気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 エイプリルフールの与太話。

 ※本話は番外編であり、読まずとも本編の進行には影響がない。Chapter0の裏話。



  ――番外 観測外観測 Case6

 

 

 どうもぼんやりしたやつだな、と。

 

 

 Case6、実験体六番…呼ばれ方は色々あるが、ともかく、ここでは単に…シックスは、目の前の新しいCaseを見てそう思った。

 

 新入りはいつも容易く嘘に騙される。

 

 手を挙げろ、と言われた通りに両手を上げて立っていた相手は、扉が開いたあとのシックスの第一声に瞬きをした。

 しかし此度の新入りは、「揶揄われた」「騙された」と憤るでもなく、シックスを見るだに朗らかに微笑んでこちらに呼びかけた。

 

「ウスマン」

 

 ―――いや自分はウスマンではないが。

 

 自己紹介をすると、相手は慌てた様子で呼び名を修正し謝罪をした。どうやったらこちらを人間の研究者と間違えるのかは疑問だ。

 

 相手の反応を見るために投げた言葉にも、どうも妙な返事が返ってくる。

 シックスは部屋割の話をしたはずだが、観葉植物を一緒に使うって何だろう。家具は2等分できない。

 目覚めたばかりで、混乱している可能性もある。珍しい話でもない。

 

 相手の資質をどう見るか悩むところだが、現時点では時間の無駄だった。シックスは任された仕事を進めることにした。自分は、大人たちからこの新入りのCaseの世話役を言い渡されている。

 

 廊下を進むシックスの後ろを、相手はきょろきょろしながら、ついて来る。

 

 ―――貴方がリーダーなのか、という問いに振り返る。

 

 青いCase。自分とよく似た大きさ、姿形。しかし色の正反対のその存在。

 

 そうだよ、と見つめ返す。

 

 例え君が、僕よりあとに生み出された、僕より研究者たちの最新の成果が詰め込まれたものだったとしてもね。

 

 ―――返ってきた返答は、柔らかで軽かったのでシックスは返事を控えた。手強さとは真逆の印象の相手を、しかしシックスはちょっと持て余した。

 

 

 

 

…、…。

 

カードスキャナーの前でキーカードの説明をしても、新入りは一向に動き出さなかった。なにやらぼーっと、…いや、じーっと動かずカードスキャナーを見つめている。

……、……。

…時間の浪費を感じたシックスの言外の促しに、彼は飛び上がり大慌てでカードを正しく使った。話を聞いていない訳ではなさそうだ。ラグがある、というのが正しいのかもしれない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「…まぁそう肩を落とさないでよ。僕みたいに彼女と話せなくても仕方がない」

 

 シックスは、引っ張ってきた青いCaseに声をかけた。シックスと同じくらいの背丈の体は今、背が丸まったことによって若干縮んでいる。

 自分のCase番号がわからずに自己紹介が途切れ、セブンに賢くない判定で冷たくされたのがこたえたらしい。

 

 引き合わせた際の両者の様子を見る予定だったシックスは、小さくなっている相手を見降ろした。反応はおおむね予想通りだった、認識を大きく変える必要はない。―――では次、と考えを進めることにした。

 

 この新入りCaseは、今のところ特別な能力は見られない。しかしここに入れられたからには、大人から何らかの期待がかけられているはずだ。

 

 新入りが集団の中でどう振舞うのか観察するため、仲間づくりを勧めることにする。これは大人がシックスに課した「新しいCaseの面倒を見る」仕事とも矛盾しない。

 さて、自分はどうやってリーダーとして目の前の相手を―――…

 

 考えるシックスに、唐突に相手からの声がかかる。

 新入りは、シックスとも友達になりたいらしい。

 

「―――僕はもう、君の友達だよ」

 

 相手の望むだろう通りに答えたが、青い新入りはゆるゆると首を横に振った。

 

 

「貴方が一緒だと、心強いな。ねぇリーダー。…いっしょに来てくれたり、する…?」

 

 

 …、…。

 シックスは、相手を見つめた。なんの飾り気もなくこちらを頼りにする様子の相手を、見た。

 ……、……。

 

 シックスは無言で頷いた。

 大人から課された新入りの世話。それから自分のための、相手の資質観察。

 矛盾は、ない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 とりあえず、あちこちにいるブロブに声を掛ければよい。

 シックスはプレイルームを案内がてら、新入りの仲間づくりを観察することにした。

 

 砂漠エリアには、一名のブロブが居た。高い所に上っており、彼はそこから新入りに向かって声をかけた。

 経験によってこれから起きる事態に予測ができたので、シックスは良い機会だと考えて間に入った。

 …、…。

 

 結果としてブロブは新入りの頭ではなくサボテンの棘の上に着地し、彼は痛みと共に学びを得た。―――決してそういう悪戯はしてはならない。ダメージは何倍にもなって返ってくる。

