やっぱりいつ見てもパッシブが頭おかしくて本当に都市悪夢なのか疑いたくなるねこれ。
護衛の任務についてはや数十分...。
”...結局、出れてなくない?”
その言葉通り、私たちはこの地区から出られずじまいだ。
そもそも道に迷っている二人で出られる訳がなかった。
「地図とか持ってないのか?」
”無い...”
「スマホは...」
”電池切れです...”
本当にどうしようもなくなった。
充電ぐらいして来いと言いたくなったが、此方も何も言えない立場だ。
”もう無理ぃ...疲れたぁ...”
とうとう先生がへたり込んでしまった。
暑い上にまだ日の出ている時間帯だ。放浪しなれている身なりでもないし、こうなるのも当然といえば当然だが...
取り敢えず先生を日陰に連れ込み、一口分しか残っていない水を分け与える。
体力を奪われ切った先生の回復を待っていると、また何かの音が聞こえてきた。
地面を擦る音、自転車かその類いだろうか。
この状態で襲われてはひとたまりもない、そう思い警戒心を強める。
直ぐに、シャーッという音とともに、自転車に跨った少女が眼前に現れた。
ヘイローや背負っている白い銃にも目が惹かれたが、それ以上に気になったのは頭頂部に生えた獣の耳だ。
側頭部からは人の耳が覗いているしどういう構造なのだろうか。
「えっ...と?」
先に口を開いたのは少女のほうだった。
声色や視線から敵意は感じられなかったので、一先ず警戒心は緩めることにした。
「こんなところでどうしたの...?」
「実は道に迷っていてな...」
「ふぅん、ただの遭難者だったんだね。」
どうやらこの辺りではよくあることらしい。まあ裏路地でも似たようなことはあったのだが...。
「見た感じ、そっちの女の人は連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど...貴方は?この辺りじゃまず見ないような恰好だけど」
「私は彼女...先生の護衛のキムサッガッだ。彼女は立場上、何かと狙われ易いからな。こうして護っているわけだ。」
”の、喉が...”
軽く会話を交わしていると、傍から先生のうめき声が聞こえてきた。
目は覚めたらしいが...限界みたいな声を出している。
「..ちょっと待って。」
少女は鞄の中を漁り始めると、一本のペットボトルを持って先生のほうに近づいてきた。
「これ、エナジードリンク。」
”ありがとう...”
「ええと、コップは...」
そう言いながら少女が鞄を漁っている間、先生は既にそのまま口をつけて飲んでいた。
ゴクッゴクッと美味しそうに飲み続け、瞬く間に半分ほど飲み干してしまった。
「...!あ...それ...」
それに気づいた少女は顔を少し赤らめ、口をもごもごさせていた。
対称に先生はといえば、満面の笑みで感謝を伝えている。
「それで...先生ってことは学校に来たんだよね?この辺りだとアビドスしかないけど...」
それを聞いた先生は、そこが目的地だと言わんばかりに頷いていた。
そこで漸く、先生の目的地を知るに至った。
「そう。なら着いてきて。すぐ近いから。」
それを聞いた先生はすぐに立ち上がって歩こうとしたが...直ぐに姿勢を崩してしまった。
“ごめん……疲れて上手く立てない…。”
「……担ごうか。」
“ありがとう…。”
正直に言うとあまり手が塞がる行為はしたく無いが……片手さえ使えれば大丈夫だろうか。
先生が動けない方が問題だと判じて、脇に抱えるようにして持ち上げた。
”...あのー...”
「どうした?」
”いくら何でもこの持ち方は...モノ扱いっぽくて...”
