ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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崖の上のぽn(以下略

・父と娘

 

「というわけでイズミにもお願いして良いかな?」

「何がというわけなのかは分かりませんが『エイヒツ山の調査』ですか」

 

 朝から父に部屋に呼ばれたと思えば告げられたのは父がカナデに頼んだらしい調査の同行だった。

 

「そうそう、確かに『エイヒツ山』はそれほど危険度が高いわけじゃないけど、それでも単独ってのは危ないし、何よりジム側の人間が1人くらいはいたほうが良いしね」

「それは、そうですね」

 

 『エイヒツ山』は街に近いのでこの時期に毎年調査が行われているが、基本的には普通の山だ。

 300メートル超とさして標高が高いわけでもなく、丘というほど低くはないので山と言ってる程度のもの。それも結構地元の開発も入っており、山頂付近には展望台だってあり、そこまでの道は整備されている。

 まあ奥に行き過ぎると隣山へと続くので一気に大自然の中に放り込まれるわけだが、調査でそこまで行く必要はないので調査と銘打ってはいるが半分以上は展望台周辺の道の散歩のようなものだ。

 

「それにイズミは何回か行ってるし要領も分かるだろ?」

「分かりました、それをカナデに教えれば良いんですね」

 

 そういうこと、と言って微笑む父に何となくそれだけじゃないような予感はするのだが多分聞いても教えてくれないだろうと嘆息して頷く。

 

「はぁ……後でカナデの予定を聞いておきます」

「それじゃ、お願いね」

 

 

 

・ほうれんそうを忘れずに

 

「まさか朝一番からとは思いませんでした」

「いやこっちもイズミが来るって聞いてなかったしね~」

 

 朝からバスに乗って『オキノミヤタウン』へとやってきたところでスマホにイズミからのメール。

 内容が『エイヒツ山の調査に同行させていただきます』とのこと。

 昨日トクサから話を聞いた時はそんなこと全く言っていなかったので寝耳に水であるが取り合えずはすでに『オキノミヤ』まで来ていること、今からジムに向かうことを返信する。

 そうして朝早くからジムの門を叩いた先の会話が先のものである。

 

「すみません、私も先ほど父から話を聞いたばかりなので準備に少し時間をもらってもいいですか?」

「りょ~かい。じゃあここで待ってるから」

 

 忙しなくジムへと消えていくイズミの背を眺めながらジムの敷地入口でスマホを片手に待つ。

 こういう時、プレイヤー専用掲示板は本当に無限に時間が潰せるくらいには毎日毎日莫大な量の情報が流れている。

 果たしてプレイヤーの総数がどれほどになるのか見当もつかないが、人気作品だったポケモンのVR版とあって元の世界でも購入者数は発売から半日で100万を超えたとかテレビでやっていた気がする

 その後すぐにゲームを起動し、気づけばあのキャラクリ空間にいたので結局初日でどれくらい売れたのかは分からないが確定した数が100万人として、それがさらに同じような数が複数の世界から集められていると仮定すると……。

 

 プレイヤーの数だけで500万……ともすれば1000万人を超えるかもしれない。

 その全員がこの世界にコピーされたとも限らないのだが、逆に絞り込まれるだけの条件……プレイヤーの共通性も見えない。

 

 『チュートリアル』終了後の物言いからして、プレイヤーが交流できるのは掲示板を除けば『サークル島』のみなのかもしれないがそれはそれとして、そんな凄まじい数のプレイヤーが毎日毎日得た情報を掲示板に投げていけば追っても追っても追いつかないほどの量となるのも当然だった。

 

「ふーん、クエストも結構種類が発見されてるね」

 

 『クエスト』などの実例が足りず、考察しようにもできなかったものも大分進んでいるようだ。

 

「準伝発見報告もあるね~」

 

 残念ながらゲットしたプレイヤーはまだいないらしいが、ゲーム時代に準伝説と呼ばれた非常に珍しいポケモンたちの発見報告がいくつかあった。

 ゲットしようとバトルを仕掛けたらしいがもれなく全員叩きのめされて目の前が真っ暗になって*1出戻りオチばかりなのでどうやらかなり強いらしい。

 というか普通にボールを投げても避けられるか弾かれるってそれはありなのか……いや、大昔はなんかそんな仕様があったらしいけれど。

 

「うーん、ボクちんも出会えた時のためにボールを大量に買い込みたいね~」

 

 と言ってもこうして掲示板に報告された例が10にも満たないわけだが、先も推測したプレイヤーの分母からしてチュートリアルを終えたプレイヤーの数で絞っても相当に希少なのは想像に難くない。