 新入りは事情を知らないゆえに、ブロブを気にしたようだった。説明したが、納得しなかったらしい。新入りはそのまま棘とブロブの体の間に、なんの躊躇もなく手を差し入れた。慎重にブロブを持ち上げて地面におろし、小さな声で呼びかけた。―――シックスはそれらを別に必要な行為とは思わなかったが、しかしブロブにとっては価値ある行為だったようだ。彼は感謝を述べて、新入りは友を得た。

 自分の狙いも達成したし一石二鳥だろう、とシックスはさっさと次に行くことにした。

 

 砂漠エリアを後にする。

 こちらを追いかけてきていた新入りは、しかししばらくして、砂漠エリアに戻った。無言でそうしたのだったら置いて行くつもりだったが、彼は一言こちらに断りをいれたのでシックスは彼の言う通り待っていてやることにした。―――新入りはなにやらシックスのことをブロブに話した。弁明のようなものだ、とシックスは気が付いた。 ブロブは笑った。

 

「―――はいはい怒ってないよ!シックスはちょっと怖いけど悪い奴じゃないってわかってる」

 

 …、…。戻ってきた新入りに、話が聞こえていたことを教えてやる。シックスはついでに、自分の考えを話した。あのブロブは、新入りの弁明がなくともシックスを優れたリーダーとして認識するはずだと思った。新入りは若干の疑問を呈したが、やがて“考えすぎだったかも”と反省とシックスへ謝罪をした。…シックスに非難の意図はなかったので、首を横に振って返事をする。

 新入りは、ちょっと安堵したように息を吐いた。黒く丸い瞳がシックスを映して緩んだので、シックスは流れるようにそこから視線を移動させ前を見つめ直した。

 

 …、…。次だ、次にいこう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 次の場所へ、と思ったのだが、それにはちょっとした障壁があった。

 

 新入りは、梯子を飛び移るのが上手くなかった。

 しばらく観察していたのだが、足を滑らせてばかりいる。―――身体能力が低いわけではない。跳びすぎているな、と考えたシックスは、もう何度目かの落下をした新入りを見下ろした。

 肩を落としているが、しかし気力を失っている訳ではないらしい。新入りは「自分で練習をする」、と言った。 ―――見る限り、なるほど練習のたびに悪くはなっていない、無駄足ではないだろう。新入りは勝手に上達するかもしれなかった。シックスはそれを待って、その間は相手の言う通りに自分の用事…例えば他の課題の練習なんかをやっていても良かった。

 

 …、…。

 シックスは青い手を引っ張って、砂場に行って、より上手くいくだろう練習を教えた。感覚のズレを指摘し、それを見えるようにし、同じ状況で繰り返させて調整できるようにした。

 ……リーダーとしての新入りの世話の範疇である。問題はない。

 

 青い体の新入りは、ぱっと表情を明るくすると、大きく頷いた。シックスをその黒い瞳で見上げた。弾んだ声が『カントク』とよくわからない名でこちらを呼んだ。…コーチのことらしい。高揚すると新入りはどうやら妙なことを口走る。

 新入りは張り切って練習をした。見る間に上達した。―――やはり身体能力は悪くはないらしい。それでもどうも若干感覚が鈍そうではあるが、とシックスはそれを良く観察した。

 

 何度目かの成功。青い体がシックスの近くまで走り寄ってくる。

 弾んだ声が礼を言い、それから次は梯子で練習してくると言う。そうしてふいに湧いていた自信を引っ込めたような、小さくなった声が続く。“できるようになったら、また声をかけるから”、と。

 

「…そしたらまた、一緒にきてくれる…?」

 

 こちらを見る瞳と、目が合う。

 

 …、…。

 ……、……。

 

「いいよ」

 

 頷きに、相手の表情が明るくなる。

 

「ありがとう、シックス」

 

「うん」

 

 シックスは……、……うまいこと言えずに、ただ短く返事をした。

 指先がむずむずした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 いくらか時間がたって、新入りの梯子登りが上達した頃。

 ……いつのまにか新入りは先ほどのブロブと練習をしていたようだ。あの悪戯者が?と思ったが、遊びの延長らしい様子。ブロブはシックスにも妙に気さくだったが、まぁ些事だ。

 

 タイミングをみて新入りを回収したシックスは、そのまま梯子を登って、上階の部屋にいた。

 

 ここらに別のブロブが一名いることを知っていたシックスは、部屋を覗いて声をかけた。ちょうど、何がしかの課題をやっているだろうと思われた。

 

 シックスが相手に説明しつつ、新入りの背を押す。前に押し出された新入りはちょっと改まった様子でブロブに挨拶をした。ブロブはじろじろと新入りを見て、何かを思いついたようだった。

