連邦捜査部S.C.H.A.L.E、通称『シャーレ』
キヴォトスの行政組織である連邦生徒会、それを束ねていた連邦生徒会長が失踪する以前に呼び寄せていた外の世界の大人である『先生』の活動拠点として立ち上げていた機関である
先生を顧問としてキヴォトスで暮らすあらゆる生徒の相談に応じて所属や学歴によらず不特定多数の生徒の協力を仰ぐ事が可能な、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる権限を連邦生徒会長より付与された超法規的な機関...なのだが
"仕事が、多いなぁ..."
つい昨日から漸く稼働したこのシャーレだが、既にキヴォトス各地から寄せられてきたありとあらゆる苦情と要望の内容が書かれた書類の山が連邦生徒会の手を通じて、朝日に照らされている先生の専用デスクの上に白い山を堆く積み上げていた
"リンちゃんは気が向いたら...なんて言っていたけれど、現状はこれに向き合う事から始めようかな。これだけ山になっているならそれだけの生徒が今も困ってる訳だし"
一瞬だけ、気後れしそうになった自分に喝を入れて先生は書類に向き直り―――
「生徒を大事にするその気概は買うがねぇ、先ずは朝飯を食ってからにした方がいいぜぇ?先生サンよ」
"―――えっ!?"
背後から急にかけられた声に、びくりと肩を跳ね上げる
今日の担当の子が来てくれるまではまだ時間が掛かる筈なので、こうして自分に声を掛けて来る相手には心当たりが殆どなかった
早速悩み事を持って来た生徒か、或いは様子を見に来た生徒か?と思いながら振り返った先生が見たのは昨日会ったハスミ並みの背丈に『真っ黒なロングコート』を身に纏い、白い猫耳とストレートな長髪に金眼を有する八角形の独特のヘイロー持ちの女性であった
「おっとォ俺とした事が挨拶を忘れてたなぁ、失礼...さて改めて...ウェルカム、先生さん。
シャーレにようこそ...俺はシャーレの受付担当、萬屋アルマだ。今後よろしく頼むぜ」
"あ、うん。宜しくね...えっと、アルマ、でいいかな?"
「おぉ、好きに呼んでくれて構わねぇぜ」
"その、受付担当って言ってたけど...連邦生徒会から受付の仕事を頼まれたのかな?"
「そうなるな。尤も、正しくは失踪した連邦生徒会会長さんに...だが」
"連邦生徒会の会長さんに?"
「ああ...ただまぁ、俺も実際彼女に会った訳じゃあねぇんだ。キヴォトスから彼女が失踪して数日後に生徒会会長さんの名義で俺に手紙が届いててな、中身を確認したら先生さんがシャーレに来たらそこの受付を頼むって書いてあってよ。頼まれたからにはまぁやってやるかぁ、と先生さんが着任するのを待ってたんだが...漸く昨日に先生がシャーレに来たってSNSで目にしてな、今日から業務開始するなら俺も漸く手助けも出来るなと思って来たんだよ」
"そうだったんだね"
「ま、その序で悪いが朝飯を用意しといたぜ?食事こそ命、ってのは俺の友人の口癖の一つだが...生きているなら先ずは飯を食わねぇと仕事も集中して取り組めねぇんじゃねえかな?」
"食に関してこだわりのある友達なんだね...うーん、さくっとバランス栄養食で済まそうと思ってたけどそう言われると弱いなぁ、お願いしていいかな"
「いや栄養食だけで済ますのは流石に心配になるから寧ろ是非食ってくれ真面目に」
"...ふぅ、独特な朝ごはんだったけど美味しかったよ。ご馳走様"
「はいよ、お粗末様」
アルマが用意してくれた朝食のパンとスープにコーヒー牛乳の様なものという構成を食べ終わった先生は、空になった皿とスープカップそしてコップに向かって手を合わせる
綺麗に完食された食器を自分のものと共に片付ける為なのだろうか、皿とスープカップを重ねていく彼女に対して食事中に気になっていた質問をしてみる事にした
"パン・コン・トマテだったっけ?バゲットの上に生ハムとトマトのペーストが乗っててサクサクのパンに、少し塩味の効いた生ハムとまろやかな酸味のトマトが美味しかったよ。何か秘訣とかあるの?"
