・ゲームにはないリアリティ
技について少しだけ説明させて欲しい。
例えば自身の手持ちのニンフィア、彼女が今使える技は現状16種ある。
非常に多くはあるが実際のところ『しっぽをふる』だの『たいあたり』だのいまいち使い勝手の良くない技が多く、実質的にバトルに使えると判断できる技は10個ほどか。
まあそれでもまだ多いわけだが、実際バトル中にこの全てを使うわけではない……というのは今置いておいて。
技には当然1つ1つに性能というものがある。
ニンフィアの基本技の1つである『チャームボイス』という技でいうならば、ゲームでいうならばこんな感じだった。
技 名:チャームボイス
タイプ:フェアリー
分 類:非接触全体特殊攻撃技/音技
威 力:40
命 中:必中
P P:15
非接触、つまり相手を直接攻撃する技ではない。
全体、つまり対戦の場にいる相手全員を範囲とする。
特殊攻撃技、つまりダメージ計算は『とくこう』で行う。
音技、つまり相手の『みがわり』に関係なく攻撃できるが『ぼうおん』等で無効化される。
そんな風に技1つ1つに多くの情報が詰まっていたわけだが、これがリアルになるとさらに複雑化してくる。
もし自身のニンフィアの『チャームボイス』をデータにするとこんな感じなる。
技 名:チャームボイス
タイプ:フェアリー
分 類:非接触全体特殊攻撃技/音技
威 力:1~40(距離により減衰する)
命 中:必中(射程内ならば必ず当たる)
P P:10%
射 程:近距離~中距離/扇形
時 間:2~5秒
発 動:3秒
反 動:1秒
部 位:口から
これ1つずつ紐解いていくと、まず威力のところ。
1~40とあるが、大前提として『チャームボイス』は音技である。
音というのは距離が進むほどに拡散、減衰する。故にあまり遠くから撃ってもほとんどダメージとして通らないのだ。
これに関しては射程が重要となる。
近距離はつまり直接攻撃……パンチ系の技など自らの肉体部位で相手を直接的に攻撃する技が届く距離。つまりほとんど目の前だ。
さらに中距離、だいたい3,4メートルくらの間を空けた……個人的な意見を言えば『でんこうせっか』1回で詰め切れる距離としている。
さらにその後の扇形というのは技の形だ。
つまりニンフィアの『チャームボイス』は放出されると扇形に広がって良き、だいたい5メートル前後まで攻撃が届くが、5メートルラインまで行くと技が拡散しきってしまっていてほとんどダメージにはならず、それ以上の距離は技に込められたエネルギーが完全に拡散してしまって技として成り立たない。
イメージとしては『威力40』分のエネルギーが扇形に広がっていき、広がるほど技の密度が下がるような感じだ。
そしてこの威力40分のエネルギーがPP10%という部分。
これはつまり今のニンフィアが『チャームボイス』を連続で撃つと10回くらいでエネルギー切れを起こして使えなくなる、ということだ。
そして重要なのはゲームだとPPというのは技ごとだったが、現実においてPPというのは『タイプごと』だということだ。
推察だが各ポケモンごとに『全タイプのエネルギー』というものを一定量持っており、それを使って技を出している。
ゲームにおいて同じタイプの技の威力が上がるのはつまり他のタイプのエネルギー放出量を1倍とした時に自分と同じタイプは1.5倍の放出量を得るから。
そしてタイプエネルギーの貯蔵量というのも恐らく自分のタイプのエネルギーは特に多く持っている。
この世界に来て、ポケモンの技……PPの仕組みを理解すると同時にゲーム時代のシステムに自身はそういう解釈を付けた。
