グルメ時代から異世界に来るそうですよ?   作:雪月鷹架

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 白夜叉の戦う姿は描写が少ないので独自設定ということにしています。ご了承ください。









白き夜の魔王(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箱庭の秩序の守護者──〝階層支配者(フロアマスター)〟。

 魔王から下層のコミュニティを守護する防波堤としての役割を与えられた存在。

 〝主催者権限(ホストマスター)〟を悪用する魔王と戦う義務のあるその地位には、箱庭第4桁以上を出身とするコミュニティが収まることが殆んどだ。

 

 北の〝サラマンドラ〟、西の〝鬼姫〟連盟、南の〝アヴァロン〟。どれも上層のコミュニティから太鼓判を押されたコミュニティだ。だが、白夜叉は個人で東の〝階層支配者〟の席に着いている。

 つまり、彼女一人で東側の秩序を保てると認められているということに他ならない。

 

 そんな彼女が、一人の人間に突如として攻撃を仕掛けた。白夜叉からすれば大したことのない一撃だが、摂氏数千℃は下らない炎が第一宇宙速度を超えて放たれたのだ。人間など容易く抹殺せしめるだろう。

 

 白夜叉がそのような凶行に出たと彼女の知己である修羅神仏が知れば、驚愕に言葉を失うことは確実だ。

 〝階層支配者〟に就いてからの彼女は善神そのもの。

 

 黒ウサギにセクハラ紛いの行為を働き、黒ウサギを弄り倒し、黒ウサギに自分の変態趣味を押し付けたりすることはあれど、白夜叉の活動は箱庭の修羅神仏と下層の住民から多くの支持を受けているのだ。

 

 そんな白夜叉は、御波を吞み込んでその場で燃え上がり続ける炎を見据えている。

 羊皮紙に目を通したのを確認してからの攻撃だったが、御波は無防備に吞み込まれていった。だが、白夜叉は微塵も油断することなくその炎へ話しかけた。

 

「出てくるがいい。おんしが今の一撃で倒れる存在ではないことは分かっておる」

 

 その言葉の後の変化は劇的だった。

 燃え盛っていた筈の劫火が跡形もなく消し飛んだ。そこから現れたのは、衣服にすら傷を負っていない御波の姿だった。

 白夜叉は動揺することもなく目の前の事実を分析する。

 

(ほう、今の一撃で傷一つ無いか。如何なる〝恩恵(ギフト)〟の護りによるものだ?)

 

 数千℃の炎を受けて無傷で済むなど箱庭に於ける最強種でもなければ、何かしらのギフトでの防御以外はあり得ないと白夜叉は推測した。

 生半可な防御で耐えれるものではない。耐熱か、高位のギフトによる防御だと白夜叉は推測した。

 

 その推測と同時に、白夜叉は何の行動も見せない御波を訝しんでいた。

 炎から出てきた御波は白夜叉への警戒をしていなかったのだ。何かを狙っているのか、それとも既に布石を打っているのか。

 

 そんな白夜叉の警戒は裏切られた。

 

 御波は和室の時と同じ柔和な雰囲気を携えて、白夜叉への謝罪を口にしたのだ。

 

「ボクの何かが白夜叉さんを不快にさせたのなら、ごめんなさい。でも、ボクには見当がつかないんです。良ければその理由を聞かせてはもらえませんか?」

「──」 

 

 白夜叉は瞠目した。御波の声音、表情から微塵も負の気配を感じなかったからだ。

 

 謂れの無い奇襲を受け、手加減をしたとはいえ煉獄の劫火に曝されたのだ。

 糾弾するべき行いだ。憤激に表情を歪めるべき仕打ちだ。口汚く、白夜叉を罵るべき状況だ。

 御波からの信用を裏切った。()()()()()()()命を奪おうとした。

 

 御波から非難を受けるのは覚悟していたし、それが当然だと理解していた。

 白夜叉も同じ行為を受けたなら、誇りを貶められたと怒りを見せていただろう。

 だが、御波からはそんな気配は感じない。自身に落ち度があったのだろう、そう疑っていないように白夜叉には見受けられた。

 

