気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ
 
 同行者と一旦別れ、列車を降りた。追跡者から身を隠しながら、外科医のオフィスのある塔へ向かうことになる。駅の先は、古い病院らしい。



76 Obsession

 

 

 扉の一歩先は、暗闇だった。

 

 

 懐中電灯の部分的な光が、周囲に置かれた物の影を浮かび上がらせる。

 

 

 倒れた机。列を乱した待合の椅子。

 リノリウムの床や壁は、長らく使われていないことを示すように、汚れや錆びで黒ずんでいた。

 

 

 静まり返った室内は纏わりつくような暗闇に包まれ、重苦しい気配が充満している。

 よどんで揺れない空気は、何もかもが時間を止めたような不気味な静けさを保っていた。

 

 たった一つの照明が、頼りなく点滅している。

 床まで届かぬ光が、ただただ天井のタイルが剥がれ落ちた様を何度も照らした。

 

 遠く、壁際でリモコン用の画面装置が、ぼうっと光っている。

 埃の積もり方を見ても、誰かがここにいるようには、とても、思えない……。

 

 

 

 ……、……。

 

 メッチャ、ちゃんと、ホラーだ……!

 

 

 戦慄した私は動揺で足を止めた。

 普通に怖い。

 

 どっかで見たことある感じの廃病院を探索するタイプのホラーだコレ。

 ジャンプスケア系のはびっくりして声をあげてしまうので切実に遠慮したい。懐中電灯を持つ手にも思わず力が入る。

 しかし今の私は回収部隊に追われている。そっちは切迫して明確に実害があるタイプの怖さだ。止まってもいられない。

 ……進むしか、ない……。

 

 慎重に暗闇を進む。置かれたデスクの裏に、カードリーダーを発見した。キーカードを使うと、先ほど仄かに光っていた充電装置の画面に映像が現れる。

 キャプテンフィドルズのイラスト……『紫』だ……。

 

 入り口の充電装置練習場から、『赤』と『青』の電気を拝借して『紫』を作る。

 再びキャプテンフィドルズの画面の前に戻り、リモコンから電気を流す。

 

 聞きなじみのある音と共に画面にチェックマークが現れ、近くの扉が軋みながらゆっくりと開かれた。

 

 やはり暗い扉の先を見やる。

 意を決して、私は足を踏み出した……。

 

 

 

 暗い病院内の廊下に、自分の足音が響く。

 先ほどより汚れの酷い廊下を、耳を澄ませながら慎重に、確実に、進んでいく。

 

 周囲の静けさのせいで呼吸音でさえよく聞こえた。

 動いているのは私だけだ。

 

 

 ギィ、と手をかけた扉が軋む音が異様に耳につく。

 

 

 いくつかの小部屋が並んでいる。横倒しになった医療棚や、引っくり返った椅子、汚れたベッド……トイレ……明かりのつかない電灯……。

 

 

 ――こんな場所のどこに臨時の医者がいるって言うんですか???

 

 居たとしても普通の医者ではない気がしてきた。治療は期待しない方がいいかもしれない。ああいや、もしかしたら、息をひそめた人間のお医者さんが……いる……、……わけがない……。

 

 頭を振る。

 

 希望を捨てるのはまだ早いかもしれない。ビターギグルアシスタントが言っていたからには、識別されている医者は居るのだ。そのひとがどんな状態かは保証されていないが。

 ……いやだな仏さんとご対面するのは……。

 

 現実逃避の思考がくるくるしつつも、周囲の探索を続ける。

 

 この古いクリニックは、廊下がぐるりと四角く繋がっているらしい。入り口から半周回った場所に大きなガラス扉があって、そこから外に出られそうだった。ウスマンが言っていた『クリニックの裏口』がそこらしいが、まだ施錠されていて進めない様子だ。廊下の途中でいくつか開かない部屋があったので、そこらを順に探索しながら裏口の扉を開ける方法を探すのが良いだろう。

 

 やるべきことを定めつつ、床から拾い上げたフロッピーディスクを眺める。

 

