ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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クエスト名:合戦! ムックルVSオニスズメ①

 

 

 

 ゲームにおいて、ポケモンに体力という概念は無かった。

 HPというものはあったが、これはつまり『生命力』のようなものであり、実際0になった時に『ひんし』になる。

 ゲームにおいてHPと体力は似たような概念にされがちだが、現実において『HP』とはつまり『打たれ強さ』であり、体力とは『行動するための力』で別物だ。

 

 その上で。

 

 先も言ったが、ポケモンというゲームには『体力』という概念は無かった。

 『PP(パワーポイント)』という概念はあったが、これは現実において『タイプエネルギー総量』であり、体力とはまた別の概念であることは分かっている。

 つまり、ゲームにおいてポケモンはいくらでも運動し続けることのできる存在だったし、プレイヤーが注意するのはポケモンの『HP』と『PP』のみであり、それ以外にポケモンに対して『残量』を気にする必要のある数値は存在しなかった。

 

 だが現実におけるポケモンは生物である以上、技を使わなければ、技を受けなければ永遠に運動し続ける永久機関みたいな存在では当然無い。

 全力で走り回れば息を切らすし、丸一日運動し続ければ疲労でぐったりとして動きが鈍る。

 

 つまりゲーム時代と異なり『休息』が必要なのだ。

 

 まあそんなこと普段から一緒に暮らしているから分かりきっているのだが。

 だからまあ育成中に様子を見ながら時折休息を入れてやっていたのだが、毎日毎日特訓では疲労が抜けきらなくなるのも当然と言えば当然の話で。

 

「今日はもう一日休みにしよっか」

 

 と、朝食の席でそんなことを手持ちの面子に告げた。

 

 というのも他よりダブルスコアくらいレベルが高そうなオーガポンが他の面子の戦闘の相手をしてくれることで格上相手の戦闘経験を毎日のように積めるのは特訓の質を大きく引き上げてくれた……のは良いのだが、格上を相手にするというのは当然その分疲労も大きい。

 オーガポンをゲットする以前と比べて日々の消耗が大きく上がってしまっているのは気づいていたが、ここ数日の疲労を引きずるような様子を見て、さすがにそろそろオフ日を作るべきだろうと今日一日を休養日に設定することにしたのだ。

 

「分かってるとは思うけど、今日は体を休めてね~? ハッサムも、明日からまた特訓するから、しっかり疲労を抜いておいてね~」

「ッサム」

 

 人一倍練習したがりなハッサムに一応釘を刺すとハッサムが頷く。

 といっても強さへの渇望が人一倍強いハッサムが大人しく休養できるとも思えないので後で軽いメニューを組んで体を動かさせていたほうが良いだろう。

 

 他は……まあ他は基本素直な連中なので大丈夫だろう。

 

 それに折角の休養日なのだ。手持ちのポケモンたちと交流するのも良いかもしれない。

 

 なんてことを考えながら、朝食に手を付けた。

 

 

 * * *

 

 

 現代におけるポケモンバトルはトレーナー同士が手持ちのポケモンを戦わせる『競技』だが、その起源は人とポケモンのコミュニケーションの1つだったとされる。

 故にポケモンバトルにおいては『トレーナーとポケモンの絆』というのは重要になる……らしい。

 

 いや実際のところ『メガシンカ』や『きずなへんげ』など『人とポケモンの絆』が鍵となる現象は多くあるのだが、ゲームにおいてそれらはなんというかシステム的なものであり発動のために必要な道具、或いは条件を満たしてやれば誰でも使えた。

 なんだったらポケモンに第2世代から存在する『なつき度』という隠しパラメーターに加え、メガシンカ実装当時に存在した『なかよし度』なんてものもあったが、絆を鍵として起こすはずのメガシンカには一切関係無く、なつき度最低のポケモンだろうとキーストーンとゲットしてメガストーンを持たせればメガシンカできるというあまりにもシステム的処理のせいで『絆』とは一体……? となる有様である。

 

 そういうわけでプレイヤー視点からすると『絆』ってそんな大事なの?

