グルメ時代から異世界に来るそうですよ?   作:雪月鷹架

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白き夜の魔王(中編)

 

 

 

 

 

 

 

 余りに常識外の出来事に十六夜、飛鳥、耀の三人は絶句する。

 遠い薄明の空にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に廻る白い太陽のみ。凍てついた広大な大地は地平線の彼方まで続いており、その全貌を窺うことはできない。

 まるで星を、世界を一つ創り出したような奇跡の御業。

 呆然と立ち尽くす三人に、白夜叉は悠然と問いかけた。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟太陽と白夜の星霊٠白夜叉。おんしらが望むのは試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 

 圧倒的な存在感を放つ白夜叉に十六夜たちは息を呑む。その超然とした雰囲気は星霊の名に恥じない。

 御波は頬に汗が伝うのを感じながら、それを拭うこともせずに胸中で呟いた。

 

 ──強すぎる

 

 御波は白夜叉への警戒を全力で行う。〝グルメ細胞の悪魔〟の能力は既に発動させ、白夜叉の一挙手一投足を見逃さんと神経を張り詰めさせる。

 白夜叉から感じる気配の大きさは、御波が出会った猛獣たちの中でも上位に位置する。捕獲レベルに換算すれば四桁に達している。

 

 だが、そんなものは表層にすぎないと御波は即断した。身体能力で戦う者が多い御波の世界なら兎も角、ギフトで戦う箱庭の世界では気配の大きさなど大まかな目安にしかならないだろう。

 そうでなければ、普通の少女の気配しか感じない飛鳥や耀が獣人であるガルドを容易に封殺できる筈もない。

 

 故に、気配の大きさだけで脅威の全てを図ろうなどと御波は自惚れてはいない。

 

 それでも、筆舌に尽くしがたい力の差を感じた。白夜叉の内包する尋常ではない気配。それが御波に戦慄を抱かせたものの正体だった。

 その気配は普通であれば感じ取れないだろう。だが、御波が知覚能力に優れていたこと、人生でも弩級の脅威に直感が警鐘を鳴らしたからこそ気付くことができた。

 

 白夜叉の隠された巨大極まる気配に。

 

(理由は分からないけど、今の白夜叉さんの気配は本来のものじゃない気がする⋯⋯)

 

 そして、本来の彼女であれば今の自身では勝てないであろうことも。

 

 白夜叉は威圧しているだけで、敵意も殺意も向けてはいない。試練への挑戦か、対等な決闘かを問いかけているだけだ。

 十六夜たちの返答次第では、白夜叉との戦闘は避けられる可能性が高い。

 だが、仮に白夜叉との戦闘になれば飛鳥と耀は勿論、十六夜であろうと瞬く間に殲滅されるだろう。

 

 黒ウサギを手助けしていた経歴を信じるなら、無暗に力を振るう性格とも思えないが十六夜たちが決闘を選んだとしたら、力を振るう理由ができた本気を出すかもしれない。

 

 そうなれば、

 

(⋯⋯ボクが皆を逃がして、少しでも時間稼ぎをするしかない)

 

 勝算はない。だが、御波が時間稼ぎに徹すれば、十六夜たちが逃げる時間は十分に稼げるという確信があった。

 その代償に、自分の命が尽きたとしても。

 

 

 そんな御波の心境は事態の趨勢には関わりのないことである。白夜叉が十六夜たちに問いかけた以上、部外者である御波では彼らを諫める資格がない。

 無理に口を挟めば、それこそ白夜叉の不興を買いかねなかった。

 

 御波の不安を他所に、十六夜は周囲を見渡して愕然と呟いた。

 

「⋯⋯白夜と夜叉。水平に廻る太陽やこの土地は、お前を表現しているってことか」

「その通りだ。この世界は私が保有するゲーム盤の一つだ」

「こ、これだけ広大な土地がただのゲーム盤だというの!?」

 

