次回はサブイベ消化回。
知らないドールをスルーした翌日。今日は男アバターの気分。
ショーが居ない曜日なのもあり、俺はV7のマルチエリアもといレジャーエリアにやって来ていた。
だがレジャーとはいえナージャはお留守番だ。なんでかって?
それはね……。
「お客さん凄ぉい! 旅人って内臓も強いんだねえ!」
「三半規管は弱いよぉ!」
お子様には刺激が強過ぎるエリア*1だからだよ!!!
だが昨日スレ建てして色々と確認したおかげで極めて平和に過ごせる……。未来世界とはいえ礼儀を欠けばあっさり囲まれる。挨拶はジッサイ大事なのだ。
そんな訳で今はネオン瞬く路地にあったこぢんまりとした飲み屋で、キャスト*2のサイボーグお姉さんに煽てられながらバーチャルランチを楽しんでいた。
そして食べながら調べた所、ここの飯は山口県の店がデータ提供をしているらしい。山口は……流石に遠いな……。
バージョンが変われば世界観も変わる。従ってキャストの装いも新ただ。
設定的には居住層低層と高層の間にある事になっているらしく、双方の住民が入り乱れて生活する居住層……という事だそうだが。
俺が今居るのは低層向けの安価な飲食店であり、この辺りは灯りが少なく、バチバチに決まったネオンで妖しく照らされる一帯となっている。一方で大通りで明かりの強い方を追っていくと見える方面には、高層向けの高級店が立ち並ぶ。名目上は差がない事になっていても自然と棲み分けや格差は生まれるのだろうな。食品の差はそこまで無いみたいだが。
「私も旅人だったらこういう仕事には就いてなかったのかもね……」
「でも旅人だと大抵大遺構で殴り合い稼業っすよ。身の安全考えると今の方が良いんじゃないすか?」
「殴り合いはやだなー!」
V6まではファンタジーな気質が強かったので獣人だったりエルフだったりドワーフだったりが居たものだが、V7はそこから更にSF要素が加わってもう癖の詰め込み方がえらい事になっている。今話してたキャストのお姉さんなんかは髪が虹色だし片目義眼だし舌割れてるし腕がちょっと一組多かったりする。
向こうの席でお酌してるキャストはピチピチスーツ風味なシスター服なのに腰にショットガン提げてるしで要素が濃い。
他の旅人の狂騒眺めながら食うメシは美味いか? 美味いよ!
「あー食べたし飲んだ……お姉さんご馳走様〜」
「コレ会員チップ。次回以降はお得なポイント付くからまた来てね!」
「はぁい!」
「できれば上のお店もよろしくね!」
「そっちは相方に悪いからダメ〜」
「あらら……でも飲み食いに来てくれるだけでも嬉しいからね! それじゃまた!」
「またね!」
適度に言葉を交わしながら路地にまた出る。
適当に目についたとこ入ったけど良いお店だった……。まずハズレが無いのが強いんだよな色街の飯屋……。
「毎度あり!」
「また来るねー」
その辺にあったおそらく旅人がやっている謎屋台で焼き物を買い込んで近くのベンチらしき場所でパクついていると、高級店の並ぶ方面が騒がしい音が聞こえてくる。
人々がざわつき、道を開けるようにする動きからして何かしら乱闘でもあったのか? ここからだとよく見えないので一旦落ち着けた腰を持ち上げて、騒つく辺りへと近づいていくと。
「退いて退いてーっ! 轢いちゃうよー!」
人混みから風を孕んで飛び出した、ホバーバイクに乗る旅人が一組。
運転する細身の男と、追ってくる相手を確認しながら急かす大柄な男。
細身はともかく、大柄な方には覚えがある。
「ラック! もうちょいスピード上げられねえのか!?」
「これ俺1人乗りの奴だから馬力足りないんだよ〜! だからこないだから2人乗りのやつ買おうぜって言ったんじゃんー!!!」
人の向こうから卑劣ゥ! このクズーッ! などと罵倒が飛ぶ声が聞こえる。これ絶対知り合いだわ……。
プスンプスンと無茶し過ぎたのか弱々しい排気音を出してゆるゆると速度を落とすホバーバイク。
小走りで2人の方に近付き、話しかけた。
「御二方〜こっから逃げたいなら手貸しますよ〜」
「えっ誰……? つーかデカッ」
「誰?」
「酷い……」
「ちょっと待て俺と知り合いで俺よりデカくて違和感ないアバターの体格……大槌……ネモガキかお前! 生きとったんかワレ!」
懐かしい顔……ウィレムさんが俺を指差して言った。
そうです俺がネモガキです。
「正解〜んでどうします?」
「貸してくれ!」
「あ、じゃあフレ申請よろしくっス。そっちの人も」
「そらよ」
「よろよろ……僕はクラックね!」
承認、ついでにパーティ申請送って、パーティーリーダーは俺なのでそのまま影響度下げて……。
クク……これぞフレンド貧民にしか使えぬ隠遁術の影響度下げよ……。*3
とりあえず開いてるお店……さっき寄ったとこで良いか……!
