気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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9 How to solve

 

 

 程なくして私はフィドルの目の前にいた。え?大砲の弾?リュックの中だが???

 

 せっかく夢なんだからやりたいことはやっとくべきだと考えは落ち着いた。初っ端から気の乗らない試みをわざわざすることもない。全部やってみて駄目だったら初めて検討すれば良いくらいのものだ。

 

 フィドルの前に立った私は紙束を掲げた。今まで拾い集めてきた書置きやらレポートやらの白い裏面。

 …部屋の一室のホワイトボードには絵と文字がかかれていた。ある考えをそこに見出したのである。置かれていたペンを拝借し描いたものを、フィドルに見せた。

 

 一枚目には、人間と壁のフィドルの絵。『Me』『You』の文字と矢印。見せながら、私、あなた、と手でも指し示す。

 …、…明らかな反応はないが、一応、瞳はこちらを見ている。続行。

 

 めくって二枚目を見せる。一枚目と同じ構図のまま、人間が汗をかいて困っている絵。人間からフィドルの腕へ矢印が出て、そこにバッテンをつける。『I want to go there』向こうを指さす。

 …目線はついてくる。続行。

 

 三枚目。同じ構図、フィドルの腕が、人が通れるくらいに引っ込んだ絵。笑顔で喜ぶ人間。『Thank you!』

 

 四枚目。キーカードを持った人間と、子供の絵。『Me』『Child』

 

 …、…。『Fin』の5枚目を見せ終わった私は、黒い瞳を見つめた。

 

「…おねがいします。通していただけませんか」

 

 …、…。反応を待った。充分待った、が、黒い瞳は相も変わらず私を見ているものの、動きはなかった。

 …、…この要求に彼の利がない点で従う道理もそりゃあない。内容が伝わったか云々の他にも交渉としては下の下だ。

 

 

 仕方がない。他の方法を試そう。

 

 

 通路を歩いて、私は再び積み上がられたストレッチャーの前に立つ。

 どうやって積んだか気になる程にバランスの悪そうな、そのバリケード全体を見る。さて、いかにして向こうへ行こうか。

 

 引っかからないようリュックを降ろして床に置く。ひとまず空間がある床とストレッチャーの間を潜り抜けようとしてみた。

 

 思ったより通れそうかもしれない、と膝をついて這って進む。肩やら腰やらが度々つかえそうになりつつ、慎重にゆっくり、確実に前進をしていく。

 苦心しつつ…頭半分ほど反対側へ出て息をついた。―――瞬間、ガッ、と隙間にすれすれだった体がストレッチャーに当たった。

 

 

 

 あ、と見る間もなく頭上で嫌な音がする。

 

 

 見上げるとすでに、崩れたストレッチャーが眼前に迫ってきていた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 気が付くと私は積み上げられたストレッチャーの前に立っていた。

 すぐ横には、背から降ろしたリュックサックが床に置かれている。

 

 …、…。死んだらしいな。と思いつつ、湧いた疑問に頭を働かせる。

 巻き戻りが発生するタイミングは死ぬ直前と見ていたが、あのストレッチャーで即死ができたかは怪しい。死に至る未来が確定した段階で…つまり実際には死ぬほど痛い目には合わずに…やり直すことができるようだ。ズルでは?と一瞬思ったが、ホラゲーなんて死んでなんぼだ。いちいち本当に死ぬほどのバックダメージが入っていたら笑えないのでそういうもんだろう。

 精神衛生上非常に優しいが、油断は禁物でもある。死なない程度の損傷は痛い思いをする。よし、しょうもない死に方でも収穫はあった。あったよ、いいね?

 

 さて、二度目のトライ。今度こそ慎重に慎重を重ねて行こう。

 赤いフィドルが居た場所に隙間があるのでそちらを通ることにする。その重みに耐えるだけの強度はあるということだ。

 

 ゆっくり足を掛けて、隙間を潜り抜ける…ジェンガ、あるいは砂の山のトンネルを掘るような緊張感を伴う移動は―――しかし成功した。

 無事に反対の通路に足をつけ、黄緑のフィドルに変化がないことを確認。なるたけ音を立てぬようにして、私は部屋に滑り込んだ。

 

 

 入った部屋はこれまでと大きく変わった雰囲気はない。紫のストレッチャー、椅子、真っ白なホワイトボード。棚に置かれた報告書を発見して読む。

 

