第三勢力は孤独でいなければならない 作:あのにます
第三勢力。
俺の好きな言葉だ。
対立している二つの勢力の間にあり、どちらにも属さない第三の中立的な勢力のことを指す。
とても素晴らしい。が、俺はここにもう一つ新たな定義を追加したいと思った。
『
なぜか? 格好良いからだ。
確かに組織として行動する第三勢力も、格好良いかもしれない。
だが俺は孤独な第三勢力に憧れたのだ。
だからそうした。
仮面をつけてコートをはためかせ、素性を隠して人々を助けるのだ。なぜならここは異世界。助けられた者たちは、なんやかんやで俺についてくる。これは確定事項だ。
まあ実際そうなりかけたからな。
そうだな……こんなことがあった。
俺が山を散策していた時のことだ。俺は王国の若き騎士団のエースみたいなやつと、盗賊団の首領みたいなやつが戦っているのを発見する。もう少しで、首領の刃が彼の喉元に──的なタイミングで助けに入る俺。
そして一瞬で首領を斬り伏せた俺に彼はこう言った。
「どうか私を弟子にしてください」
と。なるほど、もし素性を隠していなければ、顔を覚えた彼に俺は一生付き纏われていだろう。騎士団を辞めついてくる彼。折れて師匠になる俺。
そして数年後、そこには彼の後ろで後方腕組み師匠面をする俺が……確かにそれも格好良いかもしれない。しかしそれでは困るのだ。
他には…………こんなこともあった。
俺が怪しげな施設を襲撃していた時のことだ。俺はヤバそうなマッドサイエンティストと、覚悟を決めた感じの美少女剣士が戦っているのを発見する。もう少しで、マッドサイエンティストの毒牙が彼女に──的なタイミングで助けに入る俺。
そして一瞬でマッドサイエンティストを魔術で吹き飛ばした俺に、彼女はこう言った。
「あなたの重荷を私にも半分背負わせて」
と。なるほど、もし素性を隠していなければ、顔を覚えた彼女に俺は一生付き纏われていただろう。なんだかんだでバディを組む俺たち……それも格好良いかもしれない。しかしそれでは困るのだ。
第三勢力である俺は孤独のみを愛する。そして今日も異世界を駆けるのだ…………第三勢力として。
第三勢力である俺は、とある街にやってきていた。なぜなら俺の直感が告げていたからだ。
──第三勢力として介入できる場所がここにある。
と。第三勢力になりたかった俺は、前世から直感力も鍛えていた。そんな俺の直感が囁いているのだ。これはもう間違いないだろう。
そんなこんなで街に入った俺だったが、まずは冒険者ギルドの門を叩く。情報収集をするためだ。
第三勢力としての活動には様々な責任が伴う。そのためにも、行動は慎重に行わなければならない。
まずは偽名を使って新たに登録。ちなみにギルドカードはこれで73枚目だ。俺はこれまでに行ったそれぞれの街で、別々に冒険者登録をしているからである。
しかし、それも当然のことと言えるだろう。第三勢力は、状況に応じて臨機応変に対応しなければならない。そのためにも、各街でカバーストーリーを作っておくことは、非常に重要だった。
あるときは『田舎から出て来た雑魚新人冒険者』を装い、またあるときは『遊び半分でやって来た、貴族出身のちょっと強い系新人冒険者』を装う。
しかし冒険者カードが一枚しかなければ、そんな偽装もすぐにバレてしまうだろう。
だから分けるのだ、冒険者の身分を。そうすることで、俺はありとあらゆる人間に成り切ることができるのである。これは第三勢力になる上で、非常に重要なことだった。
