気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
村長から、青い彼にまつわる話を聞く。その後、小屋で橙のクラゲと再会し、幻覚を見た。目覚めた後、小屋には旧知の者が集まり、互いのこれまでを語らう場となった。
「作戦会議をしよう、レイ!」
急な同窓会のような騒ぎがお開きになり、村長や村民たちが帰ったあと。
小屋の中ですっくと立ったフランボは、宣言した。
やる気に満ちた彼を見上げて、私は尋ねる。
「今後の動きについて?」
「そう!」
飲み物が入った器を片手に、フランボが頷く。
先ほどの同窓会で料理家の村民が差し入れてくれたスープともジュースともつかない液体だ。おいしいらしい。……ジバニウムを摂取できない私は、代わりにと手作り感のある瓶詰を手渡された。ガラス越しに見える色がきれいだ。
「ぼく、やっと少しずつ分かってきたけれど、色々確かめて決めていかなきゃ!」
そうだね、と私は頷いた。ちょうど彼に意見を聞かなくてはと思っていたところだ。
一旦敷物に座ったフランボが、頭を傾げつつ口を開く。
「まず……まず、ええと、いつまでもここに居られないっていうのは、あっているよね?」
「うん。さっき隣村で、シリンジョンからの追手に会った。体を拘束したけれど、そう長くは持たない。私たちふたりを捕まえに来たと言っていたし、他の回収部隊もいずれ来るだろうと思う」
以前、シリンジョンの緊急告知で見た回収部隊のシルエットは6名だった。そのうちまだ2名しか見かけていない。
私の言葉に、フランボが考え込む。
「……村に居ながら回収部隊を追い返し続けるのは、難しいよね。でも、ここから上に戻るにはどうすればいいんだろう。村長さんは知ってるかな……。そもそも、そんな道がある?」
「村長さんが知っているかは分からないけれど、道はあると思う。さっきの追手は、私たちを『外科医のところまで連れて行く』と言ったんだ。上に戻る何らかの方法を知っている」
「……そうか!じゃあその回収部隊のひとに聞けばいいね」
「それも1つの手段だね。捕まったふりをして、上まで連れて行ってもらうこともできるかもしれない。……でも、その前に、貴方に聞いておくことがある」
私は静かに問いかけた。
「上に戻って、そのあと、どうしたい?」
見つめた先で、フランボは一度口を引き結んだ。
「……。やりたいこと、本当はもう、あるんだ。ここまで追いかけてきて連れ帰りたいなら、フォースは、どうしてもぼくの目が欲しいってことだよね」
青いその両手が、膝の上でぎゅっと握りしめられる。
「ぼく……ぼくの目を、シックスにあげるかどうか、考えたんだ。シックスのためとか、皆のためとか、正しい事だとか……ぼくは後で“普通の目”を貰えるから、見えなくなっちゃう訳じゃないとか……」
彼の目線が下へ落ちる。
「あげちゃってもいいのかな、役に立つならそれでいいのかも、って思った……。思ったけど、やっぱり違うよ。――だって、ぼく、シックスの意見を、ちゃんと聞いてない」
ぱっと、彼の目はまっすぐ私に向き直った。
「手術に反対じゃなかったのは、ウスマンの意見だ。取り出した特別な目を使うのは自分なんだって知らないままで、周りが話を進めるのは、変だよ。……難しいのは、分かってる。でも、ぼく、シックスと、ちゃんと話をしたい……」
……。
悩んで、重い口を開いた。実際に対峙してから衝撃を受けるより、今伝えておくべきだと思った。
「……彼は、自分が『人間ではない』と聞くと危うい状態に陥るだろうと思う。強く拒絶されるかもしれない。彼の自認は人間のウスマン・アダムで、それを否定されるとひどく不安定になるからだ。……貴方も彼も傷つく」
じっと彼を見つめて続ける。
「シックスの意見を聞くなら、慎重に話しかけないと、伝わらないと思う」
フランボの視線は逸らされなかった。
「うん。それでもやっぱり話したい。避けちゃだめな、大事なことだよ」
覚悟は堅いらしい。私は頷いた。
「……わかった。もう一度話をしに行こう。私もそうしようと思っていた」
「本当!?ありがとう、レイ……」
「ううん。それで、まず彼らと話をする方法なんだけれど――」
「あっ、ちょっと待って!きみは?レイのやりたいことは?」
……ん?と目を瞬いた私にフランボが首を振る。
