グルメ時代から異世界に来るそうですよ?   作:雪月鷹架

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YES! ウサギが呼びました!
グルメ時代から異世界に来るそうですよ? (前編)


 

 

 

 

 雲を突き抜けて屹立する大木の数々。大木に実る瑞々しい果実や満開に咲く花々ですら全長数百mはくだらない。

 大地に生い茂る雑草すらビルに匹敵するほどの大きさだ。そして、その雑草すら小さく見える巨大な体躯の猛獣たちが多く闊歩していた。

 

 この大陸の名はエリア7。

 グルメ界屈指の大陸の広大さと生物の巨大さを誇り、八王・猿王バンビーナが統べる大陸である。

 

 その大陸に降りたった人間──御波は中性的な美貌に安堵を込めながら息を吐いた。

 

「やっと着いた⋯⋯」

 

 肩口まである艶やかな黒髪に、鮮やかな空色の瞳。黒色のパンツに膝丈まである薄手のコート。

 暗闇に溶け込むような装いは冷たい印象を与えるが、綺麗とも可愛いとも表現できる顔立ちが服装の印象を和らげている。

 グルメ界はおろか、人間界のジャングルでも生存できなさそうな華奢な容姿だが、当の本人はエリア7を目の当たりにしても平然としていた。

 

「⋯⋯本当に何もかもが大きいなぁ」

 

 どこまで伸びているのかすら判然としない大木を横目に歩を進める。

 辺りに生い茂る草ですら天を仰がなければ頂点が見えてこない。人間界ではまず見られない光景だった。

 

「節乃お婆ちゃんに依頼されたコンソメマグマは⋯⋯何処にあるかな」

 

 依頼者である美食人間国宝、節乃の顔を思い浮かべながら呟く。

 御波がグルメ界に来た理由は、節乃とそのコンビである次郎が定めた人生のフルコース。スープに分類される食材の捕獲を依頼されたからであった。

 

 グルメ界でも屈指の捕獲レベルであるそのフルコースの食材。本来であれば次郎が全て捕獲するのだが、節乃曰く別件で手が空いておらず、先んじて御波にスープの捕獲を依頼されたのだ。

 

 御波は懐から折り畳まれた一枚の紙を取り出して開く。

 はがきサイズの紙にはエリア7の大まかな区分と、この辺! という文字と矢印でコンソメマグマが湧き出ている鍋山の位置が記されていた。

 

「もう少し詳しく書いてくれても良かったのに⋯⋯」

 

 御波は思わず苦笑する。この程度の情報でも捕獲可能であるという信頼の証と喜べば良いのか、それとも大雑把に書いただけなのか。前者である事を祈りつつ地図を見る。

 地図によると大陸は東西南北4つのエリアに分かれており、鍋山は(ノース)マウンテンエリアにあるそうだった。

 

()()()()だとちょうど真反対かな。鍋山がある場所は」

 

 御波の上陸した場所は地図と現在地からするに(サウス)マウンテンエリアだ。節乃によればエリア7の総面積は少なく見積もって人間界の半分はあるらしい。

 

 巨大の一言が不釣り合いな程の大陸を今から最短でも南から北へ横断しなければならないのだ。

 しかし、御波の胸中にあるのは飛行機でも数日を要する距離を移動することでも、その道中に猛獣に襲われることでもなかった。

 

(中央の100Gマウンテン。ボクも此処にだけは近寄らないようにしないと)

 

 節乃は言っていた。猿王バンビーナが住処とする100Gマウンテンには絶対に近寄ってはならない、と。

 

(猿王は100Gマウンテンからあまり動かないらしいし、迂回して鍋山を目指そうかな)

 

 地図を懐に仕舞い、御波は近くの大木を見上げた。山々よりも更に高く屹立する大木は雲に隠れてその全容を窺うことはできない。

 だが御波にとっては大木が高ければ高いほど都合が良かった。

 

「よしっ!」

 

 そう言って御波は僅かに膝を曲げ遥か頭上の大木に向かって───跳んだ。

 

 重力も、空気の壁すらも軽々と突き破り上昇する。

 視界の端に映る山々や猛獣は一瞬で見えなくなり、そのままの速度で雲を蹴散らしていく。それから一拍後、御波は頂上に到着する。

 そこから地上を見渡しながら、御波は人間界について思案する。

 

「早く人間界に帰らないと、子供たちに寂しがられちゃうな」

 

 御波がIGOの協力の下に経営する孤児院。捕獲した食材を売り捌くことで得た莫大な資金と、IGOの後ろ盾によって運営される施設で暮らしている子供たちは年幼い者も多い。

 年長者であれば十代後半の者もおり、御波が依頼しているIGOの職員も多数在籍している。人手という意味では十分だが、御波が見つけて保護したこともあり、御波を親のように慕う子供たちは多い。

 その傾向は幼い子供ほど強く、中には御波が一日でも諸事情で顔を出せない時があると泣きじゃくる子供も存在するのだ。

 

 そんな子供たちのためにも、御波は早く人間界へ帰還しなければならない。

 

 御波は西側を向くと大きく膝を曲げる。体が水平になるような前傾姿勢を取って、

 

「早いところ捕獲して人間界に帰らないと、ね!」

 

 第三宇宙速度で水平に跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリア7の空を()()()()()()()()()()およそ1時間。

 (ノース)マウンテンエリアに到着した御波は鍋山に向かって歩きながら、〝グルメ細胞の悪魔〟の能力で自身の知覚範囲をおよそ──1000㎞まで拡大させた。

 