 飛鳥は声を荒げて驚愕を露わにする。白夜叉の言葉が真実であれば、このゲーム盤に移動するまでに脳裏を過った景色もゲーム盤である可能性が高い。

 一つの世界と言っても過言ではない世界を幾つも保有するその出鱈目さ。

 それを誇るでもなく、ただ事実を述べるように話す白夜叉は十六夜たちを挑発するように笑う。

 

「どうする? 挑戦であるならば手慰みに程度に遊んでやるが、決闘を望むのならば魔王として命と誇りの限りを尽くして闘おうではないか」

『⋯⋯』

 

 十六夜たちは返事を躊躇っている。

 彼等も気が付いているのだろう。目の前の星霊は、今の自分たちでは到底敵わない超常の存在であると。

 

 暫くの沈黙が流れる。十六夜たちの返答次第では、御波は彼等をこの世界から脱出させなければならない。

 

 だが、そうはならなかった。

 十六夜が諦めたように両手を挙げたからだ。

 

「参った、降参だよ白夜叉」

「ふむ、それは決闘ではなく挑戦を選ぶという意味でよいのか?」

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだ。今回は大人しく試されてやるよ、魔王様」

 

 苦虫を潰したような表情で十六夜は言う。飛鳥と耀も同じような表情で頷いている。

 白夜叉は十六夜の物言いを気に入ったのか愉快そうに哄笑する。

 

 御波は大きく息を吐いた。まるで生きた心地がしなかったが、どうやら全員の危機は去ったようであった。

 黒ウサギは胸を撫でおろして、十六夜たちへ苦言を呈した。

 

「ま、まったく驚きましたよ。十六夜さんたちはもう少し相手を選んでください! それに、白夜叉様が魔王だったのは何千年も前の話ではありませんか!」

「なに? じゃあ元・魔王様ってことか?」

「まあ、そんな所だの。⋯⋯さて、おんしらへの試練だが、果たして何が良いかのう⋯⋯」

 

 白夜叉は逡巡するように手を顎に添える。

 決闘ではなく挑戦を選んだ十六夜たちだが、それで彼等が弱者であるかと言われればそれは否だろう。

 

 十六夜は白夜叉が驚愕を示した程の実力者であるし、そんな十六夜を含む三人への試練を準備するのは白夜叉であっても容易ではないのかもしれない。

 白夜叉が唸っていると、遠方に聳え立つ山脈から甲高い咆哮が御波たちの元まで轟いた。

 獣とも鳥類ともとれるその声に誰よりも大きな反応を示したのは耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

「お、あやつか。おんしら()()を試すには丁度いい相手かもしれんの」

 

 山脈に向いた白夜叉は誰かを呼ぶように手招きをする。すると、山脈の陰から飛んでくる一つの姿があった。

 それは体長5メートルはある体躯の獣だ。それが翼を広げて御波たちの元まで飛翔する。風の如き速さで到着した獣は、白夜叉の目の前に降り立った。

 

 鷲の上半身と獅子の下半身が合わさったような容貌。耀は歓喜の声を上げた。

 

「嘘⋯⋯グリフォン、え、本物!?」

「如何にも。こやつこそ鳥の王にして獣の王。力、知恵、勇気の三拍子を兼ね備えたギフトゲームを代表する幻獣だ」

 

 グリフォンは白夜叉へ恭しく頭を下げた。知恵も兼ね備えるという言葉通り、その所作には高い知性が感じられる。

 白夜叉は十六夜たちに振り向いて説明する。

 

「このグリフォンとおんしら三人で力、知恵、勇気の何れかを比べ合い、背に跨って無事に湖畔を舞うことが出来ればクリアということにしようかの」

 

 白夜叉は双女神の紋章が刻まれたカードを取り出す。それと同時に何もないところから一枚の〝契約書類(ギアスロール)〟が現れ、白夜叉はその羊皮紙に指を這わせて何かしらを記載していく。

 そして、それを御波たちへ提示した。

 

 