「ウィっさんこの人はどなた?」
「元大槌ビルドフレンズのネモって小僧でな。北方レジャーしてた隠居勢だ」
「なるなる……ウィっさんよりデカい人初めて見たかも」
「素で俺よりデカいんで覚えてた。小さかったら多分パッと出て来なかったと思う」
「ちょっと諸事情で昨日復帰したんスよDF」
クラックさんとは一応初対面かな。名前は噂で知ってるけど前バージョンじゃ会った事なかったしV7のアバター見るのも初めてだ。
ほぉ……と顎を掻きながらウィレムさんが答えるのを視界の隅で捉えながら、先ほど入ったお店に着く。
「いらっしゃい……あらお兄さん何か忘れ物でもあった?」
「いやちょっと知人と会ったんでどっかに腰落ち着けて話そうかなーって思って。3人なんですけど席あります?」
「あるよ! 3名様ご案内ー!」
「やったぜ。行きましょ行きましょ……どうしたんですクラックさん?」
普通に案内について行くウィレムさんとは裏腹に、目を丸くして此方を見るクラックさんに俺は訊ねる。
「いや……なんだか想像してた北方勢と違うなって……」
「おいこっちの席だってよ! ……北方勢だとそもそも俺らに話しかけんだろうに」
手招きするウィレムさんへはーいと返し、ひとまず席に着いて一息。
適当に飲み物と食事を注文しつつ、来るまでの間雑談に興じた。
「俺レジャー要素なかったら北方以外で拠点買って隠居してますよ多分。アシハラとか」
「拠点買った種銭俺のお陰で出来たようなもんなのに……」
「その節はサンキュっス!」
今の北方拠点はいつかの有志トトカルチョをウィっさん単勝全ぶっ込みで勝った資産で買い上げたのだ。良い思い出である。
買ってもまだ余ったのでこの数年レジャーに使ってのんびりさせてもらったし。
「ところでなんでネモガキって呼ばれてるの?」
「若いんだよコイツ……今幾つだっけ?」
「23ス」
「若い子拝んだらご利益とかないかな……僕らは歳食ってガタが来ててね……」
「ラックお前俺より若いだろ……!」
「ご注文の品でーす!」
お、来た来た。と乾杯して再び話に戻っていく。
今はソロか? と訊いてきたのはウィレムさん。
「んや組んでた相方居るんでそいつとペアっス」
「ペアか……対人は?」
「そのうち参加するんで手加減してね♡」
「しないが?」
「しないよ〜」
「ですよね!」
流れで媚びたけどダメだった。今日は女アバターにするべきだったかもしれん。
「ネモガキが来るんならもうちょい準備しっかりした方が良さそうだな……」
「そんなに動けるのネモ君?」
若いって良いな……と注文したサワー飲料を飲んで言ったのはクラックさん。この人なんか……言動から凄い老いを感じる……。
「ウィっさんより弱いス」
「参考になんないコメントだぁ」
そうなの……!?
「コイツ複数陣営が入り乱れる乱戦だと強いんだよ。でもタイマンだと微妙……最上位下位くらいか? 昔やってた頃のままなら」
「いやあかなりやれる方じゃない?」
よく覚えてんなこの人……怖……。
対してクラックさんは優しい言葉。
しかしウィレムさんは俺の内心に気付いたのか釘を刺してきた。
「お前勘違いしてるのかもしれんがラックの言動はこいつの強さあっての物だからな」
「僕はそんなに強くないよ」
「俺より全然つえーだろうが! 姐さんも居りゃもうちょい門番担当で拮抗するものを居ねえからこっちはヒーヒー言いながら今2番の座死守してんだぞ!」
どうやらクラックさんは羊の皮被った狼の類らしい。覚えておこう……。
と言うか。
「2番? ペア部門で御二方がトップ取れてないってなんかあったんスか」
「あ、ネモガキは昨日復帰ならまだ知らねえか……」
「ちょっとペア部門のPvPは頂点が決まっちゃっててね……?」
クラックさんの言葉に嫌な予感がした。聞かない方が良い感覚がめちゃくちゃする。
「1人で蹂躙するようなのが2人で組んだらお手上げって訳」
大仰な手振りをしながらウィレムさんが言った。
「もしかしてまた居るんスかあの2人」
──V6で対人戦に触れた旅人なら、誰もが名を知る怪物が居る。
「しかも組んでるぞ」
「組んでるね」
誰が呼んだかFOE。
惣右衛門とシズナ。
前バージョンで近接と遠隔の頂点として名を馳せた怪物2匹が、今はV7のペアPvPに住んでいるらしい。
──嫌過ぎる……!