 範囲内の生物の姿形や気配は勿論、植物や地形などの情報が一気に御波に流れ込む。

 常人ならば死に絶える情報量だが、御波は平然としながら歩みを進める。

 

(周囲1000㎞の中で、ボクに近付いてくる猛獣はいないけど⋯⋯)

 

 あくまで近付いてこないだけで油断はできない。

 鍋山が100Gマウンテンの近郊に位置している以上、戦闘を起こせば猿王に察知される可能性が高い。

 

 そして鍋山の中腹付近では、捕獲レベルの高い猛獣たちが住処としている気配がある。

 戦闘を起こせば鍋山付近の猛獣たちは間違いなく気付くし、長引けば猿王に察知される可能性が高まるのだ。

 

 警戒を緩めることなく歩き続けて暫く、鍋山の麓に到着した御波は胸中で呟く。

 

(猛獣たちの位置と数は捉えてる。戦闘は最小限に留めつつすぐに終わらせ──)

 

 御波は100Gマウンテンの方角に振り向いた。

 

 知覚範囲に侵入した気配は一つ。それも空からだ。それが尋常ではない速度で接近してきている。エリア7の猛獣たちとは比較にならない程の大きな気配が。

 心臓が早鐘を打つのを感じながら御波は臨戦態勢に入る。この速度なら十数秒後にこの気配と御波は接敵する。

 

(間違いない⋯⋯! この気配の大きさは、猿王────)

 

 気配が加速する。

 

 それを知覚したのとほぼ同時に、猿王バンビーナの拳が御波に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒と紫、二つの軌跡が幾度となく衝突する。

 衝突の度に隕石が落ちたようなクレーターが形成される。拳が交われば雲は消し飛び、台風すら生温い暴風が吹き荒び周囲数十㎞の植物を死滅させていく。

 

 豊かな自然を形成していた土地は見る影もなく、その戦闘の凄絶さはエリア7の猛獣たちが脇目も振らずに逃走する程であった。

 

 そんな戦闘の渦中の御波は、その美貌に焦燥を募らせながら歯噛みする。

 

(身体能力、技術共に明らかに負けている! ⋯⋯正面からの格闘戦だと分が悪いな)

 

 攻防の最中、御波は対峙する猿王に思考を巡らせる。

 

 数多の猛獣たちが犇めくグルメ界。その生態系の頂点に君臨する八王の一角、猿王バンビーナ。

 唯一目を付けられたくなかった存在との戦闘は、猿王の奇襲から数分が経過していた。その間に行われた攻防は数千に及んでいるが、御波が猿王に傷を与えることが出来た攻撃は一つもなかった。

 攻撃は当たっている。だが、攻撃の全てが受け流されているのだ。

 

(間違いなく猿武によるものだけど、いくつか直撃させたのも無傷か。ボクのとは比べ物にならない練度だ)

 

 猿武。

 

 60兆を超える〝グルメ細胞〟全ての動きを統一させて防御や攻撃を行う技術。御波も体得しているその技術だが、猿王はその技術の創始者にあたる存在だ。

 呼吸をするかのように行われているであろうそれは、御波の練度を大きく上回っている。

 

 そして、両者の表情は対照的だ。御波の表情は固く額に汗も浮かんでいるが、対して猿王は楽しそうに笑みを浮かべているのだ。

 現状どちらの方に余裕があるのか、それを証明するように猿王の速度が上がった。 

 

「ウキッ」

 

 放たれた拳を左腕で受けた御波は目を見張る。

 

(重い⋯⋯! さっきまでよりも遥かに!)

 

 猿武は使用している。それにも関わらず腕に痺れるような衝撃がある。

 その事実に驚く間もなく、畳み掛けるような連撃が猿王から放たれる。それらを回避、防御しながら御波も攻撃を試みる。

 

 だが、身体能力の差に加えて猿武による練度でも後塵を拝しているのだ。御波が回避や防御に回ることが増えてきた。

 崩れた均衡は留まることを知らず、御波は瞬く間に守勢に回ることを余儀なくされた。

 御波からの攻撃が無くなったことで、猿王から無数の攻撃が浴びせられる。

 

(これ以上守りに入るのは無理⋯⋯!)

 

 猿王の拳を受ける直前、御波は足の力を緩めた。

 拳を両腕で受けた御波の体は踏ん張ることなく弾丸のように後方に弾かれる。猿王との距離を取った御波は弾かれた勢いを消すことなく身を翻して右へ疾走する。それを見た猿王も御波を追う。

 身体能力で猿王に後塵を拝する以上はすぐに追い付かれるだろう。

 

(今の状況を身体能力で打開する手立てはボクには無い。⋯⋯仕方ない)

 

 再度身を翻した御波は猿王を見る。猿王の表情には先程と変わらずこの戦闘が楽しいと言わんばかりの笑みが浮かんでいる。

 

 御波は〝グルメ細胞の悪魔〟の能力での知覚範囲を、自身を中心に半径500mに限定。そのまま猿王を迎え撃つ。

 迎え撃たれる猿王は微塵も警戒する素振りを見せない。それどころか、力強く地面を踏みしめ加速する。

 戦闘が始まってからの動きが遅くみえる程の加速。御波に肉薄した猿王の拳が────

 

「ふっ──!」

 

 空を切り、御波の拳が猿王に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




 


 話の都合上、トリコが原作のようになっていますが次回で箱庭に召喚されます。


















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