 そうでなければ、白夜叉へ負の感情を向けない理由がない。

 

「⋯⋯」

 

 白夜叉は眩しそうに目を細めた。

 きっと、陽だまりのような環境で育てられたのだろう。溢れんばかりの親からの愛情と教育を、余すことなく血肉と変えて己の魂へ刻んだのだろう。

 そうでなければ、この善性に説明がつかなかった。

 

 白夜叉は己を恥じた。御波は、白夜叉が警戒するような人間ではなかったのだ。

 

(これ以上は不要だな⋯⋯)

 

「⋯⋯謝罪せねばならぬのは私の方だぞ御波よ」

「えっ?」

 

 御波は困惑したような視線を白夜叉へ向ける。白夜叉は勢いよく御波へ頭を下げた。

 

「おんしへ対する蛮行、すまなかった!」

「えっ!? あ、頭を上げてください!」

 

 御波は焦ったようにオロオロと意味のない身振り手振りを繰り返している。

 しかし、白夜叉はすぐに頭を上げるつもりはなかった。自身の行いに後悔はない。だが、すぐに頭を上げるような恥知らずな行動を取りたくなかったのだ。

 

「あ、あのっ⋯⋯ボクは本当に大丈夫なので、頭を上げてください」

「むっ、むぅ⋯⋯」

 

 御波は何処までも穏やかに白夜叉へ囁いた。頭を下げた相手の願いを無下にしたのでは謝罪の意味がない。白夜叉は頭を上げた。

 御波はホッ、と胸を撫で下ろした。そんな御波の姿に白夜叉は改めて謝意を告げた。

 

「おんしを疑い、剰え試す真似をしてすまなかった」

「そんな!? 誤解が解けたようで何よりです。それに⋯⋯黒ウサギの恩人である貴女に警戒されるのは、悲しいですから⋯⋯」

「⋯⋯そうか」

 

 御波の微笑みに白夜叉も頬を緩めた。

 そこで、白夜叉はあることを思い出して声を上げた。

 

「そういえば、まだギフトゲームが終了しておらんかったな」

「確かに。このまま時間切れまで待ちましょうか?」

「そうだのう⋯⋯」

 

 白夜叉は腕を組む。ギフトゲームの時間は5分を経過した。後は会話に花を咲かせるだけですぐに終わりを迎えるだろう。

 だが、ここで白夜叉の好奇心が顔を出した。──そういえば、御波のギフトについて何も判明していなかったなと。御波に聞くという手段もあるが、それでは芸に欠ける。黒ウサギがその思考を知れば、お馬鹿様!? とハリセンで頭を叩かれるだろうが彼女は此処にはいない。

 

 白夜叉は好奇心の赴くままに御波へ問いかけた。

 

「御波よ。おんしが良ければこのまま続けようではないか」

「えっ?」

「折角のギフトゲームなのだ。このまま終わるのは勿体ないと思わんか? それに、このゲームをクリアしたなら相応の褒美を取らせるぞ?」

 

 ゲームの成否に関わらず、白夜叉は御波に詫びとして何かしらを与えようと思っていたがそれを伝えてはつまらないと白夜叉は思案する。

 白夜叉の胸中を知る由もない御波はその提案に頷いた。

 

「──分かりました、ギフトゲームを続行しましょう」

「よし! あと数分で終わるから早速始めるとしよう⋯⋯先程の詫びも兼ねて、先手はおんしへ譲ろう!」

 

 白夜叉は飛び退いて御波を見据えた。このギフトゲームは既に、御波を試すものから褒美を与えるものに趣旨が変わっていた。

 

(まあそれはそれとして、御波のギフトは気になるしのう)

 

 全知の一端である筈の〝ラプラスの紙片〟でも名前さえ表記されない圧倒的未知。

 御波に宿る〝恩恵〟の正体は何なのか。高揚を隠さずに白夜叉は宣言した。

 

