・お姉さんぶりたいニンフィアちゃん
モノズ捕まえた日から3日ほど山の探索を続けたが一向にオーガポンの姿を見ることはできなかった。
探索範囲から考えてどこかで遭遇していてもおかしくはないはずなのだが、影すら見ることが無かった、というのはさすがにおかしい。
自分1人ならともかく探索役にゲコガシラを使った上でそれだ。
となるとゲコガシラより向こうのほうが察知能力が高いということになり、そうなると普通に探しても相手のほうが先に気づいて逃げられるだけだ。
やり方を変える必要がある。
そのことを理解すると山の探索はしばらく止めることにした。
さすがに4日も無駄にしてしまった上で成果無しというのは溜め息つきたくなったのと、それから新しくゲットしたモノズのこともあったからだ。
前にも言ったがモノズというポケモンは目が見えていない。元の世界で過去に発売されていたぬいぐるみの頭部には違和感まみれの目が隠れていたりしたが、現実のモノズにはそもそも目という器官が少なくとも見えている範囲に存在しない。
あの頭部の毛の下にならあるのかとも思えば退化してしまっているのか目自体が無い。いや、それらしい部位のようなものはあるのだが分かりやすく言うと完全に閉じて開かない瞼のようなものがあるだけで、どうやっても視覚的に情報を得ることはできないようになっている。
そういうわけで家の外でボールから出してみるとまだ眠っていたので起こしてやる。
目を覚ますとすぐさま臭いで環境の変化に気づいたようでとことこと歩き出す。
何にでも噛みついて周囲を確認する習性があるのは知っていたので先に犬系のポケモンなど用の噛む玩具を買って与えてみれば、取り合えずで噛みついてなんだこれ、と不思議そうな顔をしていた。
単純というか複雑な思考はしない性質のようであり、しばらく玩具に噛みついて形状や味などを確かめた後ぺっと吐き出したその時にはすでに環境の変化から来る緊張は解けているようだった。
そういうわけでモノズに声をかけてみれば眠っていたはずなのだがゲットされたことを理解しているのか素直にこちらに駆け寄って来る。
噛むかなと思って対ポケモン用の厚手の手袋*1していたのだが、差出た手を舐めるばかりで噛みついたりはしないのでこれなら大丈夫かな、と家に入れた。
ただやはり目が見えないのでとりあえず噛みついて確認する癖というのは生来のものであり、簡単に治るものでもないので手っ取り早い対策としてニンフィアに面倒を頼んだ。
いや本来は面倒見の良いマンキーあたりに頼もうかと思っていたのだが、ニンフィアがやるというので任せた形になる。
どうやら精神年齢の低いモノズの様子を見てお姉さんぶりたいらしく、ふんす、と得意げな顔をしながらモノズを先導するように家の中を2匹がとことこ歩いていた、超可愛い。
ただなんというか……モノズがニンフィアの気配に本能的に怯えているような感じがあるのはタイプ相性のせいだろうか。*2
噛む玩具で存分に噛ませてやって適度にストレスを抜けば問題無いだろう、それに将来的に進化して暴れん坊になった時にニンフィアの存在が抑止になるかもしれないし、そんな考えがあったのでモノズのことはそのままニンフィアに任せた。
最初にボールから出した時、暴れたら困るのでニンフィアを傍に置いていたのだが、随分素直にこちらの言う事を聞いたと思っていたのはそのせいだろうか?
