「──こんな、はずじゃ」
女の途方に暮れたような声が阿鼻叫喚の悲鳴に掻き消される。
恨み辛み、嘆き悲しみ、怒り苦しみ……様々な負の感情入り混じる、怨念渦巻く呪詛が女ただ一人に注がれていた。
「こんな筈じゃなかった…… !! こんな筈では !! 」
一室に集められた実験体。両手で数え切れる人数の彼らが1人、また1人と水風船のように弾けて赤い液体に変わっていく。
「こんな事は、こんな実験は決して赦されない……わたしは、わたしは……ただ…… !! 」
頭を抱えて狼狽える女の目の前で赤い液体が小さな池を作る。
ある目的の為に行われた実験に両手で数えられるだけの人間が犠牲になった。あっけない位に、ほんの数分でそれだけの人間の命が失われてしまった。
赤い水面が揺らめきながら女に語りかける。
──命を弄んだ末に手に入る目的はさぞかし立派で高尚なのだろうなと。
「…………違う !! わたしは !! 」
女が叫ぶ。
そんなつもりはなかった! こんなことになるとは思わなかった! この実験がこんなに悍ましい結果になるなんて思ってもみなかった!
言い訳は幾らでも出てくる。しかし、俯瞰しているもう1人の自己意識が冷めたように問いかけた。
……本当に?
ああ、そうだ。本当はわかっていた。この実験が命を弄ぶものだと本当はわかっていた。
けれど、女の想像を遥かに超えてこの実験は倫理観も何もあったものじゃない。本当にどうかしていた。魂をエネルギーに変換しようなどと。
「それでも、わたしは」
呻くよう絞り出された声は頼りなく細々としている。ボソボソと女は視線を彷徨わせながら懺悔でもする様に呟いた。
「わたしは、自由に……自由になりたかった…… !! 」
研究など建前だ。本当にしたい事はそんな事じゃない。
誰かに抑圧されることもなく、管理されることもない、自分の足で立って歩いて行ける自由だけが欲しかった。
例え誰かを蹴落としてでも、手に入れたかった !! ……筈なのに!
「なのに今更……! 怖気付くなんて……! 」
後悔。そんな後ろ暗い想いが女の心中を満たして支配する。
焦がれ続けた願望、自由への切符がすぐ目の前にあるというのに、手を伸ばす事に躊躇してしまう。
愚かな事に、他人の命を踏み躙ってでもソレを掴み取る勇気が女にはなかったのである。だから女は──女は命を踏み躙った上で願望を叶える事をしなかった。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 」
稀代の錬金術師だ、天才だと持て囃された女は所詮……ただの人間だったのである。