「実は塩は後乗せでな、ちょいと指で軽く摘んだのをパラっと振りかけると素材の味がうまぁく纏まるんだ」
"へぇ~、あの塩後で振ってたんだね..."
食パンの上に同じ様にトマトペーストを塗って塩を振れば簡素だけど類似品が作れるかな、と思っていると塩以外にも後ひと手間入れてんだぜ?とアルマが語ってくる
「後は焼きたてのバゲットには最初にオリーブオイルを軽くかけてたんだよ、コイツのコクでトマトがまろやかな味になるって訳さ。ああ、
"うん、お願い...そうだ、トマトのスープも美味しかったよ。赤黄色緑の彩りもあって華やかな感じのスープだったけど、パプリカとキュウリ以外に入ってたあの葉野菜は何かな?"
「あー、俺が栽培してるハーブの一種だよ。色々用途があるんだが食用にも出来る便利な奴で風味付けも兼ねて入れたんだ。ほい、お代わりお待ちどう」
ありがとう、とお礼を言いつつ彼女が再度作ってくれたコーヒー牛乳の様な飲み物に口を付ける
先程は食事に合わせてなのか多少ぬるめの加減だったのに対して、今度は温かめに入れてくれた事に心遣いを感じれた
一口二口と飲みながらふと時計に目を向ける...時刻はそろそろ朝の8時を回り登校や出勤途中の人々が増えてきてシャーレの前も賑わって来る時間となるだろうかと思っていると、アルマが時間も時間だしそろそろお暇させて貰うと言ってきたので少し残念な気分になった
"そう?当番の生徒と一緒に、君も居てくれてもいいんだけど..."
「魅力的な提案だが、当番の生徒が来るってんなら相談や依頼の持ち込みをしてくる生徒もじきに来そうだからなぁ。受付担当の仕事もあるし、残念だが遠慮させて貰うぜ」
"そっか...じゃあ、少しお願いがあるんだけどいいかな?"
「ん?まぁ、俺で出来る事なら構わねぇが」
"今日の朝食美味しかったから、また明日の分もお願いしていいかな?"
「オイオイ、味を占めたか?...ハァ、全く仕方ねぇな。作りはするが苦手な食材があるなら早めに言ってくれよ?」
"特にそういうのは無いから宜しくね"
「そうかい、んじゃあ明日からも楽しみにしてくれや」
◇◇◇
先生がアルマという受付や当番の生徒達と共に活動を開始して数日後、シャーレにやって来る各種業務は"初日こそ多かったものの、3日目からは比較的スムーズに処理が出来る程"に改善されていた
と言うのも...
「...なぁ先生サンよ」
"何かな、アルマ?"
「昨日アンタのデスクをちらっと見ちまったんだがよ、書類の山だったな」
"あはは、書類の山だったねぇ..."
「で、仕事に取り掛かってたよな?」
"うん、当番の子に手伝って貰ってね...慣れない事も多くて大変だったよ"
「まぁうん、そうだよな...外から来たんだしキヴォトスの習慣やら環境やら慣れねぇだろうなぁ。いやそうじゃなくてな?俺の気のせいじゃ無ければ、書類の山...昨日より増えてねぇか?」
"...キノセイダヨ"
「オイコラァ!目を、見て、話せやァ!ぜってぇ増えてるじゃあねえか、これどうなってんだァ!?」
"い、いや昨日の分は減ったんだよ?ただまぁ今日の分が増えちゃってさ..."
「―――で、プラスマイナスでプラスが勝っちまって増えた、と?」
"...はい、そうなります"
「そういう訳か...つまり仕事の追加量が事務処理よか早えのか?」
"うん、シャーレに寄せられる要望や依頼は規模の大小は様々だし内容も多岐に渡ってね...どう対応していくか毎回悩んじゃうんだよね"
「しかし応えねぇ訳にはいかない、と」
"うん。私はシャーレの先生だからね。生徒が悩んでいるなら手を貸してあげないといけないんだ"
「はぁ~、先生ってのも難儀なモンだなぁ。が、まぁ事情は分かったし改善策もまぁ、無くはねぇな」
"えっ、改善出来るの!?"
