・上がらないレベル
ポケモンを強化するために最も手っ取り早いのは『レベル』を上げることだ。
このレベルというのは基本的に見えない。ゲームじゃないのだからレベル1ならレベル1の定義というものが必要になるわけだが、個体差、種族差、環境の差、その他もろもろの要素からそれを定義することがとても難しいが故に今自分のポケモンが何レベルなのか、というのは
と、思っていた。
だが掲示板の情報によると『レベルチェッカー』なるアプリがあれば図鑑がアップデートされレベルを測れるようになるらしい。
これがあるなしでこれからのポケモンの育成の難易度が大きく増減するので是非とも欲しいのだが、さすがに約100万FCはちょっと気軽に手を出せる額ではない。
まあそれは仕方ないとして……後々絶対に手に入れることを内心で誓いながらも、このレベルチェッカーというアプリの存在は逆説的に今まで曖昧にあるんじゃないか、と感じていたレベルというものの存在を証明してくれている。
故にステータスが全て隠されてはいるものの感覚的にはゲーム時代と同じように戦ってレベルを上げる=強くなるという方式が成り立つわけだ。
ただ一つ問題があるとすれば―――。
「上がらないねえ~」
サークル島から帰ってきてから数日。
ストライクが暴れ回っていた山で野生のポケモンとバトルをしながらレベリングをしていたわけなのだが、どうにも手ごたえが薄いように感じる。
以前にストライクと戦うためにマンキーやケロマツをレベル上げした時にはもっと成長しているような感じがあったのだが、今はどうにもその感じが薄い。
いや、全く無いわけではないのだ……実際ニンフィアに関してはかなり手ごたえがある。
だがケロマツ……いやゲコガシラやマンキー、それにストライクに関してはあまり成長したようには感じられない。
「レベル補正……ついちゃったかなあ」
レベル制のゲームでよくある話だが、戦う相手とのレベル差に応じて獲得経験値にプラス、或いはマイナス補正がつくことがある。
ポケモンにはその手のシステムは無かった……いや、偶にテストケースのように補正がつく作品もあったが、それも上方修正のみで下方修正がつくことは無かった。
ただしここが現実だということを考えると弱い物虐めばかりしていても強くなんかなれない、ということなのかもしれない。
ニンフィアだけレベルが普通に上がったのはレベルを上げていなかったからだろうし、逆に他はこの山の適性レベルを超えてしまったのでもうダメということなのかもしれない。
そもそもの話、『レベル』というものをこの世界の定義に当てはめるならば『戦闘経験によって自らの体をバトルに最適化していくこと』なのだから、善戦するより苦戦したほうが『足りないもの』が分かるのかもしれない。そしてその不足を補おうと体が適応していくのだとすればレベル差で経験が減衰するというよりは『経験となるほどのバトル内容』こそが必要なのかもしれない。
「うーん……じゃあこういうのどうだろう」
少し考えて
両方のポケモンに指示を出すのは無理なので、片方は指示を出す、もう片方は自分で考えることにして、この両方を順番に交代しながらバトルをさせてみればいくらかレベルが上がった……というか強くなった感覚があった。
ただしやはり同じ面子とばかり戦っていてもダメなのかこの方法もすぐに頭打ちとなる。
多分劇的に戦い方を変えてしまうくらいじゃないとこの方法ではもう上がらないだろうと予想し、ならばと次の手を考える。
「けいけんアメとか無いのかな」
と思って少し調べてみるが、あるのはある……が高い。
けいけんアメXSでだいたい5000円、XLなど10万円くらいする。
さらに言うとけいけんアメというのはレベルブーストアイテムらしい。
確かゲームでの説明で『エネルギーのつまったアメ』と書かれていたわけだが、ポケモンに与えるとアメにつまったエネルギーがポケモンに吸収されて一時的にレベルが上がるらしい。
ただし何もしなければエネルギーが吸収されきって上がったレベルが大きく下がりトータルで1上がるか上がらないかくらいになるらしい。
要するにけいけんアメを与えて5レベくらい上がってもほっておくと1レベ上昇まで下がるのだ。
なのでバトルなどの前に与えて訓練すると適応によってエネルギーを効率よく消化し、上がったレベルをある程度維持することができるらしい。
つまりまあレベルを直接あげるというより経験値ブーストのような扱いとなるアイテムなのだそうだ。
結局レベル上げの効率は良くなるが根本的に経験値を獲得できる手段が無ければそれも無駄ということだろう。
あって困ることも無いが……まあ普通に高すぎるのでどのみち今は無理だ。
「と、なるともうあとは方法は2つだよね~」
そんなことを考えながらふと先日手に入れた連絡先について思い出す。
「うーん、聞いてみるのもありかなあ~?」
そんなことを思いながらスマホの連絡帳を開いた。
・エイヒツジム横20メートル先
バスに乗って『オキノミヤタウン』へ向かい、そこから徒歩15分ほど歩けば『カナメイタウン』へとたどり着く。
