ハガネの騎士と勇者たち 作:けの~び
「「「「総攻撃……!?」」」」
千景、友奈、球子、杏──四人の声が重なって、同じ言葉を口にする。
四人の前には、神妙な面持ちでうなづくひなたがいた。
「はい、総攻撃です。文字通り、次の戦いでバーテックスは、総力を挙げて四国に攻めてきます」
「そう神託があったのね?」
千景の問いに、再びひなたはうなづく。
前回の侵攻では、敵の数は千体にも
それが次には、全ての戦力を投入してくるという。
いったいどれほどの大軍が来るのか、想像もしたくないと杏は震えた。
「おまけに、こっちは若葉と帯一が居ないし……これ、もしかして大ピンチなんじゃないか?」
球子は、お手上げだという風に言った。
前回の戦いで重傷を負った二人は、未だ治療室で眠り続けている。
次の敵の侵攻の時までに都合よく目を覚ますとは、考えない方がいいだろう。
帯一が怪我するのを見逃し、若葉も助けられなかったという後悔を抱えた友奈はしかし、拳を握り強く宣言する。
「大丈夫! 帯一くんも若葉ちゃんも、絶対に必ず目を覚ますよ! だからそれまで……二人が安心して帰って来れるよう、私たちが頑張って、この世界を守るんだ!」
「ええ、高嶋さんの言う通りだわ」
「ま、泣き言いってもしゃーないわな」
「そうですね。私たちに出来ることをやらないと……!」
残された面々の決心が重なる。今はいない二人の仲間は、きっと戻ってくると信じて。
神託によれば、総攻撃まで時はそれほど残されていない。
五人は今こそ一丸となって、懸命にバーテックスへの対抗策を
◇ ◆ ◇ ◆
「いや想像以上に多いな!? ぶっタマげたぞ!」
そして、ついに神託の日は訪れた。
樹海に立つひなた以外の四人の前には、地平を埋め尽くす勢いの星屑の群れが浮かんでいる。
「二千……三千? 数えきれない……」
杏の持つ端末には地図が表示され、敵の位置情報も書かれているのだが、その数は計測不能を表していた。
意気込んでいた友奈も、この大軍勢を前にしては声もなく、冷や汗を浮かべている。
隣に立つ千景もまた、敵の本気度に圧倒された。この一戦で、確実に自分たちを殲滅する気でいるんだ、と。
『絶対に、生きて戻ってきてください』
樹海に飛ばされる前、ひなたはそう言って四人を送り出してくれた。
しかし、正直いって彼女の願いを叶えることができるのか……。
「敵が来ます。皆さん、それぞれの位置についてください!」
杏が、他の三人に指示を飛ばす。
彼女らは散々話し合い、考えを重ねた結果──一つの作戦を思いついた。
それは陣形、フォーメーションを組み、各人が交代交代で敵に対処することで、長期戦へ持ち込むことだった。
数で言えばバーテックスの方が圧倒的に多く、この差は
読書好きな彼女が、昔の戦記物の小説などで得た知識を動員しての今作戦は、大社の側でも「唯一の有効策」と認められたものだ。
「若葉さんと帯一さんがいてくれたら、完璧だったんですけど……」
「今ある手札でやりくりするしかないわ。私たちで、勝ちを拾いましょう」
千景が、不安げな杏を
「きっと大丈夫よ。成せばなんとかなるって、昔の人も言っていたし」
「あ、なんとかは余計かと……」
千景のフォローにツッコミをいれる杏。おかげで調子が戻ってきた。
「ほう……人の心配ができるとは、千景もずいぶん気が利くようになったな!」
「ぐんちゃんには、もしかしたらサブリーダーの才能があるのかもね!」
急に褒められ頬を染める千景だが、悪い気はしない。
今の彼女は、人からの賞賛を色眼鏡抜きで、素直に受け入れられるようになった。
それも帯一や若葉、友奈らの、気のいい同志たちと接してきたおかげだろう。
「そうね。乃木さんが戻って来なかったら、リーダーの座を奪ってしまおうかしら」
そんな冗談を言いつつ、四人だけの勇者による神樹の……世界の防衛戦がはじまった。
「タマっち先輩、下方から敵の一群が迫ってきています! 友奈さんは前に出過ぎです、少し下がってください!」
後方で杏が、全体の戦況を見つつ各勇者に指示を出す。彼女の指令は的確だが、やはりどうしても敵の数が多すぎた。
