グルメ時代から異世界に来るそうですよ?   作:雪月鷹架

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グルメ時代

 

 

 

 

 

 

 陽は沈み、燃えるような茜の空は星々が煌めく夜空に姿を変えた。月明かりに照らされた〝ノーネーム〟の本拠はホテルのような佇まいで、12階まである巨大な屋敷は嘗てのコミュニティの構成員の多さを感じさせた。

 コミュニティの伝統ではギフトゲームの実力によって序列が与えられ、プレイヤーたちは上位から最上階に住むのが通例だ。上階である程に部屋も広く、嘗てのコミュニティが拵えた専用の家具が多くあるらしい。

 

 だが、移動に不便なこともあり御波たちは3階の部屋を希望した。

 各々は選んだ部屋の確認を終えて、来客用の貴賓室に集合して寛いでいた。

 

 貴賓室というだけあり、意匠の凝らされた絵画や精巧な彫刻の花瓶などが飾られている。部屋も相当に広く、家具や調度品も高級感ある材質だ。

 御波たちが腰を下ろしたソファは、柔らかくも程よい反発感で御波たちを迎えている。

 

 4人が座っても余裕のあるサイズのソファが二つ。御波と十六夜、飛鳥と耀の組み合わせで座り、湯殿の準備ができるのを待っていた。

 御波は兎も角、十六夜たちは召喚された時に水に濡れ、十六夜に至っては二度も全身を水に濡らしている。

 風呂に入りたいと思うのは当然であった。黒ウサギは御波たちを歓待するために、子供たちと大浴場の清掃に励んでいる。凡そ一刻で準備が整うとのことだった。

 

 耀に撫でられていた三毛猫は何かを訴えるように鳴く。

 

『な、なあお嬢。ワシもお風呂に入らなアカンか?』

「駄目だよ。ちゃんとお風呂に入らないと」

 

 御波にはニャーニャ―と聞こえるだけだが、耀は三毛猫と言葉で意思疎通ができるようだ。十六夜は興味深げに耀へ視線を向けた。

 

「ふぅん。白夜叉が言ってたけど、お前は本当に猫の言葉が分かるんだな」

『オイワレェ! お嬢をお前呼ばわりとはどういうことやねん! 調子に乗るやないぞ!』

「駄目だよ。そんなこと言うの」

 

 十六夜へ激しく鳴いた三毛猫を耀は諫める。

 御波に三毛猫の言葉は分からないが、十六夜の発言が気に入らなかったようだ。

 それを三毛猫と耀の反応で察したのか、十六夜はケラケラと笑っている。

 

 すると、貴賓室に黒ウサギが入室してきた。

 

「湯殿の用意ができました! 女性様方からどうぞ!」

「ありがとう。先に入らせてもらうわよ十六夜君」

「俺は二番風呂が好きな男だから構わねえよ」

「三人共行ってらっしゃい」

 

 御波の言葉に全員がピタッ、と硬直した。

 

 ソファから立ち上がった飛鳥と耀も、扉の前に立つ黒ウサギも、十六夜すらも固まっている。

 飛鳥はまるで、潤滑油が切れたブリキ人形のような動きで御波を見た。ソファに座る御波を見下す視線には何とも言えない迫力があった。

 飛鳥は淑女とは思えない、地の底から出たような声音で御波に問いかけた。

 

()()()()、まさかとは思うけれどお風呂に入らないつもりなのかしら? 水に濡れていないとはいえ、入浴できるならするべきだと思うのだけれど⋯⋯」

「えっ⋯⋯」

「御波、私もお風呂に入った方が良いと思うな」 

「えっ⋯⋯」

 

 飛鳥と耀の物言いに困惑する御波。何時の間にか、扉の前で立っていた黒ウサギが目の前まで近付いてきていた。彼女は眉尻を上げて御波へ説いた。

 

「御波さん! お風呂に入り心身共に汚れを流すのは、()()にとって重要でございますよ!」

「⋯⋯⋯⋯えっ?」

 

 御波は眼前の女性3人を呆然と見上げた。

 何を言っているのか理解が追い付かなかったのだ。彼女たちの言い方はまるで、御波を同性だと言っているようだった。

 思考の硬直から復帰した御波は、箱庭に召喚されてから出会った者の言葉を思い返していく。

 