 『Case12G』の文字。タイプは2で、先のバンバンと同じ。更新番号は5だ。

ジバニウムと…『ぶらきしてれす・ひぽくさんさす』?の遺伝子情報の混ぜ合わせらしい。呼称が『子猿』であるらしいので、多分、その正確な読み方さえわからない謎の名は、ある種の猿の学名ではないかと思うが。…いや、Case6が別に悪魔との混ぜ合わせではないので、何とも言えないか…。あるいはHumanを指して『悪魔』と呼ぶ皮肉の可能性もなくはないかも…いいや穿ち過ぎだろう。頭を振った。

 続きをよく読む。

 

 Case12Gは、知性、敏捷性、模範性に関して全て他のサブケースを上回っている。要求通り、Case12Gはとても従順な幼児の行動を模倣していて、実際に幼児に適切な行動を示すのに最適である。Case12Gはケアする人間が近くにいないと極度のストレスを示すが、他のCase12で観察されたようにストレスが激しい怒りの発作に変わることはなく、ただ泣くと読み取れる行為をするのみだ。

 知能的には、Case12Gは形や数字を使って単純な計算ができる。ただし、理解可能な発話はできない。敏捷の点では、並外れたスタミナをもち、霊長類を超えた登攀能力をもっている。

Caseは発表の準備ができた。

 

 …。…文末がこれまでと違う。これは発表可能なケースの成功を示す報告書だ。数字の後に振られた大文字から推察するにABCDEF、と似たようなサブケースは少なくとも7体はいそうだ。そして、一番優れていたのが、12G…。意志疎通可能な言葉を話せない、という情報も加えるとこれは壁の絵でいうキャプテンフィドルズを指しているように思われる。

 …、…そしてやはり廊下で倒れていた彼らは、極度のストレスで大暴れした後だったのだろう。

 

 黄緑色のキーカードで空いた棚から、ピンクのキーカードを手に入れる。

 姿が見えない藤色のフィドルであるキャプテンのことは気がかりだが、先へ進もう。

 

 

 

 廊下に出ると違和感に気が付いた。―――視界を遮る黄緑がない。

 慌てて走って正面に回る。

 

 

 ――――――いない。

 目玉が見えていた穴の奥には暗がりが広がっている。こちら側の灯りで照らされる室内は広そうだったが、そこにはやはり、なんの気配もなかった。

 

 

 のぞき込んでも、何もいない。しかし微かに照らされた棚の上に何かが見えた気がして、私は慎重に部屋に足を踏み入れた。

 

 あの巨大なフィドルが通って行ったとあってか、相当に広い。ひとまず手前に転がっていた何かを回収する。…帽子だ。上にプロペラが付いている。何に使うかは一旦置いておいてリュックに突っ込む。

 続く暗がりを、ドローンを飛ばして僅かな明りとしつつ、壁際の棚を伝いながら進んでいった。…先の暗がりに、ちかりと光を反射する何かを見て、手を伸ばす。

 手探りで探し当てたのは、赤?朱色?のカードキーだ。

 進行に関わりそうなアイテムがあったな、とそれを見つめつつ考える。

 

 フィドルは…私の話を見聞きして移動したのだろうか?あの交換条件もなにもあったようなものじゃない厚かましいお願いで?いや単純に、度重なる意味不明な行動を目にして「なにこいつ怖…近寄らんとこ…」と立ち去った可能性も高いかもしれないが。

 いずれにせよ、「ありがとう」を言い損ねたな、と奥の暗がりを見つめる。

 

 …これ以上周囲が見えない闇を探るのは危険だ、と踵を返した。

 

 

 さて、手に入れたキーカードを使う「赤っぽい」の扉はどこにあるか?

 …今まで開かなかった扉があったかな、と記憶を振り返る。最上階の見逃した部屋は紫だった、そもそも戻れない。ええと、それからエレベーターが墜落し、通信棟へ入り、そして…―――――。

 

 思い当たる節があったので進もう。

 ピンクのカードを使って扉が開かれた先には、広がる暗がりと建物、目の前に『コムスセクター』の文字。

 

 …見覚えのある景色に辿り着いた。自分が出てきた建物を振りかえると予想に違わず『メディカルセクター』の文字が―――――

 

 ついでに巨大な「何か」と目が合って思わず固まる。

 

 

 …おおん…。

 

 

 見上げるような巨大な…顔だった。闇に聳え立つ、それは、薄黄緑と灰色を混ぜたような色合いの円形に、窪んで影に見える大きな目と口と小さな鼻…。表情は…ちょっと窺い知れない。かろうじて大きく開いた口から笑顔の雰囲気を認められなくもないが、目はどちらかというと悲しそうに見えた。巨大な顔から一本の細い体が生えていて、それは先の見えない暗闇に続いている…。