“この部屋の課題を代わりにやってくれないか”、とそういう話らしい。

 

「―――クリアしたら景品があるってさ。試しもしなかったよ俺は。アイツら俺にボタンを押す手がないってことを忘れてんのさ。俺をこの問題から解放してくれるなら、この部屋にあるタイヤのホイールをやるよ」

 

 ―――ブロブの台詞に引っ掛かりを覚えたものの、しかし現在新入りの紹介という仕事の真っ最中のシックスは一旦その引っ掛かりを置いておくことにした。新入りを振り返る。

 

「友達を作るチャンスじゃないかい」

 

 視線を送った先で、真面目な顔の新入りは頷いた。

 

 …、…。

 

 特に問題なく、課題は片付いた。狙った電球が光るタイミングでボタンを押すというシンプルな課題だ。新入りはルールの把握と理解は素早かったが、ボタンを押す速さの成功率はそこそこだった。しかしタイミングの修正はその都度図られたため、最低限のミスでクリアにこぎつけた様子だ。

 考えるシックスの先で、課題のクリア報酬が現れる。

 

「…えええ、手が無いと弾けないギターか。部屋を間違えたかな」

 

 ブロブの残念がる声に、今度こそ、その引っ掛かりへシックスは口を開いた。

 

「―――君、先ほどから気になっていたんだが、」

 

 首をかしげてブロブを見つめる。

 

「どうして課題を試さなかったんだい」

 

 …、…納得のいく回答は返ってこなかった。

 具体的ないくつかの質問を連ねて、もう一度、尋ねる。

 

「―――なんで君そこでただ座ってたの?」

 

 見つめる先で、しかしブロブから答えは返ってこなかった。

 

 返答は、別の方向から発生した。青い新入りだった。慌てたように動いてつまずき、一旦音を立てて床に倒れた姿が…ゆっくりと立ちあがり…遠慮がちな声が、シックスに言う。

 

”自分には向いていない課題だと思ったのではないか”と。

 

「それは挑戦しない理由にならなくないかい」

「…ええと。出された課題が、あまりにも自分に合ってないと感じたら…自分のことは、出題者にあんまり見てもらえてないのかもって、…やる気が、萎んじゃう、かも…。ねぇ、貴方、そうでもない…?」

 

 新入りに見られたブロブが、大きく頭を縦に振る。

 

 シックスは、完全には腑に落ちずに首をかしげて相手を見た。

 出された課題に対する態度への理由には、やはりなり得ないと考えた。

 

「自分に合った課題のみが渡されるなんて都合がいいことはないと思うけれど」

 

 やる気が出ないなどといって、成長する意思を見せないのは、わざわざ自分に価値が無いと周囲に吹聴するのと同義だ。自分たち実験Caseにとって、進歩が無いことが、どんな結果をもたらすか、シックスは正しく理解していた。「連れていかれる」。果ては「再利用」だ。

 自らその可能性を高めるのは愚かなことだし、止めるべきだ。そしてリーダーとしてシックスは、集団の中にそういう兆しがあるなら解消すべきだと思っている。

 …過去に「課題をやらない子がどうなるか」を率直に教えて改善を図ったことがあるが、そのブロブは以後やる気になるどころかなぜかいろいろと堅くなった。判断が遅くなり、ミスが増え、パフォーマンスが落ちた。結果は、教えない場合の僅かな引き延ばしにしかならなかった。その手段はうまくいくわけではないとシックスは学んだ。

 

 だから現在、時間を使って彼の惰性の原因を理解して取り除こうと考えているのだが。

 

 シックスの考えなど知らないブロブは慌てたように視線をうろうろさせている。喧嘩だと思ったらしい。

 ブロブを止めてから、シックスは新入りを見た。―――自分とは違う考えのあるらしい、その存在に問いかけた。

 

「話を戻すけど、やる気は自分の中で生み出すものじゃない?」

 

 黒い瞳がシックスに微笑みかけた。リーダー、と意見を言った。

 やればできると思えるその自信は、最初は誰しもが持てるわけではない、という話だった。

 

 ええと、だから、と、ここで新入りの視線がややうろつく。

 

「―――はじめは、ちょびっとだけ頑張ればできる課題がいいんじゃないかな。やる気がでるように」

 

 ………ちょっと着地がズレたな……?