注文が多いな。面倒だからこのままでも良いかと思ったが...大の大人が騒ぐのもそれはそれで面倒だと思い、結局背負うことにした。
機動力が落ちるからあまりしたくなかったが...少女も居るし、破落戸十人程度なら追い払えるだろう。
「そういえば、貴女の名前を聞いてなかったな。」
「ん、私は砂狼シロコ。よろしくね。」
「こちらこそよろしく頼む。」
その会話を最後に、呻く先生を背負って目的地へと歩を進めた。
シロコに着いて行くこと十分、眼前に広がったのは大きな建物だった。
此処が話題に上がっていたアビドスとかいう学校か。裏路地では考えられないほど綺麗な校舎だ。
そのまま案内されるがままに歩いて行くと、「アビドス廃校対策委員会」と大きく書かれた看板が立てかけられている部屋に着いた。
横開き式の扉が音を立てて開くと、校舎とは違って物がそれなりに散乱している光景が広がった。
「ただいま。」
「おかえり…って、その2人は誰!?」
「わぁ、シロコちゃんが大人を連れ込んで来ました!」
中にいた少女達が騒ぐ中、一先ず先生を降ろして座らせた。
「いや、別にそういうのじゃなくて…」
「私が説明した方が早いだろう。」
私は自身の名前と命ぜられた任務について大まかに話した。
都市のことは伏せながらだが…。
「…そして、こちらがその先生だ。」
“よろしくね〜”
先生はすっかり回復したようで、余裕の顔で挨拶をし始めた。
どうやら、この学校には物資を届けに来るのが目的だったようだ。
それを聞いた少女達は一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに歓喜の色に変わった。
喜びようからして、よっぽど窮していたようだ。食料などが不足しているようには見えないが…。
「早くホシノ先輩に知らせないと……あれ、ホシノ先輩はどこに?」
「先輩は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる。」
そう言って猫耳の少女は部屋を飛び出した。
かと思えば、直ぐに桃色の髪の少女を引き摺って戻って来た。
「あと5分…いや30分だけ……」
「先生が来たんだから寝ぼけてないで起きて!あとそれ伸びてるから!」
「ん〜?むにゃ…先生と…」
「護衛のキムサッガッだ。」
「私はホシノ、よろしくね〜」
なんとも気の抜けた返事と共に、ホシノは先生と揃ってソファに沈んでしまった。
しかし、その姿に一切の隙は感じられなかった。今刀を抜けば間髪入れずに撃たれる、そんな気さえする。
暫くして落ち着くと、私への好奇と不信の目が一斉に襲ってきた。
それなりに怪しい立場だから、この視線も受け入れざるを得ない。
「…ところで、キムサッガッさんだっけ。ヘイローも無いのに護衛なんて出来るの?」
猫耳の少女が切り出して来た。
彼女のいうことも最もだろう。
ヘルメットの少女を斬った時に弾かれた感覚、あれがヘイローによるものなら、銃弾によるダメージを大幅に軽減出来るだろう。
しかし私にはそれがないのだ。数発程度では死なないが、それでも彼女達の耐久力には劣るはずだ。
疑問に対して素直に答えようと思った矢先、不意に外から銃声が響いて来た。
ダダダダダダダッ!