『ギフトゲーム名 〝鷲獅子の手綱〟

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          

 ·プレイヤー側 勝利条件 ・グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ·クリア方法  ・〝力〟 〝知恵〟 〝勇気〟の何れかでグリフォンに認められる。

 ·プレイヤー側 敗北条件 ・降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝サウザンドアイズ〟印』

 

「私がやる」

 

 耀は誰よりも早く挙手をした。

 彼女の視線はグリフォンに釘付けされており、瞳はキラキラと輝いて見える。物静かで、無表情なことが多い彼女は、憧れの存在に出会ったような無邪気な眼差しでグリフォンを見つめている。

 耀が抱える三毛猫はそんな彼女を見上げて、心配するような鳴き声を上げた。

 

『お、お嬢。本当に大丈夫かいな? このグリフォンの旦那、えらく怖そうやけど』

「大丈夫」

「ふむ、自信があるのは結構だが、この試練は中々の難易度だぞ。場合によっては大怪我では済まんぞ?」

「大丈夫」

 

 即答した耀は白夜叉の忠告に耳を貸す様子はない。

 梃子でも動かんと言わんばかりの断言振りに、十六夜と飛鳥は苦笑した。

 

「OK、先手は譲ってやる。負けんじゃねえぞ春日部」

「気を付けてね春日部さん」

「⋯⋯頑張ってね」

「うん、頑張る」

 

 御波の声援に頷いた耀はグリフォンへと歩み寄る。自身より遥かに大きい体躯を見上げた耀はグリフォンへ語りかけた。

 

「あの、初めまして。春日部耀です」

『!?⋯⋯』

 

 グリフォンの目を見開く。白夜叉は感心したように笑った。

 

「ほう、あの娘。グリフォンと言葉を交わすか」

 

 耀は毅然とグリフォンと向き合う。緊張した面持ちの彼女は自分を落ち着かせるように息を吸う。

 そして、グリフォンへ言葉を放った。

 

「私を貴女の背に乗せて、誇りを賭けて勝負しませんか?」

『何⋯⋯!?』

 

 グリフォンの言葉が分からぬ御波でも、その驚愕が手に取るように理解できた。

 グリフォンの纏う空気が変わる。耀の挑発に刺激されたのか瞳には戦意が宿っている。

 そんな雰囲気の変化に気付いていないのか、敢えて無視しているのか。耀は言葉を続けていく。

 

「この場所からスタートし、貴方が飛んできたあの山脈へ一周して此処へ戻るまでに私を振り落とせたなら貴方の勝ち。私が振り落とされることなく貴方の背に乗り続けられたなら私の勝ち。どうかな?」

『⋯⋯娘よ。お前は私に誇りを賭けろと言った。確かに娘一人振り落とせないなら、私の名誉は失墜することだろう。だが、私の誇りの対価に貴様は何を賭けるというのだ?』

「命を賭けます」

 

 迷いのない回答だった。

 明瞭に告げられたその答えは、流れに任せて紡がれたものでは断じてない。命を賭ける、その言葉の意味を理解した上で耀は宣言したのだ。その声音、表情には微塵の怯えもなかった。

 

 耀の宣言に、飛鳥と黒ウサギは異を唱えるように声を上げた。

 

「だ、駄目です耀さん!」

「か、春日部さん本気なの!?」

 

 彼女たちの心配も尤もだ。命を賭けようとする同士を制止しようとするのは何も可笑しなことではない。

 だが、それに待ったをかけたのは白夜叉と十六夜だった。

 

「双方下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だ」

「そうだな。無粋な真似はやめとけ」

「そ、そんな問題ではございません! 同士にこんな部の悪いゲームをさせる訳には──」

「黒ウサギ、飛鳥。大丈夫だよ」

 

 耀は二人に振り向いて穏やかに言う。

 何か勝算があるのか、余裕ではないが不安を抱いているようにも見えない。

 

(ボクの口出しは、必要無さそうかな)

 

