ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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『エース』の価値

 

 

 

 座学が終わってジムの道場で実践形式の講習が始まるが、やはり人と同じ形をしているだけあって『かくとう』ジムの教えはハッサムに良く馴染んだ。

 正確にはただ同じ形をしているだけでなく、足を使って立ち、徒手空拳で戦うというのがハッサムの基本戦法だからなのだろう。

 

 まあそれを言うとそこにこん棒足しただけのオーガポンにもだいたい同じことが言えてしまうので、ジムから戻って習ったことを実践すればオーガポンもぐんと強くなってしまうのだろうが。

 

 とは言え、オーガポンはすでにかなりの高レベルであり、その可愛らしい外見や陽気な性格とは裏腹な野蛮なほどのパワープレイが体に馴染んでおり、それに合わせて最適化してしまっているのでやはりまだレベルの低いハッサムのほうがより技巧的な動きに馴染むことができるのは間違いない。

 

 それにハッサムとオーガポンでは覚えて欲しい動きが全く異なる。

 

 オーガポンに覚えて欲しいのは積極的に攻勢に出る動き。

 遊撃アタッカーとしていつでも飛び出して防御主体の相手を打ち砕く役だ。

 

 対してハッサムは絶対に一撃では落ちない守備的な動きだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()があるのでがっちり構えて相手の攻撃を受け流し、耐えて反撃の一撃を見舞うようなカウンター主体の動きだ。

 

 以前にも言ったが、この世界のポケモンバトルにおいて『エース』というものは必ず必要になってくる。

 

 『エース』の役割は相手の戦術を真っ向から打ち破ること。

 相手の必殺の戦術を受け流す、或いは耐えきって、流れを変える。

 だからこそ『エース』とは絶対に倒れないタフさと、相手の最強を真っ向から打ち砕く力強さが必要になる。

 

 実機時代には半ば理解しがたい概念だが、何せこの世界のポケモンバトルは()()()()()()()()()()()のだ。

 その上で()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正確には『交代受け』というのがほぼ成立しないのだ。

 

 ある程度以上慣れたトレーナーならば、相手が出してきたポケモンを見てから技を変える、というのは当たり前のようにやってくる。

 さらにお互いの姿の見えないゲームじゃないのだ。交代するためにポケモンをボールに戻す、という動作が必要になる以上は相手が交代するかどうかなんてトレーナーを見ていれば分かる。

 なので『とんぼがえり』などの『交代技』を使う以外の交代受けというのはほぼ成功しないし、何だったらその隙を狙い撃たれる。

 

 だからこの世界のトレーナーはあまり交代を多用しない。

 

 サポート寄りのポケモンなら、相手の隙を見て1積即バトン*1、のような動きを最初から仕込まれているのでトレーナーが指示するより先に自分の判断ですることすらある。

 

 ここで問題なのはゲーム時代のようなターン制ではないリアルポケモンバトルにおいて、行動1回=交代1回=技1回ではないということだ。

 先も言ったがプロトレーナーなどのサポート役のポケモンはある程度の技の組み合わせ(コンボ)を最初から仕込まれている。故に技と技の連携はスムーズであり、相手が目の前にいるのならばともかく、相手との距離がある状況では相手の行動1回の間にこのコンボを1回発動させるくらいは当たり前にやってくる。

 

 つまりこちらがひよって1度交代している間に相手のアタッカーと1積された状態で対面することになるのだ。

 『いかく』持ちなど、交代するだけでメリットがあるならばともかく、相性不利だけでサイクル戦を仕掛けると普通に負けるのがオチだった。

 

 これに見せあい無しという側面を合わせると『初見殺し』が横行するのが現在のプロだ。

 

 特に『相手に気づかれる前に必殺の状況を作り出す』ことがリアルポケモンバトルの基本である。

 

 実機で分かりやすく言うなら『はらだいこを積んだちからもちマリルリを生きたまま残す』ような状況。

 後はもう『アクアジェット』を連打してるだけで6タテだってできるようなそんなシチュエーションを一定以上のランクのトレーナーは全員が狙って来るわけだ。

 

 当然ながらプロトレーナーたちは1度見た戦術に関しては対策を打って来る。

 先ほどのマリルリの例でいうならタスキ持ちを入れたり、てんねん持ちで受けたり、或いは『ちょすい』でメタを張ることもあるかもしれない。

 

 そしてさらにメタを張られた戦術を囮にして初見殺しの新戦術を繰り出す。といういたちごっこがプロの環境というものだ。

 とはいえこれだって実機のレート対戦をやっていれば分かる通り、『出てきそうな相手にメタを張る』というのは結局ゲーム時代から変わっていないとも言える。

 

 ただまあ戦術の完成度はともかくどこもかしこも初見殺しが横行する環境なのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()というのは常に1枚持っておきたいのは当然の思考だろう。

 

 故に、『エース』である。

 

