力ってのは、あるからといって使いこなせるとは限らない。
それが後天的なモノなら尚更ってもので、時間をかけて習熟訓練を行わなければならない。
戦った経験も、訓練もしたこともない奴が魔法少女システムを手にしてもロクに扱えず、まともに動けないのが関の山だ。
実際、経験の積めない弱小勢力の連中は一々足を止めて撃つし、シールドを構えればそのまま棒立ちで動けなくなり、飛行もドローン未満の的ばかり、殺さずに無力化するのも容易い有様だ。
アタシは魔法少女になる前から戦場を駆けずり回ってたから、多少は動けていたものの成り立ての頃はひどいものだった。
急加速・急降下で地面や障害物に衝突する事は日常茶飯事、おまけに力加減を間違えて武器を壊す事だって数えきれない程あった。
けれど死ななかった、培った経験と知識がアタシを生かした。
プラズマの爆風は脅威だが発射されたプラズマ弾は意外と遅い、レールガンは遮蔽物を簡単に貫通するが相手が壁の向こうを見通せる訳じゃない、機銃も多少であればシールド無しでも耐えれる。
バリアコーティングを破るにはバリアコーティングを纏わせた刃が良く通る、相手が強くても武器を壊せば攻撃手段を無くして退かせる事ができる。
対魔法少女、対戦車、対人、様々な想定の上で武器を選び、そこに才能があるのならば魔術を加える。
魔術ってのは厄介だ、何故なら武器と違ってパッと見で何が使えるのかわからないからだ。
ファイアボール、サンダーボルトといったよく見かける簡単な攻撃魔術からステルスや幻像といった他装備の代替、空間跳躍の様に魔術でしか出来ない事もある。
「さて前置きが長くなったな、アタシがお前を担当する監督官だ。ここにいるという事は少なくとも学力、常識、性格テストには受かった様だな。お前は加えてアライアンス魔法少女管理システム「ORDER」戦闘資格試験に受ける。間違いないな?」
目の前には試験用の標準型モデル「ロングソード」を装備した新人が居た、戦闘資格試験で使用するのは模擬戦用のライフル・シールド・ブレードの3つの武器、戦場で最も標準的な装備であるこれらでどの程度戦えるかを測る。
「この試験で規定値以上の点数を取れば晴れて、お前はアライアンス所属組織の依頼によって戦場に出る資格を得る……まあ落ちても運送・建築の資格は手に入るし再試験を受ける事もできる。アタシとしてはまあ戦場になんて出ずに警備に行った方が遥かにオススメするがね。人を殺さずに済むからな」
少なくとも目の前の奴は、今の所は異常者ではない。人を殺したくて仕方ない、けど罪になるから魔法少女になって仕事で殺す様な合法的な手段を取る様な奴特有の空気は纏ってない。
かといって、他人を殺す事を躊躇う様な奴でもなさそうだ。少なくとも何か覚悟を決めるような出来事があったのだろう。だが詮索は無用だ、ルールを守り……アライアンスの為に働く、そしていずれ魔法少女以外の道を見出してくれるならば。
魔法少女など選択肢の無かった者の仕事だ、この世界にありふれた弱者がやむを得ず戦う、そんな仕事だ。そして「ORDER」はアライアンス勢力内でそれらを管理、教育し、道を、可能性を広げる為のモノ。
「戦う以外にだって生きる道はある、だがそれでも戦う事を選ぶのなら、過酷な道だぞ。死ぬかもしれない、もっとひどい目に合うかもしれない、失うモノだって多くある……お前はどうだ?」
『これ以上失うモノはない』
「ならば、お前がその先に何かを得られる事を祈ってやるさ……まあこの試験を超えられれば、だがな」
全てを失った者か、その身を捨ててこそ得られるモノがあるというが……ならばアタシはアタシの役目を果たすとしよう。
アタシもまた同じ装備、ロングソードモデルに模擬戦用のライフル・ブレード・シールドだ。
この試験では全ての武器の破壊、あるいは3発以上の攻撃判定の命中が合格の条件だ。
加えてアタシの方のロングソードは各性能を相手より3割下げているが、これでも10人やれば9人を不合格にしている。この程度もクリアできない様なら戦場に行かせない方が親切だからだ。
「さあ、試験開始と行こう。来な、持たざる者よ」
試験開始と同時に新人は盾を突き出し、最大速度で距離を詰めてくる。なるほど相手が何かをするよりも早く叩き潰す、いい作戦だ。でも甘い、やるならシールドを投げるべきだったな。アタシはシールドで「突き」を繰り出す。魔法少女のパワーとバリアコーティングを加えればシールドも「刃」となる。
シールド同士が衝突し、こちらのシールドが突き破り撃ち勝つ。が不利と見るや即座にこいつはシールドを捨ててブレードでの突きに切り替えた。思い切りのいい奴はいい、咄嗟の判断が出来る奴は生き残れる。
シールドを横薙ぎに振るってそれを迎撃してタックルで突き飛ばしてやる。が接触ダメージ判定を1つ取られてしまった。まあ……勇気に1点というところだな。
当然ながらこの程度で立て直せない奴でもない。間違いなく戦闘経験がある、アタシはあくまで戦闘試験の担当だから経歴までは見ていないが……アライアンス勢力外から来て登録しに来たパターンか?
まあいい、どちらにしろ遠慮はしない。距離が開き、遮蔽物はなく、シールドは今しがた失った、ライフルで引き撃ちを続ければ判定で奴は落ちるだろう。銃口を向けると既に奴も同じくライフルを構えていた。引き金は同時に引かれ、弾丸は共に標的を捉えずに外れた。
獣のようなステップで地を跳ね、這うように身をかがめ、地を滑り回避する姿は蛇か?
強化人間だな、こいつは。
先天的・後天的までは判別できないが、何かしらの処置によって感覚を強化している為に最初からある程度動けている、のかもしれない。
まあ、これもよくある事だ。強化人間の相手も珍しい事じゃない……が、それよりも目の前の仕事に集中しなければ。
あまりに正確な射撃にシールドが半分弾け飛ぶ、模擬戦仕様の弾でも威力はあるのだから当然の結果だ。だがまだ使える、ピンポイントで射線にシールドを構えながら距離を保ち、射撃戦を続ける優位はこちらにある。
すでに相手もこちらの弾丸を数発受けてダメージ判定が蓄積してる、このままいけば終わりだ。……しかし油断する事は出来ない、追い詰められた時こそ、完全に倒し切るまでは。
何より、今の一撃でこちらは弾切れだ、それは向こうも同じ、だから今この瞬間にリロードをと手を伸ばした瞬間、奴はブレードを迷わずに投擲し、私のライフルを破壊した。
ダメージ判定が2点目、そして一瞬、その一瞬で距離を詰めてライフルによる殴打。これで3点、奴は自身の手で勝利を得た。
どんなに追い詰められても諦めずに、たった一瞬の勝機を掴める。
「見事だよ、おめでとう……これで晴れて試験は合格だよ。今この時よりお前はアライアンスの魔法少女だ」
果たしてこいつはどんな道を選ぶのだろう、何を望み、何を手にするだろう。
だが願わくば、それが可能性を広げるものである事を私は祈った。
「生き残れよ、新人。死んでしまえば何にもならない」