やっぱり皆サッガ師匠のこと好きなんすね...
さて。
仲間はきっとこの世界にいるだろうし探そう、と意気込んだはいいものの...
その実当てがあるわけではなかった。
そもそも世界すら違うから当たり前といえばそうなのだが。
仕方ないし、歩き回りながら通行人に自分と同じ格好の人間がいなかったか聞いて回ることにしよう。
―そう考えてはや数十分。
居ない。まったく居ない。
ねじれが通った後の裏路地ぐらい静かだ。
もしや本当にここの住人が全滅したのかと思えてしまうが、住居の整い具合から別段そういうわけではないように思う。
目立つ目印がないせいか、同じところをずっと行ったり来たりしている気さえしてきた。
実際そうなのだろう。
流石にここまで光景が変わらないとなるとそう思わざるを得ない。
情けないが、一先ずの目標がこの地区からの脱出になってしまった。
目標が変わったのは良いが、改めてどうしようか。
思考を巡らせていると、不意に先ほどまで聞こえなかった音が聞こえてきた。
か細く、地面を踏みしめる音。
それが何者かの足音だと分かると、喜びと、それ以上の警戒心に支配された。
もし先ほどのヘルメットのように襲い掛かってきたときに、直ぐに対応できるように警戒心を強めながら音のする方向に向かう。
敵でないにせよ、慎重であることに越したことはない。裏路地で学んだ教訓の一つだ。
”うぅぅ...水...“
眼前に現れたのは、地面に突っ伏している銀髪の女性だった。
何かうめき声をあげながら倒れていて、その消え入りそうな声がなければ死んでいるようにすら見える。
何より目を引いたのが...私と同じく、ヘイローを持っていないということだった。
彼女も同じく都市からの来訪者なのだろうか。その割には都市の人間特有の負のオーラが感じられないが...
兎に角、声をかけないことには始まらないだろう。
弱っている感じからして、すぐ襲い掛かってくることもないと判断し決心を固めた。
「大丈夫か。」
”...んぇ...?人間...?“
女性は気の抜けた声をあげながら顔を私のほうに向けた。
整った顔立ちに青い目、土砂で汚れてなければ奇麗だと評する事のできる容姿だった。
「地面に突っ伏していたが...こんな所で倒れて何があった。」
”えっと、それは...“
彼女が次の言葉を出す前に、ぎゅるると大きな音が鳴った。
すぐさま顔を赤らめるのを見て、凡その事情は察した。
「...ふむ、確か携帯食料が...あぁあった、これでも食べるか?」
“ありがとうございます...あ、厚かましいけど水もありませんか?喉も渇いてて…”
「飲み止しのものならあるが...」
”あ、それで大丈夫…“
温くなった飲みかけの水を差しだすと、彼女は一気に中身を飲み干した。
気づけば渡した食料も消えていた。
あまり美味しくは無かったと思うが…飢えの苦しみに比べればマシだったらしい。
”あ゛~、生き返る~!“
「それは良かった。」
”ありがとう、えっと..。お兄さん?“
「キムサッガッだ。好きに呼んでくれ。」
”じゃあキムさんで..あ、私は先生の事は先生って呼んで欲しいな。一応シャーレの先生だからね。“
シャーレ...また知らない単語が飛び出してきた。
だが、今聞きたいことはそれではない。
「先生は、ここがどこか分かるか?」
”え?どこって、アビドスだけど...“
「実はここで迷ってしまってな...仲間ともはぐれてしまったし、どうにかここから出たいのだが、どうやったら出られるか分かるか?」
必要最低限の情報だけ渡し、返答を待った。
が、返ってきたのは
”いや...その...私も教えてほしい...“
彼女も迷っているという悲しい事実だけだった。
普通に考えたら路上で倒れている時点で察するべきだったが...疲労のせいかそこまで頭が回っていなかった。
ここからの脱出は一度諦め、他の質問に移ることにした。
「ところで先生、先ほど言っていたシャーレとは何だ?」
