気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 話が通じそうな声の主の助力を得る。
 クモにはフラれた。
 …訂正、逃げ切った。



7 Faint

 

 無事に元の場所に辿り着いた私は、ふと思い立って先にテレビの部屋へ寄った。監視カメラの死角となっていると確認…声の主に共有すべき情報か否かは、見てから判断したい。

 会議室のような様相の壁の装置にテープを入れる。

 

 

 監視カメラの映像のような、ノイズが入った画面が映し出される。

 

 

 灰色の部屋。真ん中に何かが…全身の赤い人型のものが、こちらに背を向けて、横になっていた。

 その姿は…壁の絵のキャラクター、バンバンを思い起こさせる。

 

 

 私はその映像をじっと見た。

 周辺で発見した報告書を考えるに、これがCase6か?

 高い知能と会話を期待されている、にしては、扱いが…ぞんざいな様子に見える。レポートの事件の後の、独房の様子か。

 コンクリートのような灰色の床に、膝を曲げて直に横たわる姿は、少なくとも、快適そうには見えない。Case6が遺伝子情報提供者の知識や記憶をもつ存在なのだとしたら…気分は…、…想像にそう難くない。

 

 幼稚園の地下にある実験施設の闇が垣間見えてきた。

 メンタルブレイクしたんなら反省部屋より心療内科だろう。さらに悪化させてどうする?人道的さはあまり期待できそうにないことに薄々気が付きつつ、消えたテレビの黒い画面を見つめる。

 

 …さぁ、ひとまず声の主に会おうか、と考えたところで違和感に気が付く。

 こちらに呼びかける声がない。

 

 ―――カードを取って戻ってきた私を見たなら、声がかかって自然だ。今までのやり取りからして、相手はそこまで無口ではない。

 カメラの前に駆けて手を振る。反応はない。事態が急変したか?

 悠長だった自分に内心舌打ちしつつ相手は無事か、と性急に水色のキーカードで扉を開けて部屋の中に突入する。

 

 

 小部屋には誰もいなかった。素早くあたりを見回しても、倒れている人影はない。

 

 

 静かだ。もぬけの殻だった。

 

 

 …、…。違和感に頭を切り替える。あたりを見回したが段ボールと机があるだけだ。…いや、机の上に一枚のメモがあった。

 

 慎重に、かつ素早く近づいて拾い上げたメモを読む。

 

『もし君がこれを早く読めば―――』

 

 

 

 

 ――――瞬間、後頭部を襲った衝撃に、私の意識は一瞬途切れた。

 

 

 

 

 体が崩れ落ちた音をどこか遠くで聞く。ぼやける視界の中で自分が床に倒れたのだと気が付いた。…平衡感覚が曖昧で体に力が入らない。なんとか部屋の入り口に目を向ける。

 

「―――…一石三鳥だ」

 

 赤い人型が立っていた。頭に2つのパーティーハットをかぶったその人物は、よく聞き覚えある落ち着いた声でそう言った。

 

「君のもつキーカードはすべて手に入り、完璧な検査サンプルも手に入る。そして、下のアレに対処をする必要もなくなった。―――全て、君のおかげだ!」

 

 落ち着き払った声だ。静か過ぎる瞳が、私を見下ろしている。

 …難しいことが考えられない。相手をぼうっと見つめる視界の端で、倒れた拍子に誤操作したのか、ドローンが私と同じように床に転がって空転していた。

 

 混濁した意識は、直前までに見た記憶を無作為に混ぜ合わせた。目の前の存在とビデオで見た存在、レポート、ドローン。唐突に、私の意識は立場を転換して外の視座を得た。

 

 ―――あんな風にぞんざいに扱われたとしたら、私は、他者をすぐ信用できるだろうか?

 まして突然現れた不法侵入者を?協力的に思えたのは、なんてことはない、単に自身の代わりに手の届かない仕事を受け持ってくれる、便利な()()の後押しをしただけで―――

 

 見つめる先で、なぜかちょっと黒い瞳は横に逸れた。

 

「…事情を話せばあるいはと過りもしたが…―――おいおい、そんなに強く殴ってないだろう。…いや…僕が…やったかな…」

 

 一瞬そわりとした様子のその人物は、そのまま彷徨った手を後ろで組む。

 

「…まぁいずれにせよ…ちょっとした手術の準備をする間、君は寝ているのが一番いい」

 

 

 その声を最後に、意識が、静かに遠ざかっていく――――

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 気が付いたとき、私は薄暗い場所にいた。

 

 照明が微かに周囲を青く照らしている。

 薄っすらと発光したドローンが遠くに浮かんでいた。

 …直前の記憶を思い出し、ようやっと言われた言葉を正常に理解し…

 

「―――膵臓あるか!?!?」

 