「ああ。ただどういう風にするかは先生、というかシャーレの看板をちょいと借りていいかい?俺だけじゃあちょいと無理でな」
"アルマならいいよ?任せるから"
「イヒヒ、即決かよ。まぁ安心してくれや、悪い様には絶対しねぇよ」
―――この様な会話をしたのが、シャーレ着任2日目の早朝の出来事であった
劇的な変化が訪れたのは、3日目の早朝からだ
その日を境にシャーレに寄せられる依頼の一部が減少し、代わりに先生は生徒達が依頼にどう対処し解決したかが書かれた書類を確認として見る時間が増える形になった
これには当然、アルマが関わっていた
アルマは先生や当番である各学園の生徒に書類が届くまでの段階で仕分けを行い、重要度や優先度の高いものはそのまま通す代わりに一般生徒や傭兵等で対処可能な猫探し・街の掃除・宅配便の配達を始めとする比較的安易な諸問題を『シャーレ』の名の元に振り分け、キヴォトス各地にて報酬付きの依頼として掲示し解決に協力して貰い、その結果を彼女が纏めて提出する形式としたのだ
彼女は元々レオンやエイダに幾度も依頼を出していたという前例から依頼発注可不可の線引きや報酬取り決めの経験もあったし、先生はまだ知らないのだがブラックマーケットにある彼女の店は各地にある学園と連邦生徒会長失踪後も値を上げずに品の量は増やすといった取引を続けていた関係もあり、各学園の上層部も無下にはしない程度に付き合いがあったのもスムーズな依頼委託を後押しした
そしてこの一連の流れにより書類関係の仕事量が格段に減少した為に生まれた余裕を以て、遂に先生は各学園の諸問題の解消に対して表立っての介入を開始する決断を下す事となる
「アビドス高等学校に出向くだと?」
ここ数日の間で最早日常と化しつつあるアルマとの朝食後、先生は一枚の手紙の内容を見て貰う為に差し出す
彼女が手紙に目を通すのを確認しながら、自分の考えを述べていく
"今朝の事だけど、アビドスにある対策委員会の生徒から救援を求める手紙が私宛に届いたんだ...どうやら相当苦境に立たされているみたいでね。この案件は実際に私が現地に赴いて対応するべき案件だと思うんだ"
「...ああ、これは俺も中身を見た奴だな。かなり切羽詰まった状態にあるみたいだし火急の案件扱いで仕訳けたんだが、先生サンが遂に直接対処する問題第一号になった訳だ」
"アルマが私の仕事量を軽減出来る様にあれこれ動いてくれたお陰でかなりの余裕が生まれたのもあるけど、この子は本当に困って私に...シャーレに手紙を書いたんだと思う。なら私は、この子やこの子が居る学園の子達の力になってあげたいんだ"
「―――...ハッ、全く。先生サンみてぇな良い大人がもっと居てくれたんなら、俺もちっとはマシな結末になってたのかもしれねぇな」
"アルマ?"
「いや、何でもない。で、どうやって行くつもりなんだ?一応シャーレにはヘリもあるには...あるがなぁ」
"確かにあるみたいだけど...えっ、もしかしてアルマはあれ操縦出来るの?"
「一応は操縦出来るがあんま乗りたくは無いなぁ」
"どうして?"
「いや良く分からねぇんだが
"そ、そうなんだ。まぁ私も高い所、というか固定されてなくて浮いてる足場ってなんだか怖くて苦手だから今回は徒歩で行こうかなと思ってるよ"
「待て待て、何?アビドスって大規模な砂漠化が進んで荒廃してるって噂があるあのアビドスだろ?それを、徒歩で?」
"うん。街のど真ん中で道に迷って遭難しちゃう人がいるって噂もあるみたいだね。まぁ誇張のし過ぎだと思うけど"
「俺も其処については懐疑的だがな?ただ砂漠については一応の知識はあるにはある上で聞くんだけど、まさかとは思うが身一つで行くつもりじゃないよな?」
"まさか。食料と水分はしっかり持って行くよ"
「いや、ちょいと待ってな。俺もついて行くよ、先生サン一人だけじゃあ何か心配だしよぉ」
"えっ?心強いけどシャーレの受付の仕事や学業はどうするの?もしかしたら戦闘になる可能性も否定出来ないしアルマはシャーレに残ってくれててもいいんだよ?"
