・まさかそんな簡単に見つかるはずが……
買ってしまった。
いやまあ欲しかったと言えば欲しかったので別に良いのだが、それでも5000円は高かった……いや、性能を考えれば破格の値段なのかもしれないが、今の自分の財布には痛い値段だった。
「うーん、それで~……これでどうなるんだろ?」
抱えるほどに大きなお面を表から見たり、ひっくり返してみたりしながら唸る。
このお面……『かまどのめん』はゲーム時代に存在したアイテムであり、オーガポンに持たせることでオーガポンに『ほのお』タイプを追加することができ、さらに専用技のタイプを『ほのお』に変更、さらに特性を『かたやぶり』に変え、さらにさらにオーガポンの使用する攻撃技の威力を全て1.2倍にするとかいうぶっ壊れ級アイテムである。
さらにオーガポンの登場作品に実装されたシステムとも連動する効果を持っており、オーガポンをゲットするなら絶対に欲しいと思っていた道具ではあるが、なんでこんなところで売っているのか。
ただ1つ問題があって、山でオーガポンを見かけた直後の祭りでこんなものが売っているとか関連性を感じずにはいられずに思わず買ってしまったのだが別にこれ自体はオーガポンを呼び出す効果があるわけでもない綺麗なだけの面である。
タイミングが良すぎてフラグかと思って買ってみたが、ここからどうするの? と言われるとちょっと困っていた……のだが。
手持ちのポケモンたちの元に戻り、綺麗な宝石のついた面に興味津々のニンフィアを可愛いなあと思いながら眺めていた時、ふと気づいた。
「もしかしてオーガポン、祭りに来てない?」
確かゲームでも村で開かれる祭りにこっそり混ざって楽しんでいるところをプレイヤーに発見されて、というのが邂逅だったはず。
そもそもオーガポンの生息していると思わしき『エイヒツ山』はここから歩いて30分もかからないほどに近い距離にあるのだ。もしオーガポンが今日の祭り騒ぎに気づいたのだとすれば……その辺の来客に混じっていて気づかないかもしれない。何せお面で顔を隠し、半纏を着たようなゆったりとした上半身をしているのだ。オーガポン自体が珍しいポケモンで下手すればトレーナーでも知らない人間もいるような可能性だってあるのだからこの人ごみの中で一瞬見かけたとしてもポケモンだと気づかない可能性だって十分にある。
その事実に気づいた瞬間、祭りを楽しみ人たちのほうへと視線が向かう。
端から端まで眺めてみるが、それらしき姿は見当たらない。
「なんてね」
まさかそんな簡単に見つかるはずが……そう呟きかけて。
タッタッタ、と祭りの人ごみを抜け、屋台群の途切れたその先……山のほうへと駆けていく小柄が姿を見る。
あちこちで眩い灯りをつけた屋台が並ぶ道を外れに外れ、暗い闇の中へと消えていくその姿は。
「……うっそ、いたわ」
見間違えるはずも無い。つい先日僅かに見かけ、そして探し求めた姿そのものだった。
・新しいクエスト
屋台グルメを満喫してだらけていた仲間たちをボールに戻してすぐ様オーガポンの後を追う。
幸いにしてそれほど全力で走っていたわけでもないようで山の手前までには追いつくことができた。
問題はここからだ。
山で探し回って会えなかったことから考えても、普通に出て行って不用意に近づくと逃げ出す気がする。
不意打ちでバトルをしかければ足止めできるかもしれないが、多分勝てないし、オーガポンと仲良くなって仲間に誘うという目的からは離れることなるので却下。
つまりどうにかしてオーガポンと敵対せずに逃げられないようにしなければならない。
だが多分無理だろうなあ、と頭の中で結論が出る。
今のオーガポンの状況を考えれば祭りで楽しんで帰って来たのだろう状況。
しかもどこよく見れば両手にチョコバナナやリンゴあめなどの屋台デザートを持っている。
これこのまま住処に戻って食べるのでは?