 ブロブも首を傾げた。

 

「なんでアンタ課題を出す側の視点なの?新入りだよね?」

 

 同意だ。まぁ、それはともかく。

 

「このブロブにはまだ初歩の初歩が必要だと君は言うんだな」

 

 ……。

 

 ―――結局シックスと新入りは、機嫌を損ねたらしきブロブによって、部屋を追い出された。

 

 廊下を歩きながら、シックスは新入りと話した。

 この新入りには、シックスとは違うものが見えるのかもしれない、と思った。少なくとも、今回のブロブに関しては、そうに違いがなかった。知るべきだ、と考えた。

 問題解決に有用かもしれない。

 シックスの問いかけに、新入りは難しそうな顔をしつつも厭う事なく説明を試みていた。どうにも感覚的な話だったが、新入りは言葉を探して答えようとしていた。シックスはそれらを「こういうこと?」と自分の言葉にし直した。「うん」と「ううん」を繰り返して、シックスと新入りは帰り道を進んだ。

 

 やりとりは続いた。

 知りたい、と思った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 夜。

 

 全ての子が部屋に帰ったのを確認し、最後に新入りを部屋に送り届けたあと。

 シックスは新入りに、引き留められた。

 

 目の前の青い相手を見つめる。

 

「君、あれかい。ひとりで眠れないタイプかな」

 

 シックスの意図的な揶揄いの言葉に、しかし新入りは怒ったり恥じたりその提案を引っ込めたりはしなかった。

 相手は、少し目を逸らした。やや小さくなった声がシックスを窺った。

 

「―――…時間が許すなら…もっと話をしてもいい?」

 

 …ふーん…。

 

 シックスは頷いた。リーダーとして…リーダーとしてだ、間違いがない。

 進む足取りは心持ち軽かったが、それにシックスの意識が及ぶことはなかった。

 

 

 

 さて、どんな話をお望みかと思ったが、新入りはまず、仲間やテストのことについてシックスに聞いた。

 なるほど、環境を把握したいらしいな、とシックスは頷いて質問に答える。新入りに向上心があると改めて確認できた。集団の一員として良い姿勢だ。

 新入りに、テストの傾向を教えてやる。彼は、自分の身体能力にはやや不安があるようだった。

 

「うーん…むしろ身体の感覚が…まだあまり慣れてなくて…」

 

 シックスは、相手をはたりと見た。“身体の感覚にまだ慣れていない”。その言葉は、身体感覚が変化したのだ、という意味だ。新入りには、現在とは違う身体の感覚があった。―――別の記憶がある。

 

 シックスは口を開きかけたが、現在はそれを指摘すべきでもないと話を戻した。新入りは若干首を傾げたが、続きを話そうとし――そうして何かに気が付いたように、周囲を見回すと歩みを進めた。

 新入りは、部屋の椅子を引くとシックスを見つめて手で示した。

 

 …?シックスは言った。

 

「君の椅子だよ」

「…?」

 

 シックスの言葉に新入りは小首を傾げた。どうぞ?と手でやっぱりシックスに椅子をすすめる。

 

 …、…。…、…。シックスは、その、たったひとつの椅子を見つめた。

 新入りの部屋の、青い、ひとり用の椅子。

 

「君、椅子は一つだよ」

 

 新入りは、しばらく沈黙し、そして、とことことシックスに近寄ってきた。

 優しいが不思議と抗いがたい力でシックスは椅子に座らされた。

 それから新入りは椅子からちょっと離れたベッドに腰かけた。

 

 微笑んだ新入りに、…シックスは沈黙した。

 何か、言いようのない、気分を、覚えた。

 ……、……。

 

 

 微笑んでいた新入りは、沈黙が続くと首を傾げ、そして視線をうろつかせ、やがて、ぱっと立ち上がってシックスに寄った。

 

 彼はシックスが座る椅子の横に立ってこちらを窺う。

 

「どう?」

 

 …、…。シックスは、時間を掛けて頷いた。奇妙な気分はまだ抜けなかったが、拘ることでもないだろう、と次に行こうとした。

 ほんの少し微笑みを取り戻した新入りが言った。

 

「わかった、こうする。ねぇ、寝る時間までもっと話をしよう、シックス。聞きたいことがたくさんあるんだ」

 

 …、…。

 

「…うん、僕もだ」

 

 シックスは立ちあがった。部屋の隅へ向かった。

 そこに置かれていた物…昼間貰ったホイールを机の隣に転がして、その手で新入りを引っ張ってそこへ乗っけた。

 シックスは再び元の椅子に座る。

 

 これで良し、と考えた。新入りはベッドにいる必要はない。そうだ、突貫でも椅子をつくってしまえば、自分も彼も座れる、なんてスマートな解決法だ。

 椅子に座った新入りは、目を瞬いた。

 

 椅子の概念、などという話が返って来る。やっぱり何か他の記憶があるらしい。珍しい、とシックスは思った。同時に、現在のところ害として働いていないようだ、と考えた。だから別に咎めなかったし深くは聞かなかった。彼が自分から話すならばそれでいいと思った。

 

 話の続きを促す。

 次いで新入りは、シックスのことを知りたいと言った。

 …、…。

 ふーん。

 

