ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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お祭りの季節

・アイエエエエ!オトウサン!? オトウサンナンデ!?

 

「まったく……ジムの仕事放っておいて何をやっているんですか」

「ははは、書類仕事なんてもう飽きちゃったしちょっと息抜きにね」

「飽きちゃった、じゃないんですよ。それが父さんのお仕事ですよね」

「うーん、イズミは真面目だなあ」

「役所への提出期限近いんですから、母さんにだけ押し付けるつもりですか」

「いや、これが終わったら戻るつもりだったから、ね?」

「何が、ね? なんですか」

 

 とは言いながらも嘆息してこちらを一瞥し、もう一度嘆息する。

 

「仕方がありません……ここで連れて行ってもカナデに悪いですし、私は先に戻りますから、父さんも終わったらちゃんと来てくださいね」

「うんうん、分かってるよ。ところであの子のこと知ってるの?」

「一昨日言ったじゃないですか。あの人ですよ」

「ああ、あの子がそうなんだ。じゃあ僕からもお礼しないとね」

「良いんですか? 立場とか」

「娘を助けてもらったんだ、そのくらいはね」

「分かりました」

 

 そんな会話をしつつイズミがコートを去っていく。

 話の流れ的にジムに戻るのだろう。そしてジムリーダーなのに残ってさあ続きやろう、とほほ笑む青年が1人残される。

 

「良いの?」

「この一戦で帰るから大丈夫さ。さっさと続きをやってしまおう」

「ふーん、それじゃあまあ遠慮なく」

 

 再び握ったボールをトクサが投げ、放たれたボールから飛び出したのはコジョフー。

 今更な話だが『エイヒツジム』の専門タイプは『かくとう』だ。

 つまり先ほどのワンリキーのように、未進化ポケモンとは言え全く油断できないのだろう。

 

「ニンフィア、まだ行ける?」

「フィア~」

 

 大丈夫と声を返すニンフィアだが半減とは言えワンリキーに『からてチョップ』を何度も打たれているのだ、ダメージは相当にかさんでいるはずだ。

 少し考えたがニンフィアのやる気がまだ途切れていない以上は続行しても良いと判断する。

 

「無理はしないようにね~」

「フィア!」

 

 そんなこちらの声かけに声を張り上げて強がってみせるニンフィア(可愛い)。

 

「ニンフィア!」

「コジョフー!」

 

 トレーナーの掛け声1つで互いのポケモンが動き出し、第二戦が始まった。

 

 

・負けましたあ~

 

 まあ当然のごとく負けた。

 というか初見殺しに引っ掛けてワンリキーを倒しはしたが、それが余計に本気にさせてしまったというか、まあ相性的に有利のはずのニンフィアでどうにか1体倒せるかどうか、という話だったのに相性が普通のゲコガシラや同じ『かくとう』タイプのマンキーが勝てるはずもなく、ストライクだけはかなり頑張ってくれたのだがやはりジムリーダーが『かくとう』のメジャーな弱点となる『ひこう』タイプに対策をしていないはずもなく4倍弱点の『いわ』技を受けて1度は耐えたがそれでも2度目は耐えられずに倒れてしまった。

 

 ただし負けは負けでもゲームのように経験値が入らないということはない。

 寧ろ負けるくらいに厳しいバトルはより経験値が入るようでどうにも上がり方が鈍かったレベルが上がったような感覚がした。

 

 というかバトルをしている最中の行動1つ1つで経験値が増えていく感じだろうか。

 ゲームのように相手を倒した時に一括で経験値を獲得するのではなく、バトル中の動き方、技の出し方、避け方、そんな行動を1つ繰り返すごとにちょっとずつ強くなっていく感覚。

 多分この世界ではアニポケのように『バトル中に進化』というのは起こり得るのだと思う。

 

 そんなわけで負けはしたが得るものは多い負けだった。

 

 ゲームだとその辺の野良トレーナー相手でも手持ちが全滅すると近くの街に強制的に戻されたりしたが、どうやらそんなことも無いらしい。

 掲示板でそんなトレーナーがいたらしいが、多分別に今手持ちが全滅しても命の危険が無いから、とかそんな理由だろうか?

