・強者と弱者
自然界において全てのポケモンは弱肉強食のルールを課せられる。
それ故に多くのポケモンは群れを作り、数の利を生み出す。
だが群れと群れが出会えば結局そこにはまた群れ同士での優劣がつけられ、強者と弱者が生まれる。
どこにいようと生物とは生きるために何かを食らう存在だが、当然ながら大自然の中には『食う側(強者)』と『食われる側(弱者)』がいる。
端的に言えばストライクが生まれ、属していた群れは弱者の側だった。
強者に怯え、その怒りを受けないように縮こまって生きる仲間たちを見ながらその『いじっぱり』なストライクは弱者の側から抜け出すことを決意する。
その日からがむしゃらに生きて来た。ただただ強くなることだけを求め続け、そしていつしか群れの誰よりも強くなった。それでもまだ敵わない相手がいた。だからもっと強さを求め、求め、求め、天性の才覚を磨き上げ続けた結果、ストライクは周辺で誰よりも強いポケモンとなった。
その日から強者と弱者は逆転した。
結果として変わったのはそのストライクだけだった。
弱者だったストライクの群れは最強となったストライクを頼るばかりで、自分たちが強くなろうとは……
その時、ストライクの中に浮かんだ何とも言えない虚しさ。
それが『失望』だったのだと気づいたのは実のところつい最近の話……自らのトレーナーと出会ってからの話。
その時のストライクにその虚しさを言語化することはできなかった、だがこのままこの群れにいても自らが腐っていくような気がして、だから引き留める仲間たちを無理矢理に振り払い、最終的には暴力でもってして抜け出した。
その先に待っていたのは『孤立した最強』を叩くためにやってきた群れの数々。
戦って、時に敗北しそうになりながら、けれどその度に強くなり、そうしてストライクはシンプルな理に気づく。
―――強くなれば良いのだ。
どんな敵にも、どれほどの数にも負けないほどに強くなれば自分は決して弱者の立場に落ちることは無いのだと。
最早自らが強者であることのみが自分の存在理由であると言わんばかりの凝り固まってしまった思考で、ストライクは狂ったように敵を求め続けた。
災害がごとく近づく者を切り裂き、遠ざかる者を追い撃つ。
そうして敗北した。
自分よりも圧倒的に劣るはずの弱者たちに。
―――お前が強くありたいなら、オレがお前を誰よりも強くしてやる。
トレーナーという存在は知っていた。
何だったら過去に戦ったこともある、だがその存在が必要だと思ったことは無かった。
けれどトレーナーのそんな言葉を受け入れ、その『群れ』に加わったのは、トレーナーが自分よりも劣るはずの存在を駆使し、自らを打ち破ったからだ。
そういう強さもあるのだと、ストライクはその時初めて戦術というものを理解する。
そしてトレーナーを頂点とする群れへと加わると今までよりも短期間で、しかも加速度的にストライクは強くなった、強くなれた実感を得ることができた。
振り下ろした鎌の一撃はより鋭くなり、羽ばたかせた羽を駆使し素早く動く術を身につけ、そして敵を効率良く倒すための動きを知った。
自分は強くなった、その実感を得たストライクは端的に言えば調子に乗っていた。トレーナーであるカナデの危惧していた通りになっていた。
そして、負けた。
それもちょっとやそっとの負けじゃない、圧倒的敗北。
自分よりもずっと小さな体で、恐ろしいほどの怪力でツタの絡みついた棒を振り回しながら、自慢の鎌も、羽を駆使した素早さも、全てが無意味とばかりの暴力で一蹴された。
愕然とした。
自分のこれまで積み上げてきたものが吹き飛ぶような衝撃に襲われた。
トレーナーと出会ってからの成長度合いはこれまでの乱雑な戦いの日々の比では無かったはずなのに。
少なくともトレーナーの群れに加わること無くただ自然の中で戦い続けてたとしても今ほど強くはなれなかっただろうと思えるほどに。
なのに、にも関わらず、だというのに。
負けた、惨敗した。
強者であったはずのストライクは、今まさに弱者となってしまった。
―――強くなりたい。
かつてを思い出す、弱者であった日々を思い出す、そうして『嫌だ!』と意思を奮い立たせる。
強くなる、そう決めた日を思い出し、ストライクは再び立ち上がる。
―――強くなりたい。
何度も、何度も、その言葉を胸の内で繰り返し。
―――力が欲しいか?