 少しでも迷いが見えたなら介入も辞さなかったが、耀の態度は平静そのものだ。

 御波は耀を信じることにする。彼女も黒ウサギのコミュニティの再建を願って召喚された一人。この試練を乗り越えることを心の中で祈る。

 

 グリフォンは耀へ頭を下げた。背中に乗れということだろうか。耀は頷いてグリフォンの背中の手綱を握って跨った。

 

 グリフォンの背中に跨った耀は、表情に喜色を滲ませてグリフォンへ微笑んだ。

 

「始める前に一言だけ⋯⋯私、貴方の背中に跨るのが夢だったんだ」

『⋯⋯そうか』

 

 御波には、グリフォンが笑みを浮かべたように見えた。

 グリフォンは大きな翼を羽搏かせ、大地を踏み締める。翼を羽搏かせること数度、グリフォンは山脈へ向かって飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフォンとのギフトゲームは耀の勝利で幕を閉じた。

 空を踏み締めるように飛翔したグリフォンのギフトの神髄は、旋風を操ることにあった。

 そのギフトを行使したグリフォンの速度は非常に高速だ。亜音速にも届く速度は、背中に乗る耀へ容赦のない圧力を与えた。

 

 加えて、白夜の世界は気温が低い。亜音速での飛行は耀の体温を急速に奪っていた。

 二つの要因は普通の人間であれば耐えることの不可能な環境だ。耀はそれを耐え抜きグリフォンとのギフトゲームに勝利したのだ。

 

 黒ウサギと飛鳥は安堵を浮かべて息を吐く。十六夜の表情にも笑みが浮かんでいる。

 

 高所で滞空するグリフォンが降り立とうとした時、耀の手から手綱が外れた。

 

「よ、耀さん!?」

 

 そのまま耀の体は空中に投げ出される。助けに動こうとする黒ウサギを十六夜は制止した。

 

「は、離してくださ」

「待て! まだ終わってない!」

(あれは⋯⋯!)

 

 御波は驚愕に目を見開いた。耀の周囲に風が渦巻いているのを感じ取ったからだ。

 落下していた耀の体が翻る。そのまま纏った風を巧みに操り、耀は飛翔したのだ。

 

『なっ⋯⋯』

 

 この場の全員が絶句する。先程までグリフォンが行使していたギフトと同種の能力を、耀は行使しているのだ。

 まだ空中制動に慣れていないのだろう。緩慢な動きではあるが、耀は落下の勢いを殺して着地を成功させた。

 

 十六夜は軽薄な、しかし悪意は感じない笑みで耀に歩み寄った。

 

「やっぱりな。お前のギフトは、他の生き物の特性を手に入れるものだったんだな」

「違うよ。これは友達になった証」

 

 悪意はないが、言い方が気に入らなかったのか耀は不満げに訂正する。十六夜は軽薄な笑みを消して肩を竦めた。

 

「悪いな、ただの推測。お前、黒ウサギと初めて会った時に風上に立たれたら分かるって言ってただろ? だからそうじゃないかと思ったのさ」

『お嬢! 怪我はないか!?』

 

 十六夜に割って入るように耀に駆け寄ったのは三毛猫だった。耀に向かって跳躍した三毛猫を耀は優しく受け止めた。

 

「うん、大丈夫だよ。服がパキパキになったぐらい」

 

 三毛猫を撫でる耀。グリフォンと白夜叉も耀へ歩み寄った。

 

『見事だ。お前が得たギフトは私に勝利した証として使ってほしい』

「うん、大事にする」

「しかし、大したものだのう。そのギフトは先天性なのか?」

「違う。これはお父さんに貰った木彫りのお陰なんだ」

「ほう? 良ければ見せてもらうことはできるか?」

 

 耀は首に提げていたペンダントを外して白夜叉に見せる。ペンダントは円形で、表面には幾何学的な模様が刻まれている。

 白夜叉は真剣な表情でペンダントを凝視している。御波たちも白夜叉に近付いてペンダントを覗き込んだ。

 