多分心境的には早く家に帰ってこれ食べよう、といったところだろうか。
となるとちょっとやそっと興味が沸いたくらいじゃ立ち止まりそうにない。
「じゃあ今回はどこに住んでるのか。その確認だけしておこうかなあ」
というわけでリベンジだ、とゲコガシラを出してオーガポンを追ってもらうことにする。
山の中はオーガポンの庭のようなものなのか、すいすいと山道を進んでいく。
感知能力が高いが故に途中でゲコガシラが見つかる可能性もあったが、祭りの雰囲気に当てられて気が緩んでいたのかしばらく山の麓で待っていた自分たちの元にゲコガシラが見つけた、と報告を持って帰って来た。
「よし、ナイスだよ~!」
「ゲコ……」
よくやったとゲコガシラを褒めそやすとぷいっと顔を逸らして大したことは無いとばかりに一度鳴いてそのままボールの中に戻るが多分照れてたんだろうな、というのは何となく分かった……ツンデレめ。
とにもかくにも居場所が分かった、というのはとても大きな収穫だった。
オーガポンのゲットに対して大きな進歩と言って良いだろう。
さて、用事も済んだし、もうすっかり暗くなってしまったことだし早く家に帰ろう。
そうして山の麓から踵を返そうとして。
ぴろん、と電子音が鳴った。
音の出どころをみやればポケットに入れたスマホからだった。
最近静かだったのにまた何かのお知らせか、と開いてみれば『クエスト』のアプリがぴかぴかと点滅している。
タップしてみれば『クエストが更新されました』の一言。
【クエスト】
『山の暴れん坊を止めろ!』clear
new『好奇心旺盛な鬼さま』
新しいクエストが出ていることに気づき、タップする。
クエスト名『好奇心旺盛な鬼さま』
発生条件:7~8月に行われる『祭り』開催までの2週間以内に『山岳地帯』に超低確率で出現するオーガポンと1度以上遭遇する。
①夜になると山から下りてくるオーガポンと遭遇する(オーガポンは人間と遭遇した場合、確定で逃走する。また祭りの日が近くなるほどに遭遇確率が上がる)。
②遭遇したオーガポンの特徴から麓の村、または町で『鬼の伝承』または『鬼面の噂』を聞く(前者は年齢層の高い人、後者は年齢が低い人ほど話を聞ける確率が高い)。
③????
「なるほど? オーガポンの目撃証言を集めろってことか」
それに『鬼の伝承』ねえ。少なくとも元の世界で地元にそんな伝承存在しなかったはずなので、つまりこの一文は……。
「いや、まあそれは今はいいか」
今は関係無いので置いておく。時間のある時にでも考察スレにでも投げておこう。
「でもクエストってことは報酬があるんだよね~?」
以前のクエストの報酬はストライクの進化アイテムだったが、さてこのクエストの報酬は何なのだろう?
どうやら現段階で報酬を見ることはできないらしいので結局クエストを進めていくしかないのだろうが。
「うーん……まあ考えても仕方ないかあ~」
取り合えずやってみれば分かるでしょ、そんな気楽な思考でそれ以上考えることを止めた。
・なんだか都合の良い展開
翌日土曜日はいよいよ祭りの本番、『サヤマ踊り』を踊る踊子たちが行列と成して街中を歩き回る。
と言ってもそれ自体は昼からなのだが、朝からはショッピングモールの広大な駐車場の一部スペースを借りて何やらステージが作られ、そこで催し物がされていた。
何やらヒーローショーのようなものがされていたり、のど自慢大会のようなものが開かれていたりと踊りが始まるまでの繋ぎとして色々やっているようだった。
さすがにこんな日だとトレーナー業もお休みらしく、フリーバトルエリアには誰もいなかった。
まあ自分とて今日はお祭りを回りながらオーガポンを探す予定なので人のことは言えないのだが。
「多分来てると思うんだよね」
昨日の様子からして大分祭りをエンジョイしていたのは間違いないから。
きっと今日のさらに規模が拡大された祭り本番にも来るはずだ。
とは言え日が昇っている間はさすがに目立ちすぎるだろうから来るなら夜だと思っている。
だからそれまではクエストに従って噂話を集めることにした。
集める噂は『鬼面の噂』だ。
前も言ったがこの辺りで『鬼の伝承』など聞いたこともないし、今朝イズミ経由でトクサに確認してみても知らない、聞いたことも無い、とのことだったので恐らく存在しないのだろう。
―――やっぱりクエストって何かテンプレートみたいなのがあるよね。
昨日の夜に掲示板の考察プレイヤーたちとも議論しあたったのだが、クエストとは別にプレイヤー各自の状況に合わせて即興で文章が作られているのではなく、『シチュエーションごと』に決まった文章が存在するのだろう、と言われている。
例えば今やっているクエストならば『オーガポンが近くにいる』こと、それから『オーガポンの近くで祭りが行われる』ことこの2つを条件とし、この2つの条件が重なるならばどの世界、どの場所、どの時間帯でも同じクエストが出るのではないか、ということだ。
その場合、クエスト通りに進めれば期待通りの報酬が得られるとは限らないのが厄介なのだが。
もしくは報酬から逆算してクエストが発布されているのだろうか?
