ハガネの騎士と勇者たち   作:けの~び

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第四話 要 -ダイジェスト-

 伊予島杏は(おび)えていた。

 

 彼女は今、勇者として他の少女らと共に、「樹海」と呼ばれる特殊な空間にいる。

 ここは敵を迎えるために、神樹がつくり出した戦場なのだ。

 

 そう。

 ついに彼女たちに、人類の敵──バーテックスと戦う時がきたのだ。

 若葉を筆頭に、杏以外の少女らは勇者へ変身し、すでに星屑の迎撃に当たっている。

 

 が伊予島杏は一人、怪物への恐れから勇者システムを起動させることが出来なかった。

 残された少女の隣には、鋼田帯一(こうだ たいち)が付き添っている。

 杏を心配する球子のために、帯一はこの場にとどまったのだ。

 

「ごめんなさい……」

 

 杏は小さな声で謝る。

 それは横にいる帯一に対してであり、また今戦っている球子らに対してのものでもあった。

 

 そんな少女に、帯一は明るく言葉をかける。

 

「気にすることないよ。杏ちゃんみたいに、怖がるのが普通なんだから」

「でも……」

「実際、僕も結構ビビってるよ? ほら、手が震えてる」

 

 そう言って少年は、自分の両手を杏に見せた。

 冬の中にいるようにガタガタと震える体を、心を隠さない帯一に杏はたずねる。

 

「怖いのに、帯一さんは戦えるんですか?」

「うん」

「……なんで」

「みんながいるからだよ」

 

 自然と、帯一は杏の手を握った。

 彼女を安心させようと、優しく語りかける。

 

「ここには杏ちゃんがいて、若葉も友奈ちゃんも、郡先輩もいるし、外の世界ではひなたも待っていてくれる」

「…………」

「君にも球子ちゃんがいてくれる、でしょ?」

「たまっちが……」

 

 握られる少年の手の平の温もりが、伊予島杏の不安を溶かしていく。

 まるで、心の中から恐れという闇を、()()()()()()()()()()くれているように彼女は感じた。

 

 杏の瞳は、いつも側にいてくれた少女のことを探す。

 自分を励まし、守り、支えてくれた土居球子という少女を。

 

 あっ、と杏が小さく声を漏らす。

 彼女の視線の先では、勇者となって戦う球子の姿が映っていた。

 

 球子は多数の敵に囲まれ、苦戦している。

 彼女が相手していた星屑の何体かが、その手を逃れて後方で退避している杏と帯一の元へ向かってきた。

 

「杏、逃げろーっ!」

 

 球子の叫びが聞こえた。

 同時に目の前には、すでに星屑の大口が開いている。

 

「はぁ!!」

 

 帯一は杏の前に立ち、持っていた剣を一閃。星屑の一体を切り裂いた。

 この剣は少年の力である「鎧」のために、大社が新造した専用の装備である。

 

「いける……若葉と訓練したおかげで、僕も戦えるぞ!」

 

 そのまま、周囲を(ただよ)う星屑も残らず切り伏せる。

 これまでの幼馴染との特訓の成果が、今花開いたのだ。

 

 前線では未だ、球子は多数の星屑相手に苦戦中である。

 帯一は背後の杏を振り返って、今一度手を差し伸べた。

 

「行こう、杏ちゃん。球子ちゃんを、みんなを助けに」

「……はい!」

 

 少年の手を取る。

 杏は決意と共に、紫羅欄花(ストック)の勇者へと変身した。

 

 

 

 

 

 球子の窮地に駆け付ける杏と帯一。

 二人が参加したおかげで、勇者側は一転して敵を押し始める。

 

 しかしバーテックスの側でも、戦力を増した勇者たちに対抗。

 残った星屑が融合し、三年前に若葉の前に出現した「進化体」を形成した。

 

「棒? なんか弱そうだけど」

 

 進化体を見た友奈がつぶやく。

 言葉の通り、進化体のバーテックスは一本の、物干しざおの様な姿をしている。

 とても攻撃力があるようには見えないが……。

 

「私がやってみます」

 

 様子見として、杏は自身の武器であるクロスボウを放つ。

 遠くからの攻撃は、板状の組織を展開した進化体によって、そのまま少女の元へ跳ね返されてしまった。

 

「!?」

「杏ッ」

 

 盾を持つ球子だったが、予期せぬパターンに反応が遅れる。

 杏に向けて真っすぐに、射かけた矢が帰って来る。

 

 帯一が杏の前に飛び出た。

 そのまま剣を前方に向けて、クルリと円を描くような動作をする。

 

