ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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クエスト名:合戦! ムックルVSオニスズメ②

 

 

 いつの時代もそうだが、戦いにおいて数の差というのは最も重要な差になる。

 トレーナーと出会い、随分と強くなれたとマンキーは思っていた。

 同じトレーナーの仲間たちを見渡せばさらに上がいるとしても、かつて山で生きていた頃と比べれば雲泥の差なのは確かで。

 

 だからそれはある種の傲慢だったのかもしれない。

 

 それとも危機察知能力の衰えという野生としての退化だったのだろうか?

 

 否、きっとどちらでも無く。

 

 ただそれはマンキーがマンキーだったからこそ、起こった事態に過ぎない。

 

 山の地肌の感触を味わいながら、悔しさに身を焦がしながら。

 

 『ひんし』寸前まで追い詰められたマンキーは、それでも拳を握り、よろよろと起き上がる。

 見上げれば山の木々を縫うように飛び回る鳥ポケモンたちの群れ。

 地べたを這うマンキーのことなどまるで気にかけた様子も無く、いがみあう群れと群れのぶつかり合いに、声をあげたマンキーにけれど気づく様子すらも無く。

 

「キィィィィ……」

 

 ちくしょう、とでも言いたげに、マンキーが拳を振り上げ……力尽き、崩れ落ちた。

 

 

 * * *

 

 

 ―――経緯としてはそれほど難しい話ではない。

 

 つい数週間前まで山にはストライクという頂点が存在した。

 正確にはストライクはナワバリを持たないが故に山の頂点というのは少しおかしい気もするが、少なくともストライク以外の全てのポケモンたちがストライクの存在によって抑圧されていたのは事実だ。

 

 だがそのストライクはトレーナーの手によって捕獲された。

 そしてそのままストライクは山に戻って来ることは無かった。

 

 1日、2日と時間が経つにつれてその情報が山に巡るとこれまで抑圧されていたポケモンたちがストライクによって半ば奪われていた自分たちのナワバリへと戻って来た。

 

 ここで問題になったのは情報の伝達速度の差だ。

 

 最も早く情報を知ったのは空から俯瞰して山を見ることのできる鳥系のポケモンたちだった。

 ストライクが捕獲され、トレーナーによって連れていかれたことを知った彼らは即座に元のナワバリを取り戻しに動き出す。

 空を飛び、山の木々を超えてそして誰もいなくなった頂上付近を見てふと思うのだ。

 

 ―――今ならもっと良いところにナワバリを作れるのでは?

 

 何せストライクが暴れ回ったせいで山の頂上付近からはポケモンたちが次々と逃げ出し空白地帯となっている。

 つまり今頂上付近におけるナワバリは完全にリセットされており、ここから早い者勝ちとなるのだ。

 元のナワバリに愛着が無いわけではないが、それはそれとしてもっと良い場所が確保できるのならばそちらが良いに決まっている。

 そう考え彼らは動き出す。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もうこの時点で次の行動は決している。

 彼らが譲り合うことは決してない。

 何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自然界においてそれはこれから先、ずっと相手に譲り続けることになることを意味する。

 

 なによりここで引けば群れのリーダーとしての資質を、信頼を失う。

 

 群れの頂点であることはある種のセーフティである、下剋上されればあっという間に立場を落ちる。

 次の頂点によって徹底的に貶められ、権威付けのための一助にされる。

 故に互いの群れのリーダーは隙を見せるわけにはいかなかった。

 

 だからこそ争いは必定だった。

 

 こうしてムックルとオニスズメの群れの激しいナワバリ争いが始まった。

 

 

 * * *

 

 

 まあそうなると困るのはその周辺のポケモンたちだ。

 飛ぶことはできない……例えばマンキーたちのように素早く山を移動できる獣系のポケモンたちは鳥ポケモンたちの次にナワバリを求めてやってきた。

 鳥ポケモンたちと獣ポケモンたちでは生息域が微妙に異なるのでバッティングして争いになることは無かったが、それはそれとしてナワバリの近くでバチバチに争われているのも困る。対岸の火事というにはナワバリの距離が近すぎて、争いの火がいつこちらに延焼してくるか分かったものでは無い。

 

 まあそれでもそのうち決着がつくだろうと楽観視していたのも事実なのだ。

 

 元よりレベル20にも満たないストライクに逃げまどっていた程度の群れだ。

 結局どちらも弱小勢力なのは間違いなく、酷くなる前にはいい塩梅のところで引き分けるか妥協しあうことになるだろう、と。

 元よりストライクが来る以前から山はそんな場所だったのだ。

 

