・地元で一番大きな町(ただし他所とは比べない
「うわ……あっつ」
バスに揺られながら30分ほど。
シロンタウンのバス亭に到着したので降りると夏の日差しが肌を焼く。
それでもまだ元の世界よりはマシかな、と思えるあたりこの世界は環境に優しいらしい。
見渡せば忙しなく道を行きかう多くの人々、イズミマチタウンとは同じサヤマシティとは思えない人通りの差だ。
まあそうは言ってももっと都会のほう……それこそヒロシマシティのほうまで足を伸ばせばこの数倍以上の人並が見れるのだが。
―――まあ地元とは言え、田舎町なのは否めないよね~。
なんて内心で零しながら元の世界と代わりの無い故郷の現実に苦笑する。
まあそれはともかく、シロンタウンの大きな特徴として『サヤマ駅』がある。
文字通り『サヤマシティ』で最も大きな駅であり、新幹線なども通っているので他の地区へ出かける時などはここから行くことになる。
そしてその『サヤマ駅』の前の広場を通り、サヤマシティ全体で見ても珍しい三車線の幹線道路を横切ると大きな敷地が広がっており、その中央に建てられてた病院にも似た赤と白のカラーリングが特徴的な建造物が『サヤマシティポケモンセンター』になる。
「ここが……ポケモンセンターかあ」
ポケモンユーザーならば誰だって一度は訪れてみたいある意味ポケモンファンの聖地、ポケモンセンターである。*1
妙な感動を味わったそのままの勢いで敷地に足を踏み入れた瞬間、上着のポケットの中で電子音が鳴る。
「ん?」
気になって取り出してみれば邪神フォン……ならぬアルセウスフォンの画面が点滅している。
ホーム画面の上のほうチュートリアルの文字のところがピカピカと明滅してるのでタップしてみれば。
ポケモンセンターに行ってみよう 1/1
どうやら敷地に足を踏み入れた時点で完了扱いになっていたらしい。
元々チュートリアルを終わらせるために来たのでこれで帰っても良いのだが……。
「どうせなら行ってみようか、ニンフィア」
「フィーア♪」
折角ここまで来たのだ。
建物の中を覗いてみるくらいしてみようか、とニンフィアと共に建物までの道を歩く。
そうして扉を潜ると空調の効いた涼しい風に扇がれて思わず息を吐く。
隣を歩くニンフィアもやはり外は暑かったのかどこか気持ちよさそうだった。
建物の中はゲームで見た通り、受付があって、後ろには回復マシン。
受付の左右の階段を登ると2階に行けるようで、入口の案内によると通信交換施設にバトル施設などもあるそうだ。
とまあ基本的なポケモンセンターの施設が入っているのが中央ロビー。
それから左右にさらに別々の建物が隣接していて、売店エリアと宿泊エリアがあるらしい。
ただし受付に聞いたところ宿泊エリアはトレーナーカード所持者に限定される上に普通に有償らしいが、カプセルホテル程度の値段で一泊できるので他所から来たトレーナーが使うこともあるのだとか。
まあそれを聞けばなるほどと納得する。
サヤマシティには『ポケモンジム』があるのだ。
いつでもどこでも常に開いているゲームじゃないのだから当然ジム側にも挑戦を受け付けることのできる日取りなどがある。
最近は公式ホームページからネット予約などもできるらしいが、ひと昔前まではジムに行って予約を取り、だいたい当日ないし2日以内に挑戦、というのが一般的だったらしい。
そして当日に挑戦できればいいが、それができない時、他所のシティから来たトレーナーが戻る手間を省くために宿泊施設を取るのだが、必ずしも希望した日に空いているとは限らない、或いは高額になってしまう、ないしそもそも宿泊施設がほとんどない、という場合もあったのでポケモン協会からトレーナー支援の一環としてポケモンセンターに宿泊施設を作られたらしい。
まあ地元の『エイヒツジム』に行くくらいなら別に問題無いだろうが、自分だって他のシティのジムを巡る時は利用することになるかもしれないのでしっかりと覚えておく。
取り合えず今日は用はないので隣の売店エリアで自分用とポケモン用のアイスを買って手持ちたちと食べたらそのままポケモンセンターを後にした。
・怪しい呼び込み
センターを出て駅前を通ると時刻が昼に近くなってきたからか先ほどまでよりも人通りが増えていた。
ここから徒歩で10分くらいのところに大型のショッピングセンターがある。
元の世界と同じく5年くらい前にカナメイタウンにも新しくショッピングモールができたせいで最近少し客足が遠のいているらしいが、それでもサヤマシティ全体で見ても有数の巨大な商業施設だ。
「ニンフィア、何食べたい?」