 アシスタントのデータが入っていた物と形は同じだが、色が違った。これが、先ほど言っていた『患者モジュール』だろうか?一旦懐にしまう。

 また、近くのトイレでケースレポートを見つけた。暗すぎて読みづらいが、目を凝らす。

 

『Case6C(Juvenile) 更新番号3』……“ぼく”に関しての、報告書だ。

 

 

 経営陣の要請により、Case6Cの捜索に充てられていた資源は永久に停止することが決定した。今後は再びCase6に焦点を当て、彼がもつ既知の問題点の修正を試みる。これは、6Cの生成に関わる詳細な全ての記録が、Case56の収容室脱走事件によって消失したためである。

 再収容されたCase56の内視鏡検査では、Case6Cの存在を示す痕跡は発見されなかった。よって、Case6Cが捕食された可能性は排除できる。

 可能性の1つとして、Case56が這い回った際に形成されたトンネルの瓦礫の下敷きになった説が挙げられている。

 それでもなお、Case56は掘削における卓越した能力を示しており、我々は空間拡張の目的で彼の能力を確実に用いるだろう。

 

 Caseはまだ発表の準備ができていない。

 

 

 ……。“ぼく”がクローゼットの中に隠れたあとの話だ。事件の後“ぼく”は研究者たちに探されていたが、あのヤギ頭の蛇のマスコットキャラクターであるCase56のお腹からは見つからず、瓦礫の下敷きになっていて見つけ出すのは困難と考えられ、捜索を断念されたということらしい。

 ……内視鏡検査までして探したのか。当初のシックスやフォースの予定通り“ぼく”がCase56に食べられていた場合、割とすぐに研究者たちには見つかっていただろう。つまり、トラブルによって隠し場所がクローゼットになったからこそ、現在まで“ぼく”が隠れ切れていたとも言える。

 

 良いことなのか悪いことなのかは……まだ、判断が付かない。彼らにとって良いように転じることを、願っているし力は尽くしたいが。

 

 報告書をしまう。

 ついでだ、以前に拾っていた書類にも目を通しておこう。未知の暗がりを動き回るより、手元の文字に集中したほうがまだメンタルに負荷が少ない。とは言え追われている身であることに変わりはないので、集中し過ぎないように。

 

 鞄を探って取り出したのは、駅に落ちていた報告書だ。

 

『Case29 更新番号34』。通称は『The Anteater(アリクイ)』

 

 

 Case4、9、14、17は決断をし、Case18は袋に封印された。ジバニウムの拘束によって、脱出は不可能だ。

 下層への定期的な訪問によって、Case4、9、14、17が我々との(やや強引な)取引を反故にすることを防止する。

 このCase集団との面会は3度目だが、Case29の同行は確認されていない。

 Case29はこの反乱軍から離反したか、下層階のいずれかの場所で最期を迎えた可能性があることが、あらゆる証拠によって示されている。下層階の環境は非常に危険かつ敵対的だ。

 Case4、9、14、17はCase29の所在について全員が情報提供を拒み、誰も知らないと主張している。

 

 経営陣からの要請があれば、Case29の場所を特定するために特別捜索隊を派遣することも可能である。

 Caseは永久に発表の準備ができていない。

 

 

 ……通称と内容から考えて、Case29は壁の絵で見たことのあるアリクイのキャラクター、「ブラシスタ」だ。たしか絵描きのような風貌だったが、シリンジョンの街で劇のポスターに監督としても名前があった。

 彼ないし彼女は、かつて王国の一員だったようだが、ダダドゥー卿が女王のお腹の袋に封印された後は、行方が分からなくなっていた様子……。仲間たちも知らないのであれば、ダダドゥー卿封印をきっかけにして、単独行動をしていたのだろうか。その理由とはいったい……。

 ……どんな事情を考えたところで、現時点では想像に過ぎない。とはいえこの後に出会わないとも言い切れないので、頭のどこかに留めておこう。

 

 報告書をしまって、私は再び歩みを進めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 モニターに映るタマタキとキャマタキのイラストを発見。

 充電装置から得た『シアン』色の電気で扉を開けた先には、大量のテレビモニターが壁に掛けられた部屋があった。

 

 近くには6つの充電装置、『赤』『青』『緑』『紫』『黄』『シアン』が設置されている。

 