 そう、きっとそのままならば彼ら山のポケモンの予想通りになっていたのだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 単純な個々の強さでいえばオニドリルたちのほうが強く、ムクバードたちのほうが劣る。

 だがムックルという種はとにかく数が多く、弱さを数で補う種であるが故に個々の強さで押しきれない手強さがあった。

 故にここで両者の優劣はつかなかった。

 

 鳥ポケモン同士の争いにおいて舞台は常に空中戦となるが故に、速度、高度、そのどちらもが重要となる。

 単純な速度ではオニスズメという種のほうが速い。元よりナワバリを猛スピードで飛び回る種だ。

 だがムックルという種のほうが力が強く、何より高く飛べる。

 ここでもまた優劣はつかなかった。

 

 元より互角の戦いを繰り広げていたのだが、争いの中で強くなっていったのか、互いのリーダーが進化しムクバードとオニドリルになったことで争いはさらに激化した。

 群れの頂点の強さとはすなわち自然界においてはカリスマ性に等しい。

 それぞれの群れのリーダーが進化し、さらに強くなったことで他の群れが合流しだしたのだ。

 

 さらに数を増して行われるナワバリを賭けた戦いに、ついに周辺のポケモンたちも悲鳴を上げだした。

 

 そしてちょうどそんな時にマンキーが山にやってきてしまったのだ。

 

 元よりそのマンキーは山の中で何かと世話焼きのお人よしで知られていたし、ストライクが暴れていた時に助けられたポケモンもそれなりにいた。

 そんなマンキーが土産にときのみを抱えて山にやってきた時、ナワバリ争いに困っていたポケモンたちがマンキーに助けを求めたのはまあ自然な成り行きだったのだろう。

 

 ―――そして頼られてしまえばマンキーが断らないのもまたマンキーのこれまでからすれば当然の成り行きだった。

 

 かつてケロマツが危惧しながらもけれど否定できなかったそのマンキーの性からすれば、その結果は決まっていたようなものだ。

 山頂へと向かい、争いあう両の群れに訴えかけるマンキーだったが、そんな声に耳を傾ける者たちはいない。

 それでも即座に暴力に訴えないのがマンキーの善性であり、同時に種としての歪さでもあったわけだが、何度も訴えかけていれば『邪魔だ』とばかりに両の群れの一部に攻撃を受けた。

 

 『かくとう』タイプのマンキーからすればそんな小鳥のようなポケモンたちの『つつく』攻撃ですら何度も受ければ大ダメージとなってしまう。タイプ相性の差というのは多少のレベル差を簡単に埋めてしまう。

 自分は強くなったのだと自負していたマンキーだったが、それでも弱点タイプのダメージというのは簡単に耐えることのできるものではなく、4度、5度と続く鳥ポケモンたちの襲撃にマンキーは倒れ伏してしまう。

 

 もっとも『ひんし』となったマンキーにそれ以上追撃してくるものはいなかったが。

 元より邪魔だ、鬱陶しいと追い払う程度の攻撃であり、彼らの敵は正面にいる群れなのだから。

 『ひんし』となったマンキーは一緒に来ていた他のポケモンたちがそそくさと運んでいった。

 

 ―――ああ、ちくしょう。

 

 だからそんなマンキーの声なき声を聞く者はいなかった。

 

 

 * * *

 

 

 ―――マンキーが帰ってこない。

 

 夕暮れ時。山の向こうに夕日が沈む頃になってもたった1匹、戻ってこない手持ちに首を傾げる。

 散歩から帰った時にはすでにいなかったわけだが、オーガポンに聞いたところ庭の木から抱えるほどのきのみを採取してどこかへ向かったらしい。

 

「うーん、どこにいったのかな~?」

 

 抱えるほどのきのみを持って、となると単純にお弁当というよりはお土産とかだろうか?

 そんな土産を持って……マンキーの性格で考えれば誰かに会いに行った?