勇者たちの奮戦もむなしく、戦線は徐々に後退していく。
「やっぱり……四人だけじゃ、ローテーションが追いつかない……」
杏は焦りの声をもらした。
本来は前線で戦う者と、後方へ下がった者が代わり番に休憩を挟むことで、長時間の戦いに対応するはずだった。
しかし今回は敵の総数が彼女らの予想を超えており、休息をとる時間的余裕が与えられないでいる。
勇者たちの体力は確実に削られていき、それは精神面でも同じだった。
戦闘開始から早数時間が経過し、四人とも疲労が蓄積しきっている。いつ倒れてもおかしくない状況だ。
そこに追い打ちをかける事態が訪れる。真っ先に気づいた球子が声を上げる。
「おい! バーテックスが引いていくぞ!?」
「アンちゃん、これって……」
星屑は一つの所に集まり、その身を溶け合わせていく。
進化体、そう四人は思った。
しかし……それは
「これは……進化体、なの……?」
千景の目に映る敵の姿は、これまでの進化体と呼ばれるものたちより、遥かに巨大なシルエットをしている。
眼前の敵はビルほどの巨躯を持ち、その体には
「違う、これは……進化体じゃない……!?」
謎の進化を果たしたバーテックスを見て、杏は直感的に叫んだ。
この敵は、進化体などという生易しい存在ではない、と。
これぞ、彼女らの──否、人類の敵である『神』、その最大の戦力の一つ。
蠍座の名を冠するバーテックスは、その由来である巨大な尾を振るった。
「「「「きゃぁあああああ!?」」」」
たった一撃で四人の勇者たちは、人形のように軽々と吹き飛ばされてしまう。
かつてないダメージで樹海の上に叩きつけられ、みなすぐには起き上がれない。
千景は倒れたまま、
「なんなのよ、こいつは……こんなの、上里さんの神託にも、予言されてなかったじゃない……!」
彼女の声に答える者はいない。友奈ら三人は、敵の強力な一撃を受け意識を飛ばしてしまっていたのだ。
一人ヨロヨロと起き上がった千景の前に、悠然と完成体のバーテックスが近づいてくる。
千景はスマートフォンを取り出した。勇者へと変身するアプリが搭載されているそれを操作する。
「こうなったら、『切り札』を使うしかないわね……」
それは勇者の体に、精霊と呼ばれる霊的存在を降ろす、強化機能。
反動によるダメージを受ける恐れがあるため、大社からは極力使用を控えるよう伝えられていたが、この状況ではそうも言っていられない。
千景はアプリを操作して、精霊の記録を勇者服にダウンロードしようとする。
が……
「!? そんな……アプリが機能しない!?」
不幸は続く。どうやら最初のスコーピオンの攻撃によって、スマートフォンが破損してしまったようだ。
何度もアプリをタッチするも、エラー警告が表示されるのみ。
焦る少女を嘲笑うように、スコーピオンはゆっくりと尾部を持ち上げる。
尾の先端の針からは、生物の体内機能を破壊する猛毒が
千景はスマートフォンをしまった。
諦めてしまったのだろうか? 否、彼女は武器である鎌を構え、必死の抵抗を見せる。
「私たちは、私は、こんな所で死ぬ訳にはいかないのよ……まだ、二人に謝ってないんだから……!!」
追い詰められた状況でも千景の瞳には、決して死を認めない不屈の魂の輝きがあった。
そんな彼女の懸命さを
眼前へと迫ってくる必死の一撃から、千景は目をそらさなかった。そうすることが、少女なりの最後の抵抗でもあるように。
そんな彼女を守るように、千景の前に
バーテックスの毒の針は、銀色の鎧によって弾き飛ばされる。
「あ、あなたは……!」
「ごめんなさい、遅れました」
背を向けたまま言葉を返すのは、ハガネの鎧。それを纏うのは、千景の仲間である少年──鋼田帯一。
さらに、フラつく千景の体をそっと横から支える手が現れた。
「乃木さん……!」
「心配かけたな。だがもう、闇は乗り越えた」
若葉はそっと千景を地面に座らせた。あとは任せろ、そう言外に言っているようだった。
千景は、敵の前に並び立つ帯一と若葉の背を、黙って見つめる。
(二人とも、一体なにがあったの……?)