 

 となるのもまあ仕方ないことなのかもしれない。

 自分の場合、単純にポケモンが好きだから、という理由もあるので仲良くなれるように努めてきた。

 そもそもこの世界は自分たちの現実なのだから元の世界の感覚でこの世界を見ているプレイヤーたちならばきっとそうしていると思うのだが、まあ掲示板を見ている限り未だにゲーム感覚が抜けないプレイヤーもいるもので、ゲームと同じ感覚でポケモンを扱っていたら虐待扱いされてジュンサーのお世話になったプレイヤーというのが数人だがいた。

 

 そうでなくともポケモンの扱いがよくないプレイヤーというのはそれなりにいるようで―――。

 

 だがこの世界を……この世界におけるポケモンバトルを知れば知るほどにやはり『絆』というのは重要になってくるのだ。

 

 

 * * *

 

 

 手持ちのポケモンたちの中で一番コミュニケーションの必要があるのは間違い無くモノズだと思う。

 というのも同じ未進化ポケモンたちの中でもモノズだけ明確に幼さがあった。

 別にマンキーたちが大人というわけではないが、人間で例えるなら他の手持ちたちは10歳以上くらいの精神性はある。要するにちゃんと会話ができる程度の知能はある。

 対してモノズだけはまだ5歳にもならない子供のような幼稚さがある。目が見えていないというハンデのせいか、それともゲーム的に言えば600族*1という種族のせいか。

 

 確かゲームにおいても600族というのは他と比べてもレベル上限にいたるまでに必要とする経験値が多かったのだが、必要経験値が多い、というのは現実的に言えば『成長性の遅さ』とも言い代えることができるわけだ。

 

 そんなわけで、未だ成長が遅く幼いモノズだがどれだけ幼かろうが未熟だろうが『ドラゴン』タイプなのだ。

 本質的には狂暴な本能を宿しているし、進化系を考えればなおさらである。

 

 そういうわけで日々マメにかまってやることでようやく『敵ではない』ということは分かってもらえていると思う。

 ただ家族として一緒に過ごすならばそれでも良いような気もするが、一緒にバトルをするならばここからさらに『仲間である』という認識を持ってもらわなければならない。

 

 未だに野性味が残るモノズだがニンフィアが一緒にいると本能的恐怖からか大人しくなるのでこれまではセットで扱ってきたが、バトルをするならばニンフィアもいつまでも連れそうことはできない。

 

「今日はいい天気だね~」

 

 そういうわけでニンフィアをボールに収めた上で、モノズと共に散歩にでかけることにする。

 といってもモノズは周りの様子が見えず危ないので首輪とリードを買ってきてそれを装着してこちらで引っ張りながらにはなるが。

 

「でもすごい力だね~」

 

 散歩中に何にでも噛みついて確かめようとするのであっちにこっちにとリードが引っ張られるのだが、さすが未進化であろうと『ドラゴン』タイプというべきか、リードを引く力が凄まじい。

 まあそれでも元の世界ならともかく、この世界仕様の体ならば普通に抵抗できるのだが。

 

「お~なんか鳥ポケモンが飛んでるね~」

 

 あちらこちらと駆けまわるモノズに引っ張られながらもふと空を見上げれば鳥ポケモンが数匹羽ばたきながら山へと向かっていくのが見える。

 犬の散歩でもしているような光景、この世界のポケモンの扱いを考えると人によっては顔を顰めそうではあるし、内心ちょっとなあとは思っているのだが下手に通りがかりの人にでもモノズが噛みついたら割と惨事になりかねないので致し方ない面もある。

 

「もうちょっと成長してくれれば……大丈夫なのかな?」

 

 ゲームの時、図鑑にどんなことが書いてあってもポケモンとはデータ以上の存在では無かった。

 モノズはレベルを上げれば進化してジヘッドになったし、その間に必要なのはバトル、或いは経験値を獲得するアイテムであってゲームの中で操作キャラがモノズをどのような扱っているかの描写は無い。

 けれどもしかするとゲームの中の主人公たちもこんな苦労をしていたのだろうか、そんなことを考えて苦笑した。

 

 元の世界でもペットの飼い方というのは割とネットでも調べれば簡単に見つかる情報ではあった。

 この世界でも似たようなものでポケモンの生態、共に暮らす際の注意点などは結構簡単に見つけることはできる。

 ただしその大半が『大人しく』『懐きやすく』『飼いやすい』類のポケモンだった。

 要するに『ドラゴン』タイプなどのポケモンは普通の人間が一緒に暮らすには不向きなのだ。

 

 それでもポケモン図鑑にモノズの生態についてある程度は調べられ、書き記されてはいるので情報はある、あるがその成長過程なんていう実際に育ててみないと分からないようなことはほとんど書いていない。

 図鑑はあくまで『生態』を書いているのであって『飼育』のやり方ではないのだ。

 

「ゲームで『ドラゴン使い』っていたけど専門にしないとダメなわけだよ……」

 

 元の世界の価値観でいうなら野生のライオンの子供を飼いならすような所業だ。

 懐かせるのも一苦労、相手は肉食獣なので常に危険を孕み、そして育てたところでしっかり躾ておかなければ成長した肉食獣を抑え込むのも苦労する。

 

 だが元の世界と大きく違うことは育てたその巨大な力のぶつけ場所があることだろう。

 