「心配いらねぇよ。学業関係は連邦生徒会長さんから受付に指名された時点で免除して貰う手続きも済ませたし、受付は"別の奴"に代理をお願いする。戦闘に関してはこう見えてそこそこ戦えるからよ、先生サンを守る位は出来ると自負してるぜ?」
"なら、お願いしていいかな?私も見ず知らずの生徒ばかりに会うのは少し緊張するし、アルマが居てくれるなら助かるよ"
「おう、任せな。んじゃちょいと物資を積み込んだ装甲車をシャーレの前に準備するから外で待っててくれよ」
"か、かなり大掛かりな準備だねぇ"
―――かくして、本来ではあり得なかった同行者と装甲車を用意してアビドスへ向かった2人なのだが...結局この後、アビドスの自治区にて学校を中々発見出来ず路頭に迷った所を砂狼シロコに発見される事となるのであった
―――先生とアルマが、アビドス自治区に向けて出発した数時間後
――プルルルル、プルルルル。ガチャ―――
『此方連邦捜査部S.C.H.A.L.E。ご用件をどうぞ』
「あぁ、貴女ですか。私です、七神リンです。先生は今居られますか?」
『おっと、リンちゃんか。済まねぇけど先生は今"護衛を伴って"アビドスに出張中だが、伝言なら俺が承ろうか?』
「いえ、大した用件では無いのでまた後日にお願いする事にしましょう...今後も先生の事をお願いしますね
『―――あぁ。"オレたち"に任せておきなぁ、イッヒッヒッヒッ!』
「では―――...?"俺達"、とは一体...いえ彼女の店の方々の事、でしょうね。今はそれよりも私も私で連邦生徒会に寄せられる諸問題に対処しなければ」
...これが後に、クロノススクールによってS.C.H.A.L.Eに関する七不思議の一つと報道される事となる『萬屋アルマの同時刻複数存在現象』を裏付ける違和感の序章になるとはリンも、勿論先生も知る由も無かったのである...
―――――――
萬屋アルマ(S.C.H.A.L.E所属)
此方はヨーン一味との騒動の後に各学園との関係構築中に『たまたま連邦生徒会長と遭遇した』ルートのアルマさんの姿
連邦生徒会長と何らかの取引を交わしてシャーレの手伝いをする為に受付の役職を拝命しており、少なくともリンちゃんは彼女と顔を合わせた事がある模様
店は現在代理の人物に運営を任せており、彼女自身はシャーレに勤めながら新たな販売経路を序に開拓中である
この世界線のアルマは料理がかなり上手く先生に振る舞う事も多々あるが、他の生徒が先生に差し入れをしたり料理を作ろうとした際には其方を優先するといった配慮を行う
また、どの世界線でも共通の苦手意識なのだがヘリに乗るのをかなり嫌がるという特徴がある
主な武器は描写は無かったがセンチネルナインを携帯している
先生
皆さんご存知シャーレの先生、このルートだとプロローグ後すぐにアルマの方から接触して来る事となる
アルマが介入したお陰で事務仕事がかなり緩和されてはいるものの、その分外回りに力を入れたりするので各所から心配されたり叱られたりすることが増えたりする
朝の食事を作ってくれたり、食事中の何気ない会話などからアルマの人間性?に触れている為好感度はかなり高い
尚このルートは段々先生や一部生徒の行動に対してツッコミを入れる回数が増えていき時折キャラが崩壊して別キャラ口調になってしまうアルマが居た、かもしれない
"手入れの行き届いた品ばかりだぜ オレたちが保証する"
RE4において武器商人がアイテム購入画面で実際にレオンに放つ台詞の一つ
問題なのはオレではなく『オレたち』となっている点
何故複数形なのか?彼の後ろ盾となっている組織があったのか、実は彼の下には部下となる複数のガナードが居たのか、或いは同一個体が多数居て物資の調達をしていたのか...真相は不明だが、意味深な台詞であるのは間違いないだろう
いよいよ今日からアニメが始まりますね、私も此方を楽しく見ながら頑張って執筆を続けていきたいです
では次回のチャプター1『プロローグ』編でお会いしましょう
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