その辺りは未だに謎が多い。少しずつ事例も増えているのでいずれ分かる時が来るのかもしれないが……。
「まあ、それは後にするとして」
考えるべきはクエスト文に書かれていた『鬼面の噂』を聞くの後の部分。
「年齢が低いほどに確率が上がるってあるよね~」
つまり話を聞く対象とすべきなのは『子供』ということだろうか?
「うーん、大丈夫かな? ボクちん職質されない?」
子供を狙って声をかける人物……うーん、ダメだ、どう考えても不審者にしかならない。
さて、どうにかして合法的に声をかけられないだろうか、なんて考えていると。
「カナデ?」
うんうんと唸っている自分に声をかけられた。
何だか既視感あるな、と思いつつ振り返ってみればそこにいたのは動きやすい恰好をしたイズミ。
「おや、イズミ、おはよう」
「おはようございます、カナデ」
「イズミもお祭りに行くの?」
「ええっと、まあそうとも言えるしそうじゃないとも言えるというか」
何だか端切れの悪いイズミの話の聞けば、どうやら昨日の夜に突然お祭りの実行委員が体調不良でダウンしてしまったらしく、その人が本来今日のお祭りの巡回をする予定だったのだが、出れなくなってしまったので『エイヒツジム』から出てもらえないか、と言われたらしい。
で、真面目ちゃんのイズミが自分からやります、と言ったので朝からこうしてお祭りを見回ることになったのだとか。
「それだ!」
「はい?」
「ね、イズミ、それボクちんもついてっていいかな?」
「は?」
都合の良い展開だ、と手を叩いて笑った。
そういうわけでイズミに付き添って一緒に祭りの見回りをすることになったのだが。
「本当に良いんですか? 折角の祭りなのに、遊びに来たんじゃ?」
「良いの良いの、こっちとしてもちょっと事情があってね~」
なんて笑顔で誤魔化しながら周囲を見渡すと、道の脇にぽつん、と1人佇む子供の姿を見つける。
「イズミ、あの子」
「え……あっ、ちょっと声をかけてきますね」
思った通りの人の良さで子供に声をかけたイズミが少し話をした後、子供の手を引いて戻って来る。
「すみません、この子迷子みたいでして」
「うんうん、じゃあ保護者を探しに行かないとね?」
「はい、それと実行委員会の本部に連絡してきますので少しこの子と待っててもらってもいいですか?」
「まかしといて~」
ではお願いします、と携帯片手に話し出すイズミを笑顔で見送りながら、不安そうに周囲を見やる子供の前にボールからニンフィアを出す。
「ニンフィア、この子を安心させてあげて」
「フィア♪」
「え、あ、かわいい……」
ニンフィアの存在に気づいた子供が驚いたような表情をするが、子供の不安を見抜いたニンフィアが安心して、とばかりに体を寄せて頬擦りすれば先ほどまでの不安も大分落ち着いたようで表情から硬さが抜ける。
「今保護者の人探してるからね~、もうちょっと待っててね」
「うん……ありがと」
「ところでさ~、ちょっと今探してる子がいるんだけど、キミ、こんな子見なかった?」
これなら大丈夫かな、と子供の様子を見ながら昨日見つけたオーガポンの特徴をいくつか伝えてみる。
「ううん、しらない」
「そっかー」
残念ながらこの子は知らないらしい。
だがこの大勢の人がやってくる祭りの日、迷子の数も相応にいるだろうことは予想にたやすく、これなら声をかけても怪しがられない。
片っ端から声をかけたりはできないかもしれないが、そんなことしても完全に不審者だろうし、これくらいでちょうど良いのかもしれない。
「ま、次に期待だね~」
電話を終えて戻って来るイズミを見やりながらそう呟いた。