―――RPG系のゲームを始めてまずやることは?
と聞かれた場合の回答は割と人それぞれだとおもう。
例えばさっさとストーリーを進める派。
例えば先にレベルを上げてから進む派。
例えばお金を溜めて道具や装備を整える派。
とまあ十人十色な回答が返って来るだろうし、別にそれの何が正解不正解というわけではない、要は楽しめれば良いのだから。
とは言えカナデの場合、そのいずれでも無い。
「そろそろ家の周辺は埋まったかな~?」
「フィ~?」
出かける前に記憶頼りに家中をひっくり返し、使えそうな道具を鞄に詰め込んで家を出てから一時間。
タウンマップ片手にぐるぐると家の周辺を歩き続ける作業は人によっては苦になるだろうが。
「キミがいてくれるからボクちんも楽しいよ、ありがとうね~」
「フィ~♪」
傍らに伴って歩くニンフィアの頭を撫でると嬉しそうな鳴き声と共にリボンが腕に巻き付いて来る。
「しかしこれ全部埋めるのは中々に時間かかりそうだなあ」
―――カナデはRPGを始めるとまずはマップを埋めたがるタイプの人間だった。
大半のポケモンシリーズにおいて初期地点は自宅であり、まずは自宅を全て見て回りアイテム回収ができないか試すタイプのプレイヤーだったカナデだったが、すでにこの世界の記憶が頭に叩き込まれており、当然自宅の中の物の位置など大半知っていたのでならば自宅周辺のマップ埋めだと記憶の補正によって見慣れた田舎道をニンフィアと共に散歩ついでに散策していた。
「ふーん、なるほどな~」
この世界における自身……『カナデ』の自宅は割と田舎に存在した。
まず肝心の家だがかなり大きい。いや、家自体は6人か7人くらいが住めそうな……屋敷というほどには大きくない、まあちょっと大きい二世帯住宅くらいだろうか?
少しばかり古めかしい瓦屋根のなんとなくレトロチックな家だったが、その敷地自体は家の三倍くらいはあった。
庭に池があったり、木が何本も生えていてしかもゲームでもあったようなポケモン世界の『きのみ』が生えていたり、あとは普通に花などが植えられていたり、家を囲う塀があり壁伝いに庭木が並べられていたりとしてもまだスペースが余っているような様子だった。
これで実家がとんでもない金持ちだった、とかならまだ分かるのだが『カナデ』の記憶を辿れば両親共働きでそれなりに余裕はあるものの別に取り立てて珍しくも無い普通に中流家庭のようだった。
そして、そんな中流家庭でもこれだけの敷地が買えるほどに土地が安い場所。
つまりはド田舎である。
家を出てみれば見渡す限りの畑と田園風景。
恐ろしいことにまともな商業施設……コンビニすら無い。
しかも畑の傍に無人販売所まで置かれている。元の世界のカナデも割と田舎出身だったがさすがに初めて見た。
こんなところで人が生きていけるのか、とも思わないでもないが元の世界の感覚ならともかくこの世界の田舎というのは割とこんなものだと自身の記憶が告げてきた。
「そしてさすが、というべきなのか」
何気無い田舎町の風景の中のあちらこちらにポケモンの姿があった。
草原を走るオタチやコラッタにナゾノクサ、空にはポッポやオニスズメ、茂みを見やればアーボが寝ているし途中で見つけた川ではニョロモやニョロゾが泳いでいた。
「うーんゲットしたい気持ちもあるけど」
「フィ?」
傍らのニンフィアを見て苦笑する。
ゲームならばいくら捕まえても何も問題無い、手持ちがいっぱいになればパソコンに送ってボックスの中で保存しておけたから。
手持ちに入れていたとしても何もしなくても良かったから。
けれどこの世界は現実で、ポケモンたちは生きているのだ。
「さすがに飲まず食わずでボールに入れっぱなし……なんて普通に死ぬだろうし、ボックスに預けっぱなしって……どうなるんだろうね?」
ゲームやアニメ、漫画での人気が高まるほどに二次創作なども流行ったりしたが、共通することとしてゲーム感覚で扱えば痛い目を見るということだ。
彼ら、彼女たちは生物だ。それも人と交友できるだけの理性のある。
ペットだって一匹買うのにそれなりの準備や葛藤があるというのにそれ以上のものを何匹も連れ帰るというのは簡単なことではない。
「そう考えるとゲームで手持ちが6匹に満たないトレーナーが多かったのも当然だったのかもね~」
隣を歩くニンフィアを見る。
彼女*1の場合、体型は四足歩行の獣型であり、体長1メートルほどとやや大きい程度で家の中にも入れるし、食べるものも人と同じようなものだって食べることができる。
