笠から覗く青空に   作:ひいろの鳥

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6章に脳を焼かれたので初投稿です。

数日前に投降したはいいものの数時間で消したものを書き足しで再投稿です。申し訳ないぬぇ。
それと学校が始まりやがってしまいましたが投稿ペースはそう変わらないはずです。これ以上遅くなったら愈々終わらないので...ね。

毎度ながら評価感想ありがとうございます。


郷愁

引き金を何度か引いたのち、アルは白目を剥いたまま固まってしまった。

弾切れ…なのだろう。

 

「銃弾までケチっちゃダメでしょー?」

 

「し、仕方ないじゃない!傭兵高かったのよ!!」

 

目の前でスケールの小さい言い争いが始まってしまい、急速に肩の力が抜けてしまった。

そうして目の前の仲間割れを眺めていると、鐘の音が鳴り響いた。

それを聞いた傭兵達は、次々に装備を解き始める。刻限が来た、ということなのだろう。

 

「それじゃ、私たちはここまでってことで。」

 

「え、あ、ちょ、待ちなさいよぉぉぉ!!!」

 

アルの叫び声も虚しく、傭兵達は次々と消えていく。

それと入れ替わるようにして、先生がこちらに駆けつけて来た。

 

“お互い大丈夫だった?“

 

「此方は無事だが…。」

 

そう言いながらアルの方を向くと、やはり白目のまま茫然と立ち尽くしていた。

ムツキと、いつの間にか起き上がったカヨコは横でアルの意識を戻そうとしている。

 

「で、どうするアルちゃん、逃げる?」

 

「う、うぅ...こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!!」

 

「あはは、まるで三流悪役の台詞じゃん?」

 

「う、うるさい!逃げ...じゃなくて退却するわよ!!」

 

言い争いながら、便利屋達は何処かに走り去ろうとしたが...。

 

「遅い。」

 

「きゃっ!?」

 

足を狙って一閃。威力は然程だが、戦闘で疲弊した身体は限界を迎えたようで、アルはすぐにその場に倒れこんだ。

 

"キムさん?!"

 

「命に別状はないはずだ。さあ、どうする便利屋?大人しく身柄をこちらに渡せば何もしないでおくが...。」

 

静かにアルの元に詰め寄り、刀をチラつかせる。ただそれだけで、追い詰められた人間は容易く折れる。

 

「あ、あわわ...。」

 

...だからといってこれは効きすぎな気もするが。

 

「ここで全てを話して退くか、首を落とすか...」

 

"き、キムさん...あんまり物騒なのは...。"

 

「...ただの脅しだ。本当に首を刎ねる訳じゃない。」

 

出来ない、といった方が正確だが。

 

"それでも、駄目なものは駄目!生徒に良くないし!!"

 

「...善処しよう。」

 

"それじゃ、後は私が聞いておくから...皆は先に校舎に帰ってて。"

 

「だが…」

 

「…おじさんも一応対策委員会の委員長だし、立会ぐらいはしておくよ〜。」

 

「これで良いよね?」

 

「…申し訳ない。」

 

気がつけば、他の皆は既に校舎に帰っている。

ホシノに促されるまま、自分も戻ることにした。

 


砂と血で汚れた刀を眺めながら、キムサッガッは先ほどの戦いを思い返した。

 

便利屋の四人は、確かに強かった。

それは個々の力が、という訳ではない。そういう話ならば、アビドスの方が優れているように思える。

思うに、彼女らが強いのはその結束力だ。アルを中心に、互いが見えない糸で繋がっている。

その糸は、一見細く見えるが、その実容易に断てるものではない。

 

場合にもよるが、便利屋というものは、何時仲間だった者に背後から刺されるかといった世界で生きている。

自分が生き残る為には仲間であろうとも斬り捨てる。少なくとも、彼の見てきた便利屋にそう言った手合いは多くいた。

だが、この世界は死が生と遠く離れている。

生き残ることを常に考える必要が無い。そうしなくても生きることが出来るからだ。

あの絆の強さは、それ故だろうか。

 

「(絆、それに仲間か…。)」

 

彼にも仲間はいた。彼等とキムサッガッは、やはり固い絆で繋がっていた。

それでも、死に近づけば近づく程、糸は綻んでいく。

彼自身が死ぬ間際、彼等との繋がりはか細くなっていた。

 

「…エンドゥ…。」

 