まあこれがあっているかどうかは問題ではないのだ。とにかく現実においてポケモンというのは技ごとではなく技のタイプごとにPPを共有している。
さらに時間。
これは言ってみれば効果時間だ。
つまり『チャームボイス』なら最低2秒は持続し、最大5秒ほど継続できる。
当然ながら5秒ずっと当てることができれば大ダメージ間違いないのだが、相手だって棒立ちで受けたりはしない、なので射程から逃げられたらそこで切らなければ無駄なエネルギーを使うことになる。
そして発動と反動はある種セットで扱うべきなのだろう。
ターン制だったゲームにおいて技の威力に関係無く、技は1ターンに1回と決まっていた。
これが『はかいこうせん』などの反動で動けなくなる効果だったり『ソーラービーム』などの1ターン溜める必要があったりする技ならば2ターンに1回となるわけだが、それだって結局技の発動自体は1ターンの間に起こる。
だが現実において基本的に技には『エネルギーを溜める』時間と『放出したエネルギーに比例した反動による硬直』時間がある。
人間だって同じで思い切り反動をつけて体を動かせばその勢いを制動し、止めて再び動き出すまでの時間というのは長くなる。
つまり発動とは文字通りの『技が発動するまでの時間』であり、反動とは『技を撃った後に動けるようになるまでの時間』だ。
なので『チャームボイス』ならば約3秒、エネルギーのチャージに時間がかかり、そして技が終わった後1秒ほどだが硬直して動けなくなる。
当然ながらこのチャージ部位に攻撃を受けてチャージを中断させられれば技が出せないし、硬直中に攻撃を受けてもろくに防御もできないので普通に受けるよりダメージが大きくなる。
つまり考え無しに技を撃てば自分の首を絞める結果にもなるわけだ。
さらに部位というのはつまり『技が発動する部位』だ。
『チャームボイス』は当然ながらボイスの名の通り、鳴き声だ。
つまり口にエネルギーを集約させ、放つ技なのだ。
なので口に攻撃を受けると先も言ったように技が中断させらえる。
さらに技の射程も技を発動する口元からの長さとなり、形状もまた口から広がっていく形になる。
つまり後ろ側にはどうやっても攻撃が届かない。
当然だろうと思うかもしれないがこの分類はリアルポケモンバトルにおいてかなり厄介な要素である。
例えばパンチ技なら当然部位は拳になるわけだが、そうなると攻撃されて腕を怪我したりすると技の発動に支障が出る。だが技が対応部位からしか出てこない以上、腕を怪我して拳を上手く振るえなくなってもパンチ技は足から出たりはしないのだ。
つまりエビワラーのようにパンチ技ばかり覚えるポケモンは両腕にダメージを受けたらその時点でほぼ全ての技が使えなくなると思って良い。
なにせバトル中は『ひんし』になるまで互いに技を叩き込み合うのだ、当然バトル中に怪我をする可能性だって十分にある。そんな時に怪我したからちょっと回復するからちょっと待ってみたいなルールは無いのだ。
ニンフィアだって4つ足の内1つでも怪我すれば『でんこうせっか』は使えなくなる。あれは急加速と急制動が必要になるので足1本でも怪我していればどちらもできなくなって明後日の方向に飛んでいくことにもなりかねない。
とまあリアルポケモンバトルには今自分が気付けるだけでもこれだけのゲームに無かった要素がある。
これらはどれもこれも重要であり、1つとして軽視できない。
先ほどのPPの話で言うなら、ゲーム時代のように必中技を撃てば必ず当たるというのならPP10%つまり10回でも十分だったのかもしれない。
だが現実において技というのは撃てばどこまでも延々と追尾してくれるような代物ではない。
