気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
村の小屋で、今後の方針を確認した。小屋の外から呼びかけがあり、危機的状況だという知らせを受ける。
扉を開けた先に居たのは、村長だった。
早歩きの彼に連れられ、辿り着いたのは浮島の端だ。
「――……お、来たなアンタら」
そこにしゃがみこんで、眼下をじっと見ていた村民の一人が、顔を上げて私たちを見た。片腕に輪を嵌めた、ダイブ好きの村民だ。
「さっき言った通りだ、村長。やっぱりちょっとばかし広がってるぞ」
頷いた村長が、私たちを振り返る。
彼の手がある一点を指さした。
「あれが見えるかい」
示された先は、やや下方だ。
隣村につながる吊り橋が落とされたそこは、ただの暗闇が広がって……。
いや、遠く。微かに揺れて光っているのは――。
「火……!」
松明の明かりではない。横に広がっていくその炎は、火事だ……!
「あの犯人は、まだ動けたようだね。今は火が小さいが、そのうち燃え広がる。火の粉の飛び方によってはこの村にも燃え移って、ここに居る全員も無事とは限らない」
――見境なく燃やす気なのか。あるいは追い立てようと?
狙いは私とフランボの回収だったはずだ。まさか、そんな手段に出るなどとは……。
炎を見ながら、私は言葉が出ない。
村長は私たちを見た。
「今、村民たちが動いている。我々が道を作るから、キミたちは上に逃げるんだ」
固まる私の隣で、フランボが村長を窺う。
「上に行けるの?でも、みんなは……」
「村民たちも、キミたちを疑ったことに対するお詫びだと言ってくれた。――シックスと話をつけてくるんだ、フランボ」
「……。うん」
村長の背後で、村民たちが集まっている。
一人の上にもう一人が乗り、それを登った一人がさらにその上に立つ。互いの手と足で繋がり合って、まるで、梯子のように……。
「さぁ、キミも行くんだ」
――自分の行いが、フラッシュバックする。
追手を縛るだけで放置したこと。桶に入ったジバニウム。
それらが何をもたらしたのか。
回復した追手が、力を得て縄を抜け出して、きっと……。
息が詰まりそうになる。私は必死に首を振った。
「――ちがう、ちがいます。私の余計な手出しがこの場所の危機を招いた。ですから、」
「逃げてくれ」
優しく力強い、しかし有無を言わさぬ声だった。
「キミはいい人間だ」
違う。
「違わないよ。起こったことがキミの行為と全くの無関係だとは言わない。でもそれは同じ場にいた私の行いにだって言えることだ。火事の責任が、キミにあるものか」
私に責任がないなんて、そんなわけがない……。
首を振る私に、村長は落ち着いて続けた。
「キミは可能な限りを考えて、傷つけないことを選んだんだ。敵か味方か、人間かそうじゃないかで、傷つけていいとは決めなかった。同情だけじゃなく、相手への尊重によって。――ねぇ、キミ。人間のキミ」
黒い瞳が私を見つめた。自責の言葉で渦巻く思考が、その静かな目によって、ふっと止められる。
「キミを助けたいのは、キミが完璧で間違わない人間だからではないよ。……小さな昔話をしよう。ただ数日そこにいた、何のしがらみもない人間がさ、私たちを好きだと言ったんだよ。まだ何者にだってならない、ただの私たちを」
微笑みが私に向く。
「ねぇキミ。それがどれほどの希望だったか、わかるかな。私たちそのままを好きだと言った人間が、一人だっているんだと。――キミに返すよ。どうかキミがそのまま、望む道を進めますように」
差し出されたものに、体が震えた。
不相応だと思った。彼らが身を挺して私を助けるだけの価値があるとは、到底思えなかった。……しかしそう言って拒むことこそ、彼らの決意への酷い侮辱だと思った。
身に余る。それでも、精一杯応えたいと背筋を伸ばす。
「――ありがとう、ございます。貴方がたの厚意を、決して、忘れません……」
村長は、はっきりと頷いてくれた。
「それからこれを、キミに。シリンジョンが隠したがった記録だ。どう使うかは、キミに任せるよ」
渡されたビデオテープを、頭を下げて受け取った。丁寧に鞄にしまう……。
「どうか幸運を」
「はい……!」