「複雑な模様ね」

「むむ、この中心を目指す幾何学線と中心に空いた円状の空白。もしやお父様のお知り合いに生物学者の方がおられるのでは?」

「うん。私のお母さんがそうだったよ」

「生物学者ってことは、この図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

(凄いなぁ黒ウサギと十六夜。ボクはまったく分からなかった)

 

 十六夜や黒ウサギの博識さに御波が内心驚いていると、白夜叉が十六夜の問いに頷いた。

 

「おそらくの⋯⋯なら、これはこうでこうなって⋯⋯」

 

 耀のペンダントを睨むように見つめながら、白夜叉は系統樹の意味を分析しているようだ。

 唸ること数秒、総身をワナワナと震わせた白夜叉は興奮したように声を上げた。

 

「こ、これは凄い! 本当に凄いぞ娘! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させてギフトとして確立させてしまうとはのう! おんしさえ良ければ私が買い取りたいぐら」

「絶対ダメ」

「あっ⋯⋯」

 

 耀はペンダントを首に提げ直した。白夜叉は先程までの興奮は何処へやら。肩を落として落ち込みを露わにする。

 黒ウサギは白夜叉に尋ねた。

 

「ところで、耀さんのギフトはどんな能力を宿しているのですか?」

「それは分からん。判明しているのは、他種族と意思疎通を可能にすることと、友となった種族からギフトを授かることが出来ることぐらいかのう。これ以上は鑑定士、それも上層の者に依頼せねば判明せんだろう」

「えっ、白夜叉様にも分からないのですか? 今日はギフトの鑑定でお伺いしたのですが⋯⋯」

「な、何!? 専門外もいいところなのだが⋯⋯」

 

 白夜叉は困ったように白髪を掻き、腕を組んで考え込む。耀のギフトを分析していた時にも劣らぬ頭の悩ませようだ。

 黒ウサギは期待するような視線を向ける。白夜叉は暫く思案した末に名案が浮かんだのか表情を綻ばせて、御波たち四人をじっくりと見つめだした。

 

「ふむ、全員素質が高いのは分かるが⋯⋯ちなみにおんしらは自分のギフトをどの程度把握している?」

「企業秘密」

「右に同じく」

「以下同文」

「そ、それなりには」

「うおぉぉぉぉい!? 御波は兎も角それでは話が進まんではないか!」

「別にいいさ。他人に値札を張られるのは趣味じゃない」

 

 十六夜の言葉に飛鳥と耀も頷く。明確な拒絶の言葉だった。そんな問題児たちへ白夜叉はニヤリと笑った。

 

「まあそう言うでない。試練もクリアしたことだし、何よりコミュニティ復興への前祝いとして受け取っておけ若者たちよ」

 

 白夜叉は柏手を打つ。すると四人の眼前に光り輝く四枚のカードが現れた。

 それぞれ異なる色のカード。カードにはそれぞれの名前と、ギフトの名前が記されていた。

 

 コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム・〝正体不明(コードアンノウン)

 ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム・〝威光〟

 パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム・〝生命の目録(ゲノムツリー)〟〝ノーフォーマー〟

 ジェットブラックのカードに御波・ギフトネーム・〝■■■■■■■■〟〝■■〟

 

 四人は眼前のカードを手に取った。黒ウサギはそれを見て驚愕の声を上げた。

 

「ぎ、ギフトカード!?」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「く、クレジットカード?」

 

 相変わらず息ぴったりの三人とやや恥ずかしそうに合わせた御波。黒ウサギも相変わらずのツッコミを入れた。

 

「違います! ギフトカードは顕現しているギフトを収納できるとても高価なカードです! ⋯⋯それはそうと、御波さんは無理に御三人に合わせなくてもよろしいのですよ?」

「う、うん⋯⋯ありがとう黒ウサギ⋯⋯」

 

 黒ウサギの気遣いが胸に痛い。似合わないことは行うものではないと御波は羞恥に頬を染めた。

 白夜叉は微笑んで黒ウサギの言葉を補足した。

 