 出会えたら良いな、とは思うが実際に出会えるかと言われると……うーん、といったところか。

 

「ボール高いからねえ」

 

 モンスターボールが1個200円。

 実際のところボールに使用されている技術を考えればとんでも無く安いのは分かるのだが、使用数を考えると馬鹿にならない値段だ。

 特にハイパーボールなんて一投1000円だ。これで当たったけれどボールから出てしまったなら惜しいとも言えるが避けられた、弾かれた、なんだったらコントロールを外してそもそも当たらなかった、なんてことになったら悲惨だ。

 

「お金は……うん、大事だ」

 

 昨日もトクサから依頼を受けてからも帰りのバス代稼ぎにトレーナー戦をいくつか熟した*2。まあさすがにトクサほどの実力者はおらず4戦して4勝したので合計3000円くらいの儲けにはなった。

 

「ただなあ……ここまで往復するだけでも結構……」

 

 バス代が往復でそこそこかかる。いや、別に元の世界にいた頃なら収入もあったので特に気にするような値段でも無いのだがいざこの世界にやってきてお小遣いをやりくりする立場になると途端に高く感じる。

 特に今のように毎日のように街まで来ているとただの交通費ですら財布には痛い出費となる。

 

「収入を増やすか、それとも何か別に……」

 

 『カナデ』は現在15歳だ。元の世界のカナデはともかく今この世界にいる自身は15年間この世界で生きてきた。

 故に今のカナデは15歳として扱われるわけで……。

 

「車は無理だよなあ……来年にはバイク、というか原付もありかもしれないけど、やっぱ今だと自転車になるのかな?」

 

 というか自転車くらいなら普通に持っているのでは? とも思ったのだがゲームのポケモン主人公たちが最初は持っていないように自分もどうやら持っていないらしい。少なくとも記憶の中の『カナデ』は自転車を買ってもらった覚えがない。

 

「母さんに自転車買ってくれって頼んでみるかな~」

「自転車が欲しいんですか?」

 

 誰に聞かせるわけでもない呟いた独り言だったが、そんな返事が戻ってきた。

 スマホから視線を移せば長袖パーカーに長ズボンに眼鏡をかけて帽子を被ったイズミが立っていた。

 

「なんだかオシャレだね?」

「そう、ですか?」

 

 一目見て思った感想をそのまま伝えてみれば少し戸惑ったように首を傾げる。

 

「眼鏡かけてたの?」

「ああ、いえ、これは防塵ゴーグルの代わりですね。ゴーグルを使うほどの場所ではないんですが、それでも木々の上を見上げた時に何か落ちてきたりすることもありますので」

 

 良かったら、と言ってイズミが同じタイプの眼鏡を渡してくるので受け取ってかける。

 どうやら度は入っていないらしく、ただの目の保護のための代物らしい。

 

「一応軍手も持ってきましたので……まあ使うことも無いとは思いますが」

「本当に準備万端だね」

 

 精々靴と服装をどうにかしたくらいだ。そもそも『エイヒツ山』が元の世界における地元の山の一つならばそれほど険しいところではないはずなのでそれで十分だと思っていた。

 

「私はまあこの調査も何度かやったことありますので。実際に軍手が必要になること滅多にないんですけどね」

 

 お待たせしました、行きましょう。そんなイズミの言葉に促されるようにジム前からでも見える山を目指して歩き始めた。

 

 

・崖の上のぽにお

 

 エイヒツ山の調査と言っても調べなければならないのは主に2つだ。

 1つは祭りが行われる際に一番刺激を受けるだろう街側の調査。

 と言ってもこちら側には『スイナミタウン』の協力の元『サヤマシティ』主導で山道が作られている。

 なんだったら車で山頂付近まで行けるくらいだ。

 そしてその山頂付近には展望広場が作られていて、『セトナイ海』を一望でき、地元住人がピクニックにやってきたり、稀に観光客が景色を眺めていたりする。

 

 まあつまりそれくらいには平和な場所だ。

 当たり前だが危険なポケモンが出たなんて話はそれこそ10年単位で遡ってみなければ出てこないほどに。

 最もその10年に1度が祭りの時に来ないようにこの調査は必要となるわけだが。

 

 そしてそんな平和な山で10年に1度を起こす可能性があるかを調べるのが2つ目、つまり山の奥の調査だ。

 ただまあ隣の山まで行って調べてこいというわけではなく、展望台までの山道から少し外れてみて周囲の雰囲気や野生ポケモンの様子などを調べてみるだけだ。

 