 太陽の塔、あるいは真実の口をなんとなく彷彿とさせるその何かを、沈黙のまま見つめる。

 それは直ちに私を襲うような様子は見られない。そもそもこっちを認識していないようにも見える。ナブナブの例がある以上、一応目を配りつつ先へ進む。

 

 途中の通路に、鮮やかな緑の液体の跡を発見した。ぎょっとして見るその線が続く先は、『アウターセクター』の奥だ。

 走った先に、やはりジャンボジョッシュがいない。この緑の線が、ジバニウムがこすれた跡だと合点がいく。…、…。あの時見た目にはわからなかったが、負傷していたのだろう。リフトから抜け出して、傷ついた体を引きずって、そして…、…。線が途切れた奈落をのぞき込む。

 …居たたまれない気持ちになりつつ、そういえば、メディカルセクターの手術室らしきあの場にも同じ跡があったなと思い返した。…彼が無事に治療を受けられていたらいいが…。

 何もかも飲み込んで引きずり込むような暗闇から、頭を振り視線を上げて前を向いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 気を取り直して、私は通信棟の一室にいた。殴られて気絶した部屋の反対側…そこに、未だ開かれていない扉があったのだ。

 カードをかざして開かれた扉の先には、意味深なホワイトボードと、報告書が置かれていた。

 

 正面のホワイトボードには『Type 5』と題がついている。バンバンとフィドルの輪郭が描かれた絵が並べられ、それぞれ共通した2カ所の丸印から線が引っ張られて注釈が付けられていた。

 1つ目は、首、喉のあたり。『Case3』の文字とスピーカーのような音声マーク。

 2つ目は、腹部中央、あるいはその少し下部。『Case6』の文字とハートのマーク。

 

 …。今までの報告書で読んだのは、「Case6通称悪魔」バンバンと、「Case12,通称子猿」のフィドルズの『Type2』の情報だ。目の前のホワイトボードは、それとは異なる実験タイプを表している様子。『Type5』の実験の3番目に喉に関する実験を、6番目に心臓?精神?の実験を行った…という事か?そういやフィドルの背に、ちょうど印の2カ所を直線で結んだような縫い目があったな、と思い出す。

 情報が少なく憶測の域を出ない。推理とは呼べない思案を一度止め、左手の机に向かう。

 ホワイトボードも気になるが、ひとまず置かれた3つの書類に目を通すことにした。

 

 1枚目。『親愛なるウスマンへ』書かれた手紙を読む。

 

 …、…。ウスマン・アダムへ向けたおそらく「上」からの要望の手紙だ。

 ドクターは実験ケース数を10から6に減らす決定に対して異議を申し立てていたようだが、それをこの手紙で却下された様子。高額の費用とそれが徐々に浪費されている現状を理由に、作品に命を吹き込むリソースを割く事ができないと文章は告げている。手紙の主らはすでにひと月に10件の見栄えする成功例を出すことを顧客に話しているが、その約束が果たされていないために顧客はざわついており、今相手方に裁判で訴えられると手紙の主としても非常に不味い。

 ジバニウムは木になるように手に入るわけではなく南部の協力者が得られるのにも限りがある。聞きたかったニュースではないかもしれないが、今あるものを慎重に使って来るべき『友達紹介デー』に向けて、見栄えのする成功例があるか確認してほしい―――。

 

 …、…。成果の上がらない実験に、経営側も焦っていたようだ。

 

 

 

 2枚目。『Hey』と気さくな挨拶から始まる文章。

 

 …、…。同僚からの手紙か?

 1枚目の手紙の内容を知ったのだろう。『私も同じように動揺している』と書かれている。ただ、続く言葉は問題の解決に向けた、前向きな意見だ。

 ①いま進めている6つのプロジェクトが進めば状況は好転する。

 ②地下室にある小さな秘密を秘密のままにしたいなら、状況を元に戻さねばならない。

 ③ゾルフィウスは誰も調査に行かなければ眠り続ける。

と現状を整理した後、個人の意見が述べられている。

 ・落とすべきは「クモ」「カエル」「カタツムリ」

 ・「クモ」は自分でもぞっとするから、子どもだとよりそうだろうため。

 ・「カエル」の唯一の目的は警官になることだが、逮捕すべき悪人が居なければ必要はないため。

 ・「カタツムリ」は緑のやつと迷ったが、活発な子どもには受けが悪いだろうため。(個人的には「カタツムリ」が好きだが)

 『ただ、忘れられないようにと絵に描いてほしいと申し出があった』と書かれた手紙の最後は、『元気だして :- )  』と顔文字で締められていた。

 

 …、…。手紙の内容を読んで、改めてホワイトボードを見やる。

 縦に3分割された真ん中のエリアには、『Round56』の文字。そしてジャンボジョッシュとスロウセリーヌのイラストが貼られている。左側のエリアにはバツ印。ナブナブ、シェリフトードスターのイラスト。右側のエリアにはチェックマークと、スティンガーフリン、キャプテンフィドル、バンバリーナ、バンバン、オピラバードのイラスト。

 …『友達紹介デー』に発表する6つの席に誰を選ぶのか、決定がなされたのだと合点がいく。イラストの9体から、ナブナブとシェリフトードスターが落選、そしてジャンボジョッシュとスロウセリーヌが56回目の接戦、だったようだ。

 

 3枚目。『This is bad』の書き出しの…これは…手紙か?

