ポケットモンスタージェネシス   作:水代

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クエスト名:合戦! ムックルVSオニスズメ③

 

 ケロマツだった時からそうだが、ゲコガシラは基本的に猜疑心が強い。

 他者を簡単に信じないし、疑り深く、人に言われたところで自分で確かめないと納得しないことも多々ある。

 けれどそれは結局のところ、大事なものを守りたいという思いの発露である。

 共に暮らしていたマンキーが特に善性が強く、他人を簡単に受け入れてしまうが故にあえて露悪的に振る舞うようなことも多かったと思う。

 

 だからこそ、一方的に攻撃に曝され傷ついたマンキーを見た時、ゲコガシラは怒った。

 それはマンキーを傷つけたポケモンたち、そしてナワバリ争いの仲裁にけしかけたポケモンたち、そして何より何度言っても簡単に安請け合いする人の良すぎるマンキーへの怒り。

 

 確かにその人の良さに自分だって救われたのは事実だ。

 猜疑心が強く、つっけんどんに振る舞っていたケロマツの心が開かれるまで根気強く一緒にいてくれたのは間違い無くマンキーの人の良さの現れだろう。

 

 だが、そうだとしても、その人の良さに付け込まれてマンキーが傷つくくらいなら……。

 

 そう思いつつ、けれど何を言ったところで変わらない……変われないのだろう、それもまた理解しているからこそゲコガシラは嘆息する。

 そしてひとまずマンキーの傷をどうにかしなければと考え、真っ先に考えたのは自身のトレーナーのこと。

 野生の時とは違う、自分たちの居場所、自分たちが守るべき相手、自分たちを導く人間。

 その存在を当然のように考えてしまっていた自分に気づいて、少しだけ笑ってしまう。

 

 出会ってまだ一月と経っていないはずなのに、気づけばその存在を当たり前にしていた。

 マンキーと2匹だけだったはずの世界に突然割り込んできて、いつの間にかそれが当たり前になっていた。

 なんだかなあ、と思いながらもそれを悪くないと思っているのも事実で。

 いつの間にか増えていた群れの数を数えながら、いつの間にか自分がその一員であったことを自覚した。

 

 

 * * *

 

 

「うへぇ、マジで~?」

 

 山の麓で傷ついたマンキーを背負ったゲコガシラと合流し、マンキーの治療の傍らで山の上で起きていることを聞く。

 朝からやたらと鳥ポケモンを見かけると思っていたが本当にナワバリ争いが起こっているとは……。

 まあクエストを見て分かっていたことではあるし、そのための準備はすでにしてある。

 

「ニンフィア、準備は良い?」

「フィア!」

 

 全身に『きずぐすり』を塗って寝かせたマンキーを心配そうに見つめながら横にちょこんと座るニンフィアに声をかければ、やる気満々といった様子で頷く。普段は呑気しているニンフィアだが、仲間がやられたとなれば話は別といつもよりキリリとした表情をしていた。

 

「ハッサム、行けるよね?」

「ッサム」

 

 ハッサム自身特別マンキーと仲が良いというわけでも無かったが、それでも家族……或いは同じ群れとしての認識はあるのか、マンキーがやられたことに苛立っている様子で自身の問いかけに2度、3度と拳を打ち付けながら頷く。

 

「モノズは……まだ分かんないよね」

「ンア?」

 

 まだまだ状況が分かっていないモノズに苦笑する。

 それでもマンキーが怪我をしているのは分かっているのか、スンスンと血の匂いを感じ取り、傷口から流れ出た血を舐めとる。

 噛みつくのではなく、舐めとる。それがモノズなりの癒し方なのだろう。

 

「オーガポン、悪いけど付き合ってくれるかな?」

「がおぽ!」

 