『その矮小で非力な身でありながら、好いた者のために水神の眷属たる我に立ち向かうその気概⋯⋯好ましくはある』

『そういう訳だから、御波さんも手出しは無用』

『なんという美少女じゃ!?』

 

 思い返せば、出会った者たちは御波を女性として扱っていたように思える。

 白夜叉など、御波をハッキリと女性と見做した発言だった。御波の背筋に冷や汗が伝う。女性陣は明らかに御波を同性と疑っていない。

 

 御波は自分の顔が中性的な美貌である自覚は薄い。()()()()()()や今の年齢になるまでの人間関係が、御波の容姿に言及される状況を招かなかったのだ。故に、身嗜みを整えることはしても、自分の容姿が女性的に見られることへの自覚がなかった。

 

 だが、今その自認は崩壊した。しかし、勘違いをそのままにする訳にはいかない。

 この流れで浴場に付いていけば、御波は白夜叉以上の変態の誹りを受けなければならなくなる。御波は3人の認識を訂正しようと声を上げた。

 

「⋯⋯ボク、男だよ?」

『はっ⋯⋯?』

 

 今度は黒ウサギたちが呆然となった。十六夜も言葉を失っている。

 気まずい空気とはこのような状況を言うのであろう。だが。そんな空気を切り裂いたのは天真爛漫な性格の黒ウサギだった。

 

「ふふ、御波さんもそんな冗談を仰るのですね! 黒ウサギはビックリしてしまいましたよ!」

「えっ?」

 

 朗らかに微笑んだ黒ウサギに、御波は呆気に取られた。黒ウサギはうんうんと頷き包容力を感じるような笑みで言葉を続けていく。

 

「こんなに綺麗で可愛らしい御波さんが男性だなんてそんな訳がないのですよ! ねぇ飛鳥さん耀さん!?」

「え、ええ。御波さんが、御波君だなんて!? ねえ春日部さん!?」

「う、うん。御波は女の子の筈⋯⋯そうだよね御波?」

 

 3人は未だに現実を直視できていないようである。それを見た御波は次の手段を試みる。言葉で足りないなら行動で示すまでである。御波は冷静さを欠いていた。御波は立ち上がって高らかに宣言する。

 

「もうっ、そんなに疑うなら黒ウサギがボクの胸元を触ってみてよ!」

「「「えっ!?」」」

 

 眼前の女性3人は驚愕に声を荒げた。

 指名を受けた黒ウサギは頬を赤らめて御波の胸元を凝視した。

 

「えっ、いや、それは⋯⋯えっ?」

 

 黒ウサギの視線は御波を上から下へ行き来している。まるで、御波を食い入るように見ていた白夜叉のようだ。どうやら、彼女も冷静さを失っているようだった。

 

 黒ウサギの目に映る御波の容姿は、艶やかな黒髪に、美麗さと可憐さを兼ね備えた中性的な美貌。白皙の肌に澄み渡った空色の瞳。露出する首筋と僅かに覗く鎖骨は、衣服で隠されるその下の肢体を想起させた。

 

 黒ウサギは息を呑む。そんな彼女だったが、ハッとして背後を振り向いた。黒ウサギの反応に平静を取り戻した2人が冷たい視線を送っていたのだ。

 

「黒ウサギ、貴女まさか⋯⋯」

「⋯⋯ふぅん、黒ウサギは言われたからって触るんだ⋯⋯」

 

 二人からの視線に黒ウサギはウサ耳を跳ね上げて反論した。

 

「そ、そんなことはしないのですよ!? 黒ウサギは箱庭の創始者である帝釈天の眷属にして〝箱庭の貴族〟! 我が主神に誓って同士を疑った挙句に、そのような破廉恥な行為には及ばないのですよ!」

「へぇ? でも帝釈天といったら性に奔放な伝承に事欠かないと記憶してたんだが⋯⋯」

「そ、それは⋯⋯!」

 

 十六夜の知識に黒ウサギは言葉に詰まる。黒ウサギにも心当たりがあるようだ。その伝承を聞いた飛鳥と耀は息を合わせたように笑った。

 

「主神がそれなら、破廉恥なことを考えていた黒ウサギは〝箱庭の貴族〟(笑)ということかしら?」

「〝箱庭の貴族〟(笑)? 斬新⋯⋯」

「ち、違うのですよ!?」

 