「えっと、シックス。貴方は、何か好きなもの、ある?」

「膵臓」

 

 …、…。想像より、その話題は一定の程度続いた。新入りは、「ギュウタン」や「ハツ」…つまり牛の舌や心臓を好むと言った。シックスは相手との共通項を発見してまじまじとその姿を見つめた。完全に一致してはいないが似ている、という点で興味をひいた。―――なんだ、話が、分かる奴だ。

 

 最初に浮かんでいた警戒心は、もういらないかもしれないと思った。

 

 シックスは、新入りのCase番号だろう呼称を、本当は知っていた。

 「Case6C」それが新入りの番号だった。

 そうしてシックスは、報告書での自分の番号も知っていた。「Case6」。さらに、自分が恐怖や怒りの感情を制御できなくなった時に表面に現れる、凶暴な姿…それが、「Case6B」と呼ばれていることも知っていた。

 その続き番号のような、「Case6C」と言う番号は…もしかしたら、自分の存在を危ぶませるのでは、と勘ぐっていたのだが。

 

 シックスの頭脳は、まだその可能性が十分に否定されていないことを理解していた。しかし口を開いた。―――どうしてそう考えるのかはわからないまま。

 

「…じつは君は…つまり…他の数番号のCaseだったり、しないだろうか…」

 

 新入りは特に反応をしなかった。シックスの言わんとするところが、わからないのかもしれなかった。施設の在り方をしらないだろう彼からすれば、当然だった。微笑みのまま彼は、もっと話をしようとだけ言った。

 

 話は続いた。セブンの話をした。仲良くなろうとするらしかった。新入りは賢さのアピールに自信がなさげだったが、しかし「がんばる」と真面目な顔で言った。

 友達の話をした。仲良くなる理由を話した。「それが得すると知ってるからだ」というシックスの言葉に、新入りは一瞬固まったようだった。

 新入りはおたおたした。口を開いて、手を動かし、主張をしようとした。

 新入りは、シックスと仲良くしたいのは、シックスがリーダーだからではないのだ、と言った。

 …ふーん…?

 要領を得ないが、瞬時に切り捨てる物でもない。納得できるほどの論理性もないが、無碍にするほどでもない。…昼間の出来事で、彼には何か、シックスとは違ったものを見て考えているのだろう、と考えた。それが良いように働くこともあるだろう。

 相手はまだ言葉を探している。シックスは待った。相手が何を感じて考えてシックスに伝えようとしているか、知ろうと思った。

 新入りは、唸って、考え、言葉をいくらか零して…そうしてやがて、肩を落とした。

 

「…友達って…なんだろうね…」

 

 諦めたというより、適切な言葉を探すのに苦労している、と言う様子だった。新入りはまだ一生懸命首をかしげて考えている。

 シックスは自然口を開いた。大丈夫だ、と伝えた。

 …、…。納得がいかなそうな新入りは、しかし言った。

 

「励ましてくれてありがとう…」

「どういたしまして」

 

・・・・・・・・・・・

 

 シックスは、新入りの部屋を後にし、廊下を走っていた。

 

 すっかり時間が遅くなってしまった。はやく報告に行かなければならない。

 そんなに長居をするつもりはなかったのだが、気が付けば最終消灯ギリギリの時間だった。まだ、話そうと思えることはあったのだが。

 

 記憶にある限り、この時間までシックスが活動しているのは初めてだった。

 

 

 最後に新入りが言った言葉が思い浮かぶ。

 

 

『おやすみ。またあした』

 

 

 ―――うん、明日。明日、また話そう。

 

 明かりのほとんどない廊下を進む。

 その足取りは、しかし決して重くないことを、シックスは気が付かなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 次の日の朝。

 

 部屋まで迎えに行った新入りの調子は悪くなさそうだった。どこかを痛がったり苦しがったり錯乱したりはしていない。良い傾向だ。

 

 シックスの挨拶に、のんびりと声が返ってくる。…あくびをしている相手を、シックスは注視した。しかしすぐさま問題のある状態でないためまだ観察に留める。今日の予定を話し始めるシックスの目の前で―――その変化は起こった。

 

 眠たげだった瞳が、瞬時にはっきりと開かれる。

 

「―――ありがとうシックス!()()、たのしみ!」

 

 声量が増し、抑揚が強くなった。明朗ながらやや興奮した様子の相手は、ぱっとシックスの手をとり、それから勢いよく上下に振った。

 

 シックスは、握られた手を見て、それからその新入りの顔を見た。

 

「どうしたのシックス?…、…あれ?あ!」

 

 青い体が跳ねた。

 

「すごい!ぼくだ!えっとね、シックス、ぼくは、“ぼく”!よろしく!きょうもたのしみ!…あ、まって、やっぱり、ねむい…かも…」

 