ふと、かつての仲間の名を呼んでみる。

その名を呼んだからと言って、好いていた、という訳では無い筈だ。誰かに、特に弟子にそう言った感情を向ける己を、彼は想像すら出来ない。

ただ、その名が、姿が、ひどく懐かしく思えてきた。だから呼んだ。届かないのは承知の上だった。

 

エンドゥは、彼の一番弟子だった。同時に、彼をお頭と呼び最も慕っていた人間でもあった。

思えば、彼女と背中を合わせて多くの死線を潜り抜けてきた。それ故か、彼女は死に際でさえ彼を想い、彼に対する後悔の念を抱き続けた。

そんな彼女も、既にいない。

彼女だけじゃない。他の皆もいない。

彼の目の前で散っていった顔が次々に思い出される。

死んでしまっては、もう会えないというのに。会えないからこそ、こうして顔だけでも思い出そうとするのだろうか。

 

否、キムサッガッ自身がこうして図書館から生き返ったから、他の仲間もこの世界で生き返っていると考えても良い筈だ。

だが、未だに見つけられていない。この広大な世界の何処かにいると言われても、砂浜から特定の砂粒を見つけ出せと言われているようなものだ。

唯一仲間と呼べるものは、もはや手に握っているこの刀しか無い。

 

この刀に銘は無い。師を討ったときに、手に握らされたものだ。

貫くのに適している反面、斬ることは不得手な直刀。

これで、多くの人間の肉を斬り、骨を断ってきた。

何処かの工房製なのか、はたまた特別な何かで出来ているのか、錆びたり刃毀れしたことは無い。

だが、それでもいずれは朽ちていく。この友でさえも散ってしまったとき、己には何が残るというのだろうか。

 

そこまで考えて、ふと窓を見遣る。丁度尋問が終わり、便利屋達を帰したところらしい。

先生はホシノと手を繋いで楽しそうに校舎に戻っている。

友がいると、ああいう顔が出来るのだろうか。少し、羨ましく思った。

 

 

“ただいま〜!”

 

「うへ、ただいまー。」

 

二人が揃って校舎に帰ってきた。片方は教室に入った瞬間に、ソファに身体を沈めて寝てしまった。

残った先生は、労いの言葉を掛けながら椅子に座った。

 

「おかえりなさい先生、何か聞き出せましたか?」

 

“もちろん!”

 

そうして、先生は聞き出した情報を列挙していった。

 

四人は便利屋68という組織であり、メンバーにはそれぞれ肩書きがあること。

ゲヘナ学園という学校の中でも問題児として知られており、逃げるようにしてアビドスに潜んでいること。

故に、便利屋としての活動は認められていない非合法の活動であること。

…リーダーのアルの金遣いのせいで、常に金欠であること。先生がお金を渡そうとしたが、

「そんなのアウトローじゃないわ!」

というアルの言葉で結局渡せず終いになったこと。

 

「アウトロー、ですか?」

 

“漫画とかに出てくる悪役に憧れてるみたいで…。”

 

「それでわざわざ違法な部活動を!?」

 

アヤネが驚いたような声を出す。生真面目な彼女には理解の及ばないことのようだ。

 

“もちろんお金を稼ぐ目的もあるだろうけど…。”

 

「ちょっとちょっと、そもそも便利屋って何よ?!」

 

横からセリカが口を挟んでくる。この世界では、便利屋という職業は珍しい…というより殆ど無いのだろう。

半ば巫山戯たような理由で攻め込まれたこともあり、声には怒りと焦りの感情が含まれている。

 

「金さえ積めば飼い猫の捜索から要人の暗殺まで行う何でも屋…と言えば良いだろうか。」

 

「そ、そうですけど……よく知っていましたね?暗殺までするかは分かりませんが…。」

 

「偶々元の世界に同じような組織が多くあっただけだ。」

 

あそこまで連帯感を有するところは中々無かったが。

そう言いかける前に、シロコが疑問を口にした。

 

「…それなら、依頼を出した奴がいるってこと?」

 

「そうなるだろうな。」

 

「何でよりによってこの学校なのよ!!」

 

この学校を狙っている依頼人がいると聞いて、セリカがまた激昂し始めた。

無理もないように思う。己の護ろうとするものを脅かす存在は、常に危機感を抱かせるし、それに怒りのトリガーを引かれることも儘ある。

だが…。

 

「そう怒るな。怒りは護るべきものを見失うぞ。」

 

「怒るなって、そりゃ怒るでしょ!!」

 

「はーいセリカちゃん、怒るとこうですよ〜?」

 