カナメイタウンは『サヤマシティ』の中でも割と外れにあるのだが大型ショッピングモール*1があるので休日には交通量が増えるし、サヤマシティで唯一の図書館があるので本を目的にやってくる人が偶にいる。
ただ逆に言えばそれ以外が無く、特に住宅団地を建てようとして人が集まらず放棄された廃マンションがいくつかありそのせいで無駄に土地が余っている場所でもある。
元の世界では結局開発されることも無かった土地ではあるが、この世界ではそこにポケモンジムが建てられていた。
『エイヒツジム』はサヤマシティ唯一のポケモンジム。
このヒロシマ地区全体を見渡しても8つしか存在しないリーグ公認のジムの1つだ。
そういう意味で元の世界よりもこの辺りは賑わっていると言えるのだろう。
何せ近くを歩いているだけでそれなりに人の声が聞こえてくる。
多分ジムでバトルするトレーナーたちの声なのだろうと思うが、元の世界ではこの辺りを歩いていても人の声一つない寂しい場所だっただけに何となく嬉しかった。
問題があるとすれば。
「うーん、所持金がやばい」
帰りのバス代を考えるともう本当に余裕がない。
ジュース1本買ったらもう素寒貧かもしれないほどに。
「お小遣い増やす方法、本気で考えないとなあ」
ポケモン世界なのだから道端を歩いていればトレーナーと出くわしてバトルになり賞金をもらえたりしても良いと思うのだが、妙な倫理観というかゲームの時のように見知らぬ相手にいきなりバトルを吹っかけてくる人というのは見たことが無い。
気になったので調べてみたのだが、どうやら各タウンの自治体によってフリーバトルエリアなるものが設置されており、トレーナーはそこに行って好きにバトルしてください、ということなのだとか。
まあよく考えればポケモンバトルをすると普通にフィールドが吹っ飛んだりするわけで、折角金を出して整備した道路をバトルで吹っ飛ばされました、なんてことを起こさないためにもバトルできる場所を制限するのは当然と言えるのかもしれない。
で、『エイヒツジム』はシロン、コミナト、カナメイ、オキノミヤの4つのタウンにおける『フリーバトルエリア』に指定されているらしく、先ほど連絡したイズミに聞くとジムトレーナーやジムチャレンジャー以外にも一般のトレーナーもやってきてバトルしていることも多々あるらしい。
時にはジムトレーナーどころかジムリーダーとて混じってバトルしているらしく、ジム戦を終えてバッジを獲得したトレーナーも偶にやってきてバトルしているというのだから割とレベルの高いトレーナーが多いのだろう。
因みにイズミとは前回の時に連絡先を交換している。
一期一会の出会いかとも思っていたが、昼食後に思ったより意気があって買い物に付き合ってもらったり付き合わされたりしている際にまた今度、ということでスマホの番号とアドレスを登録しておいたのだ。
まあとはいってもまだ友人と言えるほど深い付き合いでもないし、知り合い程度の距離感ではあるのだが。
それでも当たり障りのない範囲での雑談をメールでしているとよくジムの話が出てくるし、本人もトレーナーとして結構な腕なのだろうと推察できるような話もちらほらとある。今日のようにちょっとした質問でも嫌そうにせず答えをくれるし、結構助かっているのもまた事実だった。
「今度何かお礼しといたほうがいいかな?」
多分向こうも助けた恩があるので、という面もあるだろうがそれでも頼りっぱなしというのも悪いだろうし、何がしかお礼をするのが礼儀だろう。
そんなことを考えながら歩いていると『エイヒツジム』が見えてくる。
ジム自体はそれなり程度の大きさの建物なのだが、広いバトルフィールドが隣接しており、そこで多くのトレーナーがバトルしているため敷地だけはかなり広大だった。
「どこから入るのかな?」
敷地は頑丈な壁で覆われている。
多分フィールド自体は野外なのだろうが、だからこそポケモンの技が敷地の外に飛び出さないように必要なんだろうと予想する。
そうして壁に覆われた敷地をぐるっと回っていると。
「カナデ?」
正面からやってきた少女に名を呼ばれる。
まあ遠くからでも特徴的な髪色で誰かは分かっていたので特に驚きもせずに片手をあげて挨拶をする。
「や、イズミ。また会ったね~」
「いやまあ、連絡を受けたので一応様子を見に来たのですが、何をしてるんですか?」
ここジムの裏なんですけど? と半眼で見つめてくるイズミに苦笑して誤魔化す。
「どこから入ればいいのか分からなくて探してたんだよね~」
「はぁ……地図を見ればいいでしょうに。取り合えず案内しますよ」
「ホント? 悪いね~」
嘆息しながら歩いていくイズミの背を追ってしばらく歩くとぐるっと敷地を回って反対側に普通に入口があった。
「ここが入口です。このバトルコートは正確にはジムではなくサヤマシティの敷地なので基本的には立ち入りは自由ですが、管理はジムに任されていますので朝9時から夕方6時までの開放とさせてもらっています。そこは注意してください」
「中にいるのってみんなトレーナーなのかな?」
「そうですね、コート内にいる人は基本全員トレーナーだと思いますのでバトルがしたい場合は声をかければ応じてくれると思います。当然ですが応じてくれない相手に無理矢理挑むような真似はダメです」
