レプリカント   作:華麗なイモリ

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※オリ主以外のオリキャラが登場します。


9

 

 

 

 

『本当に行ってしまうのかい? 』

 

『えぇ、此処に住んでいてはわたしのやりたい事は叶わないので』

 

『……そうか』

 

 

 

 父の声と、聞き慣れない女の声が気になって装飾が沢山ついた豪華な扉の隙間から様子を伺う。

 そこには玄関に立つ両親の姿と外の光を背に想像より小さい女の影が別れを惜しむ様に話し込んでいて、好奇心が勝りどんな顔をしているか見るために目を皿の様に薄めて見るも、逆光によって真っ黒な女の顔は全く見えなかった。

 

 

 

『君のお母上は立派な御仁だった。奴隷を引き取って治療を施す姿に幼い頃の私も妻も、感銘を受けたものだよ』

 

『そう……ですか。…彼女が…』

 

『…あなたはまだ16歳の子供なのに…成人してからではいけないのですか? 今まで通り“聖地”と施設を行き来すれば……』

 

『……少し、 人間として振る舞いたくて。あなた達にはお世話になったので…挨拶を、と』

 

『ああ……気をつけるんだよ。私達は“人間”だ。……きっと何処でだってやっていけるさ』

 

 

 

 会話の全容を理解する事はできなかったが、女が急いでいると言う事だけは理解出来た。誰かの所有する逃げ出した奴隷かとも思ったが……女の母親は両親と同族のような言い方をしていたのが気になる。

 女は一体何から逃げようとしているのだろうか…? ここはなんでも手に入るのに、何処かへ行こうとするなんてバカなヤツだ。

 

 もっとはっきり話の内容を聴きたくて身を乗り出せば、その勢いで扉が音を立てて開いてしまう。 「しまった…! 」 と思って扉を慌てて手で押さえるも既に遅くて、こちらを振り返った両親と女の視線が一身に注がれた。

 まるでイタズラしているところを見つかってしまった時みたいに冷や汗が背中を伝い、言いようも無いバツの悪さに視線が揺れる。

 

 

 

『おや、早起きだね()()()

 

『ご子息ですか』

 

『ええ、長男のドフィです。下の子もいるのですけれど…まだ眠っているのかも』

 

『まだ朝も早い、部屋へお戻り。わたしももう行くから』

 

『そう言わず、もう少し話していけばいいじゃないか』

 

『そうよ、もう…そう簡単に会えなくなるのかもしれないのだから』

 

 

 

 父と母に招かれ側に寄れば、笑顔の父に紹介された女を見上げる。しかし、その顔立ちは相変わらず陰になってどんな表情をしているのか見ることは叶わなかった。

 だが、こちらを見下ろす女のその瞳だけは仄かな光に反射してキラキラと宝石みたいに輝いていたのをよく覚えている。

 

 

 

()()()()()()。君もお母上に劣らない素晴らしい人間だ。…私達も君の様にありたいと、そう思う』

 

 

 

 そこから先の会話は覚えていない。

 何故なら釘付けにされていたからだ。エメラルドのように翠緑に輝くその瞳から目が離せなくて、話など耳をすり抜けてしまっていたから。

 でも…それは女の瞳に見惚れていたからでも、惹かれていたからでもない…情けない話しだが、魑魅魍魎じみたその輝きが幼ながらにとてつもなく恐ろしかった。

 

 ……おれが聖地マリージョアから降ろされる1年前…7歳の時にあった出来事だ。

 

 だからおれは忘れもしない。

 あの緑の瞳を、エスメラルダの名を。おれ達一家を地獄へ突き落とす()()となった、あの翠緑の呪いを!

 

 いつの日だったか嗜んだ戯曲にこんな一節がある。「緑の目をした怪物がお前の心を喰らいなぶりものにするのだ」と。

 正しくそうだ。エスメラルダは、顔も知らないあの女は間違いなく、おれにとっての緑の目をした怪物(グリーンアイドモンスター)なのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 麦わらの一味は現在シーザーを目の前に困り切った顔をしていた。

 別にシーザーが何かやらかした訳でもなく、ただシーザーの羽織るローブに隠れて出て来なくなったシグマに対して困っている現状だ。

 

 シーザーの背後にこんもりと出来た膨らみに色々声を掛けるものの、シグマは子供の様に「イヤだ」の一点張りで説得しようにも会話にならない。

 年長者であるブルックが諭すように言葉を投げかけるが、ソレは言葉の最後に付け加えられた骨ジョークさえなければ完璧だっただろう。

 

 

「お嬢さん。何も殺すなんて直接言われた訳じゃないんですから、死ぬ事なんてないかもしれませんよ! …まぁ私、死んでるんですけど! ヨホホ! 」

 