そして冒険者登録を終えた俺は、ギルド酒場の隅っこで頼んだ料理を食べる。聞き耳を立てながらだ。
そしてしばらく聞いていると、こんな声が聞こえてくる。
「なぁ、聞いたか? あの噂」
「噂だぁ? …………わかんねぇなあ。どんなのだ?」
「まぁお前が知らねぇのも無理ねぇか……。なんでもな、最近この街の重要人物が暗殺される。そんな事件が起きたらしい」
「そりゃあ……ヤベェんじゃねぇのか? ウチの領主だって──」
「おいバカ! めったなこと言うもんじゃあねぇ!」
彼らの話はそのあとも、もう少し続いていたが……まあ要約すると以下の通り。
・最近この街で暗殺事件が起きた。なんでも殺され方からして、近頃この近辺で猛威を振るっている、暗殺者集団の関与は間違いなさそうである。
・殺された重要人物はとても良い人だったとかなんとか。
・で、ここの領主(この街に住んでいる)もとても良い人。
・これは領主サマも消されちゃうかも……ということで、この街最強のSランク冒険者がしばらく護衛につくらしい。
……ふむ、確定だな。絶対にこの街で何かが起こる。
おそらく、暗殺者とSランク冒険者の激アツバトルが繰り広げられるに違いない。まあ聞いた話によると、その冒険者は本当に信じられないくらい強いらしいので、多分暗殺者は負けるが。
しかしそれでは困るのだ。
なぜなら俺は第三勢力だから。
第三勢力とは、常に状況を一定に保つもの。世界のパワーバランスが崩れる事を良しとしない。今回は暗殺者に手を貸すとしよう。
なに……問題はない。
良い領主とか言われてるやつは、裏で悪いことしてる奴ばっかりなのだ。どうせここの領主もそうだろう。
「ククク……」
俺は意味深に笑うと、その時が来るのを息を潜めて待つことにした。
当然だ。第三勢力は常に中立を保つ。状況が動くその時が来るまで、目立ってはいけないのだ。
だいたい二週間が経った。ちなみに今は領主の館を見張っているところだ。
あれから状況がどう動くのかを見極めることにした俺は、領主の館前にある高級宿に泊まっていた。金の心配はいらない。ここ数年を使って、第三勢力として稼いだ金があるからだ。これは…………おっと。
そんなことを考えながら、館を見張っていだ時だ。
「来たか……」
何者かが高速で館に近づいていく。なかなかの速さだ。まあ俺の足元にも及ばないが。
兵は拙速を尊ぶ。第三勢力は常に素早く動く必要があるのだ。
というわけで介入した。
Sランク冒険者くんは俺の後ろで倒れている。もちろん殺してはいない。彼は何も知らない、ただの良い奴だったからだ。
第三勢力は一般人に手を出さない。常識である。
そして俺は目の前で震えている暗殺者ちゃんに声を掛ける。
「大丈夫か……」
「ウゥ……グスッ…………」
当然だ。いくら素性を隠して行動する第三勢力とはいえ、助けた相手へ何の声掛けもせずに立ち去ることなど出来はしない。アフターフォローは大切なのだ。
「何があったのか話してみろ……」
とりあえず泣きじゃくっているので、理由を聞いてみる。彼女はまだ若い。きっと親の性格が終わってる、とかそんな感じだろう。
そう考えた俺だったが、彼女がポツリポツリと話し始めた理由を聞くと……どうにも違うようである。
なんでも彼女はよくわからん秘密結社の下部組織──『暗殺教団』の一員らしい。孤児だった彼女はその極悪組織に拾われ、やりたくもない暗殺業をやらされていたとか。
ふむ……秘密結社。第三勢力として活動し始めてから、飽きるほど聞いた言葉だ。
