ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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現在手持ちの育成状況

・クワガタより絶対ハサミ要素多いのにハサミギロチン覚えないはさみポケモン

 

 当たり前と言えば当たり前の話だが、ゲームだった頃のポケモンにおいて進化することによる不調というのは存在しない。

 進化することによる性能上のデメリットというのは稀にあったのであえて進化させないということはあったが、進化したら言う事を聞かなくなっただとか、技が使えなくなっただとかそんなことはあり合えなかった。

 

 では現実では?

 

 ポケモンの進化というのは大概その外見が大きく変ずることになる。

 例えば手足の長さ、例えば翼が生えたり、角が生えたり、体の一部が大きくなったり。

 これがピカチュウからライチュウになるくらいの変化ならまだ良いのだ、何せ姿形はほとんど一緒で体の使い方、動かし方も全く同一なのだから。

 

 だがコモルーがボーマンダになるくらいの大きな変化があった時、果たしてポケモンは進化した直後から十全に体を動かすことができるのか。

 

 ―――答えは否である。

 

 当然ながら羽が生えたなら羽を動かす練習が必要になる。

 体のサイズが変わったなら変わった体の大きさに対する慣れが必要になる。

 なのでバトル中に進化してしまうとこれはもう大変だ。

 アニメのように決着の直前に進化して一発技をかわして退場、ならまだ本能で体を動かせるので誤魔化しは効くがまともに戦おうとするともうダメだ。

 

 分かりやすく言うなら格ゲーの途中にいきなりコントローラーが別物になるくらいの混乱を生む。

 

 どの操作がどの行動になるのか、それを知るところから始める必要がある。

 だからこそベテランのトレーナーたちはポケモンが進化したらまず体を慣らさせるところから始める。

 この辺はトレーナーの育成能力が問われるところであり、特に経験の蓄積の無い新人は苦労することになるらしい。

 

「なるほどなあ~」

 

 目の前で当たり前のようにオーガポンと格闘戦をしているハッサムを見やりながら先日『エイヒツジム』の講習の帰りに書店に寄って買ってきた育成のハウツー本を閉じる。

 オーガポンに攻撃せずにひたすらかわせと言ってあるので防戦一方ではあるのだがどちらかというとオーガポンのほうが余裕がありそうでハッサムのほうが苦しそうなのはつまりこれが原因なのだろう。

 

「はい、そこまでにしよっか」

 

 ぱん、と手を叩けばオーガポンが大きく跳び退りハッサムと距離を取るとハッサムが苦し気な表情で動きを止め、荒く呼吸をする。

 

「だいたい分かったよ、というわけでオーガポンはマンキーのほうお願いね~。ハッサムはちょっとボクちんとお話だよ~」

「ぽにお!」

 

 広い庭のこちらから少し離れたところでマンキーが独り拳法の真似事のようなことをしているのでそちらをさせばオーガポンが了解と片手を挙げて走っていく。

 そのまま2匹でスパーリングを始めるのを見届けると視線をハッサムのほうへと戻す。

 

「ハッサム、ストライクの時より腕が重くなってるのに振り回されちゃってるね?」

「ッサム!」

 

 図星だったのかハッサムが一瞬顔を上げるが、けれど言い返せずに再び俯く。

 まあこれに関しては予想してしかるべきだったことの1つと言える。

 ストライクとハッサムでは重量が大よそ2倍は違うわけで、さらに薄く鋭利な鎌を携えていたストライクの時よりも重い鋼鉄の鋏を携えたハッサムのほうが拳が重いに決まっている。

 

 さらに鎌という性質上振り抜くのが基本的な動作だったのに比べ、鋏状の拳をがっちりと握り突き出すのが基本の今はより拳の重さに振り回されやすい。

 

「というわけでボクシングでも習ってみる?」

 

 恐らくハッサムのスタイル的にボクシングは間違い無く馴染む。

 体型的には人間と大差無く、攻撃の大半が手を起点とすることになるのだから一番流用しやすい技術といえばそこになるだろう。

 ハッサムの前に立ち、両足を軽く開いて腰を半分落とし、両の拳を構える。

 

「これが基本姿勢ね。その上で右で殴る時は左足を前に、左で殴る時はその逆」

 

 基本的に2本足の生物というのは特に意識せずに真っすぐ立つと重心が腹のあたりにくる。正確には上半身と下半身の間というべきか。

 重い拳を振り回せばその勢いに上体が引きずられてしまうのはそのためだ。

 故に足を開いて腰を落とす、こうすると重心が下がって安定する。

 