 当然ながらイズミと2人で行う調査は順調だった。

 まあ基本的に問題などあるはずがない場所なので順調にならないわけがないというべきか。

 麓の整備された山道から山頂付近の展望台まで片道1時間もかからず登りきる。

 山道を延々と登るのはこの世界に着てすぐにもやったことだ、もう慣れたとばかりにすいすいと登るが、一緒だったイズミもまた平然と歩いていた。

 

 コンクリートで舗装された道なので歩きやすいのはあるが、それでも山道、つまり上り坂を延々と歩き続けるのはそれなりに辛いかな、と途中途中様子を見ていたが全く息を切らす様子も無く歩いているあたり普段から運動しているのかもしれない。

 『かくとう』タイプのポケモン専門のジムなのだし、案外本人も格闘技とか習っているのかもしれない、外見的にはあまり想像ができないことだが。

 

「うーん、何も無いね」

「まあそんなものでしょう。基本的に平和な山ですし」

 

 まあそういうわけで半日どころか午前中だけで山の調査は大半終わった。

 結果だけ言えば山に一切の異常は無し。ちょっと道を外れてみても平穏そのものだった。

 

「しかしカナデは体力がありますね」

「そういうイズミだって」

「私はこれでも昔からジムで鍛えてますので。人並以上に体力には自信ありますよ。でもカナデはそういう様子が無かったのでこれだけ山歩きをして疲れた様子も見せないのは驚きました」

「ま、ボクちん天才だからね~」

「はあ」

 

 そんな茶化したような答えにどうでもよさそうな対応を返しながらイズミが展望台スペースに設置された木製の机に荷物を置いて椅子に腰かける。

 

「カナデが普通について来るので思ったより時間が余りましたね。昼過ぎまでかかるからとお弁当を持たされていたのですが」

「ボクちんも簡単なのなら持ってきたし、ついでに食べて帰ろうかな~」

 

 道中で調査のためにポケモンを駆りだすこともあったが、基本的に道中はずっとボールに入れていたので全員を出してやる。

 

「イズミはどうする?」

「そうですね。私の場合ジムに戻れば良いんでしょうけど……まあ、ご一緒しましょう。ここまで来ることもそれほどありませんしね」

 

 イズミも賛同したところで、互いに持ってきたものを机の上に広げようとして、ふとそれが目に入る。

 

「ねえイズミ、あそこって?」

 

 視線の先には展望台から少し離れた場所にある崖だ。

 断崖絶壁なんて言うほどではないけれど、少し険しそうな場所。

 少なくとも今日の調査であのあたりは見ていなかったはずだが。

 そんな意図を込めた問いにイズミが視線の先を見やる。

 

「ああ、あちらは山頂ですね。ただ本当に何もない場所なので……」

 

 イズミが言うにはここから見えるあの崖の上まで行っても向こう側が急斜面になっているらしい。

 一応『エイヒツ山』で一番高い場所があの崖の上なので山頂とは銘打たれているが実際にはこの展望台のあたりが人間やポケモンが歩ける限界なのだそうだ。

 

「まあ鳥ポケモンくらいはいるかもしれませんが……ここから見えますか?」

「うーん、それらしき姿はないかなあ」

 

 なんて崖の上に生えた木々を眺めていた、その時。

 

 ふと、木々の向こう側からこちらを覗く視線と自身の視線が合った。

 

「ぽにお?」

 

 位置的にこちらが下になるため鬱蒼と茂ったその木々の向こう側がはっきり見えたわけではないが。

 

「うっそじゃん」

 

 けれど、その特徴的な姿には見覚えがあった。

 

 緑色の顔全体を隠すような大きな()()をしたポケモン、なんて元の世界の世代まで数えても1体しかいない。

 

「オーガポン?」

 

 呟いた声が聞こえたはずもないが、そんな言葉が口から出てきた時には、すでに視線の主は消えていた。

 

 

*1
掲示板のプレイヤー間において『ゲームオーバー現象』(略してゲームオーバー)と呼ばれている。

*2
トクサに負けて賞金を渡したが所持金が100円ほどだったので50円だけ払った。




ぽーにお、ぽーにお、ぽにお、おめんのこ~

とかいう危険な歌は止めて、久々の更新。
棚卸と連勤終わったので明日も更新予定。

あとツイッター(今Xだっけ?)にも書いたけど、このお祭り編終わったら最初にこっちで作ってたクエストネタ尽きるので読者募集のやつ使わせていただきます。
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