・呑気なケロマツ
ケロマツという種族は基本的に緩い。
いや正確に言えば弱い種族かつ呑気なやつら、という風に見せかけている、というべきか。
進化できればともかく、進化していないケロマツという種族は基本的にヒエラルキーの下のほうに位置するのが実情だ。
だからこそ自分たちをいかにも弱く、いかにも害のない存在であると見せることを生まれた時から叩き込まれている。
だが実際のところそれが見せかけでしかないことを大半のポケモンたちは知らない。
ケロマツというのは周りから見ているよりもずっと警戒心が強く、呑気に見せかけて油断なく周囲を伺っている種族だ。
それこそがケロマツという弱い種のポケモンが出した生きるためのスタイルだった。
―――だからこそ、そのケロマツは他のケロマツから疎まれていた。
そのケロマツは一匹だけいつも寝こけていた。
高いびきをかき、鼻提灯を作り、ぐっすりと眠りについていた。
皆が呑気を装い外敵への警戒を油断なく密にする中で、一匹だけ本当に呑気そうに眠り、まさしく安眠と言った様子でひがな一日ダラダラと過ごしていた。
他のケロマツたちが楽しそうに遊ぶのを装いながら神経をすり減らし安全を守っているのに、本当に一匹だけ何の苦労も無さそうに眠っているのだ。
なんだこいつ、と思われるのはある種当然のことだった。
それでも山が比較的穏やかな内はそれでも良かった。
周りに馴染まないケロマツを疎みながらも別に害は無いのだから放置していれば良かった。
だがそうも言っていられない事態が起こった。
山にとんでもなく強いポケモンがやってきて暴れ出したのだ。
当然ながらケロマツたちは大騒ぎである。
そして今までよりずっとピリピリした空気がケロマツたちの群れの中で漂い始める。
そのとんでもなく強いポケモンがこちらにやってきた時、一秒でも早く気付けるかどうかが群れ全体の明暗を分けるかもしれないのだ、誰もかれもが緊迫した空気の中警戒を厳としていた。
そして、そんな中で変わらずダラダラと過ごすケロマツが一匹。
いい加減にしろ、と突き上げを食らうのはある種当然だったかもしれない。
働かないなら出ていけ、と群れ全体から蔑まれ、そのケロマツは嘆息一つと共に群れを離れた。
遠くから近づいて来る災厄の気配を感じながら、それを告げることも無く群れを去った。
彼らは気づかなかったのだろう。
そのケロマツがダラダラと横になりながらでも他のケロマツよりも遥かに広い範囲を警戒できるだけの力があるのだと。
同じケロマツなのだ、眠りながらもけれどこちらに近づく敵意をケロマツは一度だって見逃したことなど無かった。
けれどそれを言わなければ誰にも分からないことだったし、元より群れの空気が肌に合わないケロマツはそれを誰にも言うつもりも無かった。
だからまあこの結末はある意味当然なのかもしれない。
一匹のケロマツを群れから追い出した後、突如来襲したポケモンに群れが散り散りとなったのも。
群れから追い出されたケロマツが、同じように群れに馴染めなかった一匹のマンキーと出会うのも。
これもまた偶然という名の運命だったのだろう。
・敵を知りておのれを知ればなんとやら
マンキーとケロマツに連れられて山をさらに登っていく。
というのもさすがに倒したい相手の情報を知らなければ何とも言えないからだ。
今得られている情報と言えば『強い』『山を転々としている』『手をぶんぶんしてる』『羽がある』くらいである。正直これで一発正解できたらそれはもう預言者か何かだろう。
というか手をぶんぶんしているのは情報としてカウントして良いのだろうか、と内心で首を傾げるところだ。
「結構遠いね~、ニンフィア、疲れてない?」
「フィーア♪」
時計を持ってきていないが体内時計でカウントするならすでに二時間くらいは山を登っている。これがコンクリート道路で整備された道ならばともかく整備も何もされてない素の山道、いや最早獣道である。
当然足元はぐらつくし、七月の午後の暑さに汗が止まらない。昼食のために家に戻った時に水筒を用意していなければ脱水症状にでもなっていたかもしれない。
まあ山も木々が深く木陰が多いので陽ざしはそこまできついものでは無いのだが、それでもこの暑さの中、延々と山登りさせられればさすがに精神的にきつくもなってくる。