怒り狂う彼女を見兼ねたのか、ノノミがセリカの顔を自らの胸に埋めた。

始めはモゴモゴと何かを口走っていたが、やがて鎮静化した。

それを見たアヤネが、苦笑しながら続ける。

 

「誰がこの学校を狙っているのか、それにあの戦車パーツの出所も調査しないといけませんし…忙しくなりますね。」

 

その後、先生の解散宣言によって各々帰路に着いて行った。未だソファで寝息そ立てているホシノは学校に残ったが、先生は珍しくホテルで一泊することにした。

 

 

 

 

 

 

 

“ふぁ〜…。“

 

「疲れているようだな。早く休んだほうがいいだろう。」

 

”そうだね…。”

 

先ほどの大きな欠伸を誤魔化すように、足早にホテルに向かう。

ただ、それを追う影の動きは少し緩慢に見えた。

 

“…キムさんもお疲れ様。ゆっくり休んでね。“

 

「私は大丈夫だ。」

 

返事とは裏腹に、どこか上の空の様子で歩いている。

疲労ではない、別の何かが彼の中で蟠っている。そんな気がした。

 

”ボーッとしてるけど、大丈夫?”

 

「…少し、旧い友人達のことを思い出していた。」

 

“その友達って言うのは…。”

 

「仲間、と呼んだ方が良かったかもしれないな。共に背中を合わせて戦った者達だ。尤もー」

 

既に皆死んでしまったが。その言葉は口にはしなかったが、そう続くことは容易に想像出来た。

でも何故、唐突に仲間のことを思い出したのだろうか。そんな疑問を見透かすように、キムサッガッは続ける。

 

「…何、あの便利屋達を見ていたら、ふとな。」

 

便利屋68のことだろう。何処か子供っぽい夢を叶えようとしている社長とその子を信頼して周りに立つ子供達。問題児という烙印の裏に隠れていたのは、純心と強固な信頼関係だった。

 

「彼女らの戦いを見て、何か気づいたことはあったか?」

 

“え?いや…分かんないかなあ…。”

 

「…彼女らは、互いのことを前提として動いている。一人でも欠ければ到底成り立たないだろう。」

 

メンバー間が、容易に断てない絆で結ばれている。彼は便利屋68の生徒達をそのように見抜いていた。

 

「…無論、私と仲間も固い絆で結ばれていた筈だ。だが…死の間際ではな。」

 

目の前の彼は。一体どれほどの怨嗟を抱えているのだろうか。

それを引きずったまま、ここまで歩んできたというのだろうか。

 

“…でも”

 

私やアビドスの皆がいるよ。そう言いかけた口を噤んだ。

私たちは、彼の友人になれるのだろうか。未だに、彼との距離は空いたままのように感じる。

 

「…そう案ずるな。これは私個人の問題だ。それに」

 

彼らもまた、私と同じようにこの世界のどこかにいるのかも知れない。

希望を語る彼の言葉は、内容とは裏腹に焦燥に満ちていた。

 

「…申し訳ない。疲れているだろうにこんな話を聞かせてしまって。先程も言ったが、私個人の問題だ。先生の手を煩わせる気はない。」

 

“…いや、手伝うよ。”

 

咄嗟に口からその言葉が漏れた。方法すら分からないというのに。

目の前の男は驚きのせいか一瞬動きが固まった。

 

「…先程の話はあくまで希望だ。本当にそうとは限らないし、もしいたとしてもこの世界の何処で目覚めているのか判然としていない。限りなく無駄に近い行動と言えるだろう。」

 

“でも、可能性はあるでしょ?”

 

目の前の男は、きっと不安なのだろう。この足取りでは、道を誤るかもしれない。

それは先生として...否、一人の人間として見過ごせなかった。

 

“だからさ、一緒に手伝うよ。“

 

だから、せめて共に歩もうと思った。

道を踏み外さないように、間違えても戻れるように。

何より、少しでもこの人に近づけるように。

 

「…申し訳ない。私の問題に巻き込んでしまってな。」

 

”私がそうしたいから良いの!”

 

そう言って、彼の手を取る。

少しでも、彼を導けるようにしたかった。

 

(...そうなってまで、導かれるのですね。貴女は...。)

 

"...?"

 

今、何か声が聞こえた気がする。

いや、きっと幻聴だろう。私まで惑ってしまってどうする。

疑念を振り払うように、気づけば夜の街を駆け出していた。

心なしか、キムサッガッの手から暖かい信頼が感じられた気がした。




何で僕の書くキムサッガッはこうも生きづらそうな性格してるんですかね...。

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