 …、…。

 どうやらボールピットの裏はいつ崩壊してもおかしくない状況だったようだ。今いる園児をギリギリ何とか支えているが、明日は倍の人数が来る、と焦りが文章に滲んでいる。

 そうなったときどうなるかの予想と、後悔を綴る文章が続く。

 『可能な限り逃げなくては』

 『私たちは長い間悪い人の手助けをしてしまった。そうなったときここにまだ居たら、私たち2人もおしまいだ。怒れる両親らの手によって、そうでなければ上司の手によって』

 『私たちが望んで深淵へ身を投げない限りは、誰もこれに注目しない』

 『このような場所は存在すべきでない、私たちが見たものは存在してはならない。この大惨事で出た犠牲は…ここを閉鎖するという、より大きな利益のための礎となる』

 『私は明日の予定を立てておくよ。さあ、君は荷物をまとめるだけだ』

 

 …、…。書き手は間違いなく、ウスマン・アダムドクター、その人だ。ボールピット、つまりあの大穴の空いた部屋の大崩落を予見した彼は、それを阻止するのではなく、混乱時にもう一人と逃げる算段を立てた。…その際起こる犠牲が、この場所を閉鎖しうる大きな言い分となると信じて。

 そうまでしなくては、この場所は終わらないと、そう思ったのだろうか。そこまで追い詰められた状況だったの、だろうか。

 

 …、…。すると航空券は彼が海外に逃げるためのものだったのだな、と思い至る。ついでに、一緒に逃げようとしていたもう一人の存在も気になるところだ。

 

 …、…子どもの手紙に書かれていた『メイソンさん』が怪しい。そうなると自然、イニシャルの合う『W.M』ドクターも怪しく…そうか、ウスマン・アダム氏の記憶を受け継いだCase6が面会を求める相手なのだから、親しい間柄であるのが自然だ。俄然可能性が高くなってきた。

 そう、『メイソンさんは』『こっちを見たけどいっちゃった』…。

 …まて、ボールピットが崩落したとき、『ひとりぼっち』で残った子ども!メイソン氏が子どもを見かけても立ち去ったのは、おそらく一刻も早く逃げるためだ。…一瞬事態の収拾のために穴の先へ行ったとも考えたが、それならば、ボールピット閉鎖の板は外側から打ち付けられてはいないだろう。そっちの可能性は無くはないが低いと見ておく。

 出口はすぐそこのはずで、オピラが居なければメイソン氏はすでに逃げ去った可能性も高いが、航空券が置かれたままのウスマン・アダム氏と、書き手の子どもはこの施設のどこかに移動した可能性が高い。…ん?母親への手紙に『クレア』ってのがいたな。そのクレアが『ひとりぼっち』云々の書き手でオピラバードと一緒にいて、それを見た『好きになってもらうチャンス!』の子が後から合流した…のか?てっきり同じ人物が書いていると思い込んでいたが、母親への手紙と『ひとりぼっち』の紙の筆跡は違うのでありえなくはない。

 …、…子ども関連の出来事と時系列はちょっと定かではない。ともかく重要人物「ウスマン・アダム」と「W.メイソン」の名は覚えておこう。また、Wで始まる人物名に気を留めておくべきだ。

 

 3枚の紙をリュックにしまい、部屋の外へ出る。

 

 休憩室に寄って、カトラリーを戻そう…かと思ったが、フィドルの一件を考えるに道具は有るほうが好ましい。もう少し借りておくことにする。壁の緊急ボタンが点灯しているのを横目で見つつ、何かに使えるかもしれないコーヒーカップも拝借しておく。

 オフィスの壁に書かれた職員名をよく見て、ついでに記憶。

 『Drew』『“W”everly』『 HH』『Joon』『Rachel』『Maysam』『Shayver』『Rahul』…。

 

 

 私は再び探索に戻った。

 

 




P1:転んだらとりあえず地面もよく見ておくタイプ。

カラフルな6体:意識無し。

シアンの:絵と指先をちゃんと見た。
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