「さあ、何時でも構わぬぞ。おんしのギフトを見せてみよ!」

「では、行きます⋯⋯」

 

 御波は律儀にタイミングを告げる。どんな一撃を繰り出してくるのかと、白夜叉は笑みを深めた。その表情は余裕に満ちている。易々と喰らってやるつもりはないが折を見て当たってやろう、などと白夜叉は考えていた。

 

 御波は瞼を閉じて一つ息を吸う。そして瞼を開いて、晴天を想起させる空色の瞳が白夜叉を見据えた。

 

 その瞬間、

 

「──」

 

 白夜叉は、御波の姿を見失った。背筋に悪寒が奔るのと同時に、白夜叉は背後を振り向いた。

 

 其処には掌底を放たんと構える御波の姿があった。

 

「⋯⋯!?」

 

 白夜叉は御波の姿を捉えていなかった。百戦錬磨の感覚が警鐘を鳴らし、白夜叉は反射的に肉体を動かしたのだ。

 

 白夜叉の掌から閃光のように眩い灼熱が迸る。莫大な熱を内包した閃光は紅炎へと変貌し、白夜叉は掌を前方へ突き出した。

 放たれた紅炎が大地を融解する間もなく消失させる。地獄の業火すら生温い埒外の炎熱は下層の修羅神仏で耐えれる者は存在しない程の威力だった。

 

 敢行しようとしていた手加減は何処へやら。それは手加減とは程遠いものだった。

 白夜叉は自身の失態を悟り冷や汗を流した。

 

(しまった⋯⋯!? 予想外の速度に手加減を忘れ──)

「ボクの勝ち、ですね」

 

 声が鼓膜を震わせるのと同時に白夜叉は背中にポンッ、と軽やかな衝撃を感じた。幼い少女の姿で顕現している白夜叉の肉体を揺らしもしない優しい衝撃。

 白夜叉は愕然と背後を振り向いた。

 

 其処には、微笑んで白夜叉を見下ろす御波の姿があった。その姿には傷一つない所か攻撃が当たったような痕跡すら存在しなかった。

 

「おんし、一体どうやって⋯⋯!?」

 

 白夜叉の攻撃は御波を捉えた筈だ。あの距離と速度で放たれた広範囲の攻撃を防御するならまだしも、完璧に回避するのは如何なる俊足でも困難な筈なのだ。

 それこそ、第六宇宙速度に匹敵する敏捷さと反応速度がなければ。

 白夜叉の疑問に御波は隠すこともなく答えた。

 

「今のはボクのギフト? で行った空間転移です」 

「な、なんだと⋯⋯!?」

 

 ──空間転移。瞬間移動、空間跳躍。呼び方は複数存在するが、それはこの箱庭でも非常に稀有な〝恩恵〟の一種であり対策が困難とされる。

 それは、境界を預かる存在しか成しえない〝境界門(アストラルゲート)〟の開門。それを自在に行うことで点から点への空間跳躍を可能とする。

 

 白夜叉の脳裏に過るのは、彼女がよく知る存在だった。

 星々の境界を支配する大魔王。数多の修羅神仏が集う箱庭でただ一人、〝女王(クイーン)〟の王号で呼ばれる太陽の星霊の一角──女王クイーン・ハロウィン。

 

 彼女と同質の御業を行使したと御波は口にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御波と白夜叉は〝サウザンドアイズ〟の店舗前で向き合っていた。

 ギフトゲームと店内での会話の時間は30分程で終了していた。白夜叉は目を瞬かせて御波へ問いかけた。

 

「〝ノーネーム〟の本拠まで送ろうと思っていたのだが、本当によいのか?」

「ええ、気持ちだけいただいておきます」

「おんしがそう言うならば、私からは何も言わんが⋯⋯」

 

 御波は白夜叉からの提案を断っていた。自分で走った方が速いとの判断だった。

 

