ハガネの騎士と勇者たち   作:けの~び

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第二話 災 -カタストロフ-

 これまで起こっていた地震とは規模の違う、大きな揺れが日本全土を襲った。

 修学旅行で島根を訪れていた乃木若葉と上里ひなた、鋼田帯一(こうだ たいち)も例外なく地震に見舞われる。

 

「何度目だ……っ」

「これかなりデカいよぉ!?」

 

 若葉と帯一は地面に手を突き、ひなたはしゃがむ二人にすがりつく。

 三人がいる社殿近くの木々が、揺れの強さで根っこから折れ曲がった。

 

 神社に避難してきた市民に、同じく避難した帯一たちのクラスメイトらも、この大地震であちこち悲鳴が上がっている。

 

 そして──。

 数十秒の間続いた揺れは、ようやく収まった。

 人々は一時の安堵を覚え、何人かは建物の外へ様子を見に出てくる。

 

 しゃがみ込んでいた帯一と若葉が立ち上がろうとする。

 と、ひなたが二人の服を強く引っ張った。

 

「大丈夫? 腰抜けちゃった?」

 

 地震の大きさに体がすくんでしまったのだろうか、と帯一はひなたに声をかける。

 顔を上げた少女の瞳はうつろで、どこか遠い所に飛んでしまっている。

 二人の幼馴染は、その表情にギョッとした。

 

 若葉は親友の肩をゆする。

 

「どうした、ひなた!?」

「来る……やって来ます」

「来る、って……なにが……」

 

 帯一がたずねる。

 答える代わりというように、ひなたの瞳が空へと向かう。

 少年はその視線の先をたどった。

 

 あっ、と帯一は声を漏らす。

 若葉も続いて上空に目をやる。

 

 闇の夜空に浮かぶすべての星々が、地上へ向けて真っ逆さまに降り注いできた。

 だが星は大地に激突することなく、その直前でふわりと静止する。

 

 星は白い袋状の体をしていて、人間のものに近い──だが比較にならないほど巨大な──口をもっていた。

 

「な……」

 

 なんだ、()()は。

 突如現れた異形の物体を前に、若葉は絶句する。

 

 落下してきた怪物──としか言いようのないモノの一体が、社殿の屋根を突き破って建物の中に侵入するのが見えた。

 直後、建物の中から数多くの悲鳴が上がる。

 

 中にいた人々が、大慌てで外へと駆け出してきた。

 みな、体にべったりと赤い液体をまとわせている。

 

 血だ。

 と帯一は気づいた。

 本人のものか、他人のものかは分からないが……あの怪物に襲われたんだ。

 

「っ! みんなが……!!」

 

 同じことに気づいた若葉が叫ぶ。

 社殿の中には、先ほど友人になったばかりのクラスメイトたちも残されている。

 

「若葉、待つんだ!」

 

 帯一が呼び止めるも、彼女は構わず建物に向けて走った。

 そして、見た。

 おびただしい血の海であふれる社殿の中に、無残に横たわる三人の友人たちの姿を。

 

 若葉の顔が絶望に染まる。

 

「ぁ……ぁぁあああああああっ!!」

 

 少女は怒りのままに、近くに落ちていた木片を手に怪物へと向かって行く。

 が──

 

「ぐはっ!」

 

 怒り任せといえ子供の振るう木の一撃など、怪物には通用せず、若葉は木の葉のように吹っ飛ばされてしまった。

 

「若葉!?」

「若葉ちゃん!!」

 

 入口で帯一とひなたは、幼馴染の体が軽々と()ぎ払われるのを見た。

 若葉は建物の奥の方へと吹き飛ばされ、怪物を挟んで反対側に立つ二人には、彼女を助けに行くことも出来ない。

 

 不意に、ひなたが大声を上げ、若葉に()()()()を告げる。

 

「若葉ちゃん! そこにあるはずです! つかんでください!!」

「な……なにを……」

 

 ひなたの声が届いた若葉は、朦朧(もうろう)とする意識の中、言われるままに手探りでなにかを探す。

 そして、それ(・・)はあった。

 

「……刀?」

 

 入り口から見ていた帯一がつぶやいた。

 若葉は崩れた瓦礫の中から、引き寄せられるように一振りの日本刀をつかみだしたのだ。

 