 どんな状況でも、覆しがたい劣勢すらも突破するためのトレーナーの切り札。

 どんな初見殺しにハマってしまった時でも切ることができ、流れを変える戦略の要。

 最も強く、最も信頼でき、どんな状況にも対応できるゼネラリスト。文字通りの最強が求められたのだ。

 

 

 * * *

 

 

「いやはや、注目されてるね」

 

 実践の講習が終わると講習に来ていた子供たちの大半は帰っていったが、講師の人の『かくとうジムらしい話を聞きたい人は残ってください』という言に従って自分を含め数人が残っていた。

 そして肝心の話の内容だったが『型の練習』だった。

 

 元の世界でも格闘技……特に『柔道』や『剣道』などの武道が分かりやすいだろうか。

 それぞれの技の『型』をなぞるような練習。

 それをトレーナーとポケモンが一緒になってやっている。

 

 そうして一緒にやっているとこれが恐らくこのジムにおける基本的な動きなのだと理解できる。

 

 そう、自分はこの動きを知っている。

 何せいつの間にか自分の後ろに座って何やら笑みを浮かべている男ととのバトルで実際に見た動きだったから。

 

「……ジムリーダーって暇なの?」

「そんなことは無いよ? でもまあジム挑戦者がいない日なら全く時間が無いってことも無いさ」

 

 肩を竦めて微笑するトクサに口をつぐむ。

 先もトクサも言った通り、周りからの視線が強い。それはまあジムリーダーがわざわざ来ているから……という理由ならトクサを追い払ってお終いなのだが、別にそんな理由では無く。

 

 前にも言ったがこの講習に来ているのはトレーナーになりたい、或いはなったばかりの子供たちが多い。

 要するに連れてきているポケモンというのも未進化の……それもその辺にコラッタだとかマメバトだとかトサキントだとか珍しくも無いポケモンばかりなのだ。

 で、そんな新人たちの中で1人だけハッサム出したやつがいるわけで……まあ当然目立った。

 

 オーガポン出してたらどうなってたのだろう、という好奇心はあれどもっと目立っていたんだろうな、と思いつつもまあどうでもいいかと切り捨てる。

 他人の視線でどうこうなるほど繊細でも無いし、何よりカナデの関心はどうすればハッサムをもっと強く育てることができるか、その一点に集約されている、

 だから他人のことなんて気にしていないし、トクサが茶化す言葉だってさして気にも留めていない。

 

「ねえ、これって遠距離からの技にどうやって対応してるの?」

「うん? まあそれはジムトレーナーに教えるようなことだからねえ。ほら、足運びが雑になってるよ」

「あ~うん、はい」

 

 余計な口を出して邪魔するだけなら追い払うのだが、時々まともなことも言うし、講師役のジムトレーナーが自分のことをトクサに任せて他の子供たちばかり見ているので必然的にトクサのアドバイスに耳を傾けるしかなかった。

 

「ていうかカナデはさ、ジムトレーナーになる気とか無い?」

「残念ながら無いね~」

「ほら、バトルで使える小技とか技術(テクニック)とか教えてあげれるよ?」

「興味はあるけどそもそもボクちんの手持ちに『かくとう』タイプって1体しかいないしね~」

「もう2,3体くらい増やさない? なんだったらジムの共用施設に預けることもできるし」

 

 さすがに勧誘しつこくない? と首を傾げる。

 

「手持ちはじっくり決めたいからそう簡単には増やさないかな~」

「よし、今ならうちの娘も一緒につけてあげるからジムリーダーとか興味ない?」

「だからまずジムトレーナーになる気が……ってなんかすごいこと言ってない?」

「僕もそろそろいい年だからさ、次のジムリーダーのことを考えないとダメなんだ」

 

 なんて言ってるがぱっと見だと19か20だ。どこがいい年なんだと言いたい。

 

「だからってなんだボクちんなのさ~。ジムトレーナーいっぱいいるでしょ?」

「あーうーん。そうなんだけどね」

 

 どこか困った表情のトクサに再び首を傾げる。

 

「そもそもイズミで良いんじゃ? トクサの娘なんでしょ?」

 

 そんな自分の言葉にトクサに笑みが固まる。

 何か不味いことだっただろうか、と考えるがけれど至って普通の発想のはずだと思う。

 何せ血縁だ。公認ジムとはいえど、元は非公認の個人所有ジムだったと聞いているので縁者がジムリーダー資格を取って後任になるのが妥当な線だと誰もが思うはずだ。

 

「イズミって普通に強いよね?」

 

 最初に出会った時、チンピラ未満な相手に囲まれていたがあれは数の差やトレーナーへの攻撃を警戒したからであってイズミのトレーナーとしての腕はそう悪いものではないと睨んでいる。

 何度となく出会っているし、共に行動したこともあるし、山の調査の際には実際にポケモンを動かしているのを見たこともあるので大よそ間違ってはいないはずだ。

 あとは順当に育ったイズミがジムリーダー資格を取って後任になる、そこに何の違和感も問題も無いと思われた。

 

