朝5時、私の朝は一杯のコーヒーから始まる。配給品がドカドカ来るから隙あらば消費していかないとどんどん場所を取られるからだ。
適当に身支度をすませば6時までに事務所のボードに表示された今日の優先配達品を確認する、まあそんな大したものはないらしく、精々定期契約をしてる客への日用品の配達を8時までに済ませるぐらいか。
在庫の方は先日の内に届けられているので問題もなし、ドローンがピッキングしてきた品物が詰め込まれたコンテナを手にしていざ飛翔。空を飛べば、地上の混雑を無視して最短で街のあちこちに配達ができるドローン配達と違って電波障害なんかで事故る心配も少ない。
「おはようございます、レイディアント・サービスです」
「いつも朝早くに悪いねぇ」
定期契約をしている者も様々、老人や戦傷者のような体の不自由な人や、それなりの立場で忙しくて自分の時間を作れない人、そして孤児院や病院などへ医療物資を「すぐさま」「確実に」送り届ける必要のある相手。
それら全てに対応できるのが配達魔法少女である。
もちろん魔法少女以外にも通常の配送・配達をこなす職員もいる、がやはり「レイディアント・サービス」を利用するのはこの点に重きを置く者が多い。
大体一つの事務所・営業所に3~4人の魔法少女が所属しており、時間外の緊急配達も対応可、都市の住人であればまあ大体そんなに無理のない値段で利用する事ができる。
そんなこんなで配達を終えると私達が向かうのは企業の教習所、アライアンス「ORDER」に登録された魔法少女としての活動資格の為に、加えて将来の為に企業が開催する資格訓練に参加する。
魔法少女はその名の通り子供のうちしか現役で居られない、まあある程度例外はあるけれどそこまでして続けるものではなく……自分で金を稼ぎ、自分の未来の為に学ぶ為のシステムとしてアライアンスは「再生社会福祉」としてORDERシステムを作り上げた。
街の外、アライアンスの勢力圏外、ユニオンは別としてそれはもうひどいものだ。
長く続いた戦乱により資源は枯れ、汚染され、秩序は乱れ、電子ネットワークすらも殆ど失われている。
一度だけ「研修」という名目で護衛付きで街の外に出た事があった、見慣れた灰色の空に加えて、燃え尽きた都市の残骸に降り積もる汚染された雪と塵、凍り付いて腐る事なく放置された兵士の遺体、行き場もなく、略奪によって滅んだ集落、飢えと寒さに死んだ難民キャンプ。
私達はアライアンスの庇護下で恵まれた暮らしをしている、だがそうでない者達も数えきれない程に存在する。
だから今の恵まれた環境を守るべく、あるいは広げるべく、秩序を回復する為にアライアンスに貢献する。それが今の私の思想だ。
そして資格訓練が終われば午後の仕事が始まる、私に家族は居ないから自分の生きる分だけで済むのは気楽だ、他の配達魔法少女の中には兄弟姉妹を養うために日夜働く者も少なくない。
中にはそれこそ、稼ぎが足りないがあまりに戦場に出る事を考える者もいるというが、大体は試験に受からないか、受かっても実戦を経験して深い傷を負って帰って来る……だが帰ってこない者もいる。
戦場とはそういうものだと所長は言った、例えどんなに強い力を持っていても死ぬ時は死ぬ。
好んでいくべき場所ではない、そこでしか生きられない者は不幸であると。
私には戦うというのはどういう事かわからない、わかりたいとは思わない。
だがもしも戦わなければいけない時が来てしまったのならば。
病院へ医療品を運び、待合室にあふれる怪我人を見ると時々そんな不安に襲われる事もある。
「よう、暇か?」
「仕事は終わりましたが、もう疲れたので今日は早く寝たい気分です」
「つれないな、新人にこっぴどくやられたアタシを慰めると思ってさ~」
帰り際、試験官をしてる先輩の魔法少女に偶然出くわして絡まれる、アライアンスの魔法少女はそれなりに横のつながりを求められる。家族のいない孤児は特にそれが推奨されている、身元の保証人、あるいはいざという時の連絡網はいくらあってもいいという考えからだ。
彼女はORDERの戦闘資格テストを担当している者のうちの一人、この街ではそれなりに腕利きの魔法少女だ、治安維持隊を除けばだけれど。
「また新しい「傭兵」が生まれたんですか」
「そうさ、強化人間っぽい奴だった。生き残れば「竜」になるタイプだ」
「生き残ればですね、まああなたを打ち破る程ならそう簡単には死なないのではないでしょうか」
彼女はかつて第一世代、初期の魔法少女システムを纏い戦場を駆けていたという。この街でも腕利きとはいえ……実際の戦場では大した事がないと言った。
「私達は所詮ありふれた……よくいる魔法少女さ、でも例外はいる。そういう奴が竜になる」
「ファーヴニルモデルの資格者ですか、よく言ってたアライアンス最強の魔法少女モデル」
私達が普段使うのはエンジェルモデル、あるいはロングソードモデルと呼ばれる量産型タイプ、特に私達配達魔法少女の使うものは戦闘機能は大きくデチューンされている。がファーヴニルモデルは違う。
「因子移植を行い、専用のコアを製造する。もちろんそこまで行くのに相当に信用と実績が必要だし、最低でも2社以上の推薦がないといけない。けれどそこまで行けばもはや止められるのはユニオンの連中ぐらいだ、向かうところ敵無し、それこそ『人を超え、竜となる』最強の戦士の誕生だ。アタシも現役時代にそこまで行きたかったなぁ」
「私は戦場すら見た事がないので知らないのですが……そこまでして、改造手術までして戦いたいものなのですか?」
「まぁ~そうだなぁ……守りたいモノを守れる、あるいは叶えたい願い……力さえあればほんの少しだけでも近づける、そんな感じだ」
やはり、戦場なんてものは私にはわからない世界だ。
「まあ力さえあればいざって時に自分の身を守るだけでも出来るからな、そして何よりファーヴニルの資格者になればアライアンス上層部の覚えも良くなって就職に有利だし、引退後に働く必要がないぐらいの年金が出る」
そんなものだろうか、それが命を懸けるに値するだけの価値が、他者から命を奪うだけの価値があるのだろうか、恵まれた環境に居る私にはそれを問う権利があるのだろうか。
少しまた考える事が増えた。