気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 5名が揃った。プレートは押され、サプライズが始まる。



69 Flicker

 

 重厚な扉が、ゆっくりと開かれる。

 

 赤かった周囲のランプは煌々と緑に点灯し、その中央に存在する空洞を照らす。

 

 

 暗闇が、広がっていた。何も見えない。

 

 

 ―――ずる、と。何かを引き摺る音が、口を開けた扉の奥から聞こえる。

 

 

 ずる、ずる、ずるり、と。

 音を立てて、何かがゆっくりと影から浮かび上がった。

 

 

 それは、巨大な顔だった。

 闇の中で2つの目が光っている。大きく吊り上がった口の中、いくつもの平たい歯が並んでいた。

 その息遣いに合わせて、緑の煙が吐き出されて渦を巻く。

 

 

 ―――動け。逃げろ。

 

 

 湧き上がった焦燥のままに、私はプレートを踏む体へ命じた。びくとも動かない。

 

 

 巨大な顔が、ゆっくりと一度闇に引っ込む。重い何かが引き摺られる音。

 

 

 ―――動け、動け、動け!!動いて逃げろと叫べ!!!

 

 

 焦燥とは反対に、体は全く静かなままだ。

 

 

 暗闇の奥で、ソレの叫びがけたたましく、木霊する。

 地面がぐらぐらと揺れて、しかし、私の体は動かず暗闇から突進してくる巨大な口に――――

 

 

 どん、と体の横に衝撃が走った。

 

 

 軽いがしかし確かな力は、私をその突進の直線上から逃がした。

 回る視界に自分とは違う青い姿が映る。目が合う。―――彼の横、巨大な何かが轟音と共に迫る。

 

 

 そうして私を突き飛ばした格好のエイトの小さな体は、迫ったイキモノの口に消えた。

 

 

 長い巨体が、あっという間に遠ざかって、見えなくなる―――

 

 

 一瞬のことだった。

 

 

 あとには、誰も立っていないプレートが残るだけだ。 

 

 

 

 

 ―――……、……!!!!

 

 

 

 何が起きているのか?……違う、やることがある。やらなければならないことがある!!

 

 

 力が籠った。腹に沸いた熱のままに世界に手を伸ばそうとして、何かを取り戻したように体の末端から感覚が蘇った。

 床に横倒しになった体は、ようやっと私の意思に従って跳ね起きる。

 触れた床が冷たい。地鳴りが聞こえる。

 

 閉じ込められるような感覚はいつの間にか消えていた。

 

 

 照明が一斉に赤く光って辺りにアラートが鳴り響いている。

 周囲を確認する―――シックスは倒れて動かない、トリュフトゥートもだ。セブンティーンは無事、キティはどこだ―――。

 

「…ワタシ、これが悪いアイデアだって知ってました!クエイクビーストにエイトが食べられちゃって、キティがそれを追ってマス!どうしまショウ!?」

「―――セブンティーン!」

「ハイ!?」

「シックスとトリュフトゥートをお願い、私はキティを追う!」

「ああハイ!?エエット!?」

 

 通路を走り抜ける。床に残された、ジバニウムの緑の線を辿って進む。

 …この出血はエイトのもの?いや、それにしては量が多いし彼は噛みつかれずに丸呑みされていた。ではこれは…。

 

 広場に辿り着く。キティの姿が見えた。

 彼女は上を見上げながら広場を駆け回っている…。

 

「キティ!」

 

 声を上げた私に、キティは短く返事をした。

 興奮したように走っていた彼女はまもなく立ち止まったが、その顔は不規則にあちこちを向いている。

 視線は壁を這って動いて…、…。

 ……。

 

「…相手がどこへ行ったか見えた?貴女、分かるのか」

「にゃお」

 

 壁を見たままの目がゆっくりと動き続ける。

 

 やがて、彼女は壁の一点を睨み上げて止まった―――。

 

 

 ……不気味な地鳴りと、微かな振動が続く……。

 

 

「―――ああ間に会いマシた!?」

 

