グルメ時代から異世界に来るそうですよ?   作:雪月鷹架

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ノーネーム

 

 

 

 

 

 

 大河に沈んで動く気配のない大蛇と軽薄な笑みで御波を見る十六夜。

 両者を視界に収めながら御波は憂鬱げな溜息を吐いた。

 

(十六夜はともかく⋯⋯この大蛇さんを放置する訳にもいかないよね)

 

 試練と評して襲い掛かってきた大蛇を助ける義理など御波にはなく、見捨てたとしても責められる謂れはないだろう。だが、人語を話す生物が気絶しているのを放置できるほど御波は冷淡ではなかった。

 

 御波は大河に倒れている大蛇に近付いていく。水面を事も無しげに歩くその姿に十六夜は目を見開いた。

 

「へぇ、流れる水の上を歩けんのかよ。てか何する気だ? さっさと世界の果てに向かおうぜ」

「もう、この大蛇さんを放置していったら可哀想でしょ?」

 

 あまりにも慈悲の無い言葉に苦笑する。大蛇の傍まで歩いた御波はコートの内側に取り付けたホルスターに手を伸ばす。

 そこから取り出したのは一振りの包丁だった。その包丁に十六夜は感嘆の声を上げた。

 

「⋯⋯おいおい、どんな材料使ってんだ? そんな綺麗な包丁初めて見たぞ⋯⋯」

 

 日の光を受けて白銀に煌めく刃。形は一般的な包丁と差異はなく装飾なども一切ない。

 だが、鋳造した職人の技巧が優れているのか、それとも使用された素材故なのか。

 光輝く刀身は見る者を惹きつけるような迫力と美しさを放っていた。

 

「これ? これは祖父が若い頃に手に入れたある猛獣の牙から作成された包丁だよ」

「成る程な⋯⋯それはそうとその包丁でどうするんだ?」

「まあ見てて。すぐに終わるから」

 

 そう言って大蛇の傷を確認する。打撲のみで出血は見られず、呼吸も正常であるため命に別状は無さそうである。

 出血をしていないのは遠くからでも確認できたが、内臓も傷つかず打撲のみで済んでいたのは驚きだった。

 

(この大蛇さん結構タフだな。これなら食材がなくても十分な回復が見込めそう⋯⋯)

 

 ──暗技

 

 一瞬の内に包丁を振るう。大蛇の細胞を傷付けることなく細胞の隙間に通された包丁の回数は二桁に届く。

 傍から見れば変化はないが、御波の目には傷ついた箇所が急速に再生するのが見えた。

 

(これでよしっ。目を覚ましたら痛みもなく動ける筈。それに⋯⋯)

 

 この場へ高速で接近する気配を感じながら、包丁を収めた御波は十六夜の立つ岸辺まで跳躍する。

 

「ヤハハ、大した早業じゃねえか! さっきの包丁を使ってあの蛇に何したんだよ?」

「今のは──」

「ようやく見つけたのですよ、問題児お二人様!」

 

 森林から聞こえた声に視線を向ける。そこから跳び出してきたのは、緋色に髪を染めた黒ウサギ。

 此処に来る前は明るい笑みを絶やさなかった彼女は何処へ行ってしまったのか。今は誰が見ても怒っていると分かる表情を浮かべている。

 

 それが見えていない訳ではないだろうが、十六夜は世間話をするかのような声音で黒ウサギに問いかけた。

 

「あれ、お前黒ウサギか? どうしたんだその髪の色」

「⋯⋯そんなことはどうでも良いのです。や、やっと見つけたのですよお二人とも!!」

 

 まさに怒髪天を衝くような迫力で黒ウサギは叫ぶが、気にした様子のない十六夜は肩を竦めた。

 

「まあそんなに怒んなよ⋯⋯それにしてもいい脚だな。道草食ってたとはいえこんなに早く追い付かれるとは思わなかった」

「当然です! 黒ウサギは月の兎の末裔にして〝箱庭の貴族〟と呼ばれる種族なのですから。ってそれよりもお二人ともご無事で良かったです! お怪我はございませんか!?」

 

