5.5章の師匠を見ていたらいつの間にか書いていました。
作者はブルアカをエデン条約編までしか進められていないので多分設定はガバるしそのうち失踪しますが、そういう時はイシュメールのせいにして生暖かい目で見守ってください。
笠は透き通る世界にて目覚める
「剣契」。『都市』に住む人間―こと裏路地において、その名前を知っている人間は少なくないだろう。
都市の血管である裏路地を放浪し、剣を振るう組織だ。
彼らは通常、絆や連帯感といったものに縛られない。
『都市』では当たり前の光景なのだが、剣契は特に顕著だ。
あてもなく放浪し、一時的に身を寄せ合うことはあれど、基本的に独りで動き回る。
地位や人間に縛られずに剣を振るう。それが彼らの基本的な生き方だ。
―何事にも例外というものはあるのだが。
剣契頭目、名はキムサッガッ。
彼は、その例外の一人である。
剣契という組織では珍しく、同輩達に剣を教える人間だ。
その実直な人柄も相まってか、彼に従う者からは師匠と呼ばれ、彼らは皆一様に互いを絆で結んでいる。
彼が就いていた仕事もまた、剣契としては珍しかった。
S社と呼ばれる大企業、その要人の護衛。それが彼が買って出た仕事だった。
しかし。
結局守り切れなかった。
護衛対象だった左儀政は自身の正しさの為に行動を起こし、その為に命を落とした。
その上、彼は政敵から追手を差し向けられ、S社から追われることとなった。
追及の手は厳しく、慕っていた仲間は日に日に減っていく。
このままではいずれ仲間も自分も死んでしまう。そう思った彼は、懐から、いつの間にか手に入れていた「招待状」にサインをした。
『図書館』での戦いは過酷だった。
疲労で鈍った動きに容赦なく差し込まれる攻撃。出血や火傷に蝕まれ、肉体は限界を迎えていく。
反撃を許されず、次々と死んで本になっていく仲間たちの姿に絶望し、それでも剣を振るった。
振るって振るって奮って
彼自身も、不屈の肉体と技術で食らいついたが...最期は、やはりあっけなかった。
薄まりゆく意識の中で、散っていった仲間たちと左儀政に対する謝罪と後悔の念が広がる。
またしても守れなかった。仲間を無駄死にさせてしまった。
その後悔が、S社と図書館に対する憎悪に変わっていくのを感じながら、
静かに、意識を手放した。
「...でるか?」
「いや......あるよ」
「...くせえし...ばうか」
声が聞こえる。女、それも若いな。
それに硬い。硬い感触が背中を覆っている。地面に転がっているようだ。
―いや待て。
私は死んだはずじゃないのか。
取り敢えず、体を起こしてみるか。
「「「うわっ!?」」」
すぐそばから声が聞こえたのでそちらに目を向けると、3人の少女?が私のすぐ横に立っていた。
ヘルメットを被っているからわかりづらいが...声からして恐らく女性だろう。
そしてここは...駄目だな。皆目見当もつかない。
街並みからしてどこかの巣であることは確かだろうが...少なくともS社のものではないことぐらいしか分からない。
そもそも先ほどまで図書館で戦って死んだというのに、ここは...
「ちっ、目を覚ましやがったか!」
一人で思案していると、それを打ち破るように少女の声が傍から聞こえる。
「なぁおっさん、悪いことは言わねえから金目の物を置いていきな。あと道端で転がってたし病院紹介してやるよ」
その声とともに少女のうち一人が銃を取り出すと、他の二人もそれに合わせて銃を取り出す。
―違和感。
銃は本来高級品。取り扱いも難しいし、年端のいかない子供が持てる代物ではないはずだが...
...考えている場合ではないな。
腰に手を当て、得物を抜く。
分からないことが多すぎるし、情報はこの子達から得るとするか。
刀を抜くなり、銃弾が一斉に此方に向かってくる。
だが、狙いはまるで正確じゃない。
戦闘慣れしていないのか?だとすると何で銃なんか使っているのか益々分からなくなるが...