 隣にあるカードリーダーにキーカードを使うと、軽快な音が鳴る。

 

 ぱっと、画面の一つにジョッシュのイラストが映し出された。

 ……、……。ピッ、ピッ、と高い音が一定の間隔で続く。猛烈に促されている雰囲気を感じ、私は緑に充電したリモコンで、画面に向けて電気を放電した。

 チェックの音と、続いて別のモニターにイラストが表示される。今度はバンバンで、必要な電気は『赤』だ。リモコンを充電している間に、イラストが表示されるモニターがどんどん増えていく。

 増え続けるイラストにひたすら対応する電気を当てていたが、しばらくすると軽快なクリア音が鳴った。

 

 充電装置の横の3つの赤いライトのうち一つが、緑色に変化している。

 

 ……なるほど?これをあと2回繰り返せばいいらしい。耐久モグラ叩き3本勝負だ。

 

 私は気合を入れなおして、再びスイッチを起動させた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 3度目の軽快な音が鳴る。

 ライトがすべて緑に点灯するのを見て、私はリモコンを握っていた手から力を抜いた。

 

 なかなかのスピードを要求されるミニゲームは、無事にクリアに漕ぎつけたようだ。

 私は息を吐く。混色の手際が大事なところだったが、原色から別の原色に変えたい際に、一度混色する過程が挟まってしまうのが難しいところだった。現在保有している色を破棄するボタンがあったら、もっと便利かもしれない。

 

 近くの棚が音を立てて開く。中に入っていたのは紫のキーカードだ。

 

 そのキーカードで開いた部屋の中で、さらにオレンジのキーカードとシアンのモジュールを手に入れる。……見つけた『患者モジュール』らしき物も増えてきた。いったん戻って、アシスタントのビターギグルに聞いてみよう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『ハァイ!お早いお戻りデスね!』

 

 アシスタントの、明るい声が響く。

 

 彼のモニターがある部屋は、古い病院内とは違ってちゃんと照明があるので、物理的にも明るい。ホラー感から解放されて、ほっとする。

 

『……おや、まだ臨時の医者には診てもらっていない?ちょっと失礼、もう一度見マスよドクター』

 

 赤い光が、最初と同じようにつま先から頭までをなぞる。アシスタントは続けた。

 

『負傷のわりにかなり動き回っていたご様子。好奇心旺盛なのはよろしいデスが程々に!……とはいえ今回のご用件は患者モジュールですね?もちろん内容をご説明しまショウ!』

 

 画面が切り替わる。

 

モジュール読み込み中:

Case12A-12G

 

 

『こちらのモジュールはCase12Aから12Gのものデスね。これらはよく似たつくりのCase集団のようデス』

 

 画面には、フィドルたちのシルエットが8つ映し出された。…AからGだと7体分なので12Hもいるのだろうが、ここでは触れられていないらしい。体の大きさが他と違ったシアンの子が12Hだろうか?

 

『人間の子どもの行動を真似するように設計されていマス。……ワァ、記録がこんなに。問題行動や人間の指示の理解に困難を示すCaseが多いようデス』

 

 シルエットの色分けは、以前見たフィドルたちと間違いがない。

 

『8つあるサブケースのうち、期待通りの合格基準に達したCaseはたった1つのようですが…どのCaseかは、特定されていまセン。残りのサブケースは引き続きテストを受けているようです』

 

 おそらく、そのCaseが、友達紹介デーで発表予定だったキャプテンフィドルズ、上階で拾った報告書にも記載があったCase12Gの、藤色の子なのだろう……。

 

 2つ目のモジュールによって、画面が切り替わる。

 

モジュール読み込み中:

Case4B

 

『このモジュールは、Case4Bのものデスね』

 

 画面には、ジバニウム市民のシルエットが映し出された。

 

『Case4Bの集団は、このクリニックで診ている人間以外の患者のほとんどを占めています。彼らは、ありとあらゆる負傷を経験していマスね』

 

 ……以前見た報告書に、彼らは人間に代わって危険な作業にも従事していたらしいことが書かれていた。ありとあらゆる負傷……。彼らがどんな目にあってきたのかを考えると……。