生態的に人に害を及ぼすようなものも持っていない、かなり人と生きやすいポケモンだと言える。
強いて言うならばリボンのような触手で相手の気持ちを知ることができるという生態から悪感情を持って接すればあっという間に嫌われそうだが、そもそも悪感情で接すれば大半のポケモンはトレーナーを嫌うだろうからあまり関係無い話。
だがこれが例えばマグマッグのようなポケモンならどうだろう。
全身から超高熱を発しておりまず普通の家では出すこともできない。
仮に熱を抑えることができたとしても今度は火山地帯のような猛暑でなければ体が冷えて動けなくなり、マグマで体を暖めなければならないという。
果たしてこんなポケモンは一般で飼えるのか。
ゲーム時代、例え水上であろうとマグマッグで戦うことができた。
だが現実にあれをやれば一瞬で海に落ちて動けなくなる、最悪死んでしまうかもしれない。
つまりそういうことなのだ。
ゲームの中でポケモンはポケモンというデータ以上の存在では無かった。
どんなポケモンでも手持ちに入れば何の世話も必要無く、どれだけ時間が経とうと何の問題も起きない。
ボックスに入れっぱなしで何カ月も忘れていても出した時には元気に動いてバトルしてくれる。
ゲームにはそこまでのリアリティは必要無かったからそんな要素は削られていた。
だが現実にはポケモンは生物だ。
ゲームの時のように気軽にポケモンを捕獲していれば……後の惨事は推して知るべし、といったところか。
カナデとしてはこの世界を楽しむことが最上の目的だ。
そしてポケモンの世界なのだから当然ポケモンバトルは欠かせないとは思っている。
だがゲーム時代のように軽々しく大量のポケモンを捕獲することは……少なくともアニポケ*2のように預け先を確保するまでは無理と考えるべきだろう。
ニンフィアのような一般人でも世話の可能な範囲のポケモンで手持ちの上限である最大6匹。
取り合えずそれを前提に考えるべきだろう。
「うーん、必要なら家の庭も改修しないとね~」
因みにポケモンを捕獲するならモンスターボールが必要だがこれに関しては家に普通にあった。
自分の部屋の机の中に10個くらいはあったのでありがたく使わせてもらうことにした。
記憶の中の知識に寄ればポケモンGO方式というか、投げたボールが当たった場所によって捕獲率が変わるらしいのでトレーナーにとって投擲技術というのは割と重要らしい。
「うん、行けそうかな」
空のボールを一つ持って投げるイメージをしてみれば、何となく行けそうな感じがあった。
そんな風に投げる練習をしているとニンフィアがボール遊びと勘違いしたのかじゃれついて来るので仕方ないなあっと苦笑*3しながら一緒に近くの草原まで移動し、取ってこいとボールを投げる。
「フィ~ア♪」
楽しそうに笑みを浮かべてボールを追いかけるニンフィアを見ながら可愛いなあ~と頬を緩ませる。
やがてボールを咥えて戻って来たニンフィアがもう一度もう一度とせがむのでついついもう一度ボールを投げて……。
―――この後一時間近く遊び倒していたことをここに告げておく。
* * *
ニンフィアと遊んでいる間に気づけば昼近くなっていた。
若くなった肉体がぐうぐうと腹の音を響かせ空腹を告げたので一度戻ってニンフィアと昼食を済ませてまた出かける。
午前中に思ったより地図埋めが進まなかった*4ので午後からは心を入れ替えて真面目にやることにする*5。
「と言っても平地は変わらない風景だよねえ。出てくるポケモンもだいたい同じようなのばっかだし」
自宅の周囲は平地だ。正確には田舎町の入口にあたる場所。
だから少し歩けば車の行き交う道路が普通にある。
そしてそちらとは逆方向へと進むと川や畑と田んぼが広がる盆地へと続く。
そして盆地ということで盆地を囲うように新緑深い山が広がっている。
どこか懐かしい感じのする田舎風景。
「イズミマチタウンだっけ……? 町とタウンで被ってない? っていう以前にポケモンの世界にそんなの無かったよね」
少なくともゲームやアニメでそんな名前の町は無かったはず。
さらに言えば。
「そもそもこの辺の地域の名前『ヒロシマ』らしいからね。完全に広島だよね……それに列島の形が完全に日本そのものだし」
タウンマップは大雑把な周辺の町の地図、さらに範囲を広げた『ヒロシマ』周辺の地図、そして『ヒロシマ』含め四つの地区を複合した『チュウゴク』地方の地図が載っていた。