「ここここ、ころされる〰︎〰︎ !! 絶対恨んでる言い方だった! 言葉の端々に殺意を感じた !! 」

 

 

 

 ブルブル震える塊を指で突きながらルフィがサンドイッチの盛られた皿を片手に 「メシ食わねェのか? 」 と問い掛けても要らないと言われ、ルフィは笑顔でそっか! と返事をするやいなやそのサンドイッチを美味そうに頬張れば、すぐさま彼はサンジに蹴り飛ばされサニー号を鞠の様に跳ね回り羽目になり、チョッパーやウソップが慌てて海に落ちないよう回収しに行く。

 

 シーザーはシグマの態度に鬱陶しそうな顔をしているが、どんな風の吹きまわしか 「離れろ」 や 「出ていけ」 なんて言葉を吐く事なく黙って隠れ蓑に徹しているも、人に囲まれた事で尻の座りが悪そうにしていた。

 

 

 

「まぁ、仕方ねェよ。何たってドフラミンゴ直々に呼び出されたんだぜ? …おれだったら怖くてその場で死んじまう! 」

 

「シグマ…立て続けに命を狙われるなんて、ついてねェなお前…! 」

 

 

 

 ルフィを回収できたウソップとチョッパーは波乱万丈な人生を送るシグマへ憐れみの視線を寄越すが、船長のルフィやゾロからは何をビビる事があると呆れられているようだ。

 

 

 

「叩っ斬ればいいじゃねェか。殺されそうになったら」

 

「殴り飛ばせば問題ねェだろ! 」

 

「出来るかァ !!! お前らみたいに戦闘狂じゃねェんだよこっちは !!! 」

 

 

 

 弱者代表を自称するウソップが声を張り上げるも、2人にはてんで理解する気もないのか何言ってんだお前と言わんばかりに変な顔をされてしまう。

 そんなやり取りがなされている中、ウジウジと引き篭もるシグマに痺れを切らして動き出したのは矢張りと言うか、もうシグマの飼育員…ではなく、世話係として認定されてしまっているローだった。

 

 

 

「いつまでもウジウジしやがって。今更命を狙われるのが何だってんだ。お前が今隠れ蓑にしているシーザーにだって命を狙われていたろう! 」

 

 

 

 能力でローブから瞬間的に外へ放り出されてローに襟首を掴まれたシグマはカエルの潰れたような声を出すが、メソメソと涙と鼻水を垂らし続けている。

 景色が変わった事で一瞬呆けたシグマだが、泣き止まないのはそれ程にドフラミンゴを恐ろしく思っているからだろう。

 

 

 

「だ、だって! シーザーはもう殺そうとして来ないし! そもそも身近な存在だからそんなに怖くなかったけど…ど、ドフラミンゴは怖い〰︎〰︎ !! 殺されちゃう〰︎〰︎ !! 」

 

「だから! 殺させねェし、渡すつもりもねェって言ってんだろ! いい加減聞き分けろ、錬金屋! 」

 

「で、でも !! わたしを渡さなかったら君が酷い目にあっちゃうじゃないか! 交渉だって……! う、うわ〰︎ん !! 」

 

「話を……あぁ、クソ! よく聞け、箱入り娘 !! 」

 

「ふグェっ! 」

 

 

 

 襟首を離されたかと思えば、今度は頬を鷲掴みにされたシグマの顔は押しつぶされておへちゃになり、とんだ間抜け面を晒す事となった。

 突き出た唇がムグムグ言葉を紡ごうとするも、手に込められる力が強まると、涙も鼻水も引っ込んだが今度は冷や汗が止まらなくなったシグマが大人しくなれば、ローがその間抜け面に顔を近付けてシグマによく言い聞かせるように声を発する。

 

 

 

「いいか。何度も言うが、おれの作戦においてシーザーの引き渡しは囮のようなもんだ。本命は【SMILE製造工場】の破壊…つまり、素直に奴の要求を聞く必要なんかねェ。だからお前を引き渡す事もしない。もちろん、シーザーと共に取り引き場所には来て貰うが、それだけだ。おれが受け持った患者をむざむざ目の前で殺されてたまるか! 」

 

「む、むぐぃ…! 」

 

「お前、やらなきゃならねェ事があるんだろうが。シャンとしろ! 」

 

「ぐぅ、むぁい…」

 

 

 

 言葉に成っていない返事を聞いたローはペイッとシグマの頬を掴んでいた手を離すと、腕を組み顎で船首の先を指した。

 

 

 

「そうこうしている間に奴の根城が見えたぞ」

 

 

 