「ふふ、そのカードは正式名称を〝ラプラスの紙片〟即ち全知の一端だ。そのカードに刻まれたギフトネームはおんしらの魂と繋がった〝恩恵(ギフト)〟の名称。鑑定は無理だが、大体のギフトの正体が分かる優れ物なのだぞ」

「へぇ、全知ね⋯⋯なら俺のはレアケースなわけだ」

「何?」

 

 白夜叉は十六夜のギフトカードを覗き込んだ。

 そこに記されていた名前を見た途端に、十六夜からギフトカードを取り上げた。眉を潜め、険しい表情で十六夜のギフトカード凝視した白夜叉は呟いた。

 

「〝正体不明(コードアンノウン)〟だと? 馬鹿な、全知である〝ラプラスの紙片〟がエラーを起こしたというのか?」

「ま、なんにせよ鑑定は出来なかったってことだな」

 

 十六夜はギフトカードを回収する。白夜叉は怪訝な瞳で十六夜を見据えている。二人の間に入るように、御波は挙手をして白夜叉に自身のギフトカードを差し出した。

 

「すいません白夜叉さん。ボクのギフトカードって、故障してるんですかね」

「む⋯⋯こ、これは⋯⋯!?」

 

 白夜叉は今日何度目かの驚愕の声を上げる。しかし、その声音は今までとは毛色が違った。

 先程も険しい表情だったが、今は目の前の現実が信じられないとばかりに目を擦っている。

 その反応を訝しんだ十六夜たちも御波のギフトカードを覗き込む。

 

「何だよこれ。名前も読めねえじゃねえか」

「変ね。私たちのギフトカードにはきちんと名前が記されているのに⋯⋯」

「確かに壊れてそう」

「そ、それはあり得ません!? 〝ラプラスの紙片〟が名前すら表示出来ないなんて!?」

「黒ウサギの言う通りだ。小僧のようにエラーを起こすことも初めてだが、ギフトの名前すら見通せないというのは⋯⋯」

 

 十六夜たちの反応は薄いが、箱庭の世界の住人である白夜叉と黒ウサギ反応は如実だった。

 白夜叉は睨んでいるのではないかと錯覚する程の視線を御波へ注いでいる。

 

 御波としてはそんな視線を向けられる覚えはないのだが、白夜叉は何か思う所があるようだった。

 白夜叉から視線を受けること数秒。彼女は溜息を吐いて話題を変えた。

 

「まあよい。ところで今更なのだが、おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しておるか?」

「ああ、名前とか旗の話なら聞いてるぜ」

「それを取り戻す為に、魔王と戦わねばならないこともか?」

「聞いてるわよ」

「そうか⋯⋯では老婆心で一つ忠告しておこうかの。女子二人は、魔王に挑む前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧と御波は大丈夫だろうが、おんしら二人では魔王とのゲームを生き残れん」

「「なっ」」

 

 白夜叉の言葉に眉を寄せ、言い返そうとする飛鳥と耀。白夜叉が遥か格上だとしても、侮辱に等しい言葉を吐かれたのだ。

 だが、白夜叉の有無を言わせないような視線に口を噤む。白夜叉は遠い目をして、何かを思い出すような瞳で二人に忠告する。

 

「嵐に巻き込まれた者が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだからな」

「⋯⋯ありがとう。肝に銘じておくわ。次は貴方の本気のゲームに挑みに行くから」

「うん。覚悟してて」

「そうか⋯⋯そうだ黒ウサギよ。この後はおんしらのコミュニティへ帰るだけか?」

「えっ? そ、そうですね。しかし何故そんなことを?」

「御波よ。おんしさえ良ければだが、少し二人で話をしたいのだ」

「えっ?」

 

 御波とは小首を傾げる。黒ウサギも怪訝そうに眉を潜めている。

 白夜叉の提案を御波は承諾した。

 