 二人の姿を上から下まで見る黒ウサギ。つい先程までは怒り心頭といった様子だったが、それは御波たちの身を案じていた故のものであったようだ。

 どんな原理かは不明だが、髪の色も元に戻っている。

 

「そんな柔な体してねえから心配すんなよ」

「心配掛けちゃってごめんね黒ウサギ」

「まったくですっ。十六夜さんはともかく、御波さんは黒ウサギと同じ常識人だと思っていたのに!」

「アハハ⋯⋯ごめんね」

 

 どうやら本当に心配を掛けたらしい。それを知って謝らない程、御波の我は強くなかった。

 

「それと⋯⋯あの大蛇さんを十六夜が殴り飛ばしちゃったんだけど、あれってどうなるのかな?」

「えっ?」

 

 御波が指差す。先を追った黒ウサギは驚愕に表情を歪めた。御波たちに気を取られ、大蛇の姿は視界に入っていなかったようだ。

 

「あ、あれは蛇神!? ど、どういうことですか十六夜さん!」

「別に。随分と偉そうに試練を選べとか言ってくれたから、俺を試せるか試させてもらったのさ。結果は期待外れだったけどな」

「⋯⋯」

 

 御波は神様だったらしい蛇神を見る。

 意気揚々と目の前に現れ、威厳ありげに御波達に試練を提示した姿は神と呼ばれるに相応しいものだったが、十六夜に一撃で倒された今やその面影はない。 

 だが、十六夜の言葉に反応したのか蛇神の巨躯が動き声が聞こえた。

 

『ちょ⋯⋯調子に乗るなよ、小僧!!』

 

 勢いよく起き上がった蛇神。治療を施しはしたが、気絶した状態から短時間で意識を取り戻したのは御波とって予想外だった。

 再起を果たしたのは蛇神の頑強さ故だろう。そんな蛇神は怒りの形相で十六夜を凝視している。

 

 人間である十六夜に一撃で倒され、挙句に期待外れとまで言われたのだ。神の名を冠する存在が怒りに震えるのも無理からぬ話なのかもしれない。

 睨み殺せそうな視線を受けた十六夜は、興味が無くなったのか蛇神に目線しか向けていなかった。

 

「なんだお前、また俺に沈められたくて起きてきたのか?」

『貴様⋯⋯! 図に乗るなよ人間。先程は油断したが、もう手加減はせん。全力で相手をしてやる!』

 

 十六夜の不遜な物言いに蛇神は総身を震わせる。蛇神が人間であったならその顔色は真っ赤に染まっていただろう。

 黒ウサギは十六夜を庇うように前に出た。

 

「い、十六夜さん下がってください! 此処は黒ウサギがどうにかします!」

「あ? 馬鹿言ってんじゃねえよ黒ウサギ。これは奴が売って俺が買った喧嘩だ。お前の方こそ下がってな」

「十六夜なら大丈夫だよ黒ウサギ」

「み、御波さんまで⋯⋯」

 

 更に前に出た十六夜を黒ウサギは不安げに見つめる。十六夜の言葉に侮辱されたと感じたのか蛇神は怒声を上げた。

 

『後悔するなよ小僧!』

 

 蛇神が大河の水を巻き上げて複数の水柱を形成する。

 先程は身の丈の半分程だったが、今形成された水柱は蛇神と同等の大きさだ。可視化される程に激しく渦を巻き、竜巻にも等しい風圧を発生させている。

 先程とは比較にならないその力。手加減していたのは嘘ではないようだ。

 

 神の名を冠するに相応しいその力に、十六夜は不敵な笑みを浮かべた。

 

「なんだよ、やればできるじゃねえかよ」

『フンッ⋯⋯先程見せた実力とその不遜な態度に免じて、この一撃を凌げば今度こそ貴様の勝利を認めてやろう』

「ハッ、寝言はもう一度寝てから言うんだな。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ!」

 

 言外に敗者は蛇神であると十六夜は告げる。その物言いに黒ウサギは唖然としているが、御波は無言で事の趨勢を見守る。

 天災に等しい現象を起こす蛇神と、人間の尺度に収まらない身体能力の十六夜がどんな闘いを繰り広げるのか。

 

 十六夜の啖呵に蛇神は鼻を鳴らし攻撃を繰り出した。

 