『チャームボイス』なら5メートル以上離れた相手には効果が無くなってしまう、つまり必中技にすら空撃ちがあり得るのだ。
こうなると10回制限というのは途端に厳しくなる。
しかも『チャームボイス』だけで10回。
他にも『あまえる』や『つぶらなひとみ』を使うとこの回数はさらに減ってしまうのだ。
つまりゲーム時代ほど技というのは簡単に撃てるものでは無い。
考え無しに技を指示しているとあっという間にガス欠となる。
そして余談になるがそういう意味ではニンフィアというのはかなり優良種族と言える。
特性の『フェアリースキン』は『ノーマル』タイプの技を『フェアリー』タイプの技として出せる。
これはつまり体内の『ノーマル』タイプのエネルギーを『フェアリー』タイプに変換しているということになる。
そしてこれは
例えばチャームボイスを10回連発して『フェアリー』タイプのエネルギーが空っぽになってしまった。
そんな時に特性の『フェアリースキン』で体内の『ノーマル』タイプエネルギーを『フェアリー』タイプエネルギーに変換することで、追加でチャームボイスを撃てるようになる。
といっても自分のタイプと異なるタイプなのだからその貯蔵量は少なくなる。恐らく全て変換したところで『チャームボイス』3発分か4発分かと言ったところ。
だがメインウェポンを3,4回追加で使える、というのはこの世界において恐らく今の自分が想像している以上に意味が大きいのだ。
これは現状の自身のパーティでニンフィアだけに許された優位だ。
勿論他のポケモンには他のポケモンの優位性があるわけだが。
それらを生かしながら、パーティという1つの群れを作り、戦術を作り上げ、そして実戦で状況判断しながら使いこなすのがトレーナーの役割となる。
と、考えれば現実におけるトレーナーの役割とはゲームの時のそれとは全く異なることが良く分かる。
この辺りのゲームにはないリアリティがあるせいでリアルポケモンバトルはとても難しく、そして何よりも楽しいのだ。
・違和感
―――いや、強くない?
こちらに放つ『チャームボイス』の射程のギリギリを見極め、技の切れ目を狙って走り出し、走りながら溜めた『からてチョップ』を一撃当ててまた離れる。
ワンリキーってそんな身軽なポケモンだったっけ? と思うほどに見事なヒットアンドアウェイ。
やれに慣れた様子でこのバトルコートのルールを教えてくれるので多少腕に覚えのあるトレーナーだろうとは思っていたわけだが、実際に戦ってみれば全然多少どころの話ではないその強さに頭の中が疑問符で埋まりそうだった。
相手が『かくとう』技を出しているのでタイプ相性で耐えているが、そもそもニンフィア自体物理攻撃に強いポケモンではないのだ。
そろそろどうにかしなければならないのは分かっている、分かっているのだが。
「でんこうせっか、からのチャームボイス」
「下がって下がって」
『でんこうせっか』で一足飛びに間を詰めてもワンリキーはすぐに二度、三度とバックステップを踏みながら間を開ける。開けられた距離で追撃のチャームボイスはまたもや距離の差で無効化される。
一度本気でそのままぶつかってやれと指示もしてみたがまさかの受け流しなんて技術でいなされた。
そんなのありなの? と思うが別に真正面からぶつからないといけない理由もないのでありなのだろう、可能だというのならば。
そう『かくとう』タイプならばマンキーの育成もしているので分かるのだが、そんな繊細な技術は一朝一夕で身につくものでは無い。
あのワンリキー明らかに鍛え上げられている。しかも受け流しなんて難易度の高い技術普通のトレーナーが教えられるとも思えない、とするならば本職……ゲームでいうならば『からておう』とか『たつじん』とかその辺りか?