 一番最近仲間になったオーガポンだが、それでもその陽気で人懐っこい性格からかマンキーともすぐに仲良くなっていた。

 その仲良くなったはずのマンキーが傷つけられれば、オーガポンだって当然怒るのだ。

 ぶんぶんと『ツタこんぼう』を振り回しながら自身のあげた『かまどのめん』を付けたその表情こそがオーガポンの今の心境を良く表していた。

 

 ―――そして。

 

「ゲコガシラ」

「……ゲコ」

「許せるはずないよね?」

「ゲコ!」

 

 マンキーと一番古くから付き合い、一番仲が良かったゲコガシラが怒りに震えないわけが無かった。

 だから選ぶべき選択肢はすでに決まっていた。

 

「人の家の近所で派手に暴れてるはた迷惑な連中を全員ぶっ倒してマンキーの借りを返すよ?」

 

 喧嘩両成敗、つまり第3勢力ルートだ。

 

 

 * * *

 

 

 山の木々を潜り抜けるように飛び回るオニスズメとその上を取って飛び回るムックルの群れ。

 その群れの後方ではムクバードとオニドリルが互いの群れに指示を飛ばすかのようにギャーギャーと鳴き声をあげていた。

 すでに三日三晩どころか1週間以上戦い続けているらしいのになんで互いに全滅していないのかという疑問は目の前の光景が解消していた。

 

「なるほどね~『きのみ』かあ」

 

 どうやらムックルとオニスズメが取り合っているこの『ナワバリ』一帯は『オボンのみ』の実る樹が多くあるらしい。

 お陰で傷ついたら下がって後ろで回復して休んだらまた戦線復帰というサイクルが互いに出来上がってしまっているようだった。

 さらに戦ってばかりいるせいで互いの群れの平均的なレベルがじわじわと上がってきているらしく、このまま放置していれば群れのポケモンたちが次々と進化してさらにナワバリ争いが激化していくことは目に見えていた。

 

「というか意外とグループみたいなのあるね~」

 

 互いの群れの頂点は後方にいる『ムクバード』と『オニドリル』なのだろうが、それ以外にも最前線でとりまとめを行うリーダー的な存在が10匹単位で互いにいるようだった。

 後方にいる頂点とは別に小リーダーとでも言うべきか、それぞれが10~20匹ほどのグループを作り上へ下へと飛び回っている。

 

 とはいえあの乱戦の中に突っ込めばどれだけ強かろうと四方八方からタコ殴りにされて負けるのは目に見えている。

 故に前提として囲まれない立ち位置かもしくは相手にこちらから来てもらうことが重要だ。

 

「まあ、待てなんてできないよね~?」

 

 幸いにしてムックルとオニスズメのナワバリ争いに巻き込まれまいと周辺の他のポケモンたちの気配は無い。

 そのお陰で少し離れたこの場所から観察もできたわけだが、大よその両者の群れの強さも測ることができた。

 

「これなら行けそうだねえ」

 

 事前に想定した相手の強さから大よそズレが無いことに一度頷き、遠方よりこちらを覗く視線……ゲコガシラへ向かって大きく両手で丸を作ってサインする。

 

 ―――当初の予定通り、問題無し。

 

 それをゲコガシラに伝えれば何時もの呑気な様子は鳴りを潜め、剣呑な目つきをしたゲコガシラが大きく息を吸い、吐き出す息は薄黒い『えんまく』となって徐々に山の視界を狭め始める。

 夏場とはいえさすがに夕暮れ時ともなれば多少の視界の悪さもある。そこにさらにゲコガシラが吐き出した『えんまく』が重なってどんどん見通しが悪くなる。

 

 ゲームだと『相手の命中ランクが下がる』とかいう微妙に扱いに困る技だが現実にこれだけ濃い煙幕はバトル中のポケモンはもとより、それに指示を出すトレーナー……或いはリーダー格のポケモンにとっても事態の把握を困難とする。

 当然がだが煙幕に覆われた周囲にいるグループは途端に動きが悪くなり、戸惑ったように右往左往としだす。

 