 キティの視線とは反対方向、走って来た道からした声に、私は振り返った。

 

「…セブンティーン!シックスとトリュフトゥートは…!」

「気が付きましたよ、扉の部屋に居マス!それよかアナタたちも早くあっちへ、」

 

「エイトを助けなきゃ…!」

「ダメですって見つかる前に戻りまショウ!?あんなの敵いっこない……って、ウワァっ…!?」

 

 短い悲鳴をあげるセブンティーンと、唸るキティが見る先。

 壁を這ってそれが姿を現していた。

 

 二本のツノ。青白い山羊の顔に、手足のない長い胴体。平たい歯の揃った口は、吊り上がった笑みの形をしている。先端が二つに割れた細長い舌が動く。

 

 

 シューシューと、それが音を立てて、壁を這って近寄って…くる…?

 

 

 ……警戒音、だ。

 私は相手を観た。

 それは、蛇の威嚇の音だ。獲物をとるための音ではない。相手を退かせるための、音、だ…。

 

 

「―――まって」

 

「ハィ!?待ってられまセンって何を、」

「貴方はキティを連れて戻って」

 

「は……」

「―――ギャオ!」

 

 目を丸くしたセブンティーンの横を、キティが駆け抜けていく!

 

「―――あああダメですってキティ!?」

「ギャオオオン!!」

 

 走り出して大きく唸り声を上げたキティに、巨大な山羊の顔が向く。

 蛇の胴が、弓なりにしなった。

 

 次の瞬間、近づいてきていた巨大な顔は、こちらへ跳躍した。

 

 轟音と共に、大きく広げられた口が、キティとそれを追いかけていたセブンティーンへ覆いかぶさる。間髪入れずに閉じられて、そうして蛇の喉は、ごくん、と大きく一度動いた。

 

 彼らの悲鳴さえ聞こえぬ一瞬の出来事。

 目の前で起きた事態に、私の体は動いた。

 

 

 …放り投げたキーカードホルダーは、相手の角に当たって、ごく軽い音を立てた。

 

 しかしその真っ黒の目は、確実に、ゆっくりと私を向く。

 

 ―――怒っている?痛がっている?怖がっている???わからない、わからない、けれど。

 

「…こっち!」

 

 私は元来た道を全速力で引き返した。

 

 ……ドスンと相手が床に着地する音。そうして這って動く音が背後で聞こえる。

 

 追われる私は、迷わず臨時手術室のガスルームに駆け込んだ。

 

 部屋の壁に這う銀色の配管に走り寄って、力いっぱい、引っ張る。

 金属の管は、しかしまるで小枝のように容易く折れた。

 

 噴き出された緑の煙が、迫っていた巨大な山羊の顔にかかる。

 

 ……駄目だ、怯んだが行動停止するほどではない。すぐさま相手は引き下がると、のたうつように周囲の壁を壊しながら通路を戻っていく!

 

 追いかける私が廊下に出る。床に残った緑の痕跡を辿ろうとし―――

 

「―――君!戻るんだ!」

 

 響いた声に、はっと顔を上げた。

 シックスとトリュフトゥートだ。

 

「怪我は、」

「僕らは無い。君は」

「平気。エイトとセブンティーンとキティが丸呑みされた。助けないと」

「―――広場は見つかりやすくて危険だ。通路を使って隠れながら逃げ…」

 

 地面が揺れる。轟音。――――間もなく、我々の足元は崩れ去った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 暗闇。

 

 

 

 地面に叩きつけられた衝撃で一瞬視界が歪むが、気絶は免れたようだ。

 

 脱力しそうな体に力を入れて、地面に手をついて起き上がる。

 床が抜けて、落下したらしい。

 

 同じく地面に倒れているシックスとトリュフトゥートに、近づこうとする。彼らの落下地点はジバニウムで緑に濡れている…。

 

「…シックス、トリュフトゥート…」

 

 呼びかけた声に、反応は一つだった。

 

「…何が、起きたんだ…?」

 

 ゆっくりと、シックスが起き上がった。彼はそのまま辺りを見回す。

 