「ストラァイ!」
聞こえて来た囁きにその通りだ、と返す。
同時に一体誰だ、と気づき振り返れば。
「ふふふ……ならばキミに力を与えてあげよう」
怪しい笑みを浮かべながら背後に佇む自らのトレーナーの姿があった。
・進化
ゲーム時代のポケモンにとって最も分かりやすい強さの1つがレベルだろう。
厳密に言えばステータスこそが、ではあるがステータスを明確な計算式で算出し、その一因にレベルという要素が絡む以上、レベルの高さ=ステータスの高さという考え方も決して間違いではない。
だがもう1つ、分かりやすい強さの指標がある。
つまり。
「進化だ」
スマホから取り出したメタルコートを片手にストライクへと囁く。
「キミの進化先は主に3つ、1つはこの世界においてなし得ない……或いは今はまだ、かな? だから残りは2つ」
ただしもし自身の思い描く進化先があったとしてもそれを選んだどうかはまた別の話だ。
この世界でバトルを積み重ねている内に気づいたことが1つある。
「もしエースアタッカーを1体決めるなら安定感が欲しい」
対人戦ではあまり無かった概念だが、ゲームのストーリーにおいてモブではないメインキャラクターとして登場するトレーナーは必ず最後の1体、1番レベルの高い『エース』を所持していた。
この世界においてもやはりそれは踏襲されるようで、各自トレーナーが『最も信頼する1体』をエースアタッカーとしている。
この『最も信頼する』という部分がまた厄介な話で、エースに必要なのは単純な強さではないのだ。
ストライクやオーガポンのような『高速アタッカー』というのは使いやすく、強い、が遊撃向きだ。
序盤から積極的に場に出て、一通り暴れて盤面を有利に傾けて引っ込む、そして中盤にまた出てきたら傾いた優勢のままに相手を押し切る。
つまり優勢の時はとことん強く出れるのだが、劣勢になると数の利で打ち取られ、守りを固められると押し切れなり、そうやって勢いが途切れると劣勢が覆せなくなる。
対してこの世界における『エース』の役割とは逆境を覆す絶対性であり、優勢を固定し覆させない安定性だ。
そういう意味でストライクをこのパーティの『エース』に据えるならば進化先として一番適しているのはポケモンでも1、2を争うほどの有能タイプを持ったハッサムになる。
ただしまずそもそもの話として『エース』なんて必要なのか?
全員
それがこの世界でのバトルを繰り返す中でカナデの出した結論だった。
それにはいくつか理由があるのだが、とにかく必要、それは絶対だ。
そしてそうなると手持ちのポケモンたちで候補となるのは『マンキー』『ニンフィア』『ストライク』の3体だろう。
これに関しては他のポケモンたちの強さな能力云々ではない。
純粋に強さを競うならオーガポンが入らないはずがないし、ゲコガシラだって進化すれば凄まじく強くなる。モノズの最終進化系なんて言わずもがなである。
強いて言うならば性格的なものだ。
『エースアタッカー』に必要なのは逆境においても絶対に折れない精神の強さ。
例えこちらが最後の1体、相手がまだ6体だったとしても6タテして勝ってやる、と言えるくらいの気概だ。
ニンフィアはきっとカナデを信じ切ってならやってやる、と言える。
マンキーはあの山での状況のように誰かのためならばどんな状況でも戦える。
そしてストライクはどんな相手だろうと喉笛に食らいつくような激しさで戦い抜く気概がある。
そういう意味でバトルをただ楽しむオーガポンや冷静に状況を観察するゲコガシラ、そして気性が『おくびょう』なところがあるモノズではダメなのだ。
そしてその上でタイプや能力的な部分を加味した時、特に気性の部分で最も適しているのはストライクだった。
ただし現状のストライクの『むし』『ひこう』タイプというのは弱点を突かれるタイプが多く、『エース』つまり最後の1体としてはあまり適していない。
能力的にも決して耐久力の低いポケモンでないのだが、特別高いわけでも無く、そこそこの耐久力のある高速アタッカーというのは『すばやさ』か或いは耐久力が尖った相手に対してどうしても弱い傾向にあるので『ハッサム』に進化することで鈍重にはなるが9タイプに対して耐性を持ち、能力的にも耐久力を大きく向上する非常に安定感のあるポケモンへと変貌する。
そういうわけで早速とストライクへとメタルコートを使用する。
メタルコートは文字通り『
持たせて通信進化させることで進化させることもできるのだが、通信施設がポケモンセンターまで行く……つまり街まで出かける必要があるので直接塗布することにする。
「どのくらい塗ればいいのかな、これ」
当然ながらこんな手の中に納まる程度の小さな容器に入っている量でストライクの全身をコーティングしようとするならば相当に薄く塗る必要があるわけだが……?