 

『Case4のみが彼らの治療を許可されています。彼以外の従業員はCase4Bの身体構造を理解できなかったようですね。何を隠そう彼がCase4Bを作った張本人なのですから、それも当然デス』

 

 ……人間の医者や研究者には、ジバニウム市民をそもそも治せなかったのか。すると、危険作業によって出た負傷者である大勢のCase4Bの治療を、シリンジョンが一手に引き受けていたことになる。来る日も来る日も、きっと……。

 

 画面が切り替わる。3つ目のモジュールだ。

 

モジュール読み込み中:

Case10B-10G

 

『このモジュールは、Case10Bから10Gのものですね』

 

 現れたシルエットは、6羽の鳥。オピラチックとタルタチックたちだ。

 

『どうやらこのサブケースは、Case10に母性を、Case21に父性を持たせる目的のみで作られたようです』

 

 ……オピラチックたちは、ほかのマスコットと違って幼稚園施設で子どもたちと関わることを目的とされていなかったらしい。オピラとタルタの子どもであることが彼らの意味だったわけだ。ただ存在していることがイコールで役割であるともいえる。

 

『Case10、Case21の小型バージョンのようです。彼らとDNAもほぼ一致しています。このモジュールは彼らの身体形成とDNA注入に関して記録されています。―――ウスマン、貴方はこの工程を非常によくご存じでショウ』

 

 ウスマン・アダム氏は、やはりマスコットキャラクターの作成に深く関わっている。特に体の構造と、DNAに関しては。――記憶に留めておこう。

 

『所持しているモジュールは以上ですか?―――OK、そのようデス。では、アシスタントとして速やかに治療を受けることを推奨します』

 

 ……私は背後の暗闇を振り返った。ビターギグルの明るい声とこの部屋の照明で、ちょっとだけメンタルを回復したかもしれない。

 

『お大事に!』

 

 ありがとう、と会釈をして、私は再び廃病院に足を踏み入れた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 現時点でもクリニックの裏口は開かなかった。まだ何か必要なようだ。

 

 手に入れたキーカードを使って、なじみのある扉を開ける。

 

 駆動音とともに開かれた扉の先は―――今までより少し広めの医療部屋のようだ。

 

 ベッドやらモニターやら、奥にMRIらしき機械も見える。

 しかし目を引いたのは、中央付近に置かれた治療椅子だった。上に乗って目を閉じているのは患者さん?ブロブっぽい姿形だが動きはない。

 

 そうして壁際には、ジバニウム市民の姿形の人物がいた。

 頭に付けた丸い鏡っぽいやつ……正式名称は知らないがお医者さんがよく身につけている道具を見るに、彼が臨時の医者だと思うのだが……。

 

 彼が頭を壁に打ち付けるやや湿った一定のリズム音が部屋に響く。触らぬ神に祟りなしの案件だろうか?でも、痛そうだ。

 私は逡巡しつつ声をかけた。

 

 

「あの、こんにちは」

 

 

 はたして彼は振り返った。

 

「は……お前は、誰だ?……人間?」

 

「はい。貴方はお医者さまで間違いありませんか」

 

 治療を受けられると聞いて来たのですが、という言葉は途中で飲み込む。

 どっちかと言うと、目の前の彼も治療を受ける側な気がする。今の今まで壁にぶつけていた額は大丈夫ですか?

 

 一応会話可能そうな相手の様子を見る私の前で、彼はどこかぼんやりと口を開く。

 

「人間……。健診でも受けに来たのか?悪いが、忙しい――ああ、いや、待てお前は……父さんが、捕まえたがっていた奴だ……」

 

 おっとやはり逃走した方がいいかもしれない。飴10本と引き換えられる。

 

 足に力を入れて出入口を意識する私をよそに、臨時ドクターは特に捕獲の態勢には入らなかった。

 

「キャンディー10本……垂涎の報酬だが、しかしお前には……恩がある……」

 

 ――――恩?

 

 思い当たる記憶がなく首をかしげる私をおいて、臨時ドクターは壁際に移動する。

 設置されたホワイトボードに描かれているのは……。

 

 

 

「ナブナリーナ……。俺の唯一の恋人を、造ってくれた」

 

 

 

 私はその絵と臨時のドクターの顔を二度見した。

 

 

 恋人……?