 矢はすぐそこに。

 がそれは帯一にも、杏の体にも触れることは無かった。

 

 少年の剣が描いた円の中から、銀色の光が彼の身を包む。

 キンッ、という高い音と共に弾かれた矢が地面に落ちる。

 

 光が晴れ帯一の体には、彼が手にした力──「ハガネ」と呼ばれる鎧が装着されていた。

 

「こいつは、僕が倒す!」

 

 ハガネの紫色の瞳が、進化体を睨みつける。

 

 跳躍。

 ハガネは一飛びで怪物に迫り、勇者の攻撃をはじき返した硬質の進化体を、一刀のもとに両断した。

 

 ほんの数秒の出来事だったが、それ故に少年のまとう鎧がいかに強力なものであるか、勇者たちは実感するのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 初めての戦いを終え、若葉は暫定(ざんてい)リーダーから正式に勇者たちのリーダーとなった。

 元は大社から任されたまとめ役だったが、初戦において率先してバーテックスに挑んでいったこと、一番の戦果を挙げたことからみんなで話し合って決められたのだ。

 若葉に対して反目していた郡千景も、彼女の力は認めざるを得ないところだった。

 

 共に怪物相手の初めての戦闘を乗り越えたことで、七人の仲は深まった。

 帯一はそう感じていた。

 

 しかし、状況は一変する。

 

 

 

 

 

「鋼田くん、どういうつもりなの」

 

 二度目のバーテックスが襲来した樹海の地で、郡千景はハガネの鎧を解除した帯一に、苛立ちをぶつけていた。

 戦いの前に実家へ帰省していた千景だが、戻ってきてから戦闘中の彼女は、どこか様子がおかしかった。

 

 それに気づいた帯一が、進化体に対して切り札を使おうとした千景に代わって、ハガネの力で敵を排除したのだ。

 しかしこの事がなぜか、少女の神経を逆なでしてしまったようで……。

 

「手柄の横取りなんて、何様のつもり……!?」

「いや、僕はそんなつもりじゃ」

「敵を倒すのは私の役目よ! 私は、誰よりも多くバーテックスをやっつけなきゃならないの! もっと、もっと敵を殺して、殺して……殺し尽くさないと、私は……私の価値は……」

「せ、先輩……?」

 

 千景の態度は帰省前より、明らかに悪くなっている。

 一体、彼女になにがあったのだろうか。

 

 

 

 

 

 このあと、一同は大社から慰安として温泉旅行に出かけたのだが、そこでも千景は帯一を避け続けた。

 どうにかして彼女の怒りを解消したい帯一と、二人の仲をとりもちたい友奈たちであったが、不幸にもすれ違いは続く。

 

「僕は、どうすればよかったんだろう……」

「帯一くんが千景さんの代わりに戦ったのは、決して間違いじゃありません」

 

 訪れた旅館の深夜のロビー。

 みんなが寝静まったあとで、ひなたはそう少年を励ます。

 彼女だけは千景の身に起きたあらましを知っているのだが、それは千景本人に代わって打ち明けていいものではない。

 

 若葉は若葉で、チームの不和になにも出来ない自分を責めていた。

 

「私は、リーダーには向いていないのだろうか」

「そんなことありませんよ。若葉ちゃんは、立派に自分の役目を果たしています」

 

 問題は、若葉の戦う動機にあった。

 彼女は未だ、過去に助けられなかった友人たちの恨みを晴らすという、復讐のために刀を振っている。

 それではダメなのだと、若葉のことを見てきたひなたは気づいている。

 

 しかしこれは、若葉自身が気づかなければならないことだ。

 帯一の問題と共に、ひなたには直接してやれることはなにも無い。

 

 悩みのただ中にいる幼馴染を助けてやれないことに、ひなたもまた苦しんでいた。

 しかし、彼女は信じてもいた。

 

「帯一くんと若葉ちゃんなら、きっと今の悩みを解決できますよ」

 

 ひなたのほほ笑みは、暗い夜を明るく照らすような、温かいものに二人には感じられた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 そんな状況にも構わず、敵はやって来る。

 早くも三度目のバーテックスの襲撃は、前回の数十倍の戦力でもって行われた。

 

 およそ千体にも及ぶ星屑の群れを前にして、乃木若葉は迷うことなく最前線へと向かって行く。

 

「チームの不和は、リーダーの私がカバーする!」

 

 戦いが起きる直前、ひなたは自らに降された神託を若葉に伝えていた。

 ──不和による危機が訪れる──、神樹からの予言である。

 

 神託は曖昧なイメージで伝えられるため、具体的な内容は分からないが、それ故に若葉は不安を覚えた。

 仲間の誰かが怪我を負うのかもしれない。それは取り返しのつかないものかもしれない。

 