「いいねえ、これ♪」

 

 互いの敵がはっきりと定まった通常のポケモンバトルではここまでの混乱は得られないだろう。何せ敵の妨害だと分かりきっているのだから。

 けれど今山を飛び回るムックルやオニスズメたちの視界にゲコガシラは入っていないが故に突如戦場を覆う煙幕に想像以上の動揺が広がっていた。

 

 当然真上に飛び立ち、煙幕の範囲から飛び出すものもいる。

 だが飛び出したところですでに肝心のゲコガシラは『えんまく』の中に潜り、煙幕が途切れないように技を使い続けている。

 どんどん悪くなっていく視界、だがゲコガシラにとって視界の悪さはそれほど問題にならない。

 元より暗い水中を自在に動くことができる『みず』ポケモンとしてゲコガシラは視界に頼らない感知ができる。

 逆に種として鳥目のムックルやオニスズメは視界を遮られては動けない。

 

 だから―――。

 

「来たね」

 

 襲来する数羽のムックル、或いはオニスズメ。

 戦場を攪乱するゲコガシラの存在を正確に見抜き、『えんまく』の中を逃げ回るその姿を煙に巻かれることも無く見据えるのはその『するどいめ』だ。

 元よりムックルもオニスズメも通常特性が『するどいめ』である以上、最低でも半数以上は『えんまく』の効果が薄いだろうと思っていた。それでも突如戦場に張られた煙幕は両の群れに動揺をもたらすことを期待したものだ。

 故に群れ全体が動揺し統率が崩れた現状ではすでにその役目は果たしていると言える。

 

 自身に襲いかかる敵の気配に気づいたゲコガシラが即座に技を中止して、迎撃の態勢を取る。

 

 一度に10匹近い数の敵が襲いかかるがけれど内実は敵対中のムックルとオニスズメが半々、それに『するどいめ』を持っていない個体は未だ『えんまく』の中で戸惑い、持っていても動揺して動けない個体もいる中でそれらはまさに烏合の衆とでもいうべきまとまりの無さでゲコガシラに襲いかかってくる。

 故に『みずでっぽう』でさらに攪乱してやればまるでバラバラのタイミングで攻撃してくるし、元よりゲコガシラのほうがレベルが高く、素早いのだから軽くかわしてその頭を『はたく』ことでけん制、隙をついて『うちおとす』ことで着実にその数を減らしていった。

 だがそうやってゲコガシラが敵の対処に手いっぱいになれば少しずつ落ち着きを取り戻す個体も増えて行き、そして元凶たるゲコガシラへと殺到してくる。

 いくらバラバラでも20近い数に襲いかかられてはさすがのゲコガシラも対処しきれない。

 

 故にゲコガシラにはニンフィアのボールを持たせた。

 

「フィア~!」

 

 迫りくる敵に向かってゲコガシラがモンスターボールのスイッチを押せば中から赤い光と共にニンフィアが飛び出し、目の前に殺到する数多くのポケモンたちへ向かって『チャームボイス』を撃ちだす。

 『チャームボイス』は距離としては5メートルも届かない程度の攻撃だが、音技という性質上、ニンフィアより前方に対して対象を面で攻撃できる。

 そしてゲコガシラへと向かって突き進んでいたムックルやオニスズメにそれを避ける術などあるはずもなく、突如発せられた強烈な音波に次々と撃ち落とされていく。

 

 ならばとニンフィアの背後から回り込もうとオニスズメが迂回するが、ゲコガシラがもう1つのボールを投げればそこから飛び出してきたモノズが匂いだけを頼りに目の前のオニスズメに『はりきり』ながら『かみつく』。

 食らいついたままオニスズメを地に落とすとぺっと吐き出すとゲコガシラがモノズをボールに戻す。

 目が見えないモノズだったが、けれどシンプルに出てきたら目の前に向かってかみつけ、とだけ言ってあるので後はゲコガシラが上手く位置を調整してやれば立派な戦力として運用されていた。