「これで体を安定させて~。その上で拳を突き出す時はただ腕を真っすぐ伸ばせばいいってわけじゃないよ? さらに足と連動させる」

 

 人が力を込めて拳を振るう時、必ず一瞬拳を引いて、距離と溜めを作る。半ば条件反射のようなもので、そのまま突き出す拳に力を込めるのは限界があるが故にこの動作は必ず、と言って良い。

 この動作の際に前に出した足にきゅっと大地を踏みしめて溜める。

 

「溜めたほうとは反対の足を蹴りながら一直線に拳を捻じ込む、と?」

 

 ぶん、と突き出した拳がハッサムの顔の前で止まる。

 この『カナデ』の肉体はポケモン世界仕様なので寸止めした拳の衝撃ですら一瞬風が吹くほどの速度が出ていた。

 

「距離を近づけて殴り合う時一番重要なのはこの足の動きだね~。上体は構えたまま固定して足だけとにかく動かす、これ大事ね?」

 

 意外と知られていないがポケモンでも人型だと利き腕というものが存在する。

 力を込めやすいほうだったり、特に決め技というものを持っているポケモンはだいたい同じ態勢から技を放ちたがる。

 ハッサムの場合、オーソドックスな右利きだ。だから立ち回りも必然的に右の腕から強力な技を放つことになる。

 

「ただし左は左で利点があるんだけどね~」

 

 まあそれはもっと体の使い方に慣れてからの話だ。

 ストライクの時は基本的に鎌を振り上げて薙ぐというシンプルな戦い方であり、羽ばたきで速度を補ったスピードアタッカータイプの戦い方だったが、今は重量は2倍となり堅牢な鎧のような甲殻に覆われた重装甲タイプのアタッカーだ。

 当然動き方から戦い方まで何もかもが今まで通りにはいかない。

 

 その不慣れは明確な問題として手元の図鑑に浮かび上がっている。

 

「まだ覚えない、なあ―――」

 

 こうしてせっせと拳の振るい方を教え込んでいるのは結局、たった1つの技のためだった。

 ゲーム時代ハッサムと言えば、と言われるほどの技。

 

 誰が呼んだかバレパンマン。

 

 ハッサムの代名詞のようにすら言われたその技の名は。

 

「―――バレットパンチ」

 

 どんな世代だろうと対戦でハッサムを使うならば採用率90%を超える、そして現実においてゲーム時代以上の強技となるだろう技だった。

 

 

 

・だが怒りが足りない

 

 一通りのことを教え終わり、独りでシャドーボクシングのようなことを始めたハッサムから離れてマンキーとオーガポンの様子を見に行く。

 

「ッキィ!」

「がおぽ!」

 

 やはりというべきか、両者のスパーリングはオーガポンが一方的に攻め立てるような展開になっている。

 これに関してはいくらオーガポンに手加減するように言ったところで根本的な能力差が違い過ぎるのが問題だろう。

 マンキーとて着実に強くなっているし、レベルに関してはすでに20半ばあたりまで到達しているのだろうが……それでも未進化のままでは限界はある。

 

 単純なレベル的な問題をいうならそろそろ進化してもおかしくないのだが……。

 

「進化……できるのかなあ」

 

 マンキーの進化系のオコリザルは名前の通り常に怒っている、と言われるほどのポケモンだ。

 進化前のマンキー自身もすぐに怒りだして暴れる、と図鑑説明に書かれるほどにキレやすいポケモンなのだが……。

 

「最近怒ったところ見た覚えがないんだよねえ~」

 

 最近、というか正確にはストライクをゲットするに至ったあの山の騒動、あれを解決して正式に手持ちになった頃からマンキーが安定してしまったというか、日常のちょっとしたことで怒り気味になったことはあるのだが、キレるというほどに怒ったことは無かった。

 

 薄々思っていたのだがうちのマンキー大分性格が良い……というか人が良い気がする。

 

 正義感が強いというか、紳士的というか。それ自体は良いことのように思えて、けれどその実マンキーという種族から見ると異端なのではないだろうか?

 果たしてこのままでオコリザルになった時どうなるのだろう?

 そもそもオコリザルに進化できるのだろうか?