「一度ポケモンバトルに使ってみるべきかな?」

 

 調べた情報だが『ドラゴン』タイプというのは基本的に他よりも闘争本能が強いらしい。ポケモンバトルによって成長性が加速したり、というのも期待できそうな話だ。

 まだ幼いから、と思っていたが寧ろ戦わさなければ成長が鈍化してしまうという可能性もあるかもしれない。

 

 この世界に来て思ったが、ポケモンとは本質的に『戦う』存在なのだ。

 

 どれだけ表面的には穏やかな表情を見せていても、内面においてギラギラとした闘争心を滾らせた存在。

 あの気ままなニンフィアですらバトルの際には表情を変える。陽気で楽しいことが大好きなオーガポンがバトルを見て本能的に求めたように。

 

 ―――ポケモンとは一番根っこの部分で『バトル』することを求めている。

 

 とカナデは思っている。

 それが正解か不正解かは知らないけれど、モノズに対してちょっと過保護だったかもしれないと認識を改める。

 

「ねえ、モノズ」

「ノズ?」

「キミもみんなとバトルする?」

「??」

 

 良く分かって無さそうなモノズにくすりと笑みを浮かべ、その頭を撫でる。

 最初はごわごわとした毛並みだったそれもニンフィアと一緒にトリートメントをしたお陰ですっかりさらさらとした手触りの良いものとなっていた。

 

「ま、その時はちゃんと見てあげてね? お姉ちゃん(ニンフィア)?」

 

 腰に1つ下げたボールに語り掛ければ、かたり、とボールが揺れた。

 

「はてさて、最初はどこがいいかな~?」

 

 なんて、思いながら顔を上げてふと空を見やればまた鳥ポケモンたちが羽ばたきながら山へと向かっていた。

 

「なんか今日は多いね?」

 

 そんな疑問が解消されたのはモノズを連れて家に戻ってからのことだった。

 

 

 * * *

 

 

 トレーナーであるカナデから突然の休みを告げられてマンキーは少しばかり悩んでいた。

 というのも元は野生のポケモンだったマンキーなので外敵を警戒する必要もない場所でのんびりと過ごすというのはいまいちしっくりこなかったのだ。

 野生の時も確か自分たちの小さなナワバリがあったし、そこなら比較的安全ではあった。

 それでもいつ敵が来るかもしれないという一抹の緊張はあったし、完全に気を抜いていい場所なんて山のどこにも無かったのだ。

 

 その点をいえばケロマツ……今はゲコガシラとなった仲間の彼は気の抜き方が上手かった。

 野生の時から呑気そうに池のほとりで寝っ転がっていた姿を思い出しながら自分にはできそうもないな、と考える。

 今も姿は見えないが多分独りでゆったりとしているのだろう。

 対して基本的にマンキーは体を動かしていないとうずうずしてしまう性質だったので、大人しく休む、ということができそうもなかった。

 とそこまで考えて、そういえば自分とは別のベクトルで大人しく休めそうにないだろう仲間の存在を思い出す。

 

 探してみれば庭に普通にいた。

 

 そうして案の定というべきか軽い素振りをしていた。

 右の拳を突き出し、左を突き出し、という基本的な動作の繰り返し。

 ポケモンからすれば決して負荷の大きいわけではない単純な動作の繰り返しだがやっている当人……当ポケのハッサムからすれば真剣そのものな眼差しに邪魔したらダメだな、とマンキーの善人……善ポケ気質な部分が囁いた。

 

 他の仲間たち……ニンフィアとモノズはカナデと共に出かけて行ったし、オーガポンは庭の片隅で土いじりをしている。良く知らないがカナデに許可をもらって花か何かを植えているらしい。

 

 どうしよう?

 

 自分だけ何もやることが無いマンキーは悩む。

 悩んで、悩んで、悩んで……そうしてふと思い出す。

 

「キィ!」

 

 そうだ、山に行こう。

 すでに自分たちがあの山から去って2週間以上が経つわけだが、かつての仲間たちが元気にしているのか、気になってしまっていた。

 すでにあの山を荒らしていたストライクは去りハッサムとなって自分たちと共にいるのだから、すっかり平和を取り戻しているはずだ、とマンキーはオーガポンに一声かけて出かける。

 

 そうだお土産でも持っていくか、と庭になっている『きのみ』を一抱えほど持つと、楽しそうに山への道を歩き始めたのだった。

 

 

 

*1
各世代で1~2種だけ実装される2回進化すると種族値合計が600になる対戦で使用できる、かつ複数手に入るポケモンの中では最強クラスのポケモンの総称。




今回から以前募集したクエストを出していきたいと思います。
まあそのままにするとネタバレ全開になるので多少変更はあるかもしれないけど。
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