問題はその『チュウゴク』地方の形なのだがまんま日本地図の中国地方と同じなのだ。
しかも地方地図の南のほうには四国らしき島が、西には九州らしきもの陸地が書かれていた。
ゲーム世界における九州地方は『ホウエン』という名で出ていたはずだが、その『ホウエン』地方と全く形が違う……九州の東端そのままの形なので恐らくこの世界の地形は元の世界のそれと一致しているのだろうと予想している。
ただし元の世界と異なり『都道府県』という括りが全て『地区』という名称に置き換わっている。
『市』はシティに『町』がタウンとなっており、『村』にいたってはそのまま村、或いはビレッジと称されているようだった。
シティだのタウンだのの名称がゲームと被るせいでやや認識がややこしいが。
『地方』>『地区』>『シティ』>『タウン』>『村/ビレッジ』という順になっているようだった。
つまり現在地を明確にすると『チュウゴク地方ヒロシマ地区サヤマシティのイズミマチタウンオウシロ村』ということになるらしい。
「というかこれってやっぱりそうだよね?」
ポケモンの世界に置き換えられてしまっていて最初は気づかなかったが、こうして歩いているとやはり違和感があった。
何度もタウンマップと現実の風景を見比べて、こうして地名を見てようやく気付く。
「ここってボクちんの故郷、だよね?」
ここが元の世界における『カナデ』の大本となった人間の故郷であると。
「まあだからなんだって話なんだけどね~」
それに気づいたところで、何か変わるかと言われればぶっちゃけそんなに、というのが正直なところ。
とは言えそれに気づけばことで多少なりと土地勘のようなものが生まれたのは確かだ。
「てことはやっぱり山のほうに行かないと何も無さそうかなあ……」
もしこの場所が自身の故郷と同じような地理なのだとすれば山の途中に貯水用の小さなダムがあったはずなので、その辺りまで行けば何か変わってポケモンでも見かけることができるだろうか。
そんな期待を抱きながら山道のほうへと足を向けた。
* * *
山と一言にいえど実際のところ麓のあたりは普通に開発されていて結構民家などが立っていたりもする。
ただ自宅周辺の平地とは異なり、確かに山に近いのでその分だけ道の脇に木々が多い茂って陰を作っていたりする。
植物が多いせいかキャタピーやコロトック、コフキムシなどの『むし』タイプのポケモンがちらほらと見える。
こうして歩いてみて思うのは、予想より野生のポケモンというのは大人しいものなのだということ。
ゲームでは初代からポケモンも無しに草むらに入ろうとすると大慌てで止められるシーンが多い。
つまりそれだけ野生のポケモンが人を襲うことが多いのだとと思っていたのだが、こうしてのんびり歩いていても襲われるようなことは一度も無い。
最もそれは出会うポケモンたちが大人しい性格だから、という可能性もあるが。
「それともキミのお陰なのかな~?」
「フィア?」
或いは隣を歩く彼女の存在がカナデを守っているという可能性もあるかもしれない。
しかしゲームで行っていた野生のポケモンバトルというのはもしやああしてこちらを見ても何もしてこない大人しいポケモンに自分のポケモンをけしかけて無理矢理に戦わせることなのだろうか?
もしそうだとするとトレーナーってかなり業の深い職業なのでは?
そんなことを考えながら道を歩いていると。
がさり、と真上から木の葉が揺れるような音がして。
「ん?」
見上げたその先で。
「キィィィィィィィィィ!!」
木の枝から飛び降りながらキックをしてくる小さなポケモンの姿があった。
「え」
咄嗟の出来事に意識が反応できず。
「あっ」
「ブヒイイィ?!」
無意識が反応して突き出した拳が見事にカウンターとなってそのポケモン……マンキーを殴り飛ばしていた。
因みに何も考えずにカビゴンとか選んだプレイヤーは地獄見てます(食事量一日400kg)。
まあカビゴンは動かないからまだマシなんだが。あれが食べるもの求めて動き出したらポケモン界のイビルジョーになってしまう(
でも逆に野生のカビゴンって全然動かない癖にどうやって400kgも食べてるんだろう。
あとカナデくんの家には池とかあるけど、無い家はみずポケモン飼うのも苦労してる。
ほのおポケモン? 耐火加工してない家で出せると思うなよ???