 

 ニンフィアが範囲攻撃で敵を落とし、そのニンフィアを襲う敵をモノズが倒し、できた隙に『えんまく』を撒きながら要所要所でゲコガシラがこのフォーメーションが崩れないようにフォローする。

 

「しばらくは大丈夫そうだね」

 

 3体の連携が上手くはまって簡単には崩れそうにないのを確認すると片手で残りのボールを握り、走り出す。

 すでに自分たちという第3勢力の介入によって状況は崩れに崩れている。

 あとは互いの群れの頂点……リーダー、或いはボスを倒せば自然とこのナワバリ争いは終息するはずだ。

 故にオニドリルとムクバード、この2体をそれぞれハッサムとオーガポンに1対1で倒してもらう、力で上下をつけてしまえば自然と統率も落ち群れの規模を縮小する、そう思っていたのだが。

 

「本当にやるの?」

 

 手の中のボール……その中の1つに問いかければ、かたり、とボールが1つ揺れる。

 

「ニシシ……いいさいいさ、その感情をボクちんは肯定するよ」

 

 呟き、揺れたそのボールをポケットの中に収める。

 

「じゃあ、先に頼むよ、オーガポン」

 

 走りながら前方に見える両者の群れが入り混じるその場所にボールを投げる。

 投げたボールから『かまどのめん』を付けたオーガポンが飛び出し、『ツタこんぼう』を振り上げる。

 

「がお!」

 

 威嚇するように声をあげれば、さすが野生のポケモンというべきか、オーガポンの秘める力の強さを本能的に察知したか否が応でも注目が集まる。

 そしてそんな視線を知ったことか、とオーガポンが暴れ出せば恐怖と畏怖が入り混じった大混乱が起きる。

 

「ゲコガシラが群れ全体を攪乱してくれた」

 

 さらに歩を進める。

 

「ニンフィアとモノズが全体の注意を引き付けてくれた」

 

 さらに歩を進める。

 

「群れをまとめるために両方のボスは嫌でも前に出ざるを得ない」

 

 さらに歩を進めて―――。

 

「その前線をオーガポンが引っ掻き回してくれた……だから」

 

 足を止める。

 視線の先、入り乱れた戦線から少し離れた場所を飛ぶ2体のポケモン。

 

 ムクバード、そしてオニドリル。

 

 自身の目から見て群れのポケモンたちよりも1つ跳び抜けた強さを持つ両者、間違い無くこの群れのボスだと断言できる。

 

 だから。

 

「頼んだよ、ハッサム」

 

 投げる。

 

「ッサム!」

 

 がつん、と両の拳を打ち付ければ金属音が響く。

 その音に気づいたのか、オニドリルがハッサムへと向き直る。

 

「それから」

 

 そうして自身は最後の1つとなったボールを片手にムクバードの元へと歩を進める。

 

「リベンジだよ、マンキー」

 

 投げたボールから小柄なシルエットが飛び出し。

 

 

 ―――そのシルエットが光に包まれた。

 

 

 全身が淡い光となってしまったかのように、ふわふわと光が浮かび上がり、その姿が徐々に大きくなる。

 その姿が2倍近く膨らみ、特徴的だったくるりと撒いた尻尾が短くなっていく。

 細かった手足が膨らみ、両の足が大地を踏みしめる。

 

 そうして徐々に光が収まった後、そこにいたのは―――。

 

「いや、やっぱり訂正」

 

 憤怒の表情を浮かべた1匹のポケモン。

 

「やるよ、オコリザル」

 

 そんな自身の言葉に。

 

「ブォォォォォォ!!!」

 

 オコリザルが咆哮で答えた。

 

 




お久です。お仕事かなり忙しめで中々更新できないからしばらく1月1回くらいで見といてください。
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