「スタートはどうするンだ?オレはドールメイカー*1が合ってそうだからそれにするつもりなンだけど」
「俺高層か低層スタートでやるつもりだったんだけど」
「マジか〜……」
幸いにして詰所で缶詰にされるなどという不幸な事故を回避した俺とショーは、ひとまず方針を固めようという事で俺の拠点に集まっていた。
これから挑むDFV7はスタート時の選択により大きくストーリーが変わる。協力プレイには問題ないが、物語を楽しむという面ではかなり差が生まれる為、知らない人リアリティショックを発症し得るショーとしては俺と一緒の方が気が楽なのであろう。勿論俺だってそれに応えることは吝かではないが、問題がある。
「タンク型のV7ドルメ*2ビルドとかレシピ流れてンのかな……?もうちょい調べてみるわ……」
俺の適性は、遊撃できるタンクなのだ……!
「だいたいネモさあ……なンで女アバターなンだよ……当てつけか? オレへの……」
ソファで寝っ転がって調べながらショーはぶつくさと言っている。こんな口調だが本人曰くリアルは女らしい。リアルで会った事は無いのだが多分真実なのであろう。そういう事で嘘をつくタイプじゃない。
「その日の気分で変えてるんだよアバター」*3
うーん今日は……乳揺らすか……!くらいの気分で俺はアバターを変えている。
あんまり居ないタイプだと聞くものの、これが性に合っているので仕方がない。そういえば後で男アバターの方もショーに見せておかないとだ。でないとまたショック起こして森に行ってしまう。*4
「変なの……お、あった。けど……いやこれ多分弱……」
「どんな?」
見せてもらいにソファに向かうと、ショーはコンソールを可視化してこちらへ向ける。
「ディン*5系モジュールで固めてドールが火力か?これヘイト*6どうするんだ?」
「どうも雛形がV6で作られてたらしくてさ……そっちでの運用法を流用してるみたいなンだが、ヘイト獲得はほぼアーツ*7頼りっぽい」
「ねえこれタンク運用は弱……」
「だからそう言ってンだよ!」
DFはスキルとステと装備から組み上げるビルディング主体のMMORPG(多分)*8であるが故に、協力プレイにおけるタンクに求められるのは単なる受ける力だけではなくヘイトの集めやすさや運用の易しさも含まれている。
その点で行くとこの仮称ドルメタンクは2点ばかり足りていない。進行に応じたインフレで足りるかもしれないが、V7のサービスが開始してから半年余りが経った現段階でこの状態となれば、他の要素に対して足りない部分が落ちる形となる事はほぼ決まっているであろう。
「組んでみるか……?いやでもな……」
「流石に足りないから別の形でもうちょっと探してみるか?」
しかしそこで閃いた。
待てよ……?俺の適性は遊撃できるタンクだが……雛形があるのなら……。
「ショー、もうちょい攻撃性高い奴ないか?」
「タンク運用がオマケ程度ならだいぶ増えるな……ンー……と」
ショーが何やら操作するのを眺めていると、メッセージの通知音。ショーからだった。
「これは?」
「今100件くらいピックアップして纏めて送っといたから選ンどけ。オレはオレのビルドちょっと探すからな」
「了解ー」
……だいたい30分後。
「ビルドのメモ持ったな?」
ショーは俺に向かってそう言った。
「持った」
「集まる場所は?」
「マルチチャンネル繋いで広場的なとこに影響度1でGO」
「V6データ引き継ぎは?」
「しない」
「「ヨシ!」」
「そンじゃ行くか……また後で」
「ショック発症するんじゃないぞー」
そうしてお互いV7ワールドへと向かった……。ちょっとショーの事が不安なのは内緒だ。言ったら多分怒られるので。
満点の空に浮かぶ7つの泡。そのうちの1つに視線を向けると、視界が再度変わり、目の前へ無数に存在するDF管理AIのうちの1人……GMちゃん*9が現れる。今日は……ピンク髪か。いや懐かしいなこの風景……V6始める時ぶりだ。
『旅人様*10、セブンスフィアへようこそ。V7の開始設定を行いますか?』
「お願いね。これメモなんでこれに合わせた素体にしてくれる?」
そう答えながら纏めておいたメモをコンソールから呼び出して指差すと、GMちゃんはそれを手に取り目を通した。こういう所が他のタイトルに無いDFの強みでもある。ビルド弄る際はメモで予め用意して組み換えとかしないと操作が煩雑って事でもあるんだが、まあそこはシステム上仕方ない。
『了解しました。アバターは今の物を流用致しますか?』
「あー……うんそのままで」
『それではご要望の形で設定致しますので少しお待ちくださいね……完了しました』
「ありがとねー」
『OPは体験しますか?体験後はそのままインスタンスポイントにスポーンし、ストーリー上封鎖されているエリア以外は自由に動く事が出来ますが……』
「体験する方で」
『了解致しました。では、良い旅を……』
暗転、明滅、そして新たなお話が始まる。
○
「────!──……!!」
暗闇の最中で声のようなものが聴こえる。覚えのない声で、どうやら俺を呼んでいるらしかった。
ぼんやりと目蓋が開くようになり、続いて手足なども動かせるようになっていく。まだ遠い声も次第に鮮明になり、やがて世界がはっきりとした。
少し埃臭い。古びたベッドに寝かされていたらしい。
黒の長髪、独特な瞳、ギザギザにデフォルメ成形された歯……覚えがある。見た目には。
「──んな!──旦那ァ!聴こえてるかァ!?」
──ピグマリオン・デストロイヤー。ドールメイカーが扱えるドールのベースタイプ、その中でも火力役に特化した1体が、俺を揺さぶりながら呼びかけていた。
そういや初期ドールデストロ*11にしてたな……そういう形式になるのか……。
「なんだようるせえな……どちら様?」
「旦那がアホになったァ……」
「失礼だなコイツ……」
デストロ型が他のタイプと比べて明らかにIQが低い事を俺は知っているんだからな……!