 恐らく、この神社に奉納されていた代物であろう。

 ボロボロに()びていた刀は、若葉の手に収まると同時に光を帯びて、瑞々(みずみず)しい輝きを取り戻した。

 

 社殿の中にいた怪物が若葉に迫る。

 武器を手にした少女は、それを一閃し──怪物を切り伏せてしまった。

 

「すごっ……」

 

 少女は幼い頃より剣術を(たしな)んでいた。

 それ故に、小学生ながら刀剣類の扱いは熟知している。

 幼馴染の見事な剣技に、帯一は呆気にとられたように声をもらした。

 

「なんだかわからんが、怪物は他にもいるようだ。私は他の人たちを助けてくる!」

 

 言うが早いか若葉は、二人の幼馴染を安全と思われる社殿に残して、一人で外へと駆けて行った。

 確かに彼女の言葉通り、天より降ってきた白い化け物はまだ数多く、人々は襲われ続けている。

 

 若葉を見送った二人だったが、そちらにもまだ役目はある。

 ひなたは帯一の手を引いて、社殿の中へと入っていった。

 

「ど、どうした、ひなた」

「こっちへ。帯一くんにも、渡さなければならないものが……」

 

 少女に連れられた場所は、さきほど若葉が日本刀を手にしたところ。

 ひなたはその付近、崩れた建物の奥にある空間を指さした。

 

「あそこに……」

 

 二人が見たのは、社殿の奥に封じられるように安置されていた、人型のシルエット。

 

「これは……鎧?」

 

 帯一の目に映るのは、石で造られたような古ぼけた甲冑であった。

 

「この鎧は、帯一くんのものです」

「僕の……? ひなたがなに言ってるのか、わからないんだけど」

「私にもよくわかってません。でも、わかるんです。この鎧を着る役目は帯一くんだって」

「……つまり、これを着てあの怪物と戦えってこと?」

 

 ひなたの表情が苦しそうなものになる。

 そうだ、ということなのだろう。

 

 少女はツラそうに言葉を続ける。

 

「お願いします。今の若葉ちゃんでは、あの怪物には勝てません!」

 

 ひなたの懇願(こんがん)は、暗に若葉の敗北がイコール彼女の死を意味していることに、帯一は瞬時に気づいた。

 

「わかった。なら、やるしかないね」

 

 若葉が死ぬかもしれないとあっては、幼馴染として黙っている訳にはいかない。

 帯一は即座に、自分も怪物を相手に戦うことを決心した。

 もちろん恐怖はあるがそれよりも、自分がなにもしないせいで友達が死んでしまう方が、よっぽどイヤだ。

 

 ひなたにも手伝ってもらい、帯一は石造りの重たい鎧を、四苦八苦で身にまとっていくのだった。

 

 

 

 

 

 一方、刀を手に社殿の外に出た若葉は、大量の怪物を相手に、手にした力を振るっていた。

 

 彼女の持つ日本刀は、まさに神からもたらされたと思える、無敵の切れ味を誇った。

 通常の刀であれば、二、三体も斬れば刃こぼれをおこして使い物にならなくなるだろう。

 

 が若葉が振るう神剣は、クマよりも大きな体格の化け物をいくら斬っても、まったく手応えが変わらなかった。

 

 「いけるぞ。このまま、化け物どもを一掃して……」

 

 刀の(するど)さに加えて、少女の体力も一向に(おとろ)えない。

 まるでこんこんと湧き出る泉のように、力があふれてくる。

 

 勢いのままに、この場にいるすべての怪物を(ほうむ)るつもりでいた若葉の前で、変化が訪れた。

 

 まだ残っていた複数の怪物が、一ヶ所に集まっていく。

 怪物たちの肉体は粘土をこねるように混ざりあい、それまでとは別の姿へと形を変える。

 

「これは……()()している、のか……?」

 

 若葉は直感でそう理解した。

 化け物どもは単体では彼女に勝てないと気づき、力を集めより強力な個体へと成長を始めたのだ。

 

 そして生まれる、『進化体』と呼ぶべき存在。

 

 ムカデ状の足を持つモノ、複数の矢のような突起を生やしたモノ、体の一部を角のように硬質化させたモノ……。

 

 これらの進化した怪物たちを見て、若葉の中から先ほどまでの勢いは、急激にしぼんでいった。

 

「無理だ……私では勝てない……」

 

 青ざめた顔で弱音が漏れる。

 

 だが、それが分かってもなお、彼女には引くに引けない理由があった。

 刀を構えて立つ若葉の後ろには、怪物からいまだ逃げ切れない多くの人々がいたからだ。

 

(どうする? 私は、どうすればいいんだ……!?)