「フィア~?」
やはりポケモンが当たり前にいる世界だけあって、先ほどのポケモンセンターのように『人間用の食べ物』と『ポケモン用の食べ物』というのが当たり前に両方売られているようだった。
とはいえ人間用とポケモン用で材料を分けるというのはそれなりに手間がかかるのも事実だし全部が全部というのはさすがに期待し過ぎだろう。
「ま、行ってみないと分からないよね~」
なんて言いながら歩いていると。
「そこのおにいさ……お姉さん? ちょっと話いいかな?」
行く先に立ち塞がるように黒い服の男が歩いて来る。
男が片手にチラシのようなものを掲げ、こちらへと歩てくるので……そのまま横を通り過ぎる。
「ちょちょちょ、ちょーと待って、ね? お姉さん……いや、やっぱお兄さんか? 少しくらい話聞いてもらえないかな?」
肩でも掴んできたら実力行使かな、と思いながらその声を無視して歩いていたが、こんな往来でそこまでする度胸も無かったか、それともそこまで自分に拘る理由も無かったかすたすたとその場を去っていく自分たちを男はそれ以上呼び止めることはしなかった。
「何だったんだろうね、ニンフィア」
「フィア?」
「怪しかったね~、不審者だよ、不審者」
酷い言いようではあるが全くもって事実なのでどうしようも無い。
先ほどは黒い服と言ったがぶっちゃけスーツだ。しかもサングラスで目元を隠している。
この夏の暑い日にそんな恰好で呼び込みをしている人間は不審者で十分だろう。
それから―――。
「腰の後ろに隠してたけどボール持ってたね~」
上着で隠されていたが腰のホルスターにセットされたモンスターボールが3つほど。
1つくらいならともかく3つとなると最早トレーナーであることは確定だろう。
さらに言えば先ほどのチラシ。
視線を悟られないように一瞬しか見ることはできなかったが……。
「なんかロとかケとかトとか見えた気がする」
ここがポケモンの世界だと言うのならば……いるのだろうか?
ゲーム時代において明確な『敵役』として描かれていた彼らが。
ここはカントー地方ではないはずだが、それでもこんなところにまでいるものだろうか?
―――ロケット団
「なんて考え過ぎな気もするけどね~」
まあ怪しいと言っても夏のスーツ着て呼び込みしてるのが怪しいという理由だけなので、根拠と言えるような根拠も無いのだが。
ぶっちゃけ考え過ぎというこも十分あり得る、というか寧ろそちらの可能性のほうがよほど高い。
「まあいいや、追ってこないみたいだし、ボクちんたちもご飯でも食べに―――」
行こうか、なんてニンフィアに声をかけようとして。
―――何のつもりですか!
そんな怒声にも似た叫び声が聞こえた。
・だからボクちんはキミらの社会的生命をもらうことにするよ
高架下というのは時々意外なほどに人通りが無い場所がある。
サスペンスで夜に人が刺殺されていそうな雰囲気の場所ではあるが、まあ日が出ている内に来るとただの湿っぽい場所でしかない。
そんな場所で1人の少女が3人の男に囲まれていた。
これが元の世界ならば一瞬でもしもしポリスメン? 案件ではあるがこの世界だとその間にさらに1対3で戦うポケモンが差し込まれる。
「ヘイヘイ、いい加減諦めたほうが良いんじゃないかナ?」
「そうだゼ、諦めてオレたちにそのボールを寄越しなYO」
「オレたちが世のために有効活用してやるって言ってんじゃん」
グレッグルにズピカ、それにフシギダネの3匹がニョロゾ1匹を囲んでいる状況。
「誰がアナタたちなんかに!」
強がる少女ではあるが、数の利は覆しがたいようで劣勢だった。
それでも諦める気は無いようでニョロゾに指示を出している。
―――ふむ、何か妙な状況ではあるがこれは……。
「ヨウヨウ、だったらそのボール差し出したくなるまでやろうかナ」
「イェェ! 負けても泣くんじゃねえYO」
「オレたちのチームワーク活かす時じゃん?」
グレッグルが、ズピカが、フシギダネがそれぞれ指示を受けて技を出そうとして。
「ニンフィア、チャームボイス」
「フィア~!」
それら全てを巻き込むようにニンフィアの放つ『声』が3匹をまとめて襲った。
「な、なんだ?!」
「横からいきなり」
「あ、あいつだ!」
こちらに気づいたらしい男たちの1人が自分を指さすと残り2人もこちらを睨みつけてくる。
「てめえ一体―――」
「ニンフィア、もう一発チャームボイス」
「フィア~!!」
どうせ大したこと言わないだろうからと問答を無視して次の指示。
こちらに会話の意思がないことに気づいた男たちが慌てて次の指示を出そうとするが―――もう遅い。