「まあそれはね~」
「では私はこれで」
去っていくイズミの背を見送ると早速と入口を抜ければ随分と大きな長方形の広場を4つに区切るようにコートが作られていて、それぞれのコートでトレーナー同士がバトルをしていた。
バトルの様子を見るかぎりでは戦っているのは未進化ポケモンが多いようで、どうやらレベルが違い過ぎてバトルにならないということは無さそうだった。
どうやらバトルをしていないトレーナーは邪魔にならないようにコートの外に出て壁端で観戦しているらしく今も数人のトレーナーが傍らにポケモンを連れてバトルを見ている。
全てのコートが使われている以上すぐにはバトルもできなさそうなので他のトレーナーを真似て端を進みバトルの様子を見る。
4つのバトルコートでそれぞれのトレーナーとポケモンがバトルしているわけだが、野生のポケモンとは違う対人戦ならではの駆け引きのようなものが見えていて中々に見ごたえがある。
正直ここで見ているだけでもトレーナーとして成長できそうではあるが、自分だけ成長したところでポケモンの経験値には全くならない。
しばらくバトルを見ながらさて誰かに声をかけねば、と思っていると壁際にいたトレーナーの1人がこちらにやってくる。
「や、見ない顔だよね。もしかして新人かな?」
まだ20になるかならないかくらいの若いけれど少年と呼ぶにはやや大人びた青年がにこやかに笑みを浮かべ声をかけてくる。
「どうも~。そうだねぇ、ここでならバトルできるって知って初めて来たよ~」
「学生が平日に珍しいね……あ、いや、今だと夏休みかな?」
「そ~そ~。そっちは? 大学とか?」
「いや、僕はトレーナー業一本に絞るつもりで大学には行かなかったんだよね、お陰で後ですごく苦労を……っとそうだ、まだ自己紹介してなかったね。僕はトクサ、キミの名前は?」
「ボクちんはカナデだよ~」
―――ん?
ほんの一瞬、何か引っかかるようなものがあったのだが、それが何か分からず首を傾げる。
「どうかしたかい?」
「あ、いやなんでもないない、気にしないでね~」
「そうかい? ところでカナデ、良かったら次にコートが空いたら僕とバトルしないかな?」
「ホント? 是非お願いしたいかなあ、ありがたいね~」
そうかい、と笑みを浮かべるトクサの顔に何か引っかかるものを覚えるのだが、どうにも出てこない。
まあそれはそれとして早速バトルの相手ができたというのは朗報だ。
「カナデの手持ちの数は?」
「こっちは4体だね~そっちは?」
「こちらは6体だし……じゃあ4対4のシングルバトルでどうだい?」
「良いの?」
「ああ、ついでに初めてなら色々この場所でのルールも分からないだろうし教えておくよ。マナーみたいなものだからできれば守ってほしいね」
「りょーかい。まあボクちんもこれからお世話になる場所だからね~」
そんなことを話ながらバトルが終わるのを待つ。
どうやらここに来ているトレーナーも割とバラバラなようで、新人トレーナーのような自分よりも年下の子供もいればとうに30、40を超えているだろう大人もいる。
そうして他のトレーナーのほうを観察している内にバトルの決着が付き、1人2人とトレーナーたちがバトルコートから抜けていく。
「よし、ここのルールとして当然ながらバトルをしないトレーナーはコート内に入らない。ああやって壁際に並ぶ。まあこれはカナデも分かったみたいだね。それから新しくやってきたトレーナー、或いはすでにバトルを終えたがもう一度戦いたいトレーナーは先に並んでいるトレーナーの後に着く。対戦相手の決まったトレーナーはああやって2人組で待っているだろ? バトルコートの端に近いほうのトレーナーから順番に入っていくから待つ側はその反対方向に伸びるように並ぶんだ」
そんな風に説明を受けていると次のトレーナーのバトルも終わり、そうして自分たちの前に誰もいなくなる。
「よし、順番が来たね。やろう、カナデ」
「だね、よろしく~!」
誰もいなくなったコートに向かい、他のトレーナーたちが立っていた場所に同じように立つ。
そうして対戦相手となるトクサのほうへと視線を向けて。
「……良いね、少し楽しくなってきた」
さあやるぞ、と意気揚々にこちらを見つめるトクサの視線に口元が弧を描く。
言葉はいらなかった。
ただ闘争の意思が体を押すようにしてボールを掴む。
そうして互いの視線がもう一度交差して。
「行くよ! ニンフィア!」
「さあ行くぞ、ワンリキー!」
互いがボールを投げた。
【挿絵表示】
トクサさんイメージ。
こちらはいつもとは違ってキミの世界メーカーというものを使わせてもらっています。
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そういやこっちでは出してなかったなと思いだしたので。
イズミちゃんやカナデくんちゃんはこちらもっとももいろね式美少女メーカーを使わせてもらってます。
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