 それに全滅したと言っても別に休んでいれば回復する程度のものだ。

 

 このあたりちょっとゲームとは異なるのだが、ゲームではHPが0になると『ひんし』状態になり、そのポケモンは『ひんし』を解除するアイテム……『げんきのかけら』等を使わなければ時間が経過しても『ひんし』のままだった。

 だが現実ではバトル続行ができないライン、と身動き一つ取れないライン、というのが異なっており、『げんきのかけら』を必要としているのは後者だ。

 

 つまり『戦闘不能』と『瀕死』は別カウントとなっているのだ。

 

 『戦闘不能』状態はしばらく休んでいればある程度まで回復する。

 勿論傷などの度合いによっては薬を使わなければ相応に必要とする時間が伸びることもあるが、基本的には食べる物を食べて寝ていれば治る。

 逆に『瀕死』まで行くと『げんきのかけら』などの活力剤やポケモンセンターなどの専用の治療を受けなければ回復しない。要するにダメージが深すぎて自然回復できるラインを超えてしまっているのだ。

 

 なので『戦闘不能』状態は全滅判定がされないのだろう。

 そもそも街にいきなり戻るというのも中々不可思議な話だが。

 

「お疲れ、良いバトルだったよ」

 

 いきなり転移したりしないことにそんな推察をつけていると、バトルコートの向こう側からトクサがやってくる。そのまま次のトレーナーの邪魔にならないように一端コートから出ると壁に背を預けて並ぶ。

 

「いやあ中々楽しかった。ジム戦用のレベルの低い子たちだったとは言え、良い勝負だったね」

「それはありがと~。でも次は勝つよ」

「はは、それは楽しみに、と言いたいところだが次にキミとやる時はジム戦かもしれないね」

「問題無いさ、それでも勝つから」

 

 言い切った自分の言葉にトクサが一瞬目を丸くし、やがて破顔する。

 

「ははは、言い切ったね。良い気勢だ、それに大言と一概に切って捨てられないだけのものは見せてもらった。だからこう言わせてもらおうかな」

 

 ―――楽しみにしてるよ。

 

 そんな挑発にニシシ、と笑みを浮かべ。

 

「首を洗って待ってろ、って言ってあげる」

 

 そんな言葉で返した。

 

 

・祭りの準備

 

「ああ、そう言えば今から少し時間あるかい?」

 

 宣戦布告染みた言葉を告げ、そのまま互いに去っていくような雰囲気だったと思ったのだが、トクサがそんなことを言って呼び止めてきた。

 

「ん~まあ別に急ぎってわけじゃないけど?」

「そっか、じゃあちょっとジムのほうまで来て欲しいな。渡したい物もあるし」

「渡したい物?」

 

 なんのこっちゃ? と疑問符を浮かべながらトクサの背を追ってジムまで移動する。

 入口を出て徒歩1分ほどの本当に隣にあるジムは思っていた以上に広かった。

 『かくとう』タイプのジムなので道場みたいなものを想像していたのだが、別にチャレンジャーが『かくとう』縛りしているわけでも無いのだから相応に広さは必要に決まっているか、と改めて考え直す。

 

 ジム戦用のフィールドこそ芝が敷き詰められたような場所だったが、そこ以外は一般的な格闘技の道場のような練習場がいくつかあり、その奥にジムリーダー用の部屋があった。というか案内された。

 

 ジムリーダーの部屋と言ってもやることは主にデスクワークなのでそれほど広くも無い部屋に椅子とそれなりに大きな机があり、机の上にはパソコンが置かれていた。

 壁際には棚がいくつか置かれており、ぎっしりと本やディスクケースだかが詰められていた。

 

「やあやあよく来てくれたね。まあ座って座って」

 

 トクサに勧められるままに部屋に一つだけ置いてあるソファーに腰を下ろすとトクサが棚からいくつかのディスクケースを取り出してこちらに戻って来る。

 

「まずは、先日は娘を助けていただきありがとう、『エイヒツジム』のジムリーダーとして、あの娘の父親として感謝します」

「まあ、見過ごすのも気分悪いしね~」

「イズミからも礼はしたみたいだが、僕からも親として礼をさせて欲しいな」

 

 そう言って持っていたディスクケースを差し出してくる。

 

「これはうちのジムで保管している『わざマシン』だ。さすがに貴重だから全部とは言えないが、1枚キミに礼として渡そう」

「え……いや、さすがにもらいすぎじゃない?」

 