「スティンガーフリンと、さっき少しだけ話したんだ!きみは何か理由があって、ここまでやって来てたんじゃないの?……上に戻ったら、それもやらなくていいの?」
ええと。
私は思わず小屋の端へ視線を走らせた。
村でのゲストハウスはここだけらしく、必然的に外からの客人全員は同じ部屋に居る。敷物の上に静かに座っているスティンガーフリンは、我関せずという顔だ。
しかし、でもそうか……。そもそもあった第一の目標を彼と共有しておかないのは、良くないかもしれない。私は頭を悩ませつつ、自分のやりたいことを改めて考えた。
「確かに、今まで機会がなくて話をしてなかった。ごめん。私は……上にある幼稚園で居なくなった子どもの手掛かりを探して、この場所にいる。ウスマンともその途中で出会ったんだ。施設全体をなんとか良くしたいと言った彼と協力することにして、ここまで来ていた」
でも今は、と続ける。
「先に進みたいのは本当だけれど、ただ進めばいいわけじゃないと思ってるよ。今やりたいのは、貴方やウスマンたちの力になることかな」
「きみの目的と、直接関係がなくても?」
「うん」
「……そっか。わかった、ありがとう。それからぼくも、きみの力になるね!」
「ありがとう」
頷いた彼は、続けて一度口を開きかけ、何かを逡巡したようだった。少しの沈黙の後、再び口を開く。
「あと、あと……もうひとつ、きみに聞きたいことがあった。レイは……シックスとウスマン、彼をどっちだと思っている?」
投げられた問いに、今度は私が沈黙する番だった。
「……ぼくは、シックスがぼくらを忘れて、自分を人間のウスマンだって信じ込んでいるんだと、思ったんだ。でも……もう一回、考えた。ぼくは昔、きみと一緒に居たよね。ひとつの体にどっちも居たんだ。今の彼は……シックスであることを忘れたシックス?シックスの中に入って気が付いていないウスマン?……それともどちらも混ざってしまったふたり?」
とても難しい問題だ。
……慎重に言葉を選んだ。フランボと共に赤い彼と再会してから考えていたものを、形にしようとした。
「自分が誰かを決められるのは、自分しかいないよ」
これは求められた“正解”ではないだろう。でもせめて、信じていることを言う。
「自分だけで自分を決められるわけではないとも、思うけれどね。……自己紹介しあったとき、彼は『ウスマン』だと名乗った。だからそう呼んでいる。でも同時に、彼は私と友達になったシックスでもあったと思っているよ。……難しいね。確かなことは、私にとって、彼は友達で協力者だ」
「……彼がどっちでも、友達ってこと?」
「……ずるいかな。ごめん、やっぱり答えになっていない?」
じっとこちらを見たフランボは、やがてにこりと笑った。
「ううん。きみの考えがわかった、ありがとう。ぼくも、もう少し考えてみるね」
小さく息を吐いた後――彼は思考を切り替えるように腕を組んだ。
「じゃあ、うーんと……あと考えることは……。うまく上に出られたとして、その後どうやってシックスと話をするか、って言ってた、よね?」
「彼とシリンジョンとね」
「……フォースともまだ話をする気なのレイ…???」
え???むしろそうしないと話にならないと思ったんだけれど……。
思わずフランボを見つめるが、彼はぶんぶんと首を横に振った。
「だめだよ、きみ、危ないよ。やめよう?」
「やめるわけには、いかないと思うな……?」
現在、ウスマンはシリンジョンと共に居て、シリンジョンが手術を強行しようとしている状況だ。フランボとウスマンの話し合いがどうなったとしても、結局シリンジョンと話すことは避けられないだろう。
「なんで??だって、きみのこと、すごく怖い目で見てたよ。言うこと聞かされちゃう!」
「いや……私にはそこまでの利用価値は……。フランボを脅す材料にされることだけは避けなきゃならないけれど……」
「――向こうの目的の整理を先にしたらどうだ」
部屋の端っこから声がしたので、私たちは沈黙した。我々の視線の先で、スティンガーフリンが、すごく……致し方なくという感じで、目をこちらに向けぬまま言う。
「お前たち2名の状況は、似ているようで異なる。働きかけ方も異なるだろう」
「……」
「……」
私とフランボは、再度顔を見合わせた。
「……フォースはぼくの目が欲しいんだよね?捕まえて目を取り出したい」
「うん。だから少なくとも目を取るまでは、むやみに傷つけたくないはずだよ。……反対に、私には身体的な価値はあまりない」