まあニンフィアも何度もバトルと特訓を積み重ねてそれなりに高いレベルになっているし、本能的に勝てないと察してしまっていたのかもしれない。
調べた限りドラゴンタイプというのは結構気難しくプライドが高いため育てるのが非常に難しいと聞いていたし、実際パートナーにドラゴンタイプを選んだプレイヤーも掲示板で苦労話をしていたのでモノズを捕まえるというのは中々に思い切った選択だったのだが、どうやら思っていた以上に『おくびょう』な性格だったらしい。
その臆病さで進化した後も暴れること無くいてくれたら良いのだが……いやそうするのがトレーナーの役割か。
まあそんなわけで、モノズに関しては思っていたより穏当なところに落ち着いてくれて、ほっと安堵の息を漏らしたのは秘密である。
・活気づく前夜祭
すっかり忘れていた事実だが、そもそも『エイヒツ山』の調査を行ったのは近く行われる『サヤマシティ』の祭りのための安全確認だ。
つまり自分が1週間ほど山登りしたり、ジムの隣でトレーナー相手にバトルしている間にも祭りの準備というのは着々と進められていて、気づけば当日となっていた。
『サヤマシティ』の伝統的な祭り『サヤマまつり』は往々にして8月の1週目か2週目のどちらかの週末3日間開催される。
なので3日合わせて『サヤマまつり』なのだが、地元の人間はだいたい2日目のことを『サヤマまつり』と呼んでいて、初日のことは『前夜祭』、3日目は『後夜祭』と呼ぶことが多い。
というのも祭りでは目玉で『サヤマ踊り』という伝統舞踊を踊る
つまり初日は普通に屋台を出すだけなので本格的なお祭りの前、つまり『前夜祭』だと呼んでいる。
逆に3日目は夜に花火大会で〆るので『後夜祭』と呼んだりする。
とは言え『サヤマシティ』も『ヒロシマシティ』ほどの大都会というわけでもない、小さな町だ。
お祭り騒ぎなんて滅多にあるものではなく、『前夜祭』なんて呼んでいながらも毎年多くの人が集まって来る。
特にこの世界は『ポケモン』がいる。
元の世界でも3日間で数万人の来客数という規模の祭りだったのにそれにさらにそれぞれがポケモンも連れてきたりしていればその数は跳ねあがるというものだ。
ジムの横のフリーバトルエリアでここ数日ですっかり慣れ親しんだ様子でバトルを終えてそろそろ帰ろうかと思いきや妙に外が騒がしいというか賑やかなのに気づき表通りを覗いてみればそこにはいつもは向かいのショッピングモールに向かう人がちらほらといる程度の人通りだったはずが今や歩道にはすれ違うのも大変なほどの数の人が歩いており、その脇には屋台が並ぶ光景だった。
「そっか……今日からだっけ」
「フィア? フィア~♪」
賑やかな雰囲気にのせられるように先ほどまでのバトルで疲れ気味だったニンフィアが笑みを浮かべる。
どうやらお祭りを行きかう人々の楽しいという気持ちを感じ取っているらしい、ワクワクしながらキラキラした瞳でこちらを見るニンフィアにはいはい、と苦笑する。
「それじゃ、ちょっと遊んでいこうか」
「フィア~!」
はーい、とばかりに返事をするニンフィアがリボンを伸ばす。
まるで手でも繋ぐように手を差し出せばリボンが手首に絡みつき、そのまま一緒に歩きだすと、ニンフィアが嬉しそうに鳴いた。
・そんな分かりやすいフラグある~?
お祭りの屋台と言えばリンゴあめ、チョコバナナ、べビーカステラなどのデザート系からタコ焼き、イカ焼き、お好み焼きなどの総菜系まで多種多様なものがある。
子供の頃はそんな屋台で出される食べ物がとても魅力的に見えたものだが。
「美味しいね~」
「フィア~♪」
今だって15歳の子供なのだから普通に満喫していた。
いや多分自分1人だけなら適当にチョコバナナでも買って食べながらさっさと帰るのだろうが、ニンフィアが楽しそうにしているのでそれだけで満足だ。
今日もバトルで連勝したので財布には余裕がある。満載な子供心と満腹な大人の財布で持ってすればこの祭りを楽しむことなど造作も無いのだ。
「はぐれないようにね、ニンフィア」
「フィーア!」
ボクちんのニンフィアは珍しい色違いだ。
あの空間でパートナーを選ぶ時に色違いかどうか選べたので色違いを選択したのだが、ゲームでもそうだがこの世界においても青と白のツートンカラーのニンフィアというのはとにかく珍しい。