 ローの指し示した先に見えた岩影にルフィ立ち一行は湧き立つように歓声を上げる。

 船からは岩壁に囲まれていて城下町の様子もドフラミンゴがいるであろう王宮も目視することは叶わないが、そんな事を気にする者達ではない。

 敵地だと言う事をちゃんと理解しているのか、ワクワクを抑えきれない様子でルフィは岩壁に向かって叫び、錦えもんも共になって声を張った。

 

 

 

「着いたぞーーーー !!! ドレスローザ〰︎〰︎ !!! 」

 

「今助けるぞ !!! カン十郎〰︎〰︎ !!! 」

 

 

 

 余談だが、『カン十郎』とは錦えもんやモモの助と共に【ゾウ】という国を目指して船で逃亡していた折、漂着したドレスローザで捕まってしまった侍同心のことである。

 その他にもう1人侍が船に乗っていたらしいのだが、遭難した際に逸れてしまったらしく行方も安否もわかっていないと言う。

 

 ──閑話休題(それはさておき)

 

 ドレスローザの海岸に船をつけた一行は3つのチームに別れて行動する事となり、ローの懐から取り出された地図を元に作戦会議が始まった。

 ローが懐から取り出した海図に思わずナミは声をあげてしまう。

 

 

 

「わっ下手! 」

 

「仲間の描いた地図だ。…シーザーを引き渡すチームは【ドレスローザ】を通って北へ伸びる長い長い橋を渡り【グリーンビット】へ進む」

 

「船で行きゃいいだろ全員で! 」

 

 

 

 シーザー引き渡しチームの1人、ウソップがローにごねるも、それは 「船じゃ不可能らしい」 という言葉で跳ね除けられた。

 同じチームのロビンはそれは楽しみだと笑みを浮かべるが、シーザーやシグマは冷や汗を垂らしながら安全第一を声高らかに掲げて主張するも、ウソップに続きどうなるかわからないと流されしまう。

 

 サニー号安全確保チームは敵が来るかもしれないという事前情報に安全ではないのかと慄くも、頼れるサンジがいるから安心だと言った側から姿の見えないサンジの焦ったチョッパーが何処だ !? と探すが、サンジだけでなく作戦の要である工場破壊 & 侍救出チームのルフィ、ゾロ、フランキーに錦えもんまでもが姿を忽然と消してしまっていたのである。

 

 

 

「おい! 麦わら屋達は何処だ! あいつら作戦のメインだぞ !! 」

 

「それより、おれ達は誰が守ってくれるんだ !? 」

 

「……さ、最先が不安 !! 」

 

 

 

 顔を真っ青にしたシグマがブルブル震える側で、ナミはローから【ゾウ】を指し示すビブルカードを差し出されて受け取っていた。

 

 

 

「これ…」

 

「おれ達に何かあったらここへ行け。さっき話した【ゾウ】という島を指す」

 

「お、おい! 何もねェよなァ !! 」

 

「さァな。現にお前らの船長が好き勝手に動いてんだ、何があるかなんてわからねェ。最悪を想定しておけ」

 

「ルフィ〰︎〰︎! お前って奴は〰︎〰︎ !! 」

 

 

 

 船長の自由奔放さにウソップは天を仰いで嘆いたのであった。

 

 

 

 ── 一方、その頃。

 

 レンガ造りの建物に緑が共存するドレスローザ城下町。人々の朗らかな笑い声とフラメンコギターが奏でる思わず踊り出しそうになるメロディで城下は喧騒に溢れている。

 それだけでもドレスローザは十二分に魅力満載な国であるが、この国を訪れた者達は更にいくつかの事に心を奪われるだろう。

 

 一つはかぐわしき花々とこの国自慢の料理の香り。

 

 一つは疲れを知らぬ女達の情熱的な踊り。

 

 そして、もう一つは────

 

 

 

「コラーまて !! 返せー !!! 」

 

 

 

 犬の鳴き声と共に聞こえてきた声に、料理の香りに夢中になっていたルフィや仲間達は声の聞こえてきた方を見て固まった。

 何故なら、その視線の先には常識では計り知れない摩訶不思議な物が近付いてきていたからだ。

 

 

 

「待ちなさい !! マリオ、返しなさーい !! 私の腕をーーっ !! 返しなさーい !! 」

 

 

 

 ──心奪われるもう一つとは、町に溶け込みごく自然に人間と共存する命を持ったおもちゃ達である。

 

 

 

「まったくもー困ったコだ、綿が飛び出ちまうよー !! まてー !! ハァ、ハァ…横腹痛い…綿だけど」

 

「ぬ…ぬいぐるみ……? 」

 

 

 

 千切れた腕を咥えた犬を追って全力疾走するぬいぐるみを呆然としたまま見送る5人の側に新たなおもちゃが近寄って来るが、彼は自分のボディから出ている糸に絡まってしまいすごい体制で地面に転がった。

