ハガネの騎士と勇者たち 作:けの~び
バーテックスの第三次侵攻。
千体以上の敵を前に、一人突出した乃木若葉は戦線で孤立する。
ハガネをまとった鋼田帯一が救援に向かうも、怒りの中で刀を振るう若葉の身に、突如として天より一筋の
「がぁ……ッ!?」
「若葉!?」
黒き雷は若葉の体を侵食し、彼女のまとう勇者服を漆黒に染めた。
変化は装備だけにとどまらず、若葉の瞳から生気という色が抜け落ちる。
少女はまるで操り人形のような動きで、いきなり帯一に斬りかかった。
「わ、若葉!? どうしたんだ!」
「殺す……全ての敵を、殺す……」
少年の眼前には、憎しみに歪んだ幼馴染の顔があった。
一体なにが起きた? あの
グルグルと疑問が湧くが、答えを出す間もない勢いで少女は刀を振るってくる。
「うっ、くッ……!」
帯一は必死で彼女の剣撃を自らの剣でさばくも、力量が上の若葉を前にしては次第に手が追いつかなくなる。
防ぎきれなかった生太刀の刃が、ハガネの鎧に傷を与えた。
「ぐぅッ!?」
太刀には勇者服と同じ紫黒のオーラのようなものがまとわりついており、それが裂かれた鎧を通り抜けて、帯一の肉体にダメージを加える。
痛みにうめく幼馴染に気づいていないのか、若葉はさらに二振り三振りと鎧を切った。
「若、葉……ッ」
「殺す……殺す……殺すッ」
少女の顔には怒りしかなかった。
バーテックスに向けられるべきその憎しみはなぜか今、目の前の幼馴染へと
若葉の太刀の鋭さに喘ぎながら、少年は考えを巡らせる。
「さっきの雷は、バーテックスが起こしたのか? 若葉のことを、操っているのか……?」
そうとしか考えられない。
がそうだとして、今の帯一になにが出来るだろう。
ハガネの鎧には、装着時間に「99、9秒」という制限が設けられている。
その分鎧の力は、同じ時間制限のある勇者の「切り札」と同等のものが与えられた。
だがそのパワーを仲間に向けるなど、誰であっても出来ようはずがない。
(考えろ、考えろッ。どうすれば若葉を正気に戻せるのか……!)
友奈たちが来てくれたなら、なにか手があるのかもしれない。
けれど、彼女らは今も多数の敵を相手に、神樹の防衛に徹している。
都合のよい救援など望めない。
帯一は若葉の太刀を受けながら、ふと以前の戦いでのことを思い出した。
(そうだ……。杏ちゃんも、千景さんも、二人の体に触れた時……なにかが俺の体に流れ込んできた)
そして直後に、二人の様子はいい方へと様変わりしていた。
まるで憑き物が落ちたように。
「負の感情を吸収する……それが、この鎧──ハガネの力なら!」
帯一は防御を捨て、両腕を広げた。
胸の中に飛び込む形で、若葉が攻撃を仕掛けてくる。
少女の刀が、ハガネの胴体に突き刺さる。
「ぐっ! ……若葉ッ」
帯一は鎧を解除し、生身の体で若葉を抱きとめた。
太刀は少年の腹を貫通して、流れ出る血が二人の服を赤く染める。
少年の腕の中で若葉はもがく。まるで死体のように、少女の体は冷たい。
敵にいいように操られ、友に武器を向けさせられている。
その、心の底にある悲しみが表出しているようだった。
そんな若葉の冷えた体を、帯一はきつく抱きしめる。
自分自身の怪我の痛みを意に介さず、強く強く。
そして、少女の体に憑りついた雷の黒い瘴気が、帯一の体に吸い取られていった。
やがて若葉は糸が切れたように、彼の腕の中で倒れ込む。
「ひとまず、これで大丈夫……かな?」
帯一は眠っている様子の少女を、そっと樹海の地に横たえた。
腹から抜いた彼女の愛刀を鞘に納め、少女の隣に置く。
出血のため視界がボヤけ、体がフラつく。