分からないので素直にネットで調べれば布か何かにつけて擦るように塗り付けていけば良いとあった。
だいたい1瓶分使い終われば進化が始まるとのことで庭先にストライクを立たせて適当な布に着けて塗っていく。
鎌の先から薄く延ばすように、そのまま全身を覆うように塗っていくと体半分も終わらない内に中身が無くなり……同時にストライクの全身が光に包まれる。
「お……」
まさしく進化の不思議というべきか。
今まさに目の前でストライクの姿が変じていく。
鋭かった鎌は上下が動く鋏へと、爬虫類のようだった顔は丸みを帯びたやや人に近い形へと。
そして光が収束し、緑から赤へと染め変えられた甲殻がギシギシと音をたて……。
「ハッサム!」
がちん、がちん、と両の鋏を鳴らしながらハッサムが声を挙げた。
・ハッサム
基本的にポケモンの進化は正統なものと異端なものの両極端に分かれることが多い。
例えば御三家のように順当に進化するごとに種族値が順調に伸びる正統派。
対してハッサムはストライクと比較しても全く異なる種族値へと変わる異端派と言って良い。
ストライクと比較してその俊敏性は大きく下がってしまい、これまでのような素早く動きながら相手の隙をついて強烈な一撃を叩き込むシンプルな高速アタッカーとしての運用はもうできないだろう。
代わりに得たのは強固な『はがね』の装甲。
ストライクの時から喪失した素早さの分だけ強固となった甲殻と『ひこう』タイプの代わりに得た『はがね』タイプという極めて優秀なタイプ。
これまでとは全く違う、鈍足の耐久アタッカーとしての運用を覚え直す必要があることはストライクにはすでにこれまでの間に何度か説明していたのだが、さすがにここまでがらっと変わるとは思っていなかったのか自分の動きの鈍重さに戸惑っている様子だった。
ハッサム……というか鈍重なポケモンというのは当然ながらだいたいの相手に対して『すばやさ』で劣る。
つまりだいたいにして相手のほうが先に攻撃してくるし、この世界の場合ターン制限なんてものは無いので下手をすれば一方的に袋叩きに合うかもしれない。
だが逆にゲームのような制限が無い以上、この世界の流儀に合わせれば鈍足だろうと必ず相手の攻撃を耐える必要はないのだ。
「基本的に移動はしない、代わりに相手の攻撃をハサミで受け流す。そして攻撃後の隙をついて『でんこうせっか』か『バレットパンチ』で突っ込む、これが基本になるよ」
この手の鈍足ポケモンはトレーナーの『育成者』としての実力が大きく試されることになる。
「うーん、やっぱ頼ってみようかなあ」
どうしても速度で負ける以上は『巧さ』が無ければ一方的になぶられるだけだ。
巧さ……つまりバトル中のテクニック、あるいは技巧。
そんなものゲームだった時代には無かったわけだが……。
ワンリキー1匹でニンフィアを追い詰めるようなあり得ないような光景が現実には存在するわけで。
「よし、ハッサム……ジムに行こう」
その選択肢を選ぶことはある意味当然の帰結だった。
明日から2日ほど東京に、8日に引っ越しがあるのでしばらく更新できない、かも?
とてつもなく妄想が滾ったら更新するかも。