「クソッ、避けんじゃねえ!」
無茶な注文を聞き流し、当たりそうな弾丸を手に持っていた刀で弾き飛ばす。
弾いた感じ、威力もお粗末だ。安い工房製のものなのだろうか。
「銃弾を弾いた!?」
「マジで何なんだよこのおっさん!?」
そんな悲鳴を他所に、弾を込めている奴の元に走り寄る。
「ひっ、こ、こっちに来るなぁ!」
「遅い。」
隙だらけの首元を見据え、納めていた柄に手を伸ばす。
基礎的、それ故に殺傷力に優れた一撃を首元にお見舞いする。
殺った。
そう確信した。...はずだった。
「ぐえぇぇ...」
情けない断末魔をあげながら、その少女は倒れた。
確実に首と胴を離れ離れにする一撃を食らわせたはずだが...相当上等な強化施術でも使っているのか?
否。私の直感と、斬ったときの感覚がそれを否定する。
普通の強化施術ではありえない感覚。特異点だろうか、しかしこのような技術は聞いたこともない。
この天使のわっかのようなものの力なのだろうか。
分からないことが多すぎる。
気づけば、残りの二人はどこかに逃げていた。
追いかけてもいいが、それをするメリットもない。止めておくことにしよう。
一先ず、気絶しているこいつから情報を得ないとな...。
気絶してからそれなりの時間が経った。
仲間に見つかってしまえば面倒だから適当な路地裏に運んできたが...一向に目を覚ます気配がしない。
面倒だから別の通行人に聞きたかったが、場所が悪いのか人っ子一人いなかったのでこうして目を覚ますまでまつしかないのだが...
「...ぅん......はっ!」
そう考えていたらようやく起きた。
聞きたいことも山ほどあるし、慣れないが尋問めいたことを始めることにした。
「起きたか。」
「クソッ、ここは...」
「ここは路地裏だ。仲間に見つかったら面倒だからな。
さて、今から私の質問に答えろ。」
「なんでお前なんかに」
「無駄な口を利けば...流石に巣のお嬢様でも分かるだろう。」
あまり手慣れない脅しを掛けながら、あくまで淡々と言い放つ。
出来るだけ圧を掛けながら話すようにしているが...どうやら効いているようだ。
「分かった分かった、答えるって!」
「では一つ目、ここは何処の巣だ?裏路地ではないだろうが...」
「...?巣?
巣って...鳥のアレか?いやまあ人間の巣って言えるかもしんねえけど...」
「ふざけているのか?」
「こっちの台詞だよ!大体なんで銃弾を刀で...」
ぶつくさ聞こえる戯言を無視して、聞きたいことを一通り聞く。
だが、その返答はすべて期待していたものとは違った。
巣や裏路地という単語が伝わらない。
銃を持っているのは当たり前。
頭についている光輪―ヘイローと呼ぶらしい―は特異点ではない。(そもそも口ぶりからして特異点のことすら知らないようだ)
図書館についても聞いたが、一般名詞のほうしか出てこない。
まさか、そう思って頭から除外していた可能性が現実味を帯びて浮かび上がる。
少なくとも、ここではそう結論付けるしかなかった。
「...これで最後だ。
これに答えてくれれば解放しよう。尤も、二度と襲わないことは約束させるがな。」
「誰がお前みたいな化け物を襲うか!!
...で、その質問ってなんだよ。こっちももう裏路地とか巣とか訳わかんねえんだよ」
「そうだな、この場所...いや、世界は何と呼ばれている?」
「...キヴォトス。『学園都市キヴォトス』だ。」
キヴォトス。それがこの世界の名前で、『都市』とは別の常識で動いている世界。
「...ありがとう。もう行っていいぞ。」
「は~...ようやく解放された...じゃあな世間知らずのおっさん、気をつけてな!」
そのまま彼女は何処かに走り去っていった。
さて、都市とは違う世界に来てしまった以上、身の振り方も考えなければならないか。
否。それ以上に、仲間のことが気になる。
自分だけ図書館から解放された、という訳がないだろうし、共に散っていった仲間たちもこの世界にいるだろう。
服についた土埃を払い、透き通るような青空を見上げる。
都市では考えられないような、綺麗な青空だった。