隣をとことこと可愛らしく歩いてついてくるニンフィアに声をかけたが、さすがポケモンというべきかまだまだ元気そうだった。さっきの池で水を飲んでいたし、それもあるかもしれない。
ただ不思議なことにメンタル面ではいい加減辛いな、と思っているのだが肉体的な面で見ると実はそれほどだ。自分で思っていた以上に余裕があることに自分自身が驚いている。
だが同時に納得した。何故ならカナデが知っている基準は元の世界のおける自分の体だ。けれど今のカナデの肉体はこの世界で生まれ育った『カナデ』の体なのだ。
つまりこのポケモン世界産の肉体、と考えれば元の世界よりも全体的に身体能力が高いのだろ……多分。
アニポケにもスーパーマサラ人とかいたしね。*1
つまりボクちんも『オレに向かって10まんボルト』しても大丈夫ということに?*2
いや、ボクちんは痛いのとか嫌なのでやらないけどね。うん、まあ体が丈夫なのは良いことだと思うよ、うん。
そうして道中で休憩を入れてニンフィアを愛でてメンタルを回復させながら進むことだいたい一時間(体感)。
恐らく直線で登ればもっと早く着いたのだろうが、肝心のポケモンが山を転々としているせいでどこにいるのか分からず下手をすればもっと今登っている山と連なっている隣の山までさ迷っている可能性もあるためあちこちと見て回っている内にすっかり時間がかかってしまった。
だがその甲斐もあってか、ようやく目的地が近づいてきたらしい。
「ブキ! キキィー!」
「ケーロ……ケロ」
そこにたどり着いた時、マンキーとケロマツが何かを告げるかのように鳴き声を上げる。
ニュアンス的には多分着いた、や警戒しろ、といったあたり。
「うわあ……これは」
「フィア!」
目の前に広がるのはすっぱりと
それを見た瞬間、目的のポケモンの正体を理解する。
―――森の中でたくさんの木が切り倒された場所を見つけたらそこが縄張りだ。
ポケモン図鑑の説明で確かそんなことを書かれたポケモンがいる。
ここは森ではなく山だが、まあ同じようなものだろう。
あの腕を振るような動作はつまり、
手に鎌を持っていて、それでいて羽のあるポケモン。
そんなものポケモン多しと言えど一匹しかいない。
「ラアアアアァァッァ!」
木々の奥から一匹のポケモンが飛び出してくる。
緑がかった草木に紛れる保護色のような体。
虫というよりは爬虫類のような凛々しさすら感じる端正な顔立ち。
そして最大の特徴とも言える手があるはずの場所に伸びた両の鎌。
―――かまきりポケモンストライクが獲物を見つけた目つきでこちらへと飛び掛かって来た。
・三十六計なんとかかんとか
「逃げるよ!」
ニンフィアをボールに入れて、マンキーとケロマツを引っ掴んで走りだす。
ついでに去り際に傍にあったストライクが切り落としただろう木の幹を蹴っ飛ばしてやればなんか結構な勢いで転がっていき邪魔になっていた。
やっぱ身体能力上がってるな、と実感を得ながら下り道をすっ飛ばしていく。
ぱっと見た瞬間に思った。
―――あ、これ勝てねえや。
多分これもトレーナーとしての才能の一つなのだろうが、ぱっと見た瞬間にそのポケモンが秘めている強さのようなものが何となくわかる。
ゲームで遭遇した野生のポケモンのレベルが分かるのも同じような理論なのだろう、多分。
例えばうちのニンフィアのレベルをゲームにおける初期ポケモンのレベルである5とした時に、マンキーのレベルはだいたい4くらい、ケロマツなら3といったところ。
そしてあのストライクは推定15くらい。
うん、無理ゲー。
というわけで即座に撤退を選択した。
いや、この世界がアニポケ法式ならばワンチャンあるかもしれないが、あんな突発的な遭遇戦でしかもこちらが態勢の整っていない状況で勝てると思えるほどボクちんは脳みそお花畑でも無い。
少なくともゲームなら絶対に勝てないくらいの能力差がある。
アニポケならば……なんかふわっとした根性論で勝てるかもしれないが、ここは現実なのだ。
詰めれる理論は詰むべきだろう。
少なくともまだやれることがあるならやるべきだし。
根性論は最後に取っておく……そうあるべきだ。
そうして山を駆け下りていきながら振り向けば、どうやら追っては来ないらしい。
―――いや、それとも追ってこれなかったのか?