『その戯言が貴様の最期だ!』

 

 水柱が蛇神の体躯よりも更に巨大化する。水柱は生き物のように唸り高速で十六夜に殺到する。

 

 泰然と立つ十六夜はその激流を、

 

「──ハッ、しゃらくせえ!!」

 

 腕の一振りで薙ぎ払った。

 

「嘘っ!?」

『馬鹿な!?』

 

 驚愕の声が黒ウサギと蛇神から上がる。

 渾身の一撃だったのだろう。それを粉砕され、放心したように固まる蛇神の隙を見逃さず十六夜は第三宇宙速度で跳躍する。

 

「期待外れは撤回してやる。中々だったぜ、お前!」

 

 跳躍の勢いを乗せた蹴りが蛇神の胴体を直撃する。天高く打ち上げられた蛇神は重力に従って大河に落下した。

 大河が氾濫し、その水流は森林まで届く勢いだ。御波と黒ウサギは跳躍して離れることで水に飲み込まれるのを回避したが、蛇神に跳躍した十六夜はそうもいかない。

 

 全身を濡らしながら岸辺に上がった十六夜は服を絞りながら呟いた。

 

「たくっ、今日はよく濡れる日だ」

「お疲れ様十六夜」

「おう、ちゃんとあの勘違い蛇を吹っ飛ばしてやったぜ」

「そのことは忘れてほしいな⋯⋯」

「気が向いたらな」

「⋯⋯」

 

 黒ウサギは目の前の現実が信じられないのか、十六夜を見て呆然としている。

 見た目は普通の人間である筈の十六夜が天災の如き蛇神を真正面から倒したのだ。驚くのも無理はないのかもしれない。

 そんな黒ウサギに十六夜はそっと近付く。

 

「おい、どうした黒ウサギ? ボケっとしてるとそのウサ耳でまた遊ぶぞ?」

「えっ!? ⋯⋯こ、このお馬鹿様! 一度ならず二度までも黒ウサギのウサ耳は好きにさせないのですよ!」

「なんだよ、別に減るもんじゃねえし良いじゃねえか」

「黒ウサギも嫌がってるし、その辺りにしてあげたら?」

「み、御波しゃん⋯⋯」

 

 感動したように黒ウサギは御波を見る。余程嬉しかったのかその瞳は潤んでいるようにすら見える。御波が出会う前の一時間で苦労したのだろう。

 小声で、やはり御波さんは常識人なのですよ、などと呟いている。

 

 そんな黒ウサギに苦笑しながら、御波は黒ウサギに問う。

 

「ねえ黒ウサギ、さっきも聞いたんだけど、十六夜が倒したあの蛇神さんってそのままで良いの?」

「そ、そうでした。神仏とのギフトゲームは基本的に力と知恵、そして勇気のどれかが試されるんですが、力の時は相応の相手が用意されるのが通例なのです。ですが、十六夜さんが倒したのは蛇神様ご本人なので凄い〝恩恵〟が貰える筈ですよ! 早速蛇神様に〝恩恵〟を貰いに行きましょ──」

「待てよ黒ウサギ」

 

 喜びを滲ませた黒ウサギの言葉を冷たい声音で遮ったのは十六夜だった。

 

 態度を軽薄なものから一転させた十六夜を黒ウサギは戸惑いと共に見る。

 

「ど、どうされましたか十六夜さん。そんな怖い顔をされて」

「あの蛇から〝恩恵〟を貰う前に、お前に聞きたいことがあるんだよ。御波もそうだよな?」

「み、御波さんもでございますか?」

「⋯⋯うん、ボクも聞いておきたいな」

 

 御波と十六夜の視線を受けて、黒ウサギの表情が硬くなる。十六夜は黒ウサギのウサ耳を触ろうとしていた時の軽薄な笑みを消して黒ウサギに問いかけた。

 

「お前⋯⋯俺たちに決定的なことを隠してるよな?」

 

 静寂な空気が三人を包む。黒ウサギは表情を動かさない。天神爛漫とした彼女のその反応が却って不自然に感じられた。

 黒ウサギは表情も声音も乱すことなく嘯いた。

 