 ―――する、と握られていた青い手が、緩やかにただ触れる程度の力になる。

 輝かんばかりに開かれていた瞳から、いくらか力が抜けた。

 

 青い新入りを凝視するシックスと、全体的に体が弛緩した新入りの目が、合う。すでに昨日と変わらぬ雰囲気に戻っている。

 …、…。

 

「―――えっと。今日は、まずポーラエリアだったねシックス、行こうか」

「いや無理だな流せないよ」

 

 

 

 

 話を聞くに、彼には2つの人格がある、と言うことらしい。”わたし”と”ぼく”。

 昨日は”わたし”が長時間表に出ていたが、先ほど”ぼく”がほんの少し出てきた、ようだ。

 

 ―――Case6Bみたいなものか、とシックスは考えた。

 シックスにも、別の自分がいる。普段は表に出ないが、突然スイッチが切り替わるように、現れる自分。

 

 シックスは、相手を見つめた。”わたし”は自身を「サブの面」であると称した。すると、”ぼく”の方がCase6C、"わたし"の方がCase6C-B、…いや、ややこしいな、Case6D?となるのだろうか。いずれにしたって仮称だが。

 どちらが表に出てきているときでも、内側にいる人格は世界を見聞きしている、らしい。

 

「…じゃあ改めて。知ってるらしいけど、僕はシックスだ。よろしく“ぼく”」

 

“わたし”の新入りは緩く微笑んだ。

 

「『よろしくねシックス』だって。とてもうれしそう」

「そうか。わかった。―――じゃあ、あいさつも済んだし、さっそく行こうか」

 

 シックスは隣を歩く”わたし”を横目で観察する。

 

 この子が、Case6Cの、裏側。

 

 …あまりしっくりこない。”わたし”は穏やかに見えた。”ぼく”は無邪気に見えた。どちらも友好的で害がなさそうに、見えた。

 …自分の「B」とは、どうも勝手が違うように思える、とシックスは考えた。自分の「B」は制御すべきものだった。激しい感情によって現れる凶暴性。表に出ないように、シックスは感情というものに振り回されないことが必要だと教えられて知っていた。些細なことで揺れない強い精神を、自分が目指すべきものだと学んでいた。

 目の前の新入りは、それらを必要としていないように、思われた。

 

 …胸の奥にある何かに名前を付けられなかったので、シックスは結局その感情に気が付かなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 ポーラエリア。

 イグルーのテスト部屋。

 

 新入りの“わたし”は、特に問題なく最初の課題をパスした。この調子なら、続く何問かも成功するだろう。 

 シックスは横でうつらうつらするブロブを肘でつついて新入りを見ているように促す。当人のためだ。

 

 4問目を解こうとする新入りは、ふと雰囲気が様変わりした。

 

 青い体は突如、あっ!と声をあげ、それから軽く飛び跳ねた。彼は自分の体や辺りを見回し、目を輝かせた。声量の大きくなった彼が、この課題を自分がやっていいか、と尋ねる。

 ……なるほど、“ぼく”だ。人格の入れ替わった相手をよく観察しつつシックスは頷いた。

 

 

 

 “ぼく”の新入りも、問題なく課題をクリアした。しかしあっという間に元気がしぼむと彼は大あくびをして、力がふっと抜け…“わたし”に戻ったようだ。

 ”ぼく”の活動時間は短かかったが、それでもわかることはある。”わたし”より課題への取り掛かりが早いし道具の操作は機敏だった。考えながら手を動かすためか試行回数は多い。

 

 …思うことはあったが、次に向かう。

 

 賢さの証であるテスト用紙を持つ”わたし”の新入りに、“ぼく”もはじめから一人で課題を解けただろうかと問いかける。恐らくそうだろう、と返事がかえってくる。

 ……。

 ……先ほどの“ぼく”の言動を思い浮かべる……。課題に頭をひねったり、飛び上がって喜んだり…。

 ……。

 

「…君より彼は、いくらも無邪気で幼いかもな」

 

 零れた声に、うん、と返答がある。

 

「柔らかで伸びしろいっぱい」

 

 ――――思いもしない考えだったので、シックスは不思議な心地で相手を見た。

 

 思いもしない考えだったのに、不思議と否定する気は起きなかったのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「シックス。君、やさしいね」

 

 

 ぽん、と投げられた言葉は耳になじみがなかった。

 シックスは横目で相手を見た。タイヤを転がして押す新入りの”ぼく”は、別に何を気負うでもなくにこにこしている。彼が持つタイヤは、危なげなく床を転がっている。……なるほど、”わたし”より”ぼく”の方がタイヤ運びには適任らしい。

 

 ”ぼく”は、”わたし”よりいくらも活発な様子だった。それから、より率直な言葉選びと行動をするらしい。思考の過程は理解しがたいが、現在どんな状態かはかなり分かりやすいので、その点好ましいと、シックスは考えた。リーダー的には。