 

 そんな疑問が自分の中で渦巻いていた。

 

 そうこうしている内にマンキーが追い詰められ、オーガポンのこん棒の一撃を受ける。

 何のエネルギーも込められていないので技ではないのだが、それでも脳天にこん棒を叩きつけられれば目を回すくらいはする……いやそれで済むのも大概な気がするが、ポケモンはまあ不思議な生物なので。

 

「こっちもこっちでどうしたものかな~」

 

 山で仲間だったゲコガシラが順調に強くなっているのでマンキーもやる気は十分あるのだが、やはり進化前という部分が足を引っ張っている感がある。

 幸い負けてナイーブになったりはしていないのだがそこで怒るでなくやる気を滾らせているあたりがやはり種族的には異常なのではないか、と思わずにはいられなかった。

 

 そのゲコガシラだが、こちらはまあ順調と言えば順調。

 本能にでも刻まれているのか、基礎能力を底上げをしているだけでどんどん忍者っぽい動きを身に着けている。

 どうも『みがわり』戦法が得意らしく、『みがわり』を起点とした動きはゲーム時代には無かった現実ならではの動きの数々であり、見ていて目から鱗が落ちるような気分だった。

 ただし『へんげんじざい』の特性を生かすためには色々なタイプの技を覚える必要があるので本領を発揮させようとするとどうしても『わざレコード』が必要になるのだが、現状だとログボ以外で入手する手段がほぼ無いのでログボ待ちとなっている。

 

 それとニンフィアとモノズだが、こっちはまあ何とも言えない感じだ。

 ニンフィアに関しては楽しいことを優先しがちなきらいはあるが特訓をサボるわけでも無く教えたことは素直に吸収するので助かっている。

 ただこちらも『わざレコード』などで技を調整する必要があるのでこちらはログボ待ちだ。

 

 モノズはニンフィアに振り回されている感はあるが、少しずつ成長はしている。

 レベルも上がってはいるし、そろそろバトルに出していってもいいかもしれない……。

 とはいえまだ信頼関係を築く段階だ。どうやら自分の匂いは覚えてくれたらしく最近は噛みつかれなくなった。毎食こちらが出した物も素直に食べるようになったし、そろそろ大丈夫かな、とは思っている。

 

 そんな順調と言えば順調な3体と比べて、残りの3体はどうにも順調とは言い難い。

 ハッサム、マンキーと連続でスパーリングを終えたオーガポンへと視線をやれば、良い運動になったと言わんばかりに晴れ晴れとした表情で満足気に頷くと庭の片隅で大の字になって転がる。

 

「ぽに!」

 

 お面を半分ずらし、寝っ転がって日向ぼっこをするのがお気に入りらしい。

 まあ『こうごうせい』も覚える『くさ』タイプのポケモンなので納得はできる。

 

 オーガポンに関してはもう言う事が無いというレベルだった。

 正確には現状では言えることが無い、というべきか。

 野生時代に磨かれた戦闘の勘、或いはセンスとでもいうべきか。さらに教えたことを即座に吸収し再現する柔軟性。2種の技を合わせて出すという掲示板のトレーナーたちの度肝を抜くような天稟。そして種としての圧倒的な強さと他の手持ちと比べて推定ダブルスコアに等しいレベル。

 

 完全にバッジの1つも持っていない程度のトレーナーが持っていていい領域のポケモンじゃ無かった。

 

 今の自分が教えれることは教えたし、それに即座に答えられてしまったせいでこれ以上の育成のしようがない。

 少なくとも他の手持ちたちがオーガポンと同じくらいまでレベルを上げるまでこれ以上のことを教えようがなかった。

 

「うーん、順調に行かないなあ」

 

 いや、寧ろこれ以上ないくらいに順調なのかもしれない。

 何せまだトレーナーとなって一か月と経たないのだ。順調過ぎるが故にトレーナーとしての引き出しが追いついていない感じがある。

 先日の『エイヒツジム』での講習会はその一助となるものではあったがそれとて結局新人トレーナー向けの基礎部分でしかない。

 

 他のトレーナーが何年、何十年とかけて積み上げてきたものが今の自分には皆無なのだ。

 

 マンキーのことだってそうだ。

 このままでいいのか不安には思えど、じゃあどうすればいいのか、その答えを持ち合わせていない。

 

「どうしたものかなあ……」

 

 なんて、考えて、ふと手元のスマホに視線を落とす。

 

「……ふむ」

 

 スレッドを開き、その一覧に目を通して。

 

「そういうのもありかな?」

 

 スレッドを作成する、そのボタンをタップした。

 

 




次回読者募集のクエストやります。
今回やろうと思ったけど思ったより文字数多くなったから次回から。
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