ストライクというポケモンは確か羽はあるがあまり使わない……ごく稀に羽を使って飛ぶ、なんて書かれるくらい飛ばないポケモンだ。
つまり咄嗟に転がした丸太みたいな木が思ったより足止めに効果的だった?
だが滅多に飛ばないというだけで飛ぶこと自体は可能なのだからそれで躱せば良いだけなのでは?
さっきストライクの強さを15くらいと言ったが、ニンフィアやマンキーたちと比べれば圧倒的に強い、それは事実だが例えばゲームのようにレベル100を上限とした時に15と考えれば実際はまだまだ未熟な個体であると言えるのではないだろうか。
つまり咄嗟に飛べるほど体を上手く使えてないのでは?
とは言えまだただの仮定でしかない。
大分山の下のほうまで降りてきたので、一端足を止める。
そうして立ち止まると自身の手の中で大人しく収まっていたマンキーとケロマツを解放する。
「咄嗟にごめんね~。ひとまず相手の様子は確認できた。その上で言うけど」
一言溜めて。
「
告げる言葉にマンキーとケロマツが一瞬視線を合わせ。
「ブキィ!」
すぐさま了解した、と拳を振り上げるマンキー。
そして。
「ケロ……」
断る、とでも言いたげなケロマツが対照的だった。
・剣呑なケロマツ
「ブキ?! ブキィ! ブギブキィィ!」
「ケロ! ケロケロ! ケロロー!」
何でそんなこと言うんだ?! と言った様子のマンキーに対して。
お前こそ何でそんなに信じられるんだよ! みたいなケロマツ。
まあマンキー割と人が良いというか、疑わない性格なのは見ていて分かるし、何より一度バトル(人間とポケモンが)してこっち実力みたいなのをある程度認めたから、というのはあるのだろう。
逆にマンキーから紹介されただけのケロマツからすれば何を信じれば良いんだ、と言った話。
要するにカナデがケロマツから認められていないのだ。
トレーナーとしてポケモンバトルをしたわけでも無く、今日あったばかりの野生ポケモンなのだからそれも仕方ないのかもしれないが。
故にこの場面においてカナデに必要なのは何でも良いからケロマツに認めてもらうこと。
特にストライク対策に関してはケロマツの協力が重要になる。
マンキーはその種族的に殴りあいには強いだろうが、ストライクのように純粋に格上相手だと普通に殴り負けるだけだ。
だからその差を埋めるためにもケロマツのような搦め手ができる種族の協力が欲しい。
「ケロマツ」
「……ケロ」
名を呼べば、何だよ、と言わんばかりの剣呑な視線が返って来る。
「キミはボクちんを認めていない。けどボクちんはキミに認められたい」
おためごかしの言葉は逆効果だろう。
マンキーの仲間をやっているのだから、きっとストレートに伝えたほうが伝わるはずだ。
「だから勝負しよう」
「……ケロ?」
なに? とでも言いたそうな視線に内心でガッツポーズを取る。
先ほどまでとは異なる、今ケロマツは明確にボクちんに対して意識を向けている。
「勝負の内容はキミが決めて良い。勝っても負けても無理に協力してくれとは言わない……まあつまりね」
そう勝負に勝って協力を取り付けても意味が無い。
これはケロマツがカナデという人間を認めてくれるかどうか、それこそが何よりも重要なのだから。
「
挑発するようにそう告げれば。
「ケロ~」
良いぜ、とでもいうかのようにケロマツが呟く。
その目には確かに、カナデという人間に対する興味があった。
今回からちょっとお試しな書き方してます。
時間ある時に以前の話も修正予定。
因みに人間とポケモンが殴り合うってどうなんだろうって前回も実は思ってたんだが、アニポケで普通にやってるらしいのでじゃあセーフ、ということにしてます。