それでも帯一は、自分が倒れることを許さなかった。
「あとは、
◇ ◆ ◇ ◆
千体に近い数の星屑から、どうにか神樹を防衛することに成功した勇者たち。
しかしその代償は、二人の仲間の入院という結果を出した。
友奈たちが孤立した二人の元に到着した時にはすでに敵の影はなく、眠るように目を閉じている若葉と、出血おびただしい帯一が倒れている姿のみが残されていた。
樹海が解除されたのち、二人は即座に病院に担ぎ込まれる。
帯一の怪我は、腹部の刺し傷に全身の裂傷、それによる多大な出血。
若葉の身体的な怪我は彼より軽かったが、深い眠りに落ちており、その原因はハッキリとしない。
友奈らも、遠方から彼女の体に雷撃が落ちたのを目撃しており、それをひなたに伝えた所、帯一の推測と同様に「敵の精神攻撃の一種であろう」と結論付けた。
ひなたたち五人の少女は、治療を終え面会謝絶となった二人の病室の前で、ただうなだれていた。
幼馴染二人が大怪我を負い、ひなたの心理的なショックはとても大きいだろう。
そんな彼女に、友奈は沈痛な面持ちで声をかける。
「ごめんね、ひなちゃん。私が若葉ちゃんの所に行っていれば……」
「謝らないでください。きっと、帯一くんも納得してやったことだと思います」
頭を下げようとする友奈を止め、ひなたは気丈にふるまう。
少女の瞳が涙を懸命にこらえていることに友奈は気づいて、いっそう後悔がつのった。
千景もまた、暗い顔でガラスの向こうに眠る二人の姿を見つめる。
身体的な怪我は、神に選ばれたという特性のおかげで、常人より速いスピードで回復に向かっているらしい。
問題は、二人の意識がいつ戻るのか、という点にあった。
謎の攻撃を直接受けた若葉と、その攻撃のダメージを引き受けた帯一。
彼らの精神は、ちゃんと元通りに回復するのか……。
「これじゃあ、怒りたくても怒れないじゃない……」
若葉の無謀な行動で、みんなが危険に晒された。
そのことで一言言ってやろうと思っていた千景だが、当の若葉が目を覚まさないのであればそれも空回りだ。
もちろん千景だって、本気で若葉に怒っている訳ではない。
彼女なりの、早く目を覚ましてほしいという願いを込めたつぶやきなのだ。
そして、それは帯一に対しても同じだ。
少年に対する
ゆえに、少女は決めたのだ。
彼が目を覚ましたなら、かつての態度を謝りそして、自らの過去を打ち明けようと。
「神に祈るなんて
千景は胸の前で、祈るように両手を握った。
◇ ◆ ◇ ◆
「ぅ……」
戦いの中で意識を失っていたのか。
眠りから目覚めた帯一はしかし、病室のベッドではなく、闇に包まれた謎の空間の中にいた。
「どこだ、ここ……」
「帯一……?」
「その声は、若葉……!?」
すぐ隣から聞こえた幼馴染の声。
そこには敵に操られていた時とは違う、本来の姿の乃木若葉がいた。
二人は闇の中で、互いの無事を確かめ合う。
「よかった、正気に戻ったんだね」
「帯一、一体なにがあったんだ?」
「僕にもよくわからない。若葉が敵の攻撃を受けて、操られたみたいになって、二人とも意識を失って……気づいたら、ここにいた」
周囲は真黒に塗りつぶされ、一筋の光すらない。
それなのに、お互いの姿だけはしっかりと確認できる。
「おそらく現実ではない。私たちの意識は、どこか特殊な空間へ飛ばされたのではないだろうか」
『その通りだ』
「「!」」
若葉の推測を肯定した声は、帯一のものではない。
なにかに
「……ハガネだ」
帯一の目には、自らがまとう鎧が映った。若葉にも同じものが見えている。
ハガネは闇の中でシルバーの輝きを保ち、