「――あー……良い雰囲気のところ、悪いんだけれどさ、」
積みあがる梯子の横、有力者の一人……料理家の彼が、気まずそうに言った。
「別に俺たち、こんがり焼ける必要はないよな。……ひとり上にあがったら、残りを引っ張り上げれば良くないか?――前もどっかで言ったような気がするな、これ」
……。
沈黙が、落ちる……。
……。
目を白黒させつつ、頭をフル回転させて、私は口を開いた……。
「……縄……縄はありますか、村長さん」
「……え?あ、ああ、吊り橋用の余りが大量に……」
「命綱……いや、あるいは吊り橋そのものを登り梯子にして……」
「……。し、しかしその登り梯子を上までどう引っ張り上げるんだ。相当な重さが……」
「ぼ、ぼくが運ぶ?やるよ!たぶん、結構力持ち!」
「――そ、総員一旦中止!集合!縄を集めるぞ!!」
村長の一声で、わやわやと村民たちが降りて集まってくる……。
村長や有力者たちは私たちと顔を突き合わせた。
「――今ある吊り橋の縄を全部再利用しても、上まで届くか?」
「足りない分は、備蓄の縄だけで合わせて作ればいいんじゃね。全員が急いで編んで結べば、まぁいけ……るか……?」
「あ、ねぇ。じゃあこの綱、使える?釣りの後、楽しくなっちゃってひたすら編んでたんだよね。見て!なっがい!」
「でかしたな。足しになる」
「ここから出口まで届く縄梯子がある……とすると、あれだな。さっき俺が言った登り切った一人が残りを引っ張り上げる案より、梯子を上で固定してもらって、自分らで登る方が早いか?」
「登り切ったとして、いま出口の先が、どこなのかってのは問題じゃないか?」
「高さの話?どこだろうと焼かれるよりマシじゃね」
「……?ええと、皆さんは、炎や煙にどの程度耐性がありますか?」
「んん?長時間全身を焼かれりゃあ、焦げるし形が変わって治してもらうにしろ時間がかかるだろ。焼け落ちて動けなくなったら運んでもらわなきゃ終わりだし。でも煙は視界が悪くなるくらいで……。――アンタら人間って、もしかして煙でダメなの?」
「煙を吸うとまずいです」
「まじか。儚いな人間……アンタは先に上がった方が良いな」
「……出た先はどうなってるか分かんないけど、急いだほうが良いってことだよな?街の床の近くなら御の字、そうじゃなきゃ飛び降りりゃあいい」
「――その脱出は、火が回るまでに間に合うだろうか?」
村長の視線を受けたスティンガーフリンが、重そうな口を開いた。
「火の発見が早かった。あるいは放火が遅かったのか。――不可能だといえば嘘になる。今急げば、という条件は付くが」
「――急ごう!まず全員で長い縄梯子を作る!次に、我々を足場にして、フランボに梯子を上まで運んでもらう。梯子を固定した後、足場は解体。梯子は煙に弱い人間が先頭、そのあと私たちが数名ずつ登る。それでいいかな?」
村長の号令に、わっと、全員が動き出した。
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……。
十数分後……あるいはもっと掛かったのか。
ともかく私は、出入口に何とかたどり着いていた。
やはりというべきか、梯子を登って街まで戻るという計画は、文字通り一筋縄ではいかなかったのだ。
まず縄梯子が完成した後、フランボはすぐさま村民たちによってできた足場を登り始めた。膨大な量の縄をまとめて背負って、不安定な足場をするすると登る姿には驚かされたが、確かに彼は小さい頃から運動神経がよかったかもしれない。あっと言う間に姿が見えなくなった。
そう時間が経たずに、暗闇から縄梯子が垂れ下がってくる。どうやら彼が出入口までたどり着いて、無事に縄梯子を外へ渡すことに成功したようだった。
そこまでは良かったのだが、問題はそのあとだった。
難関の一つ目は、相当に長い縄梯子。暗くて高さが分かりづらかったのは、幸いだったかもしれない。私のあとに村民が続くので、怖気づいて時間を遅らせている場合ではない。下を見ないように努めつつ覚悟を決めてとにかく登り切った。
「レイ!よかった、ここまで無事に登れたね!」
上で待っていたフランボが、最後は私の手を引っ張って立たせてくれる。
お礼を言いつつ、やっと一息つく。