 黒ウサギは顔を赤らめて否定する。御波はそんな遣り取りの時間で冷静さを取り戻していた。

 言葉で伝わらなかったとはいえ、あの発言は軽率だったと自省する。とはいえ自分の発言を思い返して恥ずかしさに頬を朱に染めた。

 

 一方の黒ウサギも顔とウサ耳を赤く染めていた。〝箱庭の貴族〟(笑)など呼ばれては彼女も羞恥に身を悶えさせてしまうようだ。その姿に、十六夜は力強く立ち上がった。

 

「待てよ! お嬢様に春日部。黒ウサギは〝箱庭の貴族〟(笑)なんかじゃねえさ」

「い、十六夜さん⋯⋯!?」

 

 黒ウサギは思わぬ援護に瞳を瞬かせた。問題児筆頭である彼からこのような言葉が出ることに驚いたのだろう。黒ウサギは表情を明るくさせる。十六夜が自分の疑いを晴らしてくれると思っているのだろう。

 

 だが、逆廻十六夜が黒ウサギを弄れる状況を見逃す筈がなかった。

 

「黒ウサギは〝箱庭の貴族〟(恥)だろうが!」

「「それだ⋯⋯!」」

「違うのですよこのお馬鹿様ぁぁぁぁぁ!?」

 

 黒ウサギがギフトゲームから取り出したハリセンの一閃が、問題児3人の頭を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御波と黒ウサギの誤解は解け、女性陣は大浴場に向かって行った。御波が男性であると知った黒ウサギと飛鳥は落ち込んだように肩を落としていた。

 

 御波には聞こえなかったが小声で、

 

「あ、あんなに華奢で美しい方がだ、男性だなんて⋯⋯」

「髪だって私たちよりサラサラで綺麗なのに⋯⋯」

 

 などと呟いて貴賓室を出て行った。耀はそんな2人の肩に慰めるように手を置いていた。

 御波は小首を傾げたが、十六夜は落ち込んでいた二人の心情を察したのか笑いを噛み殺していた。

 

「あの2人はある意味災難だったな⋯⋯」

「黒ウサギと飛鳥はどうしたんだろう?」

「まあ、風呂から戻ってきたら何時も通りになってるだろうさ」

「そうだといいけど⋯⋯」

 

 彼女たちが落ち込んでいた理由が判然としなかった御波は、黒ウサギたちが出た扉を見つめている。十六夜は肩を竦めてソファに座る。

 

「まあそれより、俺はお前の世界について聞いてみてえな」

「ボクの世界?」

「ああ。お前が言ってたグルメ界や人間界っていう場所には興味がある」

「⋯⋯いいけど、長くなるかもよ?」

「構わねえよ。どうせ黒ウサギたちが風呂から出てくるまで時間があるんだ」

 

 御波もソファに腰を下ろして十六夜と向かい合う。十六夜は待ちきれないといった様子の笑みを湛えている。快楽主義者の名乗りに偽りなく、彼は好奇心に素直な面がよく見られる。そんな彼は御波の世界について余程の興味があるようだ。

 

「じゃあ、まずはお前の世界の人間界って場所がどんな所なのか聞いてもいいか?」

「うん。何から説明していこうかな⋯⋯」

 

 御波は自分の世界の情勢、常識、地理や猛獣などを頭の中で掻い摘んでいく。全部を一気に語るには情報が多すぎる。聡明な頭脳を持つ十六夜ならば必要はないかもしれないが、まずは触りだけを説明していこう。

 整理を終えた御波は十六夜に語り出した。

 

「ボクの世界はその時代に生きる人たちから──グルメ時代って呼ばれているんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平均気温-50℃を下回る極寒の大陸に眠る天然の冷蔵庫!? 地上数万mの雲の上に存在する天空の野菜畑!? 気温60℃を超える砂漠の中心に聳える巨大ピラミッドとその地下に存在する巨大宮殿!? おいおい何だよそれ、滅茶苦茶面白そうじゃねえか!!」

 

 身を乗り出して捲し立てる彼の瞳は爛々と輝いている。御波の話が十六夜の琴線をこれでもかと刺激したのは明らかだった。

 まるで、宝石箱を初めて見てはしゃぐ子供のよう。御波はそんな十六夜の反応に嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「楽しんでもらえたみたいで良かったよ」