「⋯⋯ボクは構いませんよ」

「み、御波さん!?」

「感謝する。黒ウサギよ、御波は必ずおんしらのコミュニティへ送るから、先に帰っておいてくれ」

「白夜叉さんもこう言ってるし、大丈夫だよ黒ウサギ」

「⋯⋯もう、分かりましたよ。でも、あまり遅くならないでくださいね!」

「うむ、勿論だとも!」

 

 険しい表情を崩した白夜叉は、着物の裾から取り出した扇子を口元の前で広げて黒ウサギに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜たちが〝サウザンドアイズ〟を退店したのを見届けた御波と白夜叉。

 空は茜色に染まり、水路の流水に橙色の陽光が反射している。桃色の並木道と茜色の日差しは同系色ではるが、そこは並木を植えた者の手腕なのか晴天の時とはまた違った美しい情景を作り出している。

 

 最初に招かれた和室に二人は腰を下ろす。白夜叉は御波へ謝意の言葉を述べた。

 

「すまんのう。どうしても確かめておきたいことがあったのだ」

「お気になさらないでください」

 

 御波は微笑む。一時は警戒を露わにしたが、白夜叉が心優しい性格であることを御波は疑っていなかった。

 星霊である白夜叉に比べれば御波は赤子以下の時しか生きていない。それでも、人生経験の濃さは中々のものだと自負していた。

 その経験と第六感的な感覚が、白夜叉を悪性の存在ではないと見做していた。白夜の世界に招かれた当初は警戒していたが、今ではその警戒は存在しない。

 

 そんな御波に白夜叉は苦笑した。

 

「信用してくれるのは有り難いが、おんしはもう少し警戒をした方がよいぞ。その穏やかな性格は美徳だが、他人を深く疑わないのは心無い者に利用されんとも限らんからな」

「うっ⋯⋯善処します」

 

 痛い所を突かれた御波は項垂れる。心当たりがあったのだ。

 そんな御波を優し気に見つめる白夜叉。しかし、その表情をすぐに引き締めた。

 御波も背筋を伸ばす。白夜叉の纏う雰囲気が、魔王と名乗った時と似通っていたからだ。

 

 白夜叉は獰猛な笑みで一言。

 

「さて──此処では周りに被害が及ぶな」

「えっ?」

 

 御波が疑問を投げかける間もなく、和室は極光に満たされた。

 視界が開けると、其処は先程のギフトゲームを行った白夜の世界だった。違うのは耀とギフトゲームを行ったグリフォンの気配が感じられないことだろう。

 

 このゲーム盤に呼び出された理由を問おうとした御波だが、言葉を発することなく閉口する。

 

 白夜叉から、覇気とも呼ぶべき威圧感が放たれていたからだ。

 御波は身構え、警戒を強めて白夜叉を見据えた。

 

 白夜叉が放つ圧力はグルメ界の猛獣たちと対峙してきた御波が僅かに圧迫感を覚える程だった。

 場所を変え、黒ウサギたちを帰らせた理由に納得がいった。この威圧感を撒き散らせば、十六夜は兎も角、飛鳥と耀の精神を挫くには余りあるだろう。店内に勤務する女性店員へも多大な影響が及ぶことは想像に難くない。

 

 白夜叉の行動を注視していると、御波は自身の頭上から一枚の羊皮紙が落下してくるのを視界に捉える。

 御波はその羊皮紙を手に取り文面に目を通して、

 

 ──硬直した。

 

『ギフトゲーム名 〝太陽からの試練〟

 

 ・プレイヤー一覧 御波

          

 ・プレイヤー側 勝利条件 

 一、太陽の星霊・白夜叉から10分間生存する。

 二、太陽の星霊・白夜叉へ一撃を加える。

 

 ・プレイヤー側 敗北条件 

 ・降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・ホストマスター側 勝利条件 

 ・なし

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

〝サウザンドアイズ〟印』

 

「──」

 

 ──御波へ煉獄の劫火が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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