「ワァーアアー!!」
薬物中毒者か、病人か、それとも不運な犠牲者、なにかしらの断末魔の叫びが良く響く。
ここではよくあることだ、汚染された地上から逃げて来た……あるいは追放されてきた者達の吹き溜まり。
「ウェー…なんでこんなとこに来なきゃいけねぇんすか先輩」
「こんなとこに閉じこもってる奴に用がある」
アランアンスにもユニオンにも属さない企業郡の作った地下都市、来るものは拒まず・去る者は追わずがモットーなせいで治安は最悪、とはいえ地上の寒さと汚染で死ぬよりは遥かにマシといったこの場所にはそれなりの数の技術者、あるいは魔術師が住んでいる。
特に腕こそ確かだが……人格面でユニオンにもアライアンスにも拒否された様な奴らがここには住んでいる。
「バーッ……アバ……アバー…アハー…」
明らかに快楽で脳が壊れた廃人が笑いながら息絶えようとしていた、それだけならまあ現世に絶望した者の末路としてはよくあることで済まされるが、普通でないのはその容姿……まるで別人のモノの顔や手足を継接ぎして作ったかのような異常な肉体。
これも技術者連中の戯れで実験体になった哀れな犠牲者の一つだ。
「トカゲ人間、両面人間、空飛ぶ生首、魑魅魍魎ばかりじゃないないすか!なんすかこの街は!?」
「技術の発展の為には犠牲がつきものだ……犠牲の上にこそ反映と進化、そして良き未来があるだったかな……ここは実験場なんだよ、アイツみたいなイカれた奴らのな」
「アイツってのがその用のある人なんすか、というかその用ってのはまさか……」
「お前のバカみたいな制御の効かない能力を治すんだよ」
「怖いっす、もっとマシな医者に診てもらたいっす」
そう今日、こんなクソな所に来たのはバカの後輩がどこで拾って来たのか「メフィストフェレスモデル」を使って魔法少女になり、M3インターフェイスに浸食されたのを治す為だ。
もしも放っておけばいずれM3インターフェイスの負担で脳を焼かれて廃人になる、その前に摘出できるだけの技量のある医者に見せる必要があるが……あいにくアライアンスにもユニオンにも所属してない者にそれだけの金が払える余裕があるか?ましてやそういった医者に紹介して貰えるだけの人脈があるか?といえばNOだ。
だが幸いにして……私はこれをどうにかできるロクデナシを知っていた。掛け値なしのクズだ。
ジャパニーズスタイルのトリイとやら、そして人型に切られた術札が貼られた、妙な装飾、そして目のシンボルマーク、ここだ。
「失礼、ナユタ・マナミの住居で間違いないな?リエルだ、少し診てもらいたい患者がいる」
「ようこそ、邪眼の館へ。お久しぶりですねリエルさん……お元気でしたか?」
「おかげさまで、それで……さっそくだが誰かさんがばら撒いたメフィストフェレスモデルの処置をして欲しい。このバカだ、まあまあ使いこなせてるが負担に耐え切れず遠からず焼けるだろう」
薬品と、不快感のする線香、そして隠し切れない血の匂い、相も変わらず最悪だが……こいつを頼るほかない。
「へぇ!メフィストフェレスモデル使ったんですねあなた!名前は?」
「サレスですッス、先輩と一緒にデッドマンズで働いてる傭兵っす!ちょっと仕事でしくじって普段使いのエンジェルモデルを壊しちまって……奪ったモデルがなんか良かったッスけどなんか先輩が言うには危ないってことで……まあよろしくッス!」
「メフィストフェレスモデル、使っててどうだった?それ開発して設計図をばら撒いたのは私なんだけれど……」
「反応速度はすごい良かったっす!でも私的にはあんまりでしたっすね……こう無駄に情報が一杯入って来て気持ち悪かったっす」
「うーん……やっぱだめでしたか……いいでしょう、M3インターフェイスのナノマシン除去は承りましょう」
ナノマシンという言葉を聞いてバカは驚いた様な顔をする、まあ妥当な反応だ。
「だから言っただろう、得体のしれないモノを使うじゃないとな。M3インターフェイスはナノマシンを体内に注入、神経に直結して反応速度を上げる旧世代技術だ……バカみたいに犠牲を出して、もっとマシな奴が出て廃れた。だから今はこいつを良く知ってる奴は数える程しかいない……」
「そう、今は亡きリエルの先生、私の恩師でもある人……あの人もまた」
「くだらない御託はいい、とっととそいつの体からナノマシンを退けて貰う。やらないとは言えない筈だ、お前には」
くだらない、くだらない感傷だ。もう終わった事を蒸し返されるのは腹が立つ。
「先輩なんか今日は機嫌悪いっすね」
「リエルさんにとっては……そうですね、触れられたくない傷というものもありますからね……私が迂闊でした」
そうだ、こいつとの糞みたいな縁も……私が今生きている理由も思えばM3インターフェイスから始まった。だがこんなものは無い方がいい、命を削ってまで力を手に入れて……代償として死ぬ。
弱者が強者に、どうしようもない現実に立ち向かう為に何かを犠牲にする、よくある話だ。
だがそれは別の強者が弱者を他人の力を削ぐ為の道具として使っているにすぎない、使い捨ての弾丸。
このナユタ・マナミは……世界を良くしたいと、弱者に戦う為の力を与えたいという、だがその為には犠牲が必要だと考えている。自分の、他人の痛みを知った時こそ、人は他人に良くしようと思える筈だと信じて疑っていない。
狂ってるんだ、信じていた者達を失って、残されて、使命だけを背負って、組織から追放されて。
殺してやれるならば、それが救いになるのだろうが……あいにく私にはこいつを殺せない、生かしておいた方が利益があるからだ。
なんならばデッドマンズ・カンパニーも、こいつからの技術供与で生かされている様なものだ。
街中に落ちていた継接ぎの廃人、あれは文字通り死体を継接ぎして作った「人造人間」の出来損ないの一つだ、おそらく自我確立に失敗して苦痛から逃れる為に薬物に逃げた末路だ。
そして今処置を受けているサレス、あいつもまた死体から生まれた人造人間の一人。
刷り込みで多少の知識と自我を植え付けられ、人間の様に振舞えるまで改造された兵士。
デッドマンズ・カンパニーは文字通り死者を使って兵士を作り運用する、実に「エコ」な企業だろう。
死んでる様に生きている私に相応しい、そんな居場所だ。