ちらり、と視界の端に映るトクサの姿を見やる。
―――とても見えないけどなあ。
なんて呟いていても仕方ないと息を吐き出し。
一呼吸、間を置いて。
「ニンフィア、チャームボイス!」
「フィア~!」
「ワンリキー、もうワンセットだ!」
「リッキー!」
先ほどの焼き回しのように、放たれたチャームボイスが避けられ、そしてワンリキーが『からてチョップ』を溜めながら走って来る。
「ニンフィア! 受け止めて……スピードスターからのでんこうせっか!」
「フィア!」
「おっとワンリキー! 受け流せ!」
「リッキィ!」
あえて一撃、受けた状態からのでんこうせっか。
直撃すればフェアリースキンによって『こうかはばつぐん』となるはずの一撃だがワンリキーは腰をどっしりと落とし、受け流しの態勢に入る。
「フィア~!」
「なにっ!?」
「リキ?!」
そうして『でんこうせっか』が来ると予想し身構えたワンリキーだったが、ニンフィアがその場でくるりと一回転し周囲に生み出したエネルギーの星々を放つ。
『フェアリースキン』によって『フェアリー』タイプの変換された『スピードスター』は必中技に相応しい凄まじいスピードと多少の追尾性を持ってワンリキーへと直撃、弱点タイプの一撃を食らったワンリキーは吹き飛ばされ、倒れて目を回した。
「あっちゃあ……やられちゃったかあ。よくやったぞ、ワンリキー」
『ひんし』となったワンリキーをボールに回収しながらまいったなあ、とトクサが頭を掻く。
「新人の子にここはこんなに強いトレーナーがいるんだぜ、って一発教えてあげるつもりだったのに返り討ちにされちゃったよ」
「いや~ここまで好き放題されててそれは無いかな~。というか次はどうやって勝てばいいのかボクちん戦々恐々だよ~」
「ははは、新人らしくないなあ。勝ったんだから油断してればいいのに」
楽しそうに笑いながらトクサが次のボールを手に取り。
「じゃあ、次行こうか」
そうして第2ラウンドが始まる。
―――かと思われたその時。
「何やってるんですか」
聞こえてきた声にトクサがボールを投げるポーズのまま固まった。
その表情が先ほどまでの笑みから一変し、冷や汗が流れ始める。
声の主を見やれば先ほど別れたばかりの少女……イズミが冷たい視線をトクサへ向けていた。
「あっ」
その瞬間、ふと思いだした初めて会った時のイズミの台詞。
そしてそこに出てきた名前に先ほどまで感じていた違和感の数々が全てが繋がった。
―――自己紹介させていただきますね。私はイズミ。『エイヒツジム』のジムリーダー
―――……っとそうだ、まだ自己紹介してなかったね。僕は
「えっ」
その事実に気づいた瞬間、驚愕に目を見開く。
別に自身はイズミのその時の台詞を忘れていたわけではない。今だって瞬時に思いだせるくらいにははっきりと覚えている。
当然先ほどトクサが名乗った時に聞いた名前だな、と思った……思ったのだが、トクサの外見があまりにも若すぎた。
一瞬義理の親子とかそういう関係を疑いもしたが、けれど目の色や顔つきなど、どこかトクサとイズミは血の繋がりを感じさせる部分があった。先ほどトクサの仕草に感じていた違和感はつまりそれだ。
そしてワンリキーのやたら精錬された技術。
先ほど自分で思ったのだ、本職か? と。
本職、トレーナーの本職、つまり。
「ジムリーダー?」
「あちゃあ……バレちゃった」
思わず問いかけたその言葉にトクサが嘆息する。
それはまさしく肯定したも同然であり、それが意味することはつまり。
「えっと……この人、イズミの」
「え、あ、はい、父です」
お父さん?
父親?
ダディ?
この外見20いってるかどうかの寧ろ大学生って言われたほうが違和感の無い青年(仮)が?
イズミの外見的に14か5か、6か……まあ自分とほぼ同世代と見て良いだろう。
つまり20歳くらいで生まれたとしてもとうに三十路半……?
「ウッソオォォォォォォォ!?」
驚愕の絶叫が飛び出した自分は決して悪くないと思う。
実際のところ、作中で技の細かい部分そこまで細かくやるつもりはないですが、カナデくん視点だとリアルポケモンバトルってこんな感じでゲームと全然違ってるじゃん、と思ってるということを説明してます。
あとイズミちゃん別に親戚の子とかいうオチじゃなく、普通にトクサさんの実の娘です。
目の色はトクサさん譲りですが、髪の色などは母親譲り。