一応言っておくと、この世界に秘密結社があることは理解している。怪しげな神を復活させるのが目的とかなんとか。ありがちな陰謀論だな。
しかし俺は確信している。この組織が本物であると。簡単な話だ。彼らは貴族や商人にこんな話を持ちかけるのだ。
──実は、この世界にはかつて邪神がいたのです。彼は正義の神に討たれ死んだ。
しかし! それは嘘なのです。奴は力を蓄え、いつの日か復活するでしょう。審判の時です……あなたは死ぬ。でもご安心を。この壺を買えば……
うんぬんかんぬん。
ほら、簡単に金を稼げるだろう。つまり秘密結社とは、陰謀論で大金を稼ごうとする宗教詐欺集団なのだ。許せん。
しかし俺は何もしない。
彼らは納得して商品を買っているのだ。どんな法外な値段でも、外野が口を出すべきではない。
え? 他の人が困っている? それは許せん。そこまでいくのなら俺は容赦しない。
なぜなら俺は第三勢力だから。
第三勢力は無辜の一般人に、迷惑をかける勢力を良しとしない。常識である。
第三勢力である俺は、その秘密結社とやらが『研究倫理を無視した非道な人体実験』や『個々人の職業選択の自由を奪う暗殺業の押し付け』などを行うことを看過するわけにはいかないのだ。
ずいぶん話が逸れてしまったな。
彼女との会話に戻るとしよう。
「もうこんなことしたくない! わた──」
「安心しろ……お前はまだ若い。いくらでもやり直せるだろう」
「でも……そんなの教団が許してくれるわけない……」
「その教団は俺が潰しておく」
「えっ……」
そんなおいしいイベント、第三勢力である俺が逃すわけないだろう。きっと暗殺教団と冒険者たちが、日夜戦いを繰り広げているに違いない。
そんな感じのことを伝える。
「……教団の幹部は化け物よ。あなたは確かに強いけど……そうだ! 私もついていくわ! きっと何かの助けに──」
「いらん……!」
なぜなら第三勢力は孤独でいなければならないから。
そう彼女に伝える。すると、どうやら彼女も納得してくれたらしい。まだ少し泣いているが笑顔を見せる。泣き笑いというやつだ。
「初めて笑ったな……」
「……私、笑っていたの……」
しかし、気丈に振る舞っている部分がまだあるのだろう。少し震えている。
無理もない。彼女は暗さ──いや、元暗殺者。そして俺という、第三勢力に触れてしまった元暗殺者でもある。
恐れているのだ。俺という第三勢力に暗殺され返すことを。
だがその心配はいらない。第三勢力は一般人に危害を加えたりしないのだ。これからはその力を活かして、冒険者でもしたら良い。
そんな感じのことを彼女に伝える。
「私……まだやり直せるのね……」
……ではそろそろこの辺でお暇させてもらうとしよう。俺は彼女に背を向け、立ち去ろうとする。
が。
「そういえば……あなたはいったい──」
「ノーフェイス」
俺はそう言い放つ。
第三勢力としての名だ。今まで第三勢力として助けた者たちにはそう名乗っていた。
良し。彼女も泣き止んだので、いい加減ここを立ち去るとしよう。第三勢力には休んでいる暇などないのだ。
そうして彼女の元を去った俺は、暗殺教団を潰すべく動き出す。当たり前だ。
奴らは『第三勢力が何も考えずに叩き潰して良い敵勢力要項(俺制定)』の内、第1編・第3章・第2節・第5438条『個々人の職業選択の自由を奪う暗殺業の押し付け』 に抵触した可能性が高い。
そして俺は今日も一人、孤独に異世界を駆けるのだ。
なぜなら俺は…………第三勢力だから!