 

 優しいとは今までに言われたことがない、と教えてやると、”ぼく”は首を傾げる。

 首を傾げたいのはシックスのほうだった。

 一体全体、何をどう見て考えて判断しているのやら。シックスは、より全体が上手くいくように動いているだけだ。よってこれは、「やさしい」ではなく「スマートだ」とか「優秀なリーダーだ」、とかの評価の方が適切なはずだ。

 

 しかしまぁ、そうと集団の一員に思われているのは都合がいいなとシックスは思ったので、とやかくは言わなかった。

 

 ”ぼく”は内側で”わたし”と会話しているようだ。”わたし”が笑っている、とシックスに伝えて来る。状況は分かりづらいが、おそらく”ぼく”が奇妙なことをシックスに言っているからだろう。

 

 同時に”ぼく”とも”わたし”とも話せたらいいのにな、とシックスは思った。

 なぜってそれは、……それは…、会話が、余計な中継をはさまず、一度で済むので。時間の節約だし誤解が減る、そう。

 

 どうにかできるヒントがないか、と”ぼく”に話を振ってみる。”ぼく”と”わたし”はどうやって一つの体で会話を成立させているのだろうか?

 

 ……”ぼく”の話は感覚的で捉えにくかったが、しかしやはりシックスとは違った物の見方や捉え方をしているだろうと思えた。

 

 シックスと”ぼく”の新入りは、会話しつつ道を進んだ。

 

 

 

 ……、……。

 その後。さっさと終わらせるはずのブロブとの遊びで、シックスはやるつもりもなかった医者役を引き受けて遊びに付き合うことになったが、それだって、まぁ、そのほうが効率が良いと…思っただけの、話である。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 上階の水色扉の奥。

 シックスは、かがんで隠れた部屋の壁際で身を潜めていた。

 

 

 ブロブとのごっこ遊びの後、新入りはセブンにリボンを渡したのだったが、その反応はシックスの予想を大いに覆した。…どうも新入りは、セブンに気を許されたようだ。”わたし”とセブンの会話の時も薄々思っていたが、”ぼく”の時はより顕著だった。

 

 自分だってあげたはずのプレゼントの、しかし違った思わぬ効果に、シックスは閉口した。

 

 なぜキノコじゃ駄目でリボンならいいんだろうか?いいだろう、キノコだって。光るんだぞ。暗くなっても部屋でこっそり文字が読めるのに。よっぽど実用的だ。

 大体にしてあのリボンは偶々あの宝箱に入っていただけで、新入りがセブンのために選んだものではない。自分は、色をよく見て、紫の中からもっとも淡くて桃色に近い色のものを選んだ…。…あとどう考えても新入りより…特に”ぼく”よりか自分の方が断然しっかりしている。他の子もそうだがセブンももっと頼ってくれていい…。

 

 …、…。

 …、…腑に落ちないながらも、シックスはしかし次へ切り替えることにした。

 

 新入りの”ぼく”と”わたし”が他人の気分をよくさせるのが得意らしいということは分かったが、じゃあ他に何が出来るのか、ということだ。

 

 

 

 そんなわけで、急遽かくれんぼがスタートしたのだった。最初は新入りの”ぼく”がシーカーで、他がハイダーだ。 

 これは訓練の一環で、新入りの能力観察も踏まえているので、シックスは油断も慢心もなく隠れたのであったが。

 

 ――――扉の方から物音がして、はっとシックスは顔を上げた。

 

 見つかったか、と思ったがどうも様子がおかしい。

 固まる相手へ声をかけると、なにやら”ぼく”ではなく”わたし”である様子。

 

 少し困った表情の青い彼は言った。

 

「貴方を見つけた瞬間…気が抜けちゃったのかこう、プツンと糸が切れたみたいに寝ちゃって…私が引っ張り出されたというか…」

 

 へぇ。

 

「私は力を貸してなくて、“ぼく”が本当に貴方を見つけたんだ。でも、タッチできなかったね…惜しかった…」

 

 なるほど、とシックスは頷いた。結果は明らかだった。

 

 

 

「つまり僕の勝ちだな?」

 

 

 

 ”わたし”が微苦笑した、と思うまでもなく。

 

 その変化は起こった。

 

 黒い瞳が一瞬燃え上がったかのように見えた。穏やかで弛緩していた体に見る間に力が張り、青い手がぐっとこちらに伸ばされ――――

 

 

 ぱたん、と急激に力を失った青い体は床に沈んだ。

 ……。

 ……くぐもった声が、その下から聞こえる……。

 

 

「……く…くやし、い…~~~…」

 

 