「でも、追手はぼくらふたりを連れていくと言ったんだよね。『ぼくを捕まえるためにきみを』じゃなくて。やっぱりきみにも用があるんじゃないかな?」
……確かに口封じなら、他の村民たち同様にここへ落ちた時点で済んでいる。呼び戻したところで何の用事があるのだろうか……。
沈黙が落ちる。自然、視線は部屋の端っこに向いた……。
「――管理に躍起になっている者へ、己を見せてどうする」
……スティンガーフリンは呆れたように言った。
「制御されているように見せて、安堵させてやればいいものを。大人しく範囲内に居るのなら、多少の自由も許しただろう。予測を超えて動く上に物申すから、首輪を付けられようともする」
……。ええと、つまり……。
「……めちゃくちゃ邪魔だから、首輪を付けて監視と管理をしておきたいということで、あっていますか……?」
「違わない」
ジト目のスティンガーフリンに見つめられ、私は現実をやっと悟った。度重なるバッドコミュニケーションによって、私はシリンジョンからの信用がマイナスなのだ……。
フランボが、ええと、と首を傾げる。
「やっぱり、ぼくらは自由に喋れるうちに、向こうと話し合う機会を作らなきゃならないってことだよね?」
「その機会はあちらが作る。お前たちが避け得ぬ形を用意して」
……。私は松明を持った回収部隊の言葉を思い出した。私とフランボの片方でも捕まえられなかったら、次は、何を材料に使うだろうか。いい予感はしない。
考え込む私をよそに、スティンガーフリンが、ゆっくりとフランボの方を向いた。
「お前のかつての友と話をしたい、と言ったな」
静かな声が続く。
遥か遠くまでを見通すような目が、青い姿を映している。
「その願いは叶うだろう。小さくはない犠牲を払って」
「……犠牲って?」
「心身を蝕む苦痛。恐れるなら、もう少し待つといい」
フランボは首を横に振った。
「……ぼく、考えたよ。いつまでも言われた通りにいい子で……ただ待ってちゃ、だめなんだ。怖いかもしれない、でも進める」
「進めば、お前は無垢と、揺籃たる守護を失うだろう。そうと望むか?」
「ぼくはまだ子どもかもしれない。でも、もう、守ってもらうだけではいたくないよ」
スティンガーフリンの声が重みを増す。
「自分を見失わずにいられるか?」
厳かな声が言う。
「壊さず、壊されずに、相手の手を掴めるか?」
青い彼は、ひるまなかった。
「うん。できる。やるよ」
「――ではそのまま進むといい」
頷いたフリンは、次いで、私の方を見た。
黒い瞳に見つめられ、はっとして背筋を伸ばす。
彼に初めて会った時を思い出すような、粛然とした雰囲気だった。
一字一句、聞き逃さぬように集中する。
スティンガーフリンは、言った。
「引き返せ」
……、……。
互いを見つめ合う時間が続く。
それ以上何も言われないので、私はぎゅっと唇をかんだ。扱いの差……。
「あの……引き返すことも難しく……帰るために、進んでいるというような感覚もありまして……」
苦しい説明に、スティンガーフリンの表情は変わらない。
「目的を達成するためにも、シリンジョンとの衝突は何とかしなければならないと思います。次は直接的に従わせようとしてくるだろうということも分かりますが……どう交渉したものかと……」
スティンガーフリンは……長々とため息をついた……。
「まだ交渉の余地があると信じていること自体が驚きだ。支配へ動く相手に、対話ができるつもりで近づくな……」
そうかぁ……そうだ、な……。下手に出て話しかけたとしても、有無を言わさず上から首輪が嵌められることが想像に難くない。前回「私は貴方の敵ではない」という主張が全く効かなかったことも考えて、のこのこと会いに行くべきではないな……。
空気の違いを感じてか、フランボがそわそわと私たちを見ている。
ちょっとそちらを見たスティンガーフリンが、自身の手元に置かれた器をフランボの方へ滑らせた。
手を付けられていない中身を見つめ、フランボはきょとんと目を瞬く。彼はフリンが頷くのを見ると、表情を輝かせた。小声でお礼を言って嬉しそうに口を付ける……。
――すっかりそちらに意識が向いている彼を見届けてから、スティンガーフリンが再び私の方を向いた。
「可能なうちに立ち去れと言った……。大人しくしていろと言ったし、自分の足元を見ろとも言った……」