あ、言い忘れていたが……領主は斬っておいた。普通に極悪だったからだ。秘密の地下室で、拐った領民を意味もなく拷問していた。最悪の領主だ。領民の血税をなんだと思ってるんだ、許せん。
アリスは元暗殺者だ。しかし今は冒険者をしていた。信じられないくらい治安の悪い街──クライムでだ。
冒険者は、悪人からの護衛なども請け負っている。
治安が悪ければ、それだけそういった依頼も増えるだろう、と考えてのことだ。
アリスはSランク冒険者としては考えられない、破格の安さでそれらの依頼を請け負っていた。
全ては罪を償うためだ。
アリスはこの状況になったきっかけ──二年前の彼との出会いを、ふと思い出していた。
いつも通り、依頼で人を殺す。
何も変わらない毎日だった。根が善良なアリスは暗殺などしたくない。しかしどうすることもできなかった。
教団に拾われ、暗殺術のみを叩き込まれたアリスはそれしか知らない。今さらまともな生き方ができるとは、到底思えなかった。
それに暗殺教団幹部は化け物ばかりだ。暗殺だけでなく戦闘面全般に高い才能を持っているアリスでも、彼らに勝てる目は万にひとつもない。
ただ教団に言われた通り、邪魔な人間を淡々と消す。
彼らに逆らわず言うことを聞いていれば、どんなに辛くとも生きてはいけるのだ。アリスは死にたくなかった。
その日もそうなるはずだった。
──隣街に行き、領主を暗殺する。
吐き気を堪えながら、その依頼を達成しようと屋敷に侵入したアリス。そんな彼女に、一筋の光が迫る。
この街最強のSランク冒険者・カーライルの一撃だ。優秀な彼は事前に集めた情報を分析し、アリスの侵入経路をほぼ完璧に予測して見せたのだ。
アリスが屋敷へ侵入してから、わずか数秒後のことであった。まさしく電光石火と呼べる一撃である。
その一撃をなんとか凌いだ彼女は考える。
──これは無理かもしれないな。
この街最強のSランク冒険者。そう呼ばれるにふさわしい者が放つ一撃であった。受け流したはずの手がまだ痺れている。
どうやらツケが回ってきたらしい。年貢の納め時、というやつである。今まで散々暗殺してきたのだ。ようやく自分の番が来た、それだけの事である。
アリスはそう考えることにした。
そんなことを思っているうちにも、ほら──カーライルの凄まじい踏み込みだ。
せめてもう少し覚悟を決める時間が欲しかったが、そう思ったアリスにカーライルの2撃目が迫り、そして──
──バゴォォォン!!!
カーライルが吹き飛ぶ。
壁を破壊して屋敷に入ってきた何者かが、その勢いのまま彼を吹き飛ばしたのだ。
アリスは呆然とする。
それはそうだろう。先ほどまで自身を圧倒していたカーライルが、あっさりと吹き飛ばされたのだ。
壁に打ち付けられたカーライルも苦悶の表情を浮かべている。
しかしさすがはこの街最強のSランク冒険者・カーライル。すぐさま立ち上がって、新たな侵入者に向き直った。
「すごいな……一体何者だい?」
そう問いかけるカーライル。しかし彼の質問に、侵入者は剣撃で返した。鋭い一撃だ。
「クッ……」
カーライルはなんとかその一撃を受け流す。
奇しくも先ほどの自分とのやり取りを、真逆にしたようであった。
そこからは凄まじい斬り合いが始まる。
あまりに早い剣撃にたじろぐアリスだが、一つだけわかることがあった。
侵入者の方が優勢だということだ。いや、優勢なんて言葉では侵入者に失礼だろう。
そう感じさせるほど、次元が違った。
しかしこの街最強のSランク冒険者・カーライルも負けてはいない。たった数合の斬り合いで、そのことを理解したのだろう。すぐさま侵入者と距離を取る。
「驚いたな……どうやら僕では君に勝てそうにない。コレを使わせてもらうよ」
この街最強のSランク冒険者・カーライルは懐から何かを取り出す。あれは……魔道具だ。おそらく優秀なカーライルは暗殺者の襲撃に備え、様々な手段を用意していたのだ。
きっと遠距離から何かを放つ魔道具であろう。
そしてそこから炎の魔術が──放たれなかった。
侵入者が魔術の起こりを、同じく炎の魔術で潰したからだ。
「何っ!」
この街最強のSランク冒険者・カーライルは驚愕する。