しかし、もう一つの難関は、登り切った先にこそあった。
外へ繋がる唯一の入り口にして出口。
丸く外の景色を窓のように切り取ったそこは、まさしく『口』だった。
――私は、自分たちがゾルフィウスの体内にいたということの意味に、改めて思い至った。
背の高いゾルフィウスの口の先には、床などない。ぽっかりと宙へ向けて口が開かれている。
そもそもどこに梯子の縄を固定しているのか、と恐る恐る口から顔を出す……。伸びた縄梯子は、ゾルフィウスの口の縁を越えて外へ向かい、宙をほぼ真横の方向へ渡っている。そして、少し離れたビルの屋上の塔屋に固く結ばれていた。
思わず隣にいるフランボを見やる。
「……あそこまで行って、戻ってきたの……?」
「うん!縄梯子を抱えて、ぴょーんてジャンプしながら行ったんだ。結んだあと、またこっちに跳んで戻ってきた!」
そっ……か……。
私は、自分がどうやってあそこまでたどり着けるかを必死にシミュレートした。
手すりもなく、ほぼ横方向へ伸びる縄梯子を進むのは、バランス感覚が必要である。落下は絶対に回避すべきだが、ここからビルまでの距離は……。
ゴールを見つめつつ、あれ、とあることに気が付く。ゾルフィウスの体はもっと深層へ続く穴の暗闇から伸びていなかっただろうか。どうして街のビルの屋上とこれほど距離が近いのか?
真下を覗き込んでみる。そこにあるのはゾルフィウスの細長い胴体と先の見えない暗闇……ではなかった。
代わりに見えたのは、街の道路だ。ビルの建つアスファルトの路面が、下方に広がっている。
私は、はっとして顔を上に向けた。
「ゾルフィウス……!」
――彼は縦穴の縁から街側へ体を傾けて、ビルへ顔を近づけているのだ!
「ぼくがここに着いたとき、周りに縄を結べそうな所がなかった。『どこかに梯子を固定したい』って伝えたら、ゆっくり動いてくれたんだ」
フランボの説明を聞き、そういえばと彼の体内に落下した時のことを思い出す。当初バルコニーから目の前に見えていたゾルフィウスの顔は、しかし私たちが落下する瞬間、真下で口を開いていたのだ。
……我々を助けてくれようとしている……?
「どうかなレイ、あそこまで行けそう?」
距離がそう遠くない屋上を見つめる……。目測5メートルちょっと……。
ゾルフィウスが体を傾けるにしたって限界がある。後ろに村民もつかえている。
フランボ、と私は口を開いた。
「……今から私の命綱、持っててくれるかな……」
「……それか、ぼくがきみを抱えて跳ぶ?」
そっちのが早いかもしれない。
涙を呑んで、私は彼に依頼をした。
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フランボの跳躍には、まったく迷いがなかった。
軽々と屋上に運ばれた私は息をつく。
静かにたたずむゾルフィウスの顔がはっきり見えて、私は屋上の手すりから身を乗り出して、彼に向かって手を振った。
「
ゾルフィウスから返事はない。いや、低く小さく短い音が聞こえた。『……デ、ナダ……』?
その口から、後続の村民らも続々と脱出している。
彼らの何割かは屋上を直接目指さず、下の道路に飛び降りているようだ……。
いつのまにか、フランボの肩に乗ったスティンガーフリンが言う。
「村民らは落下の衝撃が致命傷にならない」
その通りなのだろう、飛び降りたら命に関わるのは私だけだ。
スティンガーフリン、と私は問いかけた。
「炎や煙は、ゾルフィウスにとって痛かったり苦しかったりしませんか……?」
「村民と異なり、これほど巨大な体であれば相対的に損傷は小さくなる。現在見えた限り、延焼は体内の小規模で済んでいる。当人を差し置いて断言はしないが、不快であっても耐え難いほどの苦痛ではないだろう」
……ジバニウム生物、やっぱりめっぽう強いな……。とはいえ体内が燃えていたら誰だって嫌だろう。
消火するには、と言いかけた私の前で、スティンガーフリンは目を眇めて呆れたように告げた。
「水や砂の用意は、量を考えると現実的ではない。村民らが脱出し終えたあと、しばらく口を閉じていれば火勢は弱まるだろう」
新しく空気が入らなければ、いずれ火も消えるということか。すぐに消火できるわけではないのが心配点ではあるが……。