 素早く起き上がって腹を押さえるが特に違和感はなかった。服をめくって確認したが目立った傷は見られない。背中も確認したいが困難だ、そしてそんなことより後頭部が痛い。

 

 …見覚えのない場所だ。どうやら死んで巻き戻ったわけではない、と改めて確認する。

 

 あたりを見渡すが、あの赤い人物…は、いないようだ。

 周囲に喫緊の脅威はないと見て、私は状況の把握をすることにした。

 

 頭をさすろうとして、手に握っていた紙切れに気が付く。倒れる直前に見ていた、あのノートの切れ端のようだ。

 

 

『もし君がこれを早く読めば、逃げられるかもしれない。僕は君がこのノートを読むことに専念している間に、忍び寄って強打するつもりだ :)  』 

 

 

 どうやら相手は、最初からそのつもりだったようだ、と息を吐く。

 会話と握手を求めて差し出した手をひっぱたかれたどころか、後頭部に拳を喰らった形(比喩に在らず)だが、倒れた直後に至ったあの思考のためか、怒りはそこまで湧かなかった。 

 同じ立場だったとしたら多分、理解を得るために会話をしよう、という気にはなれないだろうと思う。

 

 周囲の探索のために慎重に立ち上がる。寝ていたのは、床に置かれたマットだったようだ。彼が言っていた「手術」は終わったのだろうか?背中を触ってみる。触れる範囲で違和感はない…が、何をどうされたかわからないので安心はできなかった。あるいはまだ手術前であることを願う。

 

 膵臓…膵臓って、なんの働きをしてるんだったかな…。君のソレをたべたいとかいう作品が出るくらいだから、多分これは熱烈な言葉だろうし、重要器官だろうが。消化液とかホルモンを出すとか、ランゲル…はんす島?とか…。

 もっと理科を勉強しとくんだったな、と思いつつ、とにかく瞬時に不調をきたす様子はない。探索を続けていいだろう。

 …近くにリュックサックが置かれていた。キーカード以外回収されなかったことに若干驚きながら、中身を確認して背負う。一旦吊り下げていたカトラリーは外した。音を出してわざわざ存在を知らせる意味ももうあるまい。…ああ、元の場所に返しそびれたな、と思いつつ、ナイフと共に上着にくるんでリュックにつっこむ。

 

 室内をうろつく私は、ふと段ボールの上に書類が乗っかっているのを発見した。…報告書だ。『Case6』という文字を見て、集中して内容を読みこむ。

 

 どうやらCaseの成功を示す報告書のようだ。更新番号は1と書かれているので、Case6の最初の報告書なのだろう。…私が期待していたような、独房に入れられた後の様子を示すものではないが、読み進める。

 Case6は生物学的に必要としないにもかかわらず、有機生物が行う必要のあるタスクである飲食などを行う。人の遺伝子情報を主とする他のケースと同じように、遺伝子情報提供者の記憶や出来事を自分の物として多く思い出し(ただし、人名は除く)、知能も同じで会話も流暢。Case6は状況に困惑しながらも、大人しく友好的。今までのスタッフや子どもたちに敵対的だったケースとは違って、これは新しい遺伝子の変革が要因と考えられている。

 ケースは発表の準備ができていない。

 

 …、…。

 Case6は、ほぼ人間と同じ行動をするという事でいいだろう。…そうであるなら…とビデオを思いかけたが、後から外野がとやかく思ったところで何にもならないし無駄な感傷だ。Case6以前は敵対的、という情報も頭に入れておく。

 

 ともかく明かりが欲しい。

 

 壁にあるでっかいバツ印とスイッチの謎を解き、手順は分かれどドローン操作に苦戦しつつ、やっとこさ明かりがつく。白いライトに照らされ、部屋全体の様子と不明瞭だったものが見えた。

 

 ひとまず目につくのは、床だった。何かを引きずった跡のように、緑色の液体の線が扉から扉へ続いている。近づいてみても、その鮮やか色の正体は不明だ。目を凝らしたが、どちらの方向へ引っ張られたものかは判別できなかった。

 …、…。線が続く片方の扉は、こちら側から木の板で塞がれている。この緑の液体を伴った何かが引きずられ、移動した『後』で、誰かがわざわざ塞いだ…。

 「誰か」はあの赤い人物ことCase6である可能性は高いが、今はこれ以上考えても仕方がない。

 

 入念にふさがれた木の板を手持ちのハンマーのみで除くのは困難とみる。拾った黄色のカードをかざして、降りてきたエレベーターに乗り込み、私は次へ気持ちを切り替えた。

 

 




P1:昏倒したが異常はない。

赤い姿の声の主:観察の結果別案が思考を掠めたが、予定通り実行。
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