剣術と魔術、その両方を収めたものは確かに存在する。しかしあのレベルの剣撃を放てる者が、魔術まで扱えるとは……この街最強のSランク冒険者・カーライルにも到底信じられることではなかった。
そこからは早かった。
このレベルの戦いにおいては、一瞬の隙であっても致命的になる。そして先ほどの驚愕はその『一瞬』となり得たのだ。少なくとも侵入者──いや『彼』にとっては。
気づけばアリスは泣いていた。どうやらほっとしたのが原因だろう。なんだか気の抜けた気分だった。
そうしてしばらくした頃だろうか。
いつの間にかカーライルを倒していた『彼』はアリスに向き直り、そしてこう言う。
「大丈夫か……」
心配してくれているのだ。こんな自分のことを。彼の質問に対して、嗚咽しか返せないことが申し訳なかった。
「何があったのか話してみろ……」
すると彼がそんなことを尋ねてくる。
ある程度落ち着いたアリスは語り始めた。
自分が孤児であること。暗殺なんてしたくないこと。でも教団には逆らえないこと。
それを聞いた彼はしばらく何かを考えているようだった。しかしそんな冷静な彼の様子に反比例して、アリスの言葉にはどんどん熱がこもっていく。
そしてアリスが、
「もうこんなことしたくない! わた──」
そこまで言いかけた時だ。
「安心しろ……お前はまだ若い。いくらでもやり直せるだろう」
彼がそんな慰めの言葉をかけてくれる。しかし無理だ。アリスは教団に脅されているのだ。逆らえるわけがなかった。そう言うと、
「その教団は俺が潰しておく」
彼は宣言した。絶対に成し遂げてみせる。そんな覚悟が感じられる強い言葉だった。思わず声が漏れる。
しかし彼はアリスのそんな態度のせいで──自分は疑われている、と感じたのだろう。当然だ。赤の他人になんの見返りもなしで、そこまでできる人間はそうそういない。
だが彼は違った。
アリスを安心させようとしてくれたのだろう。
自分はそんな極悪非道な奴らを許せない。きっと無辜の市民や冒険者たちが、彼らと日夜激しい戦闘を繰り返し、そして命を落としているのだ。
そんな奴らを許すわけにはいかない、そう懇切丁寧に説明してくれた。
しかし暗殺教団幹部は化け物揃いである。
あの圧倒的な力を見せつけてくれた彼でも、勝てないかもしれない。
何か私にもできることが、そう言ったのだが。
「いらん……! 俺は孤独を愛する……」
そう返される。
きっと私を巻き込まないようにしているんだ。
アリスはそう感じた。もしかしたら、過去に誰か大切な人を亡くしたのかもしれない。
とにかく理由はわからないが、彼は誰の助けも借りずに一人で悪と戦う覚悟を決めているようであった。
そんなことを考えているうちに、すっかり安心してしまったのだろう。
「初めて笑ったな……」
彼に言われて初めて気付く。
自身が笑っていたことに。自分でもわからないが、なんとなく思ったのだ。
彼ならば暗殺教団もなんとかしてしまえる、と。
「……私、笑っていたの……」
そう呟く。
初めての経験だった。生まれてこの方、笑えるような楽しいことなんて一つもなかったからだ。震えさえあった。
するとさらに彼が。
「これからは……そうだな。お前は素晴らしい力を持っている。そして、どのような手段で得ようと力は力……どう使うかが大事だ。これからは、冒険者でもやって人々を助けると良い」
そんなこと言う。
なんということだ! 彼はアリスに今後の生き方まで示してくれた。おまけに罪を償う方法まで。
「私……まだやり直せるのね……」
思わずそんな言葉を漏らす。いつしか震えは止まっていた。
そんなアリスを見た彼は立ち去ろうとする。
それを引き止めるアリス。せめて名前だけでも聞きたかった。
「ノーフェイス」
彼は一言そう名乗り、そして立ち去っていった。
アリスは屋敷を出る。しかしそんな彼女に迫る人物がいた。美しい銀髪の女性だ。彼女は言う。
「あなたも彼に助けられたのね」
と。彼女はさらにこう言った。
「彼は何か言っていた?」
と。
アリスは彼──ノーフェイスが「暗殺教団を潰す」そう言っていたことを伝える。
「秘密結社については何も言っていないのね……」
そう呟く彼女。
「そもそも……あなたは?」
尋ねるアリス。その問いかけに対して銀髪の女性はアリシア、と名乗った。アリス同様、彼に助けられた人物らしい。