頷いた直後――あたりに、電子音が響いた。
はっとして見た街の上空に、映像が投影されている。
『緊急告知』の赤い文字。
それから、シリンジョンの顔の画像が映し出された。
『――我が街の美しい市民に告ぐ!』
厳めしい声があたりにこだまする。
『脱獄した人間は、依然として逃亡中だ。懸賞金は今や飴12本に引き上げられた。捕まえた者に惜しみなく与える!』
その懸賞が高いのか低いのか、やっぱり相場がいまいちわからないな……。
『そして青い逃亡者よ!貴様もだ。どうすればお前をおびき寄せられるのか、私には分かっている』
「どういうこと……?」
『お前の心を占める大切な者は、今、私の手の内にいる』
――ぱっと、画面はピンクのリボンに白い姿……バンバリーナの顔のイラストを、映しだしたのだった。
「……セブン……!?」
フランボが目を丸くして声を上げる。
『彼女はまだかろうじて息をしているが、しかしそれも私の采配一つで変わる。二人とも、直ちに私のもとへ来い!』
「大変だ、彼女を助けなくちゃ……!」
シリンジョンは、人質にする者を切り替えて作戦を続行したらしい。
私とフランボの両名にとって、考え得る限り最も効く人選だった。
苦い気持ちで映像を見つめる先で、放送が続く……。
『場所は第二タンク貯蔵所だ、急いだほうが良い――なんだウスマン、今は放送中……』
ざざ、とそこで音声が乱れた。シリンジョンの声が、遠ざかる……?
『――何、やめた方が良い?向こうはこの方法が好きじゃなさそう?報酬で促す……いいか、そういう甘い段階はとうに過ぎて……。なんだこれは。報酬リスト?メロン味の甘味類と、牛の舌と、鶏の心臓――何の悪魔を呼び出す儀式をするつもりだお前』
……何やら遠くで話している声が続く……。
『……あぁあぁ、お前の言い分はわかった。しかしな、私にも事情が……。まぁ待て、そこに手を掛けるんじゃない』
音は小さいが……トラブルっぽい……。
『一度座ろう、それ以上気を高めるな。やめろ、シッ……ウスマン!落ち着け!』
――ぶつん、と不自然に放送が途切れた。
我々は、しばらく映像が映し出されていた宙を見つめて、沈黙する。
フランボが、何とも言えない微妙な表情で、こちらを向いた。
「やっぱり、シックスの記憶は結構しっかりあるんじゃないかな?」
そうなのかな、そうなのかも……。どうだろうね……。
私は曖昧に首を傾げた。
そこも懸念点だが、私としてはシリンジョンの身もかなり心配だな……。
「シックスとフォースがどうなったかは分からないけど、ともかく、セブンが危ないかもしれない。なんとかしなきゃ……!」
「――キミたちは、先を急ぐと良い。我々のことは心配せずとも平気だ!」
ゾルフィウスの口の方から声がした。村長だ。
何名かの村民に引っ張り上げられる形で上まで登ってきていたようだ。
近くの村民たちも、大きく頷いている。
「――ありがとうございます!」
「ありがとうみんな!いってくるね!」
私たちは彼らに手を振り、ひとまずビルの外階段を下って、街の道路へ急いだ。
P1:立ち幅跳びの自己記録は2メートルに届かない。高所は怖い。
*イベントの進行に必要な重要アイテムらしき物を入手した。正しく使え
青い声の主:クローゼットの中でも体は成長していた。ポテンシャルはかなり高い。
橙のクラゲ:良いことも悪いことも予測していることは相当にあるが、あまり多くを語らない。質問があると仕方なしに答える。
村長:村の長たる矜持から最後まで残ろうと思ったが、村民らに早々と引っ張り上げられた。
村民たち:長年の集団生活によって、なんとなく統率が取れている。体力に自信がなさそうな者から脱出する方針をとった。
松明を持つ回収部隊員:定刻で樹上移動が得意な隊員が迎えに来た。任務は達成できていなかったが、縄を解かれてやっと仕事を再開している。
灰色の巨塔:出たがっている小さき者たちに力を貸した。もともと村では大きな松明が複数燃えていたが、現在はいつもよりお腹がぽかぽかしている。だんだん暑くなってきた。
紅い外科医:対応中。色々と忙しい。
赤い男:出典不明ながらもなぜか確信できる謎情報により、有効と思われる報酬を提案した。一向に話を聞いてもらえない。