”えっ...と、シャーレを知らない...?“
反応から察するに、この世界では知ってて当たり前のものらしい。
ここまで来ると誤魔化しようもないだろう。
「そうだな...信じてもらえるか分からないが、私はこことは別の世界から来た...のだと思う。私の知っている常識とかけ離れていてな。」
”あぁ、だからそんな変な格好を………あ、変とか言っちゃいけなかったかな“
「いや、変わっているのは事実だから別にいい。格好で人が変わる訳でもないしな。
それよりも、シャーレとやらについて教えて欲しい。」
“あ、うん。えっと………”
彼女との対話で色々分かった。
シャーレとは連邦生徒会ーこの世界における頭のようなものーが立ち上げた、この世界に住む人々(彼女は「生徒」と呼んでいた)への相談に応じたり、逆に協力を仰ぐことも出来る組織だという。
そして「先生」である彼女がシャーレの筆頭であり、超常的な権力を持っているらしい。
…だが、彼女は「先生」になってから一ヶ月も経っていないし、何ならこの世界に来てからそう長くないのだという。
果たしてそれで大丈夫なのかと思ったが、聞いている限り大丈夫では無さそうだ。
ついでに何故先生にヘイローが無いのかも聞いたが、
”私が大人だから…………かなぁ………?“
という曖昧な返事しか返ってこなかった。彼女自身もよく分かっていないらしい。
「色々教えてくれてありがとう。」
そう言いながら、頭の中では教えられた情報を整理している。
この世界ではどのように生きれば良いだろうか。
少なくとも、他の同輩のように根無し草の人斬りを渡世とする事は、この世界では叶わないだろう。
だがこの世界に身寄りなどあるはずも無いし、身元不明の人間がまともな職にありつけるとも思えない。どうしたものだろうか。
そう考えていると、不意に話しかけられた。
”えっと…キムさん?“
「どうした。」
”行く場所が無いんだよね?折角だし、シャーレに来ない?”
何が折角かも分からない唐突な提案に少し戸惑ってしまったが、その提案に乗るのが最適な気がした。
だが、何も無しに引き取られるというのも何だか薄気味悪い。
都市に居たせいか、見返りを求めない救いに手には裏があるのではと勘繰ってしまう。
「そうだな……では、その代わりに私が先生の護衛をするというのはどうだろう。」
“えっ、護衛?”
「そうだ。聞いた限り、貴女の地位や命を狙う輩も少なくは無いだろう。
私がそういった危機から貴女を守り、対価としてシャーレに身を置かせて頂く。どうだろうか。」
何もなしに居座っていても何かと動きづらいだろう。
何より、ただ受け取るだけなのは釈然としない質なのだ。先生からしても悪い話では無いだろう。
“えっと……別にそういうのは要らないんだけど…。“
「与えられるだけでは成り立たない。与える側も同様にな。
それに、貴女にとっても悪く無い話のはずだ。」
それに、彼女の目から、私は彼の方と同じものを感じ取ったのだ。
正しいことを為そうとする目。
この刀は誰かの為に振るうのだと、ただ己の為だけに振るうのでは無いと、あの日胸にした決意を思い出させてくれる目だ。
「どれほど研がれた刀でも、持たなければ意味は無い。
この刀を執るかは貴女次第だ。さて、如何する?」
”...それじゃあ、お願いしようかな。”
こうして、私は彼女の元に就くことになった。
今度こそ護り切れるようにと、腰に刺した刀に誓う。
「では改めて、よろしく頼む、先生。」
“こちらこそ、よろしくね。”
手袋越しに握手を交わし、己に課した命を再び反芻する。
今度こそ、この手から何も溢さぬように。
透き通る青空の下、握る手を強めながら、そう固く誓った。
先生の見た目はアンジェリカみたいな感じです。
特に深い意味はありません。マジで。
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