「でも反応は旦那だなァ……?」
「いや……俺はご存知ないですね……」
自分の事をよく知る知らない人形が突然生えるのって結構ホラーじゃない? 運営ちゃんはどう思う?
「とりあえず……状況教えてくれない?」
「パラ姉が旦那を産み直したんだ。旅人として」
「?????」
宇宙……。*12
『あー……マスター……すみませんが此方まで御足労お願い出来ますか……?私は当分動けそうにないもので……』
壁に備え付けられた推定スピーカーからまた別の声が聴こえる。これは話の流れ的にパラダイム*13なのであろう。パラダイムが3体目にしてあった筈だし3体目のドールが旅人を産んだ……?という事になるのだろうか……?
2体目に選んだ筈のアンプリファイアー*14の姿がさっぱり見えないのは少し気になるのだが……。
「これ全年齢版も産んでるのかな……」
「旦那どうかした?」
ふと口をついた疑問にすら反応を返すデストロ。この辺ズルだよな……飴スク*15のNPCなんて何十年前のゲームだよってレベルで同じ事しか喋らなかったぞ。
「いや何でも……」
「パラ姉はこっちのスペースだぞ!」
先導されるままについていくと、そこにはポッド状の機械の中で修復を受けているパラダイムの姿があった。燻んだような色合いの金髪に、切長の眼。
『このような姿で申し訳ありませんマスター。産んだ、というのには少々語弊があり、我々に残存していた【相紋】を利用して貴方方旅人の素体を精製する事に成功した、というのが正確なところです。デストロにも何度か教えたのですがその……不思議な覚え方をしてしまったらしく……』
「パラ姉から旦那が出てきたから産んだで合ってるだろ?」
スピーカーからいきなり情報の波がワッと押し寄せてきた。話してはいるがポッド内のパラダイムの唇が動いている訳ではない。搭載された人格側でスピーカーから話しているとかそういう感じだろうか……?
「わざわざ作ったって事は何か目的があるんだろ?」
『私達を……もう一度助けて下さい。そんな事を言える立場ではない事は理解していますが……お願いします』
○
と、そんなやり取りがあって色々と聞き出してみたは良いのだが。
なんかやる事めっちゃ多かった。あとアンプリはしばらくこの拠点に戻ってこないらしい。そのうち帰ってくるだろうとはデストロの言だ。
「ちょっと待って情報が多い……後でショーと纏めるか……」
情報の扱いとなるとショーはめちゃくちゃ頼れるのだ。良い感じに有用そうであったり優先度別でピックアップしてくれたりするので、これまで何度もお世話になっている。
と、そこにデストロが駆け寄ってきた。
「旦那ー!名前欲しい!」
「どうした急に」
『個体名は我々にとって特別な物なので……出来れば付けてあげてくださいませんか?』
あっこれ他の2体も管制できるようになったら名前付けないといけない奴だな?
「名前ねえ……じゃあ……タマ?」
「やったぁー!」
おやつを目の当たりにした犬並にデストロが見えない尻尾を振っているのを幻視して、俺は制止した。
「ごめんちょっと待ってデストロもうちょっと真面目に考えてやるからその名前で喜ぶのはやめて?」
「えーっ!?」
この小娘……危険過ぎる……! と思いつつ、ナージャという名前に決めた。理由も訊ねられたが、そっちははぐらかしておいた。
言えない……エナドリみたいな瞳の色してるからエナジーから変形させたなんて……。
ところで後日他の旅人から聞いた話によれば、このドルメ用OP、V6のデータを引き継ぎして始めるとV6での愛機たちがボロボロになった姿で出迎えてくれるらしい。なんだその悪辣な罠は……?*16
○旅人
プレイヤーの総称。DFの世界観としては世界滅亡アラームが鳴る少し前にポコポコと生えてきて色々変革を齎したり危機を乗り越えさせてくれる種族として見られている。
なお一般人とは隔絶して強い、基本生活サイクルが日単位で起きて日単位で寝る、チンピラを見つけると嬉々として収穫しだすなど生態が謎すぎる為、一部NPCやプレイヤー達にこいつら本当に生命体なのか?と怪しまれている模様。
○デストロ改めナージャちゃん
情緒は小学3年生(男子)。
ピグマリオンシリーズのベースタイプでは末っ子ポジション。デストロ3体などで組んだ場合は1体目が長女となる。
パラダイムやアンプリファイアーなど他タイプに関しては別の回で。