「なんのことでしょう? 黒ウサギは皆様に隠し事などしておりませんが」

「ああ、遠回しだったか? なら率直に聞くぜ。どうして黒ウサギは俺たちを呼び出す必要があったんだ?」

「それは、十六夜さんたちのような〝恩恵〟を持つ方々に箱庭の世界を楽しんでいただこうかと思いまして」

「確かにな。俺も最初は黒ウサギの好意か、誰かの道楽で呼び出されたのかと思ってたさ。でも、それにしては黒ウサギの俺たちへの態度は必死に見える」

「⋯⋯」

「これは俺の勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小か、それとも衰退したコミュニティなんじゃないのか? そして俺たちはコミュニティを盛り上げるために呼び出された助っ人⋯⋯違うか?」

「っ⋯⋯!」

 

 沈黙が答えだった。十六夜の推測に黒ウサギは反論の言葉を用意できずにいる。素の性格が隠し事に向いていないのだろう。

 そんな黒ウサギに痺れを切らしたのか十六夜は肩を竦めて言う。

 

「話さないならそれでもいいぜ。俺たちは他のコミュニティに行くだけだ」

「⋯⋯話せば、協力していただけますか?」

「俺に関しては、面白ければな」

「⋯⋯分かりました」

 

 これ以上の隠し事は不可能と判断したのだろう。黒ウサギは肩を落とし、自身のコミュニティの現状を語り出した。

 

「私たちのコミュニティには、所属を示す〝名〟とテリトリーを表す〝旗印〟がありません。〝名〟の存在しないコミュニティは〝ノーネーム〟呼ばれその他大勢といった扱いを受けます」 

「それで?」

「加えて中核を担っていた仲間は一人も残っていません。コミュニティ総勢122人中、ギフトゲームに参加できる〝恩恵〟を持っているのは黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は10歳以下の子供ばかりなのです」 

「もう崖っぷちだな!」

「よくコミュニティが存続できてるね」

「ホントですねー♪」

 

 膝から崩れ落ち、地面に両手を付く黒ウサギ。コミュニティの惨状を語る程に、彼女の笑みが哀愁を漂わせた。

 そんな黒ウサギに反応を見せることなく、十六夜は淡々と黒ウサギに質問を投げかけていく。

 

「にしても、黒ウサギのコミュニティはどうしてそんな事態に陥ったんだ?」

「我々は全てを奪われたのです。箱庭に蔓延る天災──魔王によって」

 

 魔王。黒ウサギが発したその単語に十六夜は淡々とした表情を一変させた。

 

「ま、魔王!? 箱庭にはそんな素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのかよ!」

 

 まるで新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせた十六夜に気圧されながらも、黒ウサギは言葉を続けていく。

 

「え、ええ。しかし十六夜さんの想像する魔王とは差異があるかと。魔王は〝主催者権限(ホストマスター)〟というギフトゲームを強制させる特権を悪用する修羅神仏の総称なのです」

「そうなのか? でも魔王なんて呼ばれる奴なら、目一杯ぶっ潰しても文句を言われるどころか、感謝されるような奴ばかりなんだろ?」

「確かに、倒せば各方面から感謝されるでしょうけど⋯⋯」

「その〝主催者権限(ホストマスター)〟で挑まれたゲームは、攻略するしか乗り切る方法はないの黒ウサギ?」

「ありません。魔王にギフトゲームを挑まれたが最後、そのゲームをクリアするか魔王に全てを奪われるかの二択しかありません」

「成る程な⋯⋯しかし、魔王に名と旗印を奪われて困ってるなら、新しく作ったりはできないのか?」

「可能です。しかし、改名はコミュニティの完全な解散を意味します⋯⋯ですが、私たちは何よりも⋯⋯嘗ての仲間たちが帰ってくる場所を守りたいのです!」

 

 黒ウサギは毅然と告げた。隠し事を看破され言葉に窮していた彼女と同一人物かと疑いたくなる程に力強い言葉だ。

 これが黒ウサギの偽らざる本音なのだろう。黒ウサギは御波と十六夜へ頭を下げた。

 