 そんな自分の問いにトクサが一瞬バツの悪そうな表情をして、数秒言葉を止め、やがて諦めたように一つ息を吐き出した。

 

「そうだね、それが本来の筋だろう……でも僕はね、今のあの子を後任とはできない」

 

 躊躇うような様子で、けれどはっきりと不可能(できない)と断言する。

 その理由を問うてみればトクサが再び嘆息し。

 

「ジムリーダーの責任は重い。そして何よりジムリーダーには当然ながら『強さ』が必要になる」

 

 それはそうだろう、ジムリーダーとしてジム挑戦者の強さを試すのに肝心のジムリーダーがその辺のトレーナーより弱いですでは話にならない。

 何よりジムリーダーというのはプロトレーナーとしてリーグに参戦しているらしいのでプロトレーナーとして強さは絶対に必要だろう。

 

「イズミにはその『強さ』が無いって?」

 

 ああ、と頷くトクサに三度目首を傾げる。

 先も言ったが自分はイズミは決して弱くないと思っている。

 だからこそトクサの言葉には疑問を呈さずにはいられない。

 

「才能がないというわけではないんだ。勿論手持ちが弱いというわけでもない。うちのジムで長年修行していたし覚えも良い。だからさっきの言葉と矛盾するようだけどあの子は強い」

 

 ただ、たった一つ。

 

「あの子のパーティには『エース』というものが無いのさ」

 

 たった一つの欠点。

 

 でもそれは―――プロとしての致命的な弱点だった。

 

 

 * * *

 

 

「…………」

 

 扉に背を突きながら少女……イズミが顔を伏せる。

 聞いてしまった、というよりは聞かされたというほうが正しいことにイズミは気づいていた。

 父……トクサが人の気配に敏感なことを知っているから、だから父はわざとこのタイミングで、イズミがこの扉の前を通りかかるタイミングで話始めたのだろうことは予想できた。

 

 知っているのだ。当然のことイズミだって……本当は知っているのだ。

 

 プロトレーナーになるならばいつまでも『エース』が不在という致命的欠点は見過ごされないと。

 どれだけ手持ちのポケモンたちを鍛え上げようとも、今のままでは上を目指すことはできないのだと。

 そんなこととうの昔に気づいていたのだ。

 

 ―――それでも、そうだとしても……。

 

 決められない、決めることができない。

 共に育ってきた、共に修行に励んできた、一番の友達。

 『彼』を他に自分のパーティに『エース』はいないと、そう思っていたから。

 否、今でもその思いを捨てきれないからこそこんな無様を晒しているのだろう。

 

「……どこにいるんですか」

 

 呟いたその言葉に、けれど答える声は無く。

 

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

*1
1回補助技で能力を上げて、即座にバトンタッチで引き継いで交代。




例えばの話、実機の対戦だと相性不利なポケモンってよっぽど手厚く介護しないと真っ向勝負しても勝てないんですがこの世界だとテクニックで殴れば案外行けたりします。
つまり『ほのお』タイプ相手に殴り勝てるハッサムはこの世界だと存在します。

アニポケ見れば分かるんですが、ターン制が無いポケモンバトルにおいて交代受けというのはまず起きないです。今作には普通に交代技があるのでそれを使えば起きうるシチュエーションではありますが、当然これに関しても現実仕様なので交代に際しても連携の確認と練習をしておかないと無防備に飛び出して攻撃食らうので『きゅうしょ』にひじょーに当たりやすくなります。

というわけでこの世界交代受けというものは基本無いです。
あ、これ食らったらやばい、って思ったら後退しつつ攻撃を回避に専念、隙を見て交代するだけなので。
因みにボールでポケモンを回収する際には収納のための光が飛び出すわけですが、この光の射程は大よそ10メートルほどとなっています、つまりそこまでポケモン自身が戻ってこないとトレーナー側から回収、ができません。

さらに作中でも言いましたが、見せあいバトルじゃないので相手がどんなポケモンを出してくるのかは不明です。

というわけでどんな相手でも戦える『一番強くて一番信頼できる手札』が1枚欲しいわけですね。
大富豪のジョーカーみたいなものです。持ってると安心。ただし時々スペードの3で殺される。つまり相手がエースをメタってくる場合もある。

今作におけるポケモンバトルは『格ゲー』みたいなものですが、そもそもパーティ編成や戦術は『カードゲーム』みたいなもので、事前に手札をどれだけ揃えれるか、手札同士のシナジーやコンボを考えて、相手に有無を言わさず勝てる必殺のシチュエーションを作ることが重要になってきます。

そして同時に戦う相手全員に違う戦術を使うなんて無理なので、当然どこかで「使いまわし」が発生します。なのでプロトレーナーは戦う相手の戦術やエースの傾向などを事前にどこまで調べて対策できるか、というのも重要になってきます。この辺はガラルドールズでも同じような話してるけど、プロの領域まで行くとどうしてもこうなるよね、って話。
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