 ”ぼく”だ。シックスは瞬きをした。

 青い手は、まだ諦めずに伸ばされようとして、しかし力が出ないのか床をペタペタと何度も触っている。

 

「しっくすもうちょっとこっちきて…!」

「すごい根気だ。でもダメだな」

 

 ルール的になしだ。シックスの返事に、うめき声が返ってくる。

 

「……ううう~……!…つぎは、つぎはこうじゃないもん…!」

 

 床で倒れる”ぼく”の顔が辛うじて上がり、そうしてシックスを見上げる。

 

「……ぼく、まけないからね、ぜったい、きみをみつけてつかまえる…!」

 

 眠気で閉じかけて、しかし諦めるものかと燃える、黒い瞳がこちらを見ている。

 

 

 ―――ふ、と知らずシックスは息を零していた。 

 

 ”ぼく”はまだやっぱりいくらも幼いなと感じたけれど。

 良い根気だと思った。良い向上心だと考えた。

 

 

「そうか。がんばってくれ」

 

 

 ―――程なくして、その体から力が抜ける。

 

 …ゆっくり起き上がった新入りの顔には微笑みが浮かんでいた。穏やかな黒い瞳がこちらを見ている。

 

「うん、もう“わたし”だね。…僕の顔に何かついている?」

「…いいえ?」

 

「じゃあ何だい」

「ええと。…良いんじゃないかなと…思って…?」

「何が?」

 

 

 

 ……。

 

 ……、…‥‥。

 

 

 

 ちょっと変わった新入り。

 似た姿形の、でも正反対の色の、全く異なる性質の者。

 

 自分とは違う目と、言葉と、考えをもつ者たち。

 ”ぼく”と”わたし”。

  

 

 良いな、と思ったのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 昼寝の時間、その裏。

 

 

 

 

 明かりの少ない、静かな部屋。

 

 紅いCaseが言う。

 

 

 

 『シックス。お前は新入りとリーダーの座を交代させられる』

 

 

 

 『過去の実験データから考えて、あの6Cの裏人格はもう明日にでも消滅するだろう。そうすれば6Cの瑕疵はなくなってしまう。お前の危機は変わらない』

 

 

 

 『お前の再利用を防ぐ。6Cを表から消し去る。今夜やる』

 

 

 

 『幸いにして6Cが活動を始めてから2日と経っていない。今ならまだ他Caseや研究者共の反感も大きく買わない』

 

 

 

 ……でもさ、フォース……、……でもさ……。

 

 

 

 『―――無駄な考えはよせ、シックス。どうあっても、お前と6C、どちらかが消される。アレは我々の敵だ。気質の問題ではない、存在がもうそうなのだ』

 

 

 

 

 

 

 

 『余計な心配はするな、私がやる。お前はいつものように明日を迎えるだけだ』

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 …………、…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだアイツびっくりするほど話を聞かなかったな。

 

 

 

 

 

 

 シックスは廊下を歩いていた。

 

 Caseの子どもたちが寝ている建物内は静かだ。シックスの足音だけが空気を揺らす。

 

 

 ―――フォースめ、時々信じられないくらい融通が利かない。それなりに正しいのはわかるが、なんだってあんなに頑ななんだろうか。やれやれだ。”ぼく”のことも”わたし”のことも大して見てないだろうに。さっき僕らに出し抜かれてへそを曲げているのか?

 大体にして僕をリーダーだって言うなら、僕の話をもう少し聞いてしかるべきだ。こっちを未熟扱いして全部自分で決めちゃうんだから困ったものだな…。

 

 つらつらと考えながら、廊下を進む。その足は少し早い。

 

 

 

 消し去るだって。

 

 

 どうなんだそれは。

 だって、……。

 

 

 …、…だって、もったいない。彼らは使える、集団の一員として有用だ。フォースはもっと有用な仲間だって用意してやると言ったけれど、でも、でも。

 

 

 

 

 ―――『どうあっても、お前と6C、どちらかが消される』

 

 

 

 ……、……。  

 

 

 

 シックスは進む。足早に。

 

 自分の部屋ではない場所へ。

  

 

 

 その指先は常より少し力が入っていたけれど。

 

 彼も誰も、それには気が付かなかった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 暗闇。

 

 地下深く、落ちた先。

 

 

 

 

 

 

 『―――いい?今回の事件は“ぼく”の中に居た私…、裏人格でも不純物でもいいけれど、ともかく()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

『大丈夫、シックス。心配しなくていい』

 

 

 

 

 

『―――私が余計なことをしたんだよ』

 

 

 





 Case6(成体)は幼少期について、ゲノム提供者の人間の記憶を自身のものとして認識している。
 本話のこれらの記憶群は、当成体Caseによる認識外であり、証明の不足をもって、「嘘」の記憶だ。
 
 今のところ、そういうことになっている。


 

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