「都合の良いことを言っているのは分かっています! しかし、黒ウサギたちには皆様のお力添えが必要なのです! どうか、どうか黒ウサギたちのコミュニティに加入していただけませんか!?」

 

 その言葉には、万感の思いが籠められている気がした。

 十六夜は目を閉じ腕を組んで考え込んでいる。御波も決断を下さなければならないだろう。黒ウサギの頼みを承諾するのか、それとも拒否するのか。

 

 暫くの沈黙の後、目を開いた十六夜は、

 

「いいな、それ」

「えっ⋯⋯?」

 

 黒ウサギの願いを快諾した。

 頭を上げ、呆然と立ち尽くす黒ウサギ。そんな黒ウサギの態度が気に入らなかったのか、十六夜は意地が悪そうに笑う。

 

「なんだよ。俺が加入するのは不服か? それなら他のコミュニティに行くが」

「い、いえそんなことはありません! 是非、是非黒ウサギ達のコミュニティに加入してほしいのですよ!」

「素直でよろしい⋯⋯それで、御波はどうする?」

「っ⋯⋯!」

 

 黒ウサギは御波を見る。黒ウサギの嘆願も、十六夜の了承にも反応を示さなかった御波を黒ウサギは不安げに見つめている。

 黒ウサギからすれば、自身とコミュニティの未来が左右される状況なのだ。その心中の不安は察して余りあるだろう。

 

 だが、御波の答えは既に出ている。黒ウサギが本心を打ち明けてくれた時点で御波の心は決まっていた。

 

「御波さん。どうか黒ウサギ達のコミュニティに」

「いいよ」

「入ってくださ⋯⋯えっ?」

「これからよろしくね、黒ウサギ!」

 

 不安げだった黒ウサギを安心させるような柔和な笑みで、御波はコミュニティへの加入を宣言した。

 言い切る前に了承されたことに戸惑いを隠せないのか、黒ウサギは再び呆然としている。

 十六夜は御波の答えを確信していたのか、驚いた様子もなく御波へ笑みを向けた。

 

「やっぱりな。お前はお人好しっぽいから、黒ウサギの頼みに頷くと思ってたぜ」 

「そういう十六夜こそ、黒ウサギに対するあの詰め方。断るんじゃないかと思ったよ」

「ヤハハ。魔王なんて奴をぶっ潰して崖っぷちのコミュニティを再建するなんて面白いことに俺が乗らない訳ないだろ?」

「十六夜は快楽主義者だもんね」

「よく分かってるじゃねえか⋯⋯というかお前は何時までボーとしてるんだ黒ウサギ?」

 

 未だに呆然としている黒ウサギを十六夜は呆れたように見る。黒ウサギはその言葉で自失から戻ったようで肩を跳ね上げた。

 

「は、はい何でしょう?」

「俺と御波はお前のコミュニティに入ってやるが残りの二人の説得には協力しねぇからな。お前が何とかしろよ」

「は、はい、勿論でございます!」 

「よし、それならあの蛇を起こして〝恩恵〟を貰ってきな」

「YES! 行ってくるのですよ!」

 

 二人がコミュニティへの加入を承諾したことへの理解が追い付いたのだろう。小躍りしそうに体を弾ませながら黒ウサギは蛇神の元まで跳躍した。

 黒ウサギが蛇神と何かしらの会話をしているのを眺めながら、御波と十六夜は言葉を交わす。

 

「それにしても凄い身体能力してるよね十六夜。特に最後の跳躍なんてボク驚いたよ」

「よく言うぜ。黒ウサギと蛇は驚いていたが、お前は表情一つ変えてなかったじゃねえか。お前からしたら珍しいものじゃなかったんだろ?」

 

 十六夜は何処か不貞腐れたように御波を半目で睨む。

 御波からすれば紛れもない賛辞だったのだが、十六夜はそうは受け取らなかったようだ。

 

「驚いたのは本当だよ。本気を出さずにあの速度と腕力。ボクの世界でもあの動きをできる()は殆どいないんだから」

「ヤハハッ、俺が殆どいないレベル。それに人でかよ⋯⋯なら、そういうお前は──自分の世界でどれ位の実力なんだ?」

 

 十六夜は、興味深そうに御波へ視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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