 何の技かは知らないが、どちらにしても『わざマシン』はとんでもない貴重品だ。

 ゲームだとデパートとかショップとかで普通に売られていたがこちらではそんなことは基本無い。

 正確には『わざレコード』は売られているのだが、『わざマシン』は単価がゲーム時代の1000倍以上に高騰しているせいで普通の場所ではまず販売されていない。

 

 というのも使い切りの『わざレコード』と違って『わざマシン』は悪用ができたりするのだ。

 できたりするというかしたやつがいるというか。歴史を習うと野生ポケモンに無理矢理『わざマシン』で技を覚えさせ生態系を崩した人間の話などが偶にある。

 

 あと『わざマシン』は何度でも使える上に道具なので誰でも使える。

 つまり『わざマシン』を使って『技を覚える権利』を『金銭取引』する人間が過去に存在したのだ。

 当然ながらそれをやられると『わざレコード』を売っているのと何も変わらない上に『わざレコード』のシェアを奪っている。

 元の世界でもゲームや音楽などのデータをコピーして販売することを禁止する法律があるようにこの世界でも『わざマシン』を他人に『金銭目的』で使用することを禁止する法律がある。

 

 なので『金銭目的』の人が買えないくらい、或いは買っても早々利益が出ないくらいに高額が付けられさらには入手した人間は役所に所持届を出す必要がある。

 

「問題ないさ、ジムにはジム攻略者に渡す用の『わざマシン』というのがいくつか存在するからね。当然同じ種類の『わざマシン』はたくさんあるんだ」

「あ~なるほど」

 

 まあそれなら、良いのか?

 

 ジムリーダーに勝ってジムバッジをゲットした時に一緒に攻略報酬の『わざマシン』をくれるのはこの世界でも同様らしいので、同じ『わざマシン』を持つトレーナーというのはそれなりの数いるのだろう。

 まあ勝利時点のバッジの数ごとにどの『わざマシン』をもらえるかというのは違って来るらしいが。

 

「えっとそれじゃあ、1つもらうけど。何の技かな?」

「右から『かわらわり』『きしかいせい』『ローキック』『ビルドアップ』『ボディプレス』だね」

「ビルドアップ!!! ビルドアップで!!!」

 

 どれもそれなりに使い勝手はありそうだったが、とんでも無い必須スキルが1つ混ざっていたので一瞬の迷いもなくその名を告げた。

 

「おや、攻撃技じゃなくて良いのかな?」

「いや、ビルドアップ一択で! 他のも使い勝手の良いやつ多いけど、ここはビルドアップ一択!」

 

 変化技の名を告げたことにトクサが少し驚いた様子だったが、断固として譲らない自分の姿勢に笑みを浮かべ、分かったと言って1枚のディスクを渡してくる。

 

「『わざマシン:ビルドアップ』だ。上手く使って欲しいね」

「~~~っ!」

 

 使い捨てではない! 何度でも使えて『ビルドアップ』を覚えさせれる『わざマシン』。

 思わずガッツポーズを取ってしまい、トクサがまた笑った。

 

「そんなに喜んでもらえると嬉しいね」

「本当に良いんだよね? 後で文句言われても困るよ?」

「ああ、大丈夫だよ……あっ、そうだ」

 

 ちょっと早口になってしまうくらいの自身の念押しに苦笑しながら頷くトクサだったが、ふと思い出したようにぽんと手を突いた。

 

「そうだね、代わりと言っては何だけど1つ、頼み事があるんだけど良いかな?」

「内容によるかな~、まあちょっともらい過ぎた感があるから一応前向きに聞こうとは思うけどね」

 

 話を聞く姿勢を見せ自身にトクサが机の上に積まれた書類から紙を数枚抜いて持ってくる。

 

「頼みたいことが主に2つあってねえ。どっちか片方でいいからやってくれると嬉しいかな」

 

 そう言って持っている紙を渡してくるので受け取り目を通す。

 

 1つは『夏祭りの手伝い』。

 毎年『サヤマシティ』で行われている『シロン』『コミナト』『オキノミヤ』『カナメイ』の4つのタウンを巻き込んだ地元のお祭りだ。

 駅前からぐるっと4つのタウンを神輿と踊り子の一団が巡っていくお祭りが週末金曜から3日間続くのだが、最終日には海辺で花火大会も開かれて毎年賑わっている。

 元の世界でも同じ祭りがあったのでだいたいイメージはできる。

 

