薄暗い空の下に廃都市が広がる。かつての栄華は既になく、今は幾多の争いの形跡が残るだけ。
爆発が静寂を打ち破り、ドローンの羽音と銃声が鳴り始めると同時にオートマトン達が地をかけ、その後ろを対汚染装備を纏った兵士達が続くのを私はビルの上から見下ろしていた。
廃倉庫のシャッターが開き、真新しい戦車とドローンにオートマトンに加えて複数のパワードスーツが姿を現した。
『アライアンスの連中め、随分とめざとい事だ……この場所を見つけ当てるとは。各員迎撃しろ』
複数ポイントで交戦が開始、目の前の廃倉庫の中身が完全に出撃しきったのを確認するとプラズマキャノンを構え、戦車へ向けて発射。戦車こそ撃破できなかったが爆風でオートマトンやドローンが吹き飛び、パワードスーツが転倒する。
反撃の砲撃で吹き飛ぶビルの屋上から跳躍、第二射で転倒したパワードスーツを撃破し、放たれた戦車砲を空中で回避、廃ビルの壁を蹴って加速して戦車に接近、護衛のない戦車はいいカモだ。
両足のグラビティコントローラーを最大出力にし、踏み付けで戦車を覆うバリアごと踏みつぶし圧壊させ、爆発の前に退避。
次の瞬間、爆発と同時にレールガンの弾体が飛来、それを魔力シールドで受け流す様に防ぎながら新たな敵を認識。
識別名「MCMS-ライトニング」、両手足にアーマーを装備した機動性に優れた装備の魔法少女だ。
見たところブレードにマシンガン、そして今放ったレールガンが武装の様だが……術の方はどうかわからない。
様子見に魔術杖を抜き、サンダーボルトを直線に放つ。
杖の先端から電撃が走り、文字通り雷の矢が放たれるが難なく回避され、レールガンの銃口から放たれる銃弾を予測し、こちらも前へと動く。
光と銃声、共に背後の地面が砕け、こちらもプラズマキャノンを撃ち返すがライトニングは即座に飛行、上昇して回避、爆風の破壊圏内から逃れていた。
ビルを盾にしてこちらも上昇、さすがに目視できない遮蔽物越しに目標を撃ち抜く自身はないらしい、そしてビルの屋上に出た時、既に相手はそこに居て、レールガンをこちらに向けている、想定済みだ。
角度を付けたシールドで弾丸を滑らせて防御、そのままチャージしていたプラズマキャノンの引き金を引く。
青白い光の塊が銃口から飛び出し、スローモーションでライトニングへ向かっていく、互いに研ぎ澄まされた感覚でそれを認識している。
「舐めるなっ傭兵風情がっ!」
レールガンを手放して、両手でフィールドに包まれたプラズマの塊をバリアによって包み込んで掴み取り、爆発を止めながらこちらに投げ返してくる。
さすがにこれは予想外だ、私はプラズマキャノンをまっすぐ光弾に投げつけて命中・起爆させ。シールドで爆風を防御しつつ距離を取る。
だが随分と勇敢な奴だ、引き撃ちさせまいと同じようにシールドで爆風を防ぎながらブレードを手にライトニングはこちらに距離を詰めてくる。
これだ、この駆け引きこそが、生きる為の意志を与えてくれる!
逆手でナイフを引き抜き、ブレードの刃と交差させて受け流し、体当たりで相手の姿勢を崩し、蹴りを加え、追撃の為に杖を振るう。
だがそれよりも早くマシンガンから放たれた銃弾の雨が迫る、バリアコーティングのおかげでこの程度の威力であれば致命傷にはならない、が空中では踏ん張る事もできず、衝撃で体勢を崩すのはこちらもだった。
楽しい、という訳ではない……向こうだってそうだ、必死だ。戦場の魔法少女なんて、他人を殺してでも生き残る事を選んだロクデナシかそれしか生きる術がない者の仕事だ。
治安維持や配達だって選択肢の一つだ、なのに態々殺し殺されの場に出てくるなど……狂っている。
いや狂っているのは世界か、この汚染され荒れ果てた大地で、飢えと寒さに死んでいく者や、奪い奪われる者、そして子供でさえ必要であれば戦う……だがそんな事は関係ない。
全力でぶつかり合い、今この瞬間だけは未来も、過去も投げ捨てて、ただ全力で自分の存在を実感できる。
「野良犬……いや、何にでも噛みつく狂犬が。お前はここで殺しておく方が世の為みたいだ」
「死の商人の狗がよく吠えるよ、お前の飼い主がどれだけ火種をばら撒いてると思ってる」
「はっ!お前らアライアンスやユニオンの連中と違って富を持てない弱者の為にやってる事だ」
「よく言う、反体制勢力や賊にまで見境なく売りつけて、最後に徳をするのは売り手たるMCMSだけだね」
アライアンスがこの街の制圧に乗り出したのはMCMSの新たな工場が設営されつつあるという情報からだ、あまり詳しくは知らないが、まあ反体制勢力などに流してアライアンスの力を削ぐには良い立地らしい。
まだ初期段階であった為にMCMS側も少数の先遣隊だけであったのは行幸だ、これなら私達だけでどうにか出来る。
アライアンスが築く秩序を守る為、いや……私的な望みの為にも叩き潰させて貰おう。
「では犬同士、仲良く闘犬とでもしゃれ込もうか!」
「ほざくか!」
杖から再びサンダーボルトが放たれ、それがマシンガンをかすめて焼く、これで相手は射撃手段を失った筈だ、もはや使い物にならない武器はデッドウェイトでしかない、それを手放してブレード一本、手数ではこちらの方が有利。
だが突然にライトニングの姿が搔き消える様に動く、高速で移動している、即座に真下に急降下すれば頭上をブレードの薙ぎ払いが通り過ぎ、そのまま再び離れていく。
フォームチェンジ、つまりはエネルギー配分の切り替えを行って高速機動モードになったという訳か。
いくら感覚を強化していても動きが追い付かなければ意味がない、それ以上に早く動けば潰せる。
上下左右前後、空中を不規則に回転移動しながらライトニングの攻撃を避けながら分析する。
大したタフネスに、力量もある、これだけの高速移動は感覚にも肉体にも負荷がかかるというのに正確な動きでこちらを追い詰めてくれる。
それでいて向こうはまだこれで全力ではない!だが勝たなければならない、私が生き残るにはそれ以外の選択肢はない。
杖に力を込めて、イメージするのは雷の嵐「サンダーボルトストーム」私を中心に稲妻の嵐が起きる、流石に消耗が大きい、数秒維持するだけでごっそりとエネルギーが消費されていくがそれでも効果はてきめんだ。
バチバチとライトニングのバリアコーティングの表面でスパークが弾け、着実にダメージを与え、そしてアーマーが負荷限界を超えて爆発を起こし、戦闘不能となったライトニングが墜落する。
死んではなさそうだ、トドメを刺すべきではあるんだが、無暗に近づいて捨て身で自爆でもされたらそれこそ面倒だ。
それに優先すべきは制圧であり、殲滅ではない。
補給の為に戻ろうとすると反対側で信号弾が飛ぶ、どうやら向こうは撤退する様だ。
追いかけるにもあくまで今回は制圧の為に来ているのだから、優先して追う事もないだろう。
倒れたオートマトンを回収し、トレーラーへと積み込みながら敵の去っていく方を見る。
生きていればまた戦う事になる、次も勝てるだろうか。
そんな事を考えながら仕事を終えた。