 

 市民を見捨てて自分だけ逃げるか、それとも人々の盾となり自らは命を落とすか。

 若葉はまた、選択に迫られていた。

 

 決断を迷う彼女に対し、化け物どもは容赦なく牙を向ける。

 集合することで大型化した怪物の一体が、矢のような器官を若葉に向けて撃ち放った。

 

 矢は人間どころか、建物でさえ楽に破壊できるほどの力をもって、少女に迫る。

 若葉の瞳は、自らの命を奪おうとする敵の攻撃が、ゆっくりと近づいてくるのをとらえていた。

 

(私は──死ぬのか──)

 

 それに対してなにかを感じる前に、少女に迫る矢は……彼女に触れる直前に現れた、()()()()()()によって破壊された。

 

「若葉、無事か!?」

「ぇ、……その声は帯一、なのか……?」

 

 命の危機にさらされた乃木若葉を救ったのは、()()()()をまとった彼女の幼馴染──鋼田帯一であった。

 

「なんだ、その鎧は?」

「僕にもよくわかんない。ひなたが、これは僕のものだって。これを着て若葉を救えって」

 

 オオカミのような動物の頭部を思わせる兜、首から下は武者のそれに近い。

 背中には鬼の面が装飾として取り付けられている。

 

 身にまとう前、社殿の奥で鎮座していた時は確かに石で造られたような状態だった。

 が帯一が身にまとったことで、この鎧はシルバーの輝きを取り戻したのだ。

 

 兜の奥の、()()()()が少女を(いた)わるように見つめる。

 銀の仮面の奥から、彼女の幼馴染の声が響く。

 

「若葉はさがって、他の人たちを避難させて。あの怪物は、僕がなんとかするから」

「し、しかし」

「大丈夫だって! この鎧、さっきも若葉を襲った矢の攻撃を(はじ)けたし、結構強いよ」

 

 遠くから、若葉を呼ぶ上里ひなたの声が聞こえてきた。

 ひなたもまた、他の人々を安全な場所へと集めているところだった。

 

「さあ、早く!」

「っ、すまん」

 

 後ろ髪を引かれる思いで、少女は背を向けた。

 周りに残されていた人々を連れて、若葉は遠ざかる。

 

 残された帯一は、銀の鎧の目を通して怪物を睨みつけた。

 

「さっきは、よくも若葉を危ない目に合わせてくれたな。もう少しで死んじゃうところだったぞ!」

 

 進化した怪物たちは、少年の怒りになど気づかぬように攻撃の準備をおこなう。

 その準備が完了する前に、帯一は先手を打った。

 

「でぇえええええい!!」

 

 この鎧にどういう機能があるかわからないので、少年は力任せに進化体の一体を殴りつける。

 矢のような器官を持つ個体は、硬質化した体を粉砕され沈黙した。

 

 ムカデに近い姿をした個体が近づいてきたので、頭部と思われる部位を再び殴った。

 急所を破壊されたためか、この個体もすぐに動きを止める。

 

 複数の矢を持つ個体は、残ったムカデもどきの体をつかんで、力任せに叩きつけた。

 両者の体はぶつかった衝撃で、共に粉々に砕け散った。

 

 ものの数秒で、より強く進化したはずの怪物たちは、謎の鎧をまとった帯一ただ一人に打ち負かされたのだった。

 

 離れた所から幼馴染の戦いっぷりを眺めていた若葉は、その力に圧倒されたようにうなる。

 

「すごいな、帯一の着ているあの鎧は……」

「あれの名は、『ハガネ』。若葉ちゃんの持つ『生太刀』と共にあったモノです」

 

 鎧と刀、その二対はかつて太古の時代に、人の手によって生み出されたものだと少女は言う。

 

 一体、なんのために?

 天より地上に降りてきた怪物どもと戦うためだろうか。

 だとしたら──その『敵』とは、いかなるモノなのであろう……。

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