 祭りというだけあって準備は一月以上前から行われている。計画だけならもっと前からだろう。

 『エイヒツジム』のある『カナメイタウン』もまた祭りの会場の1つであり、特に『エイヒツジム』前はちょうど神輿の通り道であり毎年屋台も多く並ぶ。

 手伝えることなんていくらでもあるだろうし、こういう依頼もそれは舞い込んでくるだろう。

 

 で、もう1つが『エイヒツ山』の調査。

 といってもこれもまた先の夏祭りの準備の一環のようなものだ。

 毎年夏祭りの3日間は『サヤマシティ』全域から人がたくさん集まって来る。

 人が集まれば当然ながら野生のポケモンを刺激してしまうことになる。

 特に他3つと違って『カナメイタウン』の隣にある『スイナミタウン』は『カナメイタウン』との境目に『エイヒツ山』という自然豊かな山があるのだ。

 ぶっちゃけて言えばこの『エイヒツジム』から徒歩30分もかからない距離、ここからでも普通に見えるくらい近い。

 だから事前に『エイヒツ山』を調査して今現在どんな状況かを調べ、場合によっては山の周囲をジムトレーナーたちで封鎖する必要があるのだとか。

 

 この2つの依頼の書かれた紙を見比べ、どちらか1つやって欲しいと言われたら。

 

「山の調査のほうが面白そうだね~」

「そちらかあ、まあそう危険なポケモンが住み着いているわけでもないので大丈夫だとは思うけど、本当に大丈夫かい?」

「大丈夫だよ~いざとなったら奥の手もあるしね~」

 

 なお奥の手=デスルーラ(全滅ワープ)なことは言わない。

 少なくとも野生のポケモン相手に死ぬ危険性は無いというだけでも難易度は激減している。

 

「ふむ……まあなら頼もうかな。山の調査と言ってもそう無理はしなくても良いんだ。山の雰囲気はどうだ、とか麓のほうに危険なポケモンがいないなら祭りの間だけの話だし問題にはならない。というか祭りの前日とかにジムの側からもう一度調査があるから、今回はざっとした下見程度で良いよ」

「りょ~かい。と言っても今から山登りはちょっとだし、明日で良いかな~?」

「ああ、一週間くらいは猶予があるから、その間に無理しない範囲で頼んだよ」

「は~いっと」

 

 どうやら用はこれで終わりのようなのでトクサに挨拶をしてジムの入口まで歩く。

 

「あ、カナデ。今から帰りですか?」

 

 その道中で手提げ袋を片手に持ったイズミに会った。まあ同じジムの中にいるのだからそういうこともあるのかもしれないのだが。

 

「そうだよ~」

「そうですか、ならこれをどうぞ」

 

 そう言って袋の中から渡してきたのは色取り取り(とりどり)の缶ジュースだった。

 『サイコソーダ』やら『ミックスオレ』やら他にもゲームには無かったような品名の物まで。

 

「どしたのこれ?」

「先程もバトルしていましたし、ポケモンたちもお疲れでしょうから、良かったら」

「あ~良いね。じゃあありがたくもらうよ」

 

 幸い荷物は全部スマホの画面の中に落とせるのだ。

 そんな光景を見たイズミがぎょっとしながら見ていたが、ありがと~、と一言かけてその場を立ち去る。

 

「よーし、じゃあイズミにもらったこれで一休みしたらまたバトルだね~」

 

 ジムを出て一つ伸びをする。

 

 思いもよらぬところで明日の予定が決まってしまったが、何も問題は無い。

 

「楽しいねえ、この世界は」

 

 結局、カナデにとってそれが全てなのだから。

 

 




あのラインナップなら当然ビルドアップだよなあ?

まあ意見は色々あるだろうけど、カナデくんちゃんの思考としては「攻撃技」というのはレベル技だけでもメインウェポンあるけど、「変化技」ってレベル技だけだといまいちラインナップにかけるから、現状だと「ビルドアップ」が絶対に欲しかった。
特にただ無暗に攻撃技撃つだけだとトクサにやられたみたいに技術で受け流されることもあると分かったから余計に緩急をつける手段が欲しかった、というのがある。

メタなこと言えば作者的にはコノヨザルにはビルドアップだろみたいな感じある。
まあドレパンも入れようかと思ったけど、こんな序盤にドレパンはあまりにも強すぎるのでやめた。
特にマウント取ったら一方的に殴れそうなこの世界でドレパンコノヨザルなんて終盤まで無双しだしそうだし。
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