「……はい……」
「足元も見ると返事をした割に、お前はどんどん地下深くへと落ちていく……」
「……おっしゃるとおりです……」
ごもっとも過ぎて頭を下げる私に、スティンガーフリンは息を吐いて言った。
「――首輪付きを回避するなら手段が無いわけではない」
その橙の腕が持ち上がる。
「相手の滅びを待つか、あるいはお前が、首輪が不要な価値ある道具だと証明するか。……お前が考える通り、外科医の支配はもう長くは持たない」
……監獄で私がシェリフに伝えた危惧の話だ。スティンガーフリンも同じ考えであるらしい。
「前者は混乱に乗じて逃げれば良い。お前の目的は達成される。後者は、首輪がなくともお前を縛れるのだと信じさせる必要があるが、それでもお前の望む通り、相手の滅びがくるまで隣の友の手助けはできるだろう」
支配が崩壊するまで、逃げ隠れるか働くかの2択ということか。しかし……ええと……。
「あの……シリンジョンも含めて滅びが来ないように、止めたい、のですけれど……」
「……、……」
すうっと、スティンガーフリンの目が細まった。
も、ものすごく愚かで哀れな生き物を見る目を向けられている……。
「全てに手を出すつもりか。――そのまま進めば、お前は知る必要もないものを知り、見たくもないものを見ることになる。無益だ。諦めろ、引き返せ」
……それでも……何もせずにいたくない……。
しかしスティンガーフリンを煩わせていることも、よくわかっていた。何かを考えつかないかと、必死に頭を働かせて、口を開く。無益では、ない、はずだ……。
「……街の支配の崩壊で起こるだろう犠牲や混乱を防ぐことは……このあと貴方が子どもを匿った場所へ行くのにも、利にはなりませんか……」
苦し紛れの言葉だ。
スティンガーフリンは、顔をしかめた。
しばらく目をつぶった彼から、やがて苦々しい声が絞り出される。
「……崩壊そのものは変えられないが……しかし犠牲を軽減することは、できなくも、ない……」
私はぱっと顔を上げた。光明を見て彼の言葉を待つ。
「……あの外科医の計画の弱点を突けるか?」
……はい……??
「お前やお前の意見が無視できないものであると、認めさせられるかと聞いた」
繋がりが読めない上にハイレベルな課題に、私は真面目な顔で相手を見つめた。
「……あのドクターに、ですか……?非常に、難しいと……」
「ではこの話は終わりだ。戻ると良い」
「や、やります、やってみます!お教えください……!」
「内容は自分で考えろ。必要な情報はすでに手にしているだろう」
彼の視線が私を射抜く。
「矛盾を自覚せざるを得なくなれば、少なくとも一度、あの外科医は止まる。ただし最終の選択は奴にさせなくてはならない。――以上だ、私からはもう何もない」
言われた言葉を反芻し……私はふいに、あのバルコニーのある部屋でのシリンジョンの様子を思い出した。
急激な態度の硬化。凍るような拒絶。
――『その可能性は、終わった』『……その手法を知っている』
失言によって怒りを買った失敗だったのだと、思ったのだが。
しかしきっと、あれらの言葉の奥に……。
――『もう誰の手も取りはしない』
……。
やるべきことの手掛かりが、見えてきたような気がする。
私は目の前の彼に頭を下げた。
「ありがとうございます。スティンガーフリン」
あとは私がシリンジョンに何を伝えるか、よく考えなければならない。
器の中身を飲み終えたフランボが、こちらを窺いつつ口を開く。
「ええっと、だいたい、まとまった、よね?まず、道を聞いて上に戻る。それからシックスと目のことについて話をして……。たぶん一緒にいるだろうフォースには、彼の計画を止めてもらえるような話をする。これでいいかな?」
良い。そうするまでの道のりは決して簡単ではないが……やることの方針は、決まった。
私が頷いた、その直後だった。
――――――ドンドン!と、急いたように、小屋の扉が叩かれる音が響いた。
「3名とも居るね?――急いで私についてきてくれ。緊急事態だ」
P1:やりたいことがあまりに手広い。自身に関しての見積りは怪しい。
*目的は正規のクリアだ。浅慮に歪めるな。
青い声の主:自分の立ち位置を自覚した。赤い友達とちゃんと話し合いたい。
橙のクラゲ:我関せずのまま目を瞑り続けるのが難しかった様子。必要なら背を押す、不相応は止める。