「ここは…トンネルか…?こんな場所、いつのまに…」

 

 暗い周囲は、確かにトンネルのようだった。洞窟、あるいは掘削したての穴のような凸凹した岩肌が見えている。頭上は闇が広がっている。天井は見えない。

 倒れたままのトリュフトゥートに触れる。体はほんのりと光るが動かない。目立った傷は見当たらず、流れたジバニウムの量もそこまで多くは見えないが……。

 シックスが言う。

 

「彼は無事なはずだよ、気絶しているだけだ。…ともかく、良くない事態だな。相手があれほど話が通じないなんて、…、…こんな、はずでは、なかったんだけれど」

 

 彼は頭を振って続けた。

 

「なんとかして上に戻る方法を見つけるのが、先だ。明かりが、必要だな、それから……それか、ら……」

 

 シックスの声が途切れそうになる。

 

 …、…。

 私は、深呼吸した。

 いくつもの考えが浮かんで、すぐさま否定で消えていった。残った数個を比べて、天秤に掛けて、何を取るべきか悩んで、他のもっといい方法がないか唸って、…そうして目を瞑って決断をした。元海賊王のブロブの顔が思い浮かんだので拝んでおく。すみません。

 

 

「―――聞いて、シックス」

 

 強張った彼の顔は微かに上がってこちらを見た。

 

「全滅は、貴方の本意ではない。合っている?」

 

 問いかけに、戸惑ったような相手の頷きが返ってくる。OK、了解したリーダー。

 頷き返して、私は続けた。

 

 

「手短に話す。もっと時間を掛けて言うべきだろうけれど許してほしい」

「―――」

 

 堅いままの相手を見て話す。

 

「シックス。知っているだろうけれど、私は明日には“ぼく”の中からいなくなる。…今“ぼく”はちょっとしたトラブルで意識不明だ」

 

 反応は薄い。―――情報を押し付けている。でも時間が、惜しい。苦渋の心のまま続ける。

 

「私が消えた時“ぼく”が起きられないままだとまずいから、今から可能なかぎり遠くまで逃げる。薄情だと思うだろうけど承知してほしい。…ここからが大事だ、シックス。貴方が他の皆を率いて生き残る作戦の話だよ」

「―――」

「いい?今回の事件は“ぼく”の中に居た私…、裏人格でも不純物でもいいけれど、ともかく()()()()()()()()()()()()。貴方がフォースに頼めばきっと話を合わせてくれる」

「…、…」

「貴方は『自分と6Cは、抵抗しようとした。6Cは犠牲になって悪い奴と消えた』と言うんだ。―――さて、大人への言い訳はそれとして、今はエイトたちを助けないと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴方は…他の子の安全を確保してから、大人に助けを求めてくれたら良いかもしれない。トリュフトゥートを、頼むね」

 

「…きみ、は…、」

 

 シックスの声が震える。

 私は、その、追い詰められて決断させられただろう相手を、見た。

 何かを選び取って、そうして何かを選ばなかっただろう震えるリーダーを見た。

 

「大丈夫、シックス。心配しなくていい」

 

 一度、手を握る。

 

「このあと何が起きても、貴方の責任ではない」

 

 私はトリュフトゥートをそうっと彼に受け渡した。

 

「―――私が余計なことをしたんだよ」

 

 落ちていた明滅する懐中電灯を拾って、走る。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 暗い道を進む。

 

 ふらつく体を進める。

 

 動悸が酷く、気持ちが悪かった。

 

 ―――私の手が遅かった。種は自分で蒔いたのに、気が付かなかった。それだけの結果だ。

「今夜中に」とフォースは言っていた。それが、私との会話のあと、前倒しされた?あの会話が彼の危機感を煽ったか、何かに触れたか―――いずれにせよ、良くは働かなかった。

 シックスはフォースに「リーダーの交代」の詳しい話を聞いたに違いなかった。そうして昼寝の時間中に、その阻止のため動いたのだ。

 

 エイトの手出しが無ければ、あのイキモノに食べられて姿を消したのは、“ぼく”だった。

 消えたのが”ぼく”で、残ったのはシックスだった。

 

 フォースのほうが早かった。譲れないものを確実に保つために、判断も行動もずっと早かった。それだけだ。

 

 

 

 何をした気になっていたのか。

 

 

 床を照らす懐中電灯のライトが明滅する。視界が揺れる。

 

 

 ―――何をできた気になっていた?