「ケロマツ、投げて」
すでに『ほごしょく』によって男たちの背後で擬態して待機していたケロマツに指示を出せば、ケロマツが
ボールが投げられ、放たれた光が現れたのはストライク。
鎌を振り上げ脅すその姿に男たちが驚き、後ずさる。
さらに―――。
「マンキー、上から叩け!」
密かに周囲の張り巡らせられた金網や取り付けられたパイプを伝って男たちの頭上へ移動していたマンキーがその指示と共に飛び降りながら男たちのポケモンに向かって全力で拳を『うちおとす』。
マンキーの一撃でズピカが吹き飛ばされ『ひんし』へ。追撃に動いたストライクによってフシギダネが『ひんし』に追い込まれると後に残ったのはグレッグルだけで。
一瞬で仲間が倒されたグレッグルの動揺を見逃すほど少女たちは甘くは無かったらしい。
「ニョロゾ! 撃って!」
少女の指示ですでにポジションを取っていたニョロゾが『みずでっぽう』を放ちグレッグルが吹き飛ばされる。
特に指示は無かったがさらっと自分もまた『みずでっぽう』を放ったケロマツによってトドメを刺されたらしいグレッグルもまた『ひんし』へと追い込まれた。
「い、一瞬で全員やられちまったゾ」
「ここは一端撤退するしかないYO」
「おい、あれ見ろ、ケロマツじゃん」
男たちの視線がこちらのケロマツへと向かう。
そんな不躾な視線を不快に思ったのかケロマツが特に指示は出していないが『ほごしょく』を使ってすっと姿を消してしまう。
「ヨウヨウ、兄ちゃん、オレたちにあのケロマツを―――」
「マンキーぶん殴って良いよ」
「ちょちょちょ、待て、躊躇無しにダイレクトアタックはルール違反だYO」
「いやあ、状況は良く分からないけどキミたち人のポケモン奪おうとしたんだろ?」
「別に奪おうとなんて―――」
「嘘です! 私のニョロゾを寄越せと恐喝してきた癖に!」
少女の一喝がトドメとなってぐうの音すら出ないと言った様子の男たちにニコリを笑いかける。
「トレーナーにとってポケモンは自分の命と同じくらい大事な相棒だよ、そんな相棒たちを奪おうとするキミたちはこっちからすれば許しがたい、だから」
ニシシ、と笑って。
「だからボクちんはキミらの社会的生命をもらうことにするよ」
ひぇ、なんて戦慄したように顔を引きつらせる男たち。
「財布と服置いてどっか行けば良いよ……あ、ちゃんと下着も置いてってね?」
「やべえよこいつ、オレらを社会的に完全に抹殺する気だ」
「この明るい時間帯に全裸?! 明日からもう家の外出れねえよ」
「つかさり気に財布もカツアゲされてんだが?」
一歩、足を前に出せば男たちが二歩後ずさる。
「おいおい、人様からポケモン奪おうなんて悪党が何をそんなに怖がってるのかな?」
「ヒェ……」
「お助け……」
「神様……」
さらに一歩、男たちへと近づいて。
「待ってください! いくら何でも、さすがにそれはやりすぎでしょう……確かに許せませんが」
少女が合間に止める入る。
そんな少女の行いに足を止める。
「キミは被害者でしょ? 良いの?」
「それでもこのままではアナタまで犯罪者になってしまいます」
「ふーん」
正直警察……というかジュンサーがやってきてもいくらでも言い含める自信はあるのだが―――。
じろり、と男たちへと視線を向ければびくり、と体を震わせる男たち。
「この子が優しい子で良かったねえ~……ッチ、全裸は勘弁してやるよ」
仕方ないと肩を竦めながら言えば男たちが心底安心しきったようにほっと一息。
「まあそれはそれとしてジュンサーさんに突き出さないとね」
「問題ありません、先ほど通報しておきましたのでもうすぐ来ると思います」
なんて言っているうちにパトカーが急行してきてそのまま男たちを連れて行った。
後に残ったのは自分と、そして少女だけ。
「改めまして、助かりました。ありがとうございます」
「ニシシ、良いよ。どう考えても3人で1人を囲むなんて卑怯だったしね」
多分1対1なら見て見ぬフリをしていただろうな、なんて内心で思っても口には出さない。
そしてそんな自身の内心に気づかないまま少女はぺこり、と一礼し。
「自己紹介させていただきますね。私はイズミ。『エイヒツジム』のジムリーダートクサの娘のイズミです」
―――驚きの事実を告げた。
チンピラ言動正直難しいけどポケモンって割と変な喋り方のやつ多いしまあこれでええやろ、みたいな裁定。
こちらメーカーで作ったイズミちゃんイメージです。
【挿絵表示】
不機嫌そうな表情にですます口調が特徴な可愛い子だよ……。
因みにノットPC。つまりNPC……。