『私は、かつてハガネまといし者』
鎧が静かに発した言葉は、自身が過去の存在であることを示している。
「僕の前に、ハガネの装着者だった人……」
『かつての時代、人は「魔の世界の者」共と戦うために、この鎧を生み出した。しかし、それを「神」は許さなかった』
「神、とは一体」
『お前たちが戦っているモノだ』
ハガネの鎧は過去、人類が超常の存在に対抗して造られた
だが自らを守るためといえ、人は人の領域を超えた力を手にした。
それが、『神』と呼ばれる存在の怒りに触れたのだと鎧は語る。
そしてその神とは、今勇者たちが戦っているバーテックスの正体である、と。
『鎧を造った者たちは、死という天罰を与えられた。数多の鎧は破棄されたが……この一体の「ハガネ」のみが、神の目を逃れ秘かに残された。未来へ繋ぐ「希望」として』
自分がまとっていた力の背景を、帯一は初めて知った。
同時に、自身がどれほどの想いを託されたのか、噛みしめる。
鎧は少年を見据え、言葉を投げかける。
『「ハガネを継ぐ者」よ。お前は共に戦う少女らを救うため、多くの闇を飲み込んだ。その闇が、お前を死に追いやろうとしている』
「帯一が……死ぬ、だと……!?」
共に鎧の声を聞いていた若葉が、その内容に強いショックを受けた。
「なにか、こいつを救う手立てはないのか!?」
『ある』
「あるのか!?」
『「闇」を「光」に変えるのだ。そうすれば、闇はお前を
「そんなの、どうすれば……!?」
帯一が叫ぶように尋ねる。
鎧は
『闇を受け入れよ。恐れるな。……自分を信じろ』
周囲を取り巻いていた闇が、帯一の体内に流れ込んでくる。
夜のような闇は濃さを増して、すぐ側にいる若葉の姿も見えなくなる。
帯一は抵抗もできず、黒の世界に飲まれていった。
「うわぁあああああああ!!」
苦しい。
ただ苦しみだけが、少年の中に充満している。
イヤだ、イヤだ、誰か、助けてくれ。
助けはない。独りきり、闇の虚空で帯一はもがき続ける。
その時、彼の手にわずかな温もりが感じられた。
とても身近な、昔から感じていた温かみ。
それは──
「帯一、しっかりしろッ」
若葉だ。
彼女は果敢にも、少年を取り込んだ闇の中に自らも飛び込んで、今彼の手をつかんだ。
「わ、かば……」
そうだ、自分は独りじゃない。
友である若葉がいる。
彼女だけではない。
ひなた、友奈、千景、球子、杏──共に戦うかけがえのない仲間が、いつも側にいてくれるではないか。
「この程度の闇に負けるな! 私も、自分自身の『憎しみ』という闇を乗り越える! だから……お前も諦めるな!!」
若葉の
彼女は戦いの中でも、一人敵陣に取り残された時も、諦めることは無かった。
そして憎しみに身を焦がしたその過去を、少女は今、乗り越えることを誓ったのだ。
そんな若葉の昔からの幼馴染である自分が、どうしてこんな事で音を上げられるだろう。
「若葉……。僕も、負けない……この闇に、打ち勝って見せる……ッ」
繋いだ二人の手から、闇にも負けない光がほとばしりはじめた。
「帯一!」
「若葉!」
「私たちは……」
「僕たちは……」
互いを想いあう両者の強い絆は、やがて閃光となり、闇の浸食を上回っていく。
「闇にも、神にも負けない!」
「ハガネを継ぐ者として、
暗黒の空間が、白く輝く光の世界へと変わっていく。
帯一の決心の宣言を聞いた鎧──先代装着者の魂は、使命を果たしたと満足げにうなづくと、幻のようにその場から姿を消すのだった。
ふと、自分の文章って読みづらいのでは…?と感じ、試しに改行を増やしてみました。
どうでしょうか?