千景の目には、帰ってきた二人の背中が、一回りも二回りも大きくなったように見えた。
まるで、長い旅を経て成長を果たした一流の剣士のようなオーラが、二人の体には
「いくぞ、帯一」
「いつでもいいよ」
若葉はスマートフォンを操作して、自らの体に精霊を憑依させた。
切り札を使った彼女の心身に、負の思念が蓄積され始める。
そのマイナス感情を、帯一はハガネを使って吸収する。
黒い霧のようなモヤは銀の鎧を闇に染めた。しかし、それで変化は終わらない。
「今こそ、闇を光に──!」
闇を貫いて、ハガネの鎧が白く輝く。千景はくらむ目を開けて、二人のやろうとしていることを焼き付ける。
やがて鎧を取り巻く闇は、すべてが眩い閃光へと変わっていった。
「いまだ、若葉!」
「うむ!」
ハガネと少女は、自らの武器である二本の刀を振るう。
刀身から放たれた輝く光の刃が、舞うような軌跡を描いてスコーピオン・バーテックスの巨体を貫いた。
まるで、閃光をまとった
心臓部を破壊されたバーテックスの体が、砂となって崩れ落ちていく。
そして……樹海を一陣の花吹雪が埋め尽くした。
◇ ◆ ◇ ◆
勇者と帰ってきた剣士の奮戦により、バーテックスの総攻撃は失敗に終わった。
後の世に「丸亀城の戦い」と記録されることになる決戦を乗り越えた一同は、しばしの休息を経て今また戦いの衣装をまとっている。
が、今回は戦闘が行われるわけではない。四国の外に、バーテックスからの生き残りがいるという情報を得ての、遠征調査のためである。
「若葉、忘れ物はない?」
「ああ。ハンカチもティッシュも持ったぞ」
様々な道具を収めたリュックを背に、帯一と若葉は互いに持ち物の確認をしている。
そんな二人を、他の面々は改めて見つめた。
「グンちゃんも言ってたけど、本当に帯一くんと若葉ちゃん、雰囲気が変わったね」
「はい。今はそうでもないですけど、どことなく貫禄がついたというか……」
友奈と杏は少年らをそう評する。
球子も
「意識を失ってる間に、
とのん気そうに感想を述べた。
実際その通りなのだ。帯一と若葉は鎧の世界でハガネの試練に打ち勝ったことで、精神的な成長をとげた。
きっと今の二人なら、もう闇の恐怖になど惑わされることは無いだろう。
二人の幼馴染である上里ひなたは、少し離れた所で彼らの姿をまぶしそうに見つめていた。
そんな少女に、千景はそっと声をかける。
「上里さんは、行かなくていいの?」
「今の私は、二人の間に入るにはお邪魔でしょうから」
しかし、寂しげにそう言ったひなたを放っておく帯一と若葉ではない。
二人は距離を置こうとするひなたの元へ構わず駆け寄ると、少女の手を両側からつかんだ。
「さあ、行くぞ。ひなた。旅の移動の間は、私が抱えて連れて行ってやる」
「いや、若葉はゴリラパワーで荷物を持っててくれ。ひなたは僕が運ぶから」
「なにを言う! 同性の私が抱える方がいいに決まってる!」
「女の子が女の子に抱えられても嬉しくないでしょ! 僕がやる!」
「私が!」
「僕が!」
二人のやり取りを見て、ひなたはすっかり安心した。
遠くに行ってしまったように感じていた帯一も若葉も、変わらずに自分のことも友達と思ってくれているのだ、と。
そうだ。彼らの友情は、永遠の時が経とうと変わるものではない。
プロット上ではもう少し俺たたエンドな感じでしたが、サブタイ回収したしここで終わりでいいか…と、かなりのぶつ切りになってしまいました。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。