銃声の主は…数時間前に相手したヘルメットの仲間のようだ。
付けられていた気配はなかったが…私のせいで来てしまったのだろうか。
一先ず先生を射線外に下げ、窓から直接ヘルメット達の元に向かった。
「わっ、武装集団が襲撃して来ました!カタカタヘルメット団のようで……あれ、キムサッガッさんは?!」
「さっき窓から出て行きましたね〜☆」
「はぁ!?ヘイローも無いのに大丈夫なの!?」
「ん、マズいね。」
「ん〜…私たちも行かなきゃだね〜。」
“そうだね、私が指揮を取るよ。”
内心、先生は不安だった。
自分と同じようにヘイローの無い生身の人間。武器のようなものを携えてはいたが、銃弾の雨に対処出来るはずが無い。
自分のせいで誰かを失うのは、たとえほぼ初対面だとしても、とても怖かった。
急いで助けにいかないと、そう思い全力で走って校庭に出た。
外に降りると、十数人程度のヘルメット達が銃を持って暴れ回っていた。
統率が取れているようには見えない。一人だけ気配の違うのが親玉だろうか。
ざっくらばんとした分析を済ませて、刀を抜いて呼吸を整える。
「なんだおっさん、こんな所にいたら危ねえぞ!」
「間違って撃っちまうかもしれねえぞ!!」
どうやら此方を敵と認識していないようだ。尚更好都合だな。
少し足に力を入れて、一気に距離を詰める。
「ぐぇっ!?」
まずは一人。やはりと言うか、抜剣を当てただけでは気絶させるのが精一杯だな。
ついでに近くにいたもう一人にも当て身を食らわせておく。これで二人。
「撃てぇぇ!!」
その掛け声と共に一斉に銃弾が飛んできたが…誤射を恐れているのか密度は高くない。
冷静に見極め、当たらないものや当たっても擦り傷程度のものは無視し、致命傷になりかねないものだけ弾く。
「なんで弾けんだよ?!」
威力が低いからとしか言えないが、無駄口を叩いている暇は無い。
一人でいる奴には抜剣と当て身、直線上に並んでいる奴らは刺突で一気に弾き飛ばす。
一人、また一人と倒していき、残るは親玉だけになった。
他より多少は硬いかもしれないが、それでも知れているだろう。呼吸を整え、一撃で葬れるように構える。
「クソッ……これでも喰らえっ!」
自棄になったのか、腰に巻いていた爆弾を手当たり次第に投げて来た。
全ては弾き切れない、ならば敢えて…。
「よし!やったk」
直後、鈍い音と共に声の主は倒れた。
「たかがその程度じゃ私は殺せん。」
殺主。敢えて防御を捨て、生まれた隙に斬撃を叩き込む剣契の反撃術。
此方も少なく無い痛手を負ってしまう為使いたくは無かったが…比較的軽傷で済んで幸いだった。
治療を受けるために校舎に戻ろうと振り返ると、先ほど置いて来た6人が呆然と立ち尽くしていた。
「あの……ヘルメット団の方々は?」
「見ての通りだ。」
「これを全部一人でですか〜?」
「そうだな。」
確かに彼女達がいれば
だが彼女達が来たのは凡そ私に対する報復だろうし、彼女達に手伝わせるのは忍びなかった。
“爆発音が聞こえたのは…”
「弾き切れなかったが、致命傷にはなっていない。治療を受けたくはあるが…。」
そう言うと、その場にいた全員が信じられないものを見るかのような目をしていた。
本当に人間なのか、と言う声が今にも飛んできそうだった。
「本当に人間なの…?」
現実に飛んできた。その言葉を漏らしたのはセリカだったが、他の全員の総意でもあるようだ。
失礼だとは思ったが、反論する気も起こらなかった。
「うへ〜……先生、この人何者なの〜?」
“異世界から来たって言ってたけど…。”
「恐らくだがな。私の世界の常識とかけ離れているからそう推測しただけだ。」
「そっちの世界では生身の人間が爆発を耐えれるのが常識なの!?」
それに関しては…多少鍛えているのと、この服のお陰だろう。あの時揃えられる中では最高級品だったものだ。
それに、此方から言わせて貰えば銃を当たり前に携帯している方が疑いたくなる。
幸いヘルメット達のは威力が低かったが、更に威力の高いものもあるだろう。どちらにせよ、都市では考えられない光景だ。
「……取り敢えず、校舎に戻ろっか。」
シロコの言葉によって、一同はぞろぞろと校舎に入って行った。
しかし、あの爆弾を弾き切れなかったのは惜しかった。落ち着いて対処すれば、弾き切れなかったはずがない。
図書館による疲労が思いの外響いているのだろうか。
...否。それは言い訳に過ぎない。一重に己の実力不足だったのだ。
もっと鍛錬を積まねばな。そう思いながら、校舎に戻って行った。
Q.どうやって爆発を耐えたんですか?
A.服自体の防御力と強化施術と気合いで耐えました(???)
師匠!都市基準で考えてもその耐久力はどうかしてるよ!!!