「マジで何やっても対処してくるから俺達だけだとどうにもなんねえんだわ……お前が上がってくるなら組むくらいはするぞ」
「共闘しない? ロハにしとくよ」
「メリットがびっくりするくらい薄い……!」
えーっ? とクラックさんが言う。受けると思って言ってない奴だなこれは。
ウィレムさんに背中叩かれてるし……。
「持ち帰って検討させていただきます」
「断る時の常套句来たな……」
「僕らが居るペアレギュの他の面子は逃げるばっかりで協力もできなくてねえ……実際キツいんだ……」
「まだ目があると思ってんのか俺達の方狙ってくるからな……」
「「まあその後勝ったんだけど」」
ワハハ、と2人して笑いながら酒を酌み交わす様子に俺が咽せそうになりながら、雑談は続いた。
○
「また機会あったら手ェ貸しますよー! それじゃー!」
大きな図体に似合わない年相応の様子で手を振る若い友人に手を振り返しながら、ウィレムは相方と共に飲み屋を離れた。
時刻は騒動から3時間ばかり経っていた。ここまでくれば先の追っ手が来る事もきっと無いであろう。人を探すと言うのは存外疲れる作業であるからだ。
入ってきたのとは別の通りに繋がる路地の奥へ向かいながら、彼は相方が自らへと訊ねるのを聞いた。
「ウィっさんが誰かと親しくするのって結構珍しいよね。何かあったの?」
「ん、ああ……まあちょっとネモガキとは縁もあってな」
珍しく自分より大柄である事と、PvPに意欲的な同門であった事から印象深い部類の知人ではあった。尤も、一番覚えていた理由はそこではなかったが。
「その割には会うの久々みたいだったけど」
「2……3年ぶり? くらいだっけな……その間別ゲーやってたからなあの小僧」
その言葉にへぇ……とクラックは返した。何故今になって? という疑問もある。だがそれ以上にクラックは相方の気質を知るからこそ疑いを口にした。
「僕が見る限りだと……そんなにウィっさんが気にかけるようなタイプじゃなさそうだけど」
「あいつはな、俺に似てるんだよ」
クラックはああ、と得心が行く。
彼が知るウィレムの本質は、非才ながら手を尽くして足掻く者であるから。
彼は才ある者に執着する。よく記憶に残す。自らが持っていない何かを持つ者を特に覚える。
「
「……まあ、そうなる。ネモガキはセンスがちょっと俺より高い程度で持ってない側だ。あの小僧が今になって復帰したってのはまあ事情もあるんだろうが……」
「ウィっさんにとっての僕を見つけたから?」
「確信までは持てねえが、そんな気がするな」
だからでこそウィレムはネモを気に掛ける。膠着したV7のPvP環境を変える一手になるのでは無いかと。
そして気になる部分がもう一つ。
「気になるなあいつの相方……あの性格だと場所気にせずに連れてきそうなモンだが……」
「いや……普通に女の子なんじゃない? それなら1人で来るでしょ……」
少し立ち止まり腕を組んで首を傾げた相方に、クラックは大変常識的に答えた。相方のせいで幾らか汚染されようとも、考えの基幹が壊されるまではまだいたっていない。
「バッカお前姐さんは普通に色街来るじゃねえか」
「あの人参考にするの多分間違ってると思う」
ウィレムは前バージョンでの気の良い友人兼天敵の事を想起した。異性ではあるがやたらに男前で、うわばみで、自分とは違い人望もある友人を──配下の熊をこれでもかとモフり倒している姿が思い出された。
「……そうかもしれん」
「でしょ!?」
「ここで会ったが数時間ぶッ──」
ウィレムは今度向こうに遊びに行くか? と相方と話しながら、目の前に降ってきた特に覚えのある闇討ちマン1号をシームレスに撃ち殺す。無防備なら余所見してても確殺できる程度には闇討ちされた経験があったからだ。
「しつこ過ぎだろ……大掃除の時のコンロ周り汚れかよ……」
「やっぱ人の恨み買いそうな戦術控えた方が良いんじゃない? 手間じゃないけど面倒だし」
「大人しくやられ──!」
次々と現れた闇討ちマンズに囲まれながら、クラックはドローンを稼働させるついでに3人ばかり始末しながら言う。
「この場所だとどれくらいならセーフなんだっけ?」
「この位置なら……来るまで5分ってとこだな」
「じゃあカップラーメン食べよっかな!」
僅かな間、色街の路地で騒がしい音が聞こえたという。
○ショー
気晴らしにちょっとログインしたらソフィーにバチクソ愛でられたので耐えられずログアウトした。才能がある側。
○姐さん
現在前バージョンで闘技場のヌシをやっている旅人。女性。アレルギー性鼻炎なのでVR獣愛でライフを満喫している。才能がある側。