 

「山、かな~?」

 

 ストライクをゲットしてからご無沙汰だった山へと視線を向ける。

 元よりマンキーやゲコガシラはあそこに住んでいたのだし、マンキーは何かと世話を焼いていたらしいので知り合い、或いは友達なんかもいるのかもしれない。そんな彼らに会いに行った、と考えるのが一番自然な気がする。

 少なくともここ最近はバトルの練習漬けだったし、それ以前はサヤマシティを往復していたし、マンキーが他に知り合いを作っている時間は無かったと思う。

 

 ただ仮に山に向かったとして、随分と遅い。

 山への往復などポケモンであるマンキーならば4時間もかからないだろうし、オーガポンによれば朝から出かけていたらしいのでとっくに帰ってきていなければおかしい。

 

「山で何か起きてるのかな?」

 

 これで盛り上がり過ぎて時間を忘れていた、とかならまあ平和なのだが……。

 そもそも今日は一日自由と言ってあるので何時までに家に戻れとかあるわけでも無いのだが、それでももうすぐ夕食という時間になっても戻らないのはさすがにおかしい。

 

 仮に山で何か起きているのならば動くのは早いほうが良い。

 といってもあの山にそれほど強力なポケモンはいない……レベル20にもならないストライクが暴れ回っていたような場所なのでマンキーなら自力でどうにかできそうな気もするのだが。

 

「いやでも人が良いからな~」

 

 ころっと騙されたり、罠にはめられて身動きとれなくなったり、なんだったら話し合いで解決しようと無防備で攻撃受けたりしてるかもしれない。

 ちょっと心配になってきたので、同じく山出身のゲコガシラに頼むことにする。

 

「マンキーが山にいるっていう確信はないけど、一応見てきてもらっても良いかな~?」

「ゲコ!」

 

 元よりマンキーと一緒に暮らしていたゲコガシラだけに、力強く頷き、すぐさま動き出す。

 

「何事も無ければいいんだけどなあ」

 

 と言いつつ山へと視線を向ければ―――。

 

「いくらなんでもおかしい、か」

 

 山のほうへと飛んでいく鳥ポケモンを姿を見やり、山から逃げ出すように飛んで来る鳥ポケモンを見る。

 朝の散歩の時から思っていたが、山のほうへ飛ぶ鳥ポケモンと山から飛んで来る鳥ポケモンの数がいくらなんでも異常な気がする。

 

「それに……種類が同じなんだよね~」

 

 朝から今までに見て来た光景を思い出せば()()()()()()()()()()()()()()()()()()がそれぞれ似た種類ばかりというのは気になる。

 ここから山に何か起きていないかと見やるが、さすがに遠すぎて見えないが山の麓まで向かえば何か異常が分かるだろうか?

 

「ゲコガシラの報告待ち、というのもありだけど……」

 

 自身の勘が山で何か起きていると脳裏で警鐘を鳴らしている。

 となればマンキーがそれに巻き込まれた可能性は高いだろう。なんとも人が良いポケモンだ、なんだったら誰に頼まれることなくとも自分から首を突っ込む可能性だってある。

 

「行くしかないね~」

 

 そう呟いた瞬間。

 

 ぴろん、と電子音が響く。

 

 以前も聞いたその音に、まさかとスマホを取りだせば『クエストが更新されました』の一言。

 思わず眉をひそめながら内容をタップし表示する。

 

 【クエスト】

 『山の暴れん坊を止めろ!』clear

 『好奇心旺盛な鬼さま』  clear

new『合戦! ムックルVSオニスズメ』

 

 

クエスト名『合戦!ムックルvsオニスズメ』

発生条件:『森林地帯』或いは『山岳地帯』で複数のポケモンの群れが交戦状態にある。

①森林探索中に遭遇、もしくは地域の住民から情報入手で発生。

②どの勢力で参戦するかを選択する。

A:ムックル側で参戦

B:オニスズメ側で参戦

C:第3勢力で参戦する

  ┗※高難易度

③????

 

 

「……なるほどね~」

 

 ややネタバレ気味ではあるが、別にこの世界はゲームじゃないので寧ろありがたい。

 恐らくゲコガシラを向かわせたのが①に引っ掛かったということだろうか?

 いやまあそれはいいとして。

 

「これマンキーやられたね?」

 

 レベル的にこのあたりのポケモンなら大丈夫、とか思っていたが最悪『ひこう』タイプに袋叩きにされたら無理だ。

 いや実際にそこまでやられているかは分からないが、現に今に至るまで戻ってきていないということはつまりそういうことなのだろう。

 

 ―――理解したなら早く動くべきだ。

 

「いや~今日は休暇のつもりだったんだけどね~」

 

 ニィ、と口元が吊り上がっていくのを自覚する。

 朝からゆったりとしているお陰で手持ちたち全員の気力は大分回復している。

 さすがの回復力というべきか溜まっていた疲労も抜けた様子。

 

「ニシシ、よし……じゃあ、かちこむか」

 

 遠くに見える山を見つめながら、早速準備を始めた。

 

 




リアルが大分忙しくて中々更新できないのが辛いね。残業と休出のオンパレードでなかなか疲労が抜けないわ。朝起きると足の裏がひたすらに痛い。俺にも休暇をください……。
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