 

 

 ナブナリーナはナブナブの同伴者として扱われていると思っていた。

 先ほどから何ひとつ腑に落ちていない私は、口を閉じたままだ。臨時ドクターはホワイトボードの絵に向き直って、熱心に見つめている。……恋人を造った……??

 確かに私は、ナブナリーナが目覚める際の手術をウスマンの指示のもとに行ったが……。

 

「ええと、私が彼女の手術に関わったと、どこでご存じに?」

「調べたさ……彼女を一目見て夢中になった後で。カメラに映像が残っていた……」

 

 さようで……。そうか、実験施設にプライバシーを主張してもな……。

 

「あんなに美しい存在はこの世に2つとない。唯一だ。――だが、あの忌々しい青グモがすべてを手にした。奴が一体何をしたというんだ?」

 

 よく見ると、ホワイトボードの端っこに、小さくナブナブが描かれていた。しかもナイフが刺さっている。ナブナリーナが中央に大きく描かれているのとえらい違いだな……。でも滅茶苦茶イラストがうまい。

 声色が落ちた臨時ドクターが、恨めし気につぶやく。

 

「きっとクモらしいことをしたに違いない」

 

 アンチクモのお方らしい。私も多足であるクモは得意ではないが、彼らは益虫でもある。そう嫌うものでもない気がしている。そしてナブナリーナもきっとクモだ。

 

「この状況では、俺は彼女のそばに行けない。居場所も不明だしな……」

 

 彼は再び歩みを進めて奥のモニターとパソコン画面に近寄った。

 

 

「だからお前は俺と共に、このラボで彼女をもう一度造るんだ」

 

 

 ――――どういう接続です??

 

「俺一人では無理だった」

 

 なるほど猫の手も……もとい人間の手でも借りたいと。

でも、とナブナリーナの手術を手伝う際も浮かんだ考えが、再び湧き上がる。

 

「臨時の担当ドクター。恐れ入りますが、成功率はいかほどでしょう。素人の私では力不足ではありませんか」

「お前は一度成功させている。同じことをすればいいだけだ。……複雑な手順の難しいところは、すでに終えている。お前がするのは最後の仕上げのところだ」

 

 うーん……。ぽっと出の素人がそう易々と命に係わる手術を引き受けるべきだろうか……。

 

「大変心苦しいのですが、お引き受けできるだけの自信を持てず……。お力になれそうなことといったら、もっとDNAやジバニウムの手術に詳しい医者に話を伝えることはできそうですが、いかがでしょう」

 

 私の提案に、相手はしばらく暗い瞳でこちらを見た。

 

「……捕獲で飴10本……」

 

 ううーんまずい、売り飛ばされそう。

 臨時ドクターの黒い瞳がこちらをじっと見下ろしている……。

 

 もはや自分の治療は断念しているが、ウスマンや“ぼく”との作戦を考えても捕まるのは避けたい。

 そのために倫理的問題を無視していいかと言われると頷き難いが……。角が立たないようにこの状況を解決する方法がないものか。

 頭をひねる私を見つつ、臨時ドクターは手で近くの棚を指し示した。

 

「お前が手術を手伝ったら、そこの赤いキーカードをやる。……逃げているんだろう?欲しいんじゃないか?……それこそ涎が出るほどに」

 

―――イベントを進行しキーカードを入手しなければならない

 

 ―――このクリニック攻略に彼への協力が組み込まれていることを悟り、私は断腸の思いで頷いた。

 

 

「……力を尽くしましょう……。自信は、ありませんが」

 

 




P1:嫌な予感がするので回避しようとした。やるからにはどうにかしようとはしている。
*試行。判断を微か傾けられるか。必須だ、進め

緑と紫のアシスタント:割とお喋りに設計されている。収音マイクは組み込まれていないので来訪者側から質問はできない。

臨時の医者:愛を患っている。飴10本より恋人を造りだす方に価値を感じている。手を貸してもらう相手が人間だろうとそんなことは目ではない。

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