次いで彼女──アリシアは言う。
実はアリスが所属していた暗殺教団の上にはさらなる巨悪・秘密結社なる組織があると。そして彼ら秘密結社は古の邪神を復活させようと企んでいるとも。
「彼はそんなこと一言も……」
全く信用されていない……そう思いかけたアリスだが、すぐに思い出す。彼はそういう人間だと。きっと私を巻き込まないようにしたんだと。そう思い直した。
すると何か通じ合う部分があったのだろう。
「よかったら、あなたも入らない? 私たちの組織──アノーニモスに」
アリシアは微笑みながらアリスを勧誘した。
なんでも、彼に助けられた人たちで作った組織があるらしい。邪神を復活させないよう、日夜秘密結社と戦っているそうだ。
入会費・年会費は無料よ。
終わりにそんなことを付け加えながら、彼女は説明を締めくくった。
「入会費・年会費無料?」
よくわからなかったので尋ねるアリス。
「彼が私を助けたあと、去り際に言ったの。第三勢力を組織として運営するなら、そうした方がいいって……おかしいでしょ?」
天女のような笑みを浮かべながらそう言うアリシア。
その月明かりに照らされた彼女の姿は、まるで1枚の名画のようであった。
と、そこまで記憶を掘り起こしていたアリスだが現実へと意識を戻す。
今の彼女はSランク冒険者でありながら、アノーニモスの一員でもある。依頼を受ける傍ら、組織の仕事もこなさなければならない。
先ほど、護衛依頼をたくさん受けられるからこの街で活動している、と述べたがそれは理由の全てではなかった。
あるのだ。この街にも秘密結社の息のかかった組織が。
治安の悪いこの街は違法薬物などを使って、金を稼ぐのにぴったりである。そしてそれで得た資金を他の街へ流し、マネーロンダリングするのだ。さすが秘密結社やり方が汚い。
そんなことを考えながら、アリスは泊まっている部屋を出る。
もう随分な人数を助けた気がするが、その手はまだ血で染まっているような気がした。これも自分の罪だと受け入れようとはしているが、なかなかにキツいものがある。
再び彼が助けてくれたり──いやそれはないか。
アリスはかぶりを振って、その甘ったれた考えを消す。彼にはアリス一人に構っている時間などない。彼の敵は秘密結社だけではないのだから……きっと。
彼女が再び救われる時は果たして──。
と、ここまで読んだ聡明な読者諸兄ならば当然の如く理解しているだろうが、改めて述べておく。
この世界には邪神復活を企む悪の秘密結社があるし、表の住人でもそれに気付いている者はいる。
帝国の宮廷魔術師たちが、王国の騎士団たちが、エルフたちが、獣人たちが日夜秘密結社を叩き潰すべく奔走しているのだ。もちろん民衆には知られないように。
ちなみに戦力的には、秘密結社の方がかなり強い。信じられないくらい強い。彼我の戦力差はかたや棍棒、かたや現代戦闘機。それくらい開いている。いや、これはさすがに言い過ぎかもしれないが……とにかく信じられないくらい劣勢なのだ。
しかし。
近頃、秘密結社に対抗する新たな勢力が出てきた。彼らは自身をアノーニモスと名乗った。希望の光だ。今までどこにこんな人材が眠っていたのか、となるくらい強かった。
そうだ。
第三勢力は彼らだ。
では主人公は?
さぁ……わからない。わからないがしかし、そんなことは彼にとってどうでもいいのだ。
ただそこに二つの勢力がある。
その事実だけでいいのだ、彼にとっては。
それだけで第三勢力になれるのだ、彼の中では。
……まあとにかく。
そんな感じで無理やり整合性を取りながら、彼は今日も一人孤独に異世界を駆けるのだ。
なぜなら彼は……………………第三勢力だから!!!!
主人公:第三勢力。常に一番強い奴を叩いて、世界のバランスを保つ。
アリス:金髪ウルフカットの美少女。彼女が再び助けられる日はいったい……。
カーライル:この街最強のSランク冒険者。多分もう出ない。
暗殺教団:主人公が街を出てから5分で壊滅した。
アリシア:覚悟を決めた感じの美少女剣士。組織を作ったあとも、度々主人公に助けられている。いつか仮面をとった主人公と話したいと思っている。
表の住人:あんまり強くない。
秘密結社:死ぬほど強い。