「当たり前じゃねえか! 神話でも聞かないような自然界の話を生き証人から聞けたんだ。これに興奮しない奴はそういねえさ! お嬢様や春日部も俺と似た反応をするだろうぜ」

 

 興奮冷めやらぬ様子の十六夜は背凭れに寄りかかる。

 これだけ良い反応が貰えたなら話した甲斐があったというものだ。十六夜は自分を落ち着かせるように息を吐いて御波へ問いかけた。

 

「それに、今の話で挙げられた場所でもほんの一部なんだろ?」

「そうだね。十六夜の好きそうな場所を挙げたけど、他にも雄大な自然は沢山あるよ。その土地に生息する生物や食材についてはまだ話してないしね」

「その土地に生息する猛獣に食材か。ヤハハッ、本当にグルメ時代の名に恥じない世界なんだな」

「まあね。ちなみに、十六夜はご飯を食べるのは好き?」

「ああ、これでも縁日荒らしの二つ名を勝ち取ったぐらいには好きだぜ」

「それなら、次はさっき説明した場所で捕獲できる食材について──」

 

 御波は貴賓室の窓へ振り向いた。十六夜は訝しんだように同じ方角を見遣る。

 

「どうした御波?」

「⋯⋯コミュニティの敷地内に入ってきた気配がある⋯⋯人数は6人かな」

「なんだと?」

「結構速い。あと5分もあれば屋敷に到着しそう」

 

 十六夜の纏う気配が鋭くなる。通常、侵入する者たちの目的は金目の物を窃盗することだが、〝ノーネーム〟に高価な物があると思う者はいないだろう。にも関わらず、寝静まった夜を狙って複数人で侵入してきた。

 

(人攫いか、ガルドの手下かな)

 

 御波の知る情報で推測できるのはその二つであった。立ち上がった御波は十六夜に提案する。

 

「十六夜。入ってきた人たちを迎え撃とうと思うんだけど、手を貸してくれるかな?」

「いいぜ。返り討ちにしてやるか」

 

 2人は屋敷の外に出る。

 本拠の屋敷の隣には子供たちが住まう館が居を構え、その中では子供たちが既に寝静まっている。御波は侵入者たちがいる方角を見た。

 

「此処で騒がしくすると子供たちが目を覚ますかもしれないし、少し離れた場所で迎え撃とう」

「構わないが、侵入した奴らの正確な位置は分かるのか? 最悪擦れ違うことになるぜ」

 

 十六夜の疑問は尤もだ。侵入者は本拠に向かって進行している。本拠で待ち構えれば確実に迎え撃つことができる以上リスクを犯す必要はない。

 だが、それは御波には当て嵌まらない。御波は侵入者たちの気配を正確に捉えていた。

 

「大丈夫。ボクについてきて」

「OK。侵入者共は倒す方針で良いよな?」

「うん、目的を聞く為に数人の意識があれば十分だと思うよ」

「了解。じゃあ、お前の戦う姿を見せてもらおうかね」

 

 2人は侵入者たちへ向かって同時に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大して期待はしてなかったが、想像以上に想像以下だったなコイツら⋯⋯まあ、お前の戦い振りを少しでも見れただけで良しとするかねぇ」

「これから見る機会は沢山あるよ」

「ヤハハ、そりゃそうだ。あ、コイツらとの交渉は俺がしてもいいか?」

「えっ? 構わないけど⋯⋯」

 

 侵入者たちの半分を気絶させ、残りの半数を動けなくした御波と十六夜。2人は動けなくなった6人の衣服掴んで本拠の前まで運んできていた。

 地面に置かれた侵入者たちは犬耳が生えた者もいれば、爬虫類の瞳を持つ者など獣の特徴を有している者たちで構成されていた。意識のある3人は畏怖の籠った目で御波たちを見上げた。

 

「な、なんという力だ。一瞬で我ら6人を無力化するとは⋯⋯!」

「あ、ああ。蛇神を倒したというのは本当だったのか⋯⋯!」

「それに、体が首より下から動かない。如何なるギフトによるものなのだ⋯⋯!」

 

 彼等は首より下がまともに動かせていない。微かに痙攣したように体を震わせていた。

 そんな彼等を不思議そうに見つめていた十六夜は御波に尋ねた。

 

