がつきにくい発言のシックスは、さっさとプレートに向かっていく…。

 

 皆が自分の踏むプレートにばらける中、じっとこちらを見て動かぬエイトと目があった。

 

 不思議に思ってぼーっと見詰める先で、彼がトコトコと近寄ってくる。

 その腕が伸ばされた。

 

 

 ハグ。

 …えっ。

 

 

 クレバーに抱きしめられた私は硬直した。

 割としっかり青い腕が背中に回って、数秒。

 固まっているうちに、彼はそうっと体を離すとプレートに向かって行ってしまう。

 

 え?

 …おや?

 …うれしい、けど、ん…?あれ…?

 

 なんか。なんだか。

 

 見聞きしたものが、一瞬のうちに、頭をよぎって組みあがっていく。

 

 

 

 ――――すごく、いやな。予感がするな????

 

 

 

 はっ、と。

 

 私は覚醒した。焦燥が、急激に頭を冷やして、眠気が内側に押し込まれていく。

 

 眠たがっている場合ではない。

 

 私は、シックスを見た。ちゃんと見つめた。 じっと立っている彼が言う。背中で手を組んだその腕に力が入っている。

 

「―――どうしたの。早く乗らないと、夜になってしまう」

 

 ……『サプライズに緊張しているのかも』?そんな馬鹿な、何を寝ぼけていたのか、そんな様子ではない。

 焦れている顔だ。

 追い詰められたものの、目だ。

 

 

 嫌な、予感が、はっきりとする。

 

 

「シックス、」

 

 話をしよう、と。

 誰かに何かを聞いたのかとか、何をしようとしているのか、とか。

 

 不安なこと、やりたいこと、これからの話を、と。

 

 言うはずの口は、それ以上、動かなかった。

 

 

 …………身体が動かない。声が出ない。ぐっと、頭と肩を、押さえられているような。

 

 

 ―――…“ぼく”?あの、

*―――なあに、“わたし”?

 

 彼の返事はあまりに普通の調子だった。焦燥が、じわりと足元から這い上がる。

 

 ―――あの、動け、なくて

*―――…?わかった、ぼくがやるね。きみは休んでいて。

 

 ひょい、とその足は前方へ一歩動き出す―――

 

 ―――!まって、そっちじゃなくて、

*―――えっ?そう、なの?でも「こっち」って、「促されている」って言ってる、よね…?あれ?

 ―――え…。

*―――ほら、じゃまにならないようにって、ぎゅっと“わたし”は、小さくしてるけど。でも君の声だ。最初のうちは、難しくて何のことかちゃんとわからなかったけど、でもずっと聞こえていたし…。

 ―――ま、まって…?よくわからないけどたぶんその通りにしない方がいいと思う…。

*―――え?そうなの?…でもあの、一度しっかり聞いてみない?ずっと一生懸命な気がするし、大事なことを、知ってる気がする…。

 

 いっしょうけんめい…?わたしの声…?なんの話だ…?

 眠い。ひどく眠い。

 ……でも、あれ?どうしてこんなに眠いのか。タイムリミットは明日の午後のはずだ。“ぼく”は私を押さえたり前に出ようとしたりは、していない。しかし眠い。

 

*―――ええっと、ジリジリ?怒ってるみたいだけど、ちょっと違くて。焦ってる、とも少しだけ違くて…。……ええと、うーんと?……ねぇ、()

 

 青い星の指先が、そこへ伸ばされて、

 

 

*―――……怖がって、る?―――っぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつん、と。

 

“ぼく”の小さな悲鳴のような声を最後に、あらゆる体の感覚が遠ざかった。

 

 

 

 ―――…っ“ぼく”!?…“ぼく”!!

 

 

 返事は、ない。

 

 

 

 声がない。全身の感覚が鈍い。

 

 

 音が、景色が、遠く。

 まるで水に沈められたかのような。

 

 あるいは、何かから切り離されて、隔てられたような。

 

 

 

 体は言うことを聞かず、映画のように世界が見えるだけだ。

 

 

 

 意思を離れた足が、前に出る。

 

 ゆっくり、しっかり。―――でもそれが自然かのように。

 

 

 

 スイッチが、踏み押される。

 

 

 

 

 巨大な扉がゆっくりと、口を、開けた。

 

 

 




P1:沈められた。大抵自分の事態はよくわかっていない。いつだか己の根を何かだとそう言った。
成功した。抵抗増大、たかだか数秒か。―――されど数秒だ。
青い声の主:伸ばした指先を掴まれて内側から弾かれた。びっくりして固まっている。

赤い男(幼体):とある道が最善でそれしかないと思い込んでいる。

青いクモ(幼体):見るべきものは見ているし分かるタイプ。

緑と紫の道化師(幼体):空気感を察知するセンサーは敏感。

茶色い猫恐竜(幼体):結構猫みが強い。見た目より重量があるので抱っこには覚悟がいる。

紫のキノコ:抱き上げやすいライトな重さ。今は赤い友達とも青い友達とも離れて床の上。

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