 ならば……。

 若葉は自らがより強くあれば、誰も傷つくことがないという結論に至った。

 

「敵がいくらいようが、全て私が切り捨てるッ」

 

 彼女は一人突出し、敵の群れへと突っ込んでいく。

 それはもはや勇気ではない。

 ただの愚かな、蛮勇でしかなかった。

 

「大変……バーテックスが、若葉さんを取り囲んでる!」

「おい、若葉! 戻ってこい!!」

 

 杏や球子が呼びかけるも声は届かず、すでに若葉は敵中で孤立してしまっていた。

 全員で助けに行けば、守るべき神樹が無防備となる。

 

「私、若葉ちゃんを連れ戻してくる!」

「いや、僕が行くよ」

 

 パワータイプの友奈がごり押しで敵陣に突っ込もうとするのを、帯一が止めた。

 同じ一人で助けに行くにしても、鎧を持つ帯一の方が、自分を守るという点では理にかなっている。

 

「……また、手柄の独り占め?」

 

 隣で千景が皮肉るように言った。

 こんな状況でこんな発言をするなど、やはり彼女は正常な状態ではない。

 

 帯一は、千景の(よど)んだ瞳を真っすぐに見つめ、言葉を発する。

 彼女の黒く染まったような心に、自分の気持ちを届かせるために。

 

「手柄なんてどうでもいい。僕はただ、友達を助けたいだけだ」

「口ではなんとでも……」

「千景先輩だって友達だ! あなたの代わりに戦ったのも、先輩が友達で……守りたかったからだ!!」

 

 叫ぶ勢いのままに、少年は千景の両肩に手をかける。

 手の平を通して、思いよ伝われとばかりに言葉を続ける。

 

「先輩になにがあって、そんなに必死にバーテックスと戦うのか、僕は知らない。けど、僕はみんなを守りたいんだ! それは千景さんも同じだ!」

「私を……守る……」

 

 懸命な叫びが通じたのか、少女の瞳から徐々に(にご)った色が抜けていく。

 千景は帯一の手を通して、彼の中に自身の歪んだ()()()()()()()()()()()()ような感覚を覚える。

 

「無事に帰って来れたら、改めて謝ります。その時は、先輩が怒った理由、聞かせてくださいね」

「ぁ……」

 

 全てを伝えると、帯一は鎧を召喚し、敵の中へと飛び込んでいった。

 残された千景は少年の背を、呆然と見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 たった一人で敵陣のど真ん中で孤立した若葉は、それでも剣を振り続けた。

 

 大勢の人々を無残に食い殺したバーテックス。

 奴らに殺された人たちの無念を、自らの怒りに込めて。

 

 すでに倒した敵の数は百を超えたか。少女の体力は限界を迎えつつある。

 それでも、若葉は刀を持つ手をゆるめない。

 

「みんなの無念を晴らすまで……私は、倒れる訳にはいかないんだ……!」

 

 若葉を囲んだ星屑が、同時に向かってくる。

 次々と切り伏せるも、敵は多く、内の一体が彼女の死角から迫ってきた。

 

「しまっ……!?」

「若葉ぁーッ!!」

 

 駆け込んできたハガネが、一太刀で少女に迫る星屑を斬る。

 助けられた若葉はしかし、ハガネをまとう幼馴染を(しか)った。

 

「帯一……なぜ来た!? 私は一人でも戦える!」

「放って置けって? 出来るわけないでしょ、そんなこと!」

 

 負けじと帯一も、無茶をした若葉を怒る。

 そのまま二人は背中合わせに、辺りを取り巻く怪物を牽制した。

 

「私は乃木家の者として、リーダーとして、勇者として……バーテックス(奴ら)に報いを与えねばならん!」

 

 異様なまでの怒りと共に、少女は怪物たちに刀を向ける。

 

 若葉の必死な姿は、千景の時と同じだ。

 まるで人々の怨念に憑りつかれているようだ、と帯一は感じた。

 

 元より責任感の強い乃木若葉という少女は、人類を守る勇者という任を背負わされたことで、より強い使命感に動かされている。

 しかしそれは、彼女を苦しめるだけではないか……。

 

 帯一は幼馴染として、無茶を続ける若葉を止めようとする。

 その直前──天より一筋の雷光が轟いた。




放置していてすみません。

全十三話でプロットを組んでいたんですが、最後まで続けるのが難しくなったため、ここから打ち切りの方向へ舵を切ります。

あと二話で終わるよう話をまとめますので、最後までお付き合いください。
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