「意識のある奴を倒したのはお前だったけど、どんなギフトを使ったんだ?」

「今のはギフトじゃなくて、ノッキングっていうボクの世界の動きを止めるただの技術だよ」

「オイオイ、そんなトンデモが技術なのかよ!?」

 

 十六夜は愉快そうに笑う。無力化された侵入者たちは冷や汗を額に滲ませて2人を見上げている。

 十六夜は思い出したように声を上げ、子供たちが眠る館に足を向けた。

 

「何処に行くの十六夜?」

「中の御チビを起こしてくるのさ」

 

 御チビ、というヘンテコなあだ名は、十六夜がジンに名付けたものだった。十六夜はジンをコミュニティのリーダーとは認めておらず、貯水池でジンへその旨を伝えていたのを御波は目撃していた。

 館に入ってから十数秒で、十六夜はジンを連れて戻ってきた。普段着のローブを着てはいるが急に叩き起こされて眠気眼を擦っている。そんなジンだったが、倒れる獣人たちを認識して眠気が覚めたようだ。

 

「か、彼等は一体⋯⋯!? 何があったんですか十六夜さん!?」

「侵入者さ。例の〝フォレス・ガロ〟の連中じゃないか?」

「そ、そうだ。我々は〝フォレス・ガロ〟の傘下のコミュニティだ」

「やっぱりな。それで、一体何の用で此処に来たんだ? さっさと話しな」

 

 侵入者たちは顔を見合わせて頷いた。体の自由を奪われた彼等にはその選択しか残されていないのだろう。彼等は懇願するように御波たちへ叫んだ。

 

「恥を忍んで頼みます! 〝フォレス・ガロ〟を叩き潰していただけませんか!」

「嫌だね」

 

 彼等の懇願を十六夜は一蹴する。ジンは呆気に取られたように半口を開けた。

 交渉をするとは言っていたが、これではそれ以前のように見える。だが、聡明な十六夜には何か考えがあるのだろう。交渉を任せたのもあり、御波は事態を静観する。

 

「お前たちはあれだろ? ガルドって奴に命令されて此処のガキ共を拉致しに来たって所だろう?」

「は、はい。そこまで御見通しだとは。我々もガルドに人質を取られている身分。ガルドの命令に逆らうこともできず」

「ああ、残念だがその人質はもうこの世にいねえらしいぞ」

「「「──はっ?」」」

「い、十六夜さん!?」

 

 余りにも無慈悲に事実を告げた十六夜にジンは声を荒げる。十六夜はそんなジンと侵入者たちを感情の映らない瞳で見下ろし、彼等を鼻で嗤った。

 

「気を使えってか? 冗談キツイぞ御チビ。考えてもみろよ。殺された人質を攫ってきたのは誰だ? コイツらだろうが」

「っ⋯⋯!」

 

 ジンはその言葉に口を噤む。十六夜に反論する言葉は持ち得ないのだろう。侵入者たちは愕然とジンへ尋ねた。

 

「そ、それでは人質は本当に⋯⋯?」

「⋯⋯はい。ガルドは人質を捕らえたその日に殺していたようです」

「そ、そんな⋯⋯何てことを⋯⋯!?」

 

 侵入者たちはその場で項垂れた。自分たちは人質の為に手を汚してきたいうのに、その人質はもうこの世にいないと告げられたのだ。彼等の心中は察するに余りある。

 御波は目を伏せる。彼等の行いは決して擁護できるものではないが、子供たちを失った彼等の心情を思うと、同情せざるをえなかった。

 

 十六夜は何かを閃いたように項垂れる侵入者たちを見下ろし、胡散臭い笑みで人質たちに尋ねた。

 

「お前たち、〝フォレス・ガロ〟が潰れてほしいか?」

「と、当然だ! だが、奴の背後には魔王がいる。仮に勝てたとしても、魔王に目を付けられたら⋯⋯」

「そうかそうか! なら、安心するといい!」

「えっ?」

 

 十六夜は隣のジンの後ろへ回る。ジンの肩を掴み、彼を前に突き出して宣言した。

 

「このジン=ラッセルが魔王を倒すコミュニティを作ってくれるってよ!」

「えっ⋯⋯ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 目をこれでもかと見開いたジンの叫びが周囲一体に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 


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