 

 

 頭を振る。再び襲い来る眠気を振り払おうとする。反省はあとだ。

 

 ―――いいや、思い知らなければならない。そうしてただ進め。

 他者の存在を踏みつけて独り善がりに悪影響を振りまいて時間を無駄にしたんだよ。

 

 ―――…、……。

 

ちがう

 

 ふと唐突に視界の揺れが和らぐ。

 

 寝惚けている場合ではない。私がどれほど間違っていようと今は進まなくては、顔向けできない。…“ぼく”の声は聞こえない。無事なのか、どうか無事でいてほしい…。

 

 足が不安定な地を踏む。

 

 視界が揺らぐ。後ろ指。

―――何度失敗してもわからないのか。周囲に干渉せずただ進めばいい。

 余計なことをしている。かつてのように。倒れている者に無理やり薬を飲ませちゃならないなんてことくらい、自明の、余計なことだ。

 自分が何か“よいことができる”なんて、本気で思っているのか。

 

 

 ―――わかる、わかっている…でも、反省は、あとだ、あとにしなくちゃ…。

 

だいじょうぶ、まっすぐすすんでね

 

 酷い視界のゆがみが、ふっと再び治る。

 

 地震が起きている。断続的な地面の揺れが大きくなっている。背後、遠くで何かを引き摺る音と気配。

 

 進もう。進んで、それで、……。

 

 どうするつもりだ。

 自分だったら、囮になるのに躊躇はなかった。可能な限りの時間稼ぎをして、食べられたとて最後まで出来ることをしようと考えた。ここで消える定めではなかっただろうエイトやセブンティーン、キティを助けなければ。それがせめてもの責任だと思った。

 でもこの身体は、自分の体ではない。私に体を貸してくれた“ぼく”は?どうなる。

 

 “ぼく”や、シックスはどうなる。

 どうするつもりだった。

 

 ……“ぼく”。……“ぼく”……へんじして……。

 

 

 世界が遠ざかる。

 追手の気配が、音がする。

 

―――自分が踏みつけた。あるべき場所を、世界を、奪った。見ろ。知れ。

 

 ―――…、…。

 ……、……、……。

 何もしなければよかった、の、だろうか…。

 

 

 ―――そう、余計なことはしてはならない。先へ進め。

 自分で思い浮かぶたびに否決して取り下げているけれど。

 これは、絶対の前提として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから。決められた道筋があって、正しい順路がある。辿り着くべきクリアは存在する。

 道なりに進め。それが唯一間違っていない道だ。

 

 

 ―――……、……、……、……。

 視界が滲んでいく。

 ……なにもかんがえたくない……。

 

 足を進める、ただ地面をみる。転ばないように、死なないように、死なせないように、―――ゴールを目指せ。

 

ちがうよ。だいじょうぶ

 

 揺れる世界と追手の音。

 

 ……ふいに、背後で、別の何かが聞こえた気がした。

 

ふりかえれ

ふりかえって!

 




P1:揺れている。行動には責任が伴う。いつだかの善意による加害の記憶が根っこにある。
変えるな。正解が分からない以上、世界が示す方へ、道なりに進め。

青い声の主:一生懸命話しかけているので結果的に何かの再ジャックを抑えている。

赤い男(幼体):計画が思ったようにいかなかった。新入りに全責任を持っていかれようとしている。

青いクモ(幼体):反射神経が良い。不言実行。

緑と紫の道化師(幼体):大慌てでまともなことを言っている。

茶色い猫恐竜(幼体):蛇は本能的に敵。友達を食べちゃった奴ももちろん敵。闘争心が強い。

紫のキノコ:気を失っているが体の発光機能は健在。
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