そういうわけでただでさえお祭りで人が多いのにそんなニンフィアをパートナーにして一緒に歩いているだけで人目が凄かった。
中には子供が可愛いと近寄って来たりもしたのだが、うちのニンフィアがサービス精神旺盛にすり寄るので抜け出すのが大変だ。
まあニンフィアのリボンが自身の手に巻き付けられていているので逸れることは無いだろうが、人ごみに飲まれてしまわないように注意をしておく。
「あ、型抜きの屋台があるね~」
「フィア?」
その後もあれやこれやと色々な屋台を巡っていく。
まだ初日というのに屋台の数は多い。これが明日以降ともなれば祭りの本番とさらに増えるのだからとにかく賑わうのだろう。
屋台は道路に沿うように並んでいるのでそれを追っていくと自然とその終点にたどり着く。
その先には海沿いの突き出した土地に建てられた工場があるだけであり、屋台が並ぶのもそこまでとなる。
3日目ならば夜にこの辺りから海を見ると空に登る花火大会の美しい光景が見えるのでそれなりに人も多くなるのだが、初日の今日は特に何も無いので当然その辺りで人込みが減る。
ちょうど良いので適当なところで休ませてもらうことにした。
道中でニンフィアにせがまれていくつか買った物を出しながらそれ以外にもちょこちょこと買い足した物を並べて手持ちのポケモンたちを出して振る舞う。
特にモノズは仲間になったばかりでありまだこちらに慣れていないだろうし、手持ちたちとも交流して欲しいという気持ちもあった。
幸いにしてその辺を深く考えないのか、それとも楽しそうなニンフィアにビビっているのか他のポケモンたちとも衝突するような様子も無く屋台で買ってきたフランクフルトを美味しそうに食べている。
他にもマンキーがタコ焼きを美味しそうに食べているし、それをゲコガシラにも分けようとして熱いのが苦手らしいゲコガシラがそっぽを向きながらべビーカステラを食べている。
その横ではストライクがリンゴあめを両のカマで器用に持って食べていた。甘いのが気に入ったらしい。
「賑やかになったなあ、うちのパーティも」
ニコニコ笑みを浮かべながら屋台で買ったからあげとお好み焼きでお腹を満たし、デザートのチョコバナナ(3本目)を食べながらふと遠くでやっている屋台を見やる。
先ほどはさっと流し見ていたがどうやらあの辺はお土産物というか、いわゆる射的やくじ屋があるらしい。
中には怪しい雰囲気を醸し出す様な店もあったが、まあ犯罪でないなら多少のぼったくりもお祭りの一環ということで流して良いだろう。
「でもさすがポケモン世界だなあ」
この体はスーパーマサラ人仕様というかちょっと元の世界だと考えられない程度には性能が高いのだが、それは視力もそうだ。
軽く50メートルくらいは距離があるはずの屋台に並べられた商品の数々も目を細め集中すればなんとなく見えてしまう。
並んでいるのはポケモンに持たせるバトル用の道具や、ポケモンドール(ぬいぐるみ)シリーズ。他にはきのみが積まれている屋台もあるし、ゲームにもあったような『おこう』の屋台もある。
「ん?」
色々あるんだなあ、と屋台を見ているとその最後尾、つまりこの祭りの行列の一番後ろの店が視界に入る。
さっき歩いていた時には気づかなかったのだが、どうやらその店だけ屋台ではなくフリマ式というか地べたにシートを引いてその上に商品を並べているようだった。
そこに並べられた商品を見やり、え、と声が漏れる。
屋台グルメを満喫中の仲間たちにそこにいて、と声をかけて立ち上がり、通行止めされた道路を渡って向かいの歩道へ抜ける。
「いらっしゃい、今日は珍しい物仕入れてるよ、見てってね」
そんなキャッチで人を呼び込んでいるこの日も沈みかかった時間帯にサングラスをした怪しい風体のおじさんの店にはいくつかの商品が並べられていた。
異国情緒漂うトーテムポールの亜種のような何かの置物、ポケモンをかたどったのだろう妙なポーズを決めた獣型の像、それに
「そんな分かりやすいフラグある~?」
今探しているポケモンとあまりにも関連深すぎるそのアイテムを見て、思わずそんな言葉がついて出た。
モノズの視点から見るとニンフィアの存在はバイオ3で背後にネメシスがすっと立っているくらいの恐怖がある。
ポケモンで例えるならこだわりハチマキ巻いたラス1カイリューがげきりん押したらすっとマリルリが出てきたくらいの絶望感がある。