「店の中でも話したが、困ったことがあれば私に言うがいい。三度ではあるが、私個人の裁量で可能なことであれば叶えよう」

「ありがとうございます」

 

 白夜叉への三度の願い。それが御波へ提示された褒美の内容であった。〝サウザンドアイズ〟の幹部にして東側の〝階層支配者(フロアマスター)〟である白夜叉は多大な影響力と権限を保有している。

 白夜叉個人の裁量であるため、その二つの立場を脅かすような願いは叶えれないが、それでも絶大な権利である。

 個人への褒美としては過剰に過ぎるが、これは白夜叉から御波への謝罪と感謝の気持ちの表れなのだろう。白夜叉への借りを作れるなど、彼女をよく知る者であれば喉から手が出る程に欲しい権利だ。

 

 箱庭に来て間もない御波にその権利の絶大さを正確に理解することはできない。ちょっとした我儘を聞いてもらえる程度と考えていた。

 

「それじゃあ、ボクはこれで」

「うむ、黒ウサギのコミュニティを頼んだぞ」

 

 御波は一礼して〝サウザンドアイズ〟を後にする。

 店舗から歩いて数分の地点で御波は、人型の新幹線と呼べる速度で疾走する。目の前に生き物が現れれば大事故間違いなしだが、御波は自然体であっても周囲数㎞の気配を常に知覚しているため事故の危険はない。

 

(加減が効かないけど、こういう時は助かるんだよね)

 

 これは御波の意思で行われるものではない。御波の〝グルメ細胞の悪魔〟が御波の意思に反して能力を行使しているのだ。

 既に慣れたものであるため疲労はないのだが、幼少期は肉体的や精神的に疲弊することが多かった。そのデメリットもグルメ細胞の壁を越えたことで解決したが、幼少期は苦労したものであった

 

 白夜叉から〝ノーネーム〟の場所は聞いている。数分も要さずに噴水広場を抜けて、御波は黒ウサギたちの姿を視認した。御波は速度を落として駆け寄っていく。

 

「あっ、御波」

 

 背後から駆け寄る御波にいち早く気付いたのは耀だった。彼女の言葉に他の三人も振り返った。

 

「ヤハハ、結構早かったな」

「白夜叉との話し合いというのはすぐに終わったのかしら?」

「御波さん、お帰りなさいなのですよ!」

 

 黒ウサギはウサ耳をピン、と立てて御波を歓迎する。明るさを絶やさないのは彼女の美徳だろう。

 

「うん、ただいま」

 

 御波が合流した一行は〝ノーネーム〟の居住区画まで歩いていく。彼等の進む方角の1㎞程先には二十数人の気配がある。一つはジンの気配だが、残りは黒ウサギが言っていた〝ノーネーム〟子供たちだろう。

 

 合流してから数分。御波たちは〝ノーネーム〟の居住区画の門前に到着した 

 先頭の黒ウサギは御波たちに振り向いて説明を行う。

 

「この門の向こうが我々のコミュニティになります。本拠に関しては更に歩かなければ到着しませんので御容赦ください。この周辺は戦いの名残がありますので」

「例の魔王との戦いの名残か?」

「は、はい」

「ちょうどいいわ。その魔王とやらが残した傷跡、見せてもらおうじゃない」

 

 不機嫌そうに黒髪を靡かせた飛鳥に耀は頷く。彼女も言葉にこそしないが思う所があるようだ。黒ウサギは躊躇うように門を開いた。

 乾いた風が吹き抜ける。砂塵から顔を庇うようにする五人。

 

 砂塵が止み、五人の視界に広がっていたのは見渡す限りの廃墟群だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 白夜叉の内面描写を入れましたが、肝心の御波を警戒していた理由が何なのかを詳しく描写していないので後書きで補足させていただきます。

 Q 結局、白夜叉は御波の何を警戒して攻撃したの?

 A 別の話で描写するため詳しくは語れませんが、白夜叉は〝御波と出会う前から〟箱庭に召喚された四人の内の誰かを警戒していました。










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