 おもちゃの兵隊はルフィ達に助けを求めるが、町中の異様な光景に釘付けになった彼らには聞こえていないのか助ける素振りはない。

 

 

 

「コイツらおもちゃ…? 」

 

「………… !? 」

 

 

 

 往来を人間と寄り添い闊歩するおもちゃにあんぐりと口を開いたまま一行は固まった。そのままでは通行の邪魔になりかねない様子だったが、ドレスローザに初めて来る人々は皆彼らと同じ反応を示すので、国民は皆そんな人達を邪険には扱わない。

 

 

 

「おやぁ、この国は初めてですかな? 」

 

「 !!? …お前も、おもちゃか !? 」

 

「ハイ? いえ、違いますが…」

 

 

 

 そんな一行に話しかけて来た男はいっそのことおもちゃだと言われた方が安心する容貌をしていた。

 血の通っていない様な真っ白い肌は頬が痩け、目が落ち窪んでギョロリとしており、ローなんて比じゃないクマをこさえた瞼が時折ピクピクと痙攣している。

 身体は枯れた巨木のようにヒョロリと細長く、まるで生気を感じさせない男は歯茎を剥き出しにした恐怖しか感じない笑みで紳士的に腰を折ってお辞儀をしてみせた。

 

 

 

「ンッフフフフ! 初めてお会いした方は皆その様にギョッとされるのです…。初めまして旅の人。(わたくし)、名をピグマリオンと申す者にございます…ンッフ。しがない宝石商ですよ」

 

「そっか! 悪ィな! おれ宝石なんかよりメシの方が欲しいから !! 」

 

「おいルフィ! 明らかにヤバそうな奴に構うな! 」

 

「何処をどう見ても魑魅魍魎の類いであろう! 彼奴、絶対妖怪にござる! 」

 

 

 

 普通に接するルフィを掴んで耳打ちするサンジと錦えもんにそうかァ? と首を傾げるルフィ達を他所に、突然気配もなく現れた男にゾロとフランキーは警戒を怠らずに佇んでいる。

 その間にも件の男は絡まって動けなくなった兵隊のおもちゃを手助けしており、振る舞いだけなら紳士の模範のような男だ…その異様な容姿をしていなければの話だが。アレでは親切にされても恐ろしくて逃げ出される光景が目に浮かぶ。

 現におもちゃの兵隊は御礼を述べながら全力疾走で逃げていった。

 

 

 

「ンンッフ。何やら坊っちゃんは腹を空かせている様子…こう見えて私グルメでしてねェ……えぇ、えぇその顔、言いたい事は分かりますとも。意外だと良く言われるのです…ンッフフフ… 」

 

「ギョロ目! お前、うまいメシ知ってんのか !! 」

 

「素直で可愛らしい坊っちゃんですこと…本当に可愛らしい……私、そのような子が大好きなのです。えぇ、えぇ教えてあげましょうねェ…坊っちゃん…」

 

 

 

 ねっとりとした男の声にルフィを除く4人の背筋にゾゾゾとした悪寒が這い上ると、ルフィの襟首を掴んだサンジが一目散に走り出し、それに残る3人も続いた。

 

 

 

「おい! せっかくギョロ目がうまいメシ教えてくれようとしてたのに! 何してんだサンジ! 」

 

「何してんだはおれのセリフだこのクソゴム !! ヤベェ奴だったろ! 明らかにアイツヤベェ奴だったろ !! 」

 

「あ、悪霊退散 !! 悪霊退散ーーーー !!! 」

 

「今までにねェタイプの奴だったな」

 

「流石のおれもアレはヤベェと思う」

 

 

 

 走り去っていく5人の背を見送りながら男は気に障った様子もなくその背に手を振った。

 

 

 

「ンッフフフフ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シーザー引き渡しチーム『北東のカフェにて』。

 

 

 

「グリーンビットねェ…あまり進められねェなァ……研究員か探検家かい? アンタ達」

 

「ああ、そうだとも。なんでもグリーンビットは珍しい植物があると書籍で読んでね。滋養強壮、解毒に猛毒、新種に変異種はたまた希少種! なんでもござれの植物の楽園! かの有名な植物学者が見た物をこの目で直接見たいんだ! 」

 

「命かけていく程の用には感じねェが……やめた方がいい…まだ若いんだから… 」

 

「え、優しぃ… うん、そうだよね、命は大事だよね… 」

 

「バカかお前、現実逃避をするな。情報が無けりゃ危険度はもっと跳ね上がるんだぞ」

 

「う…で、でもぉ…折角の忠告を無視するのは…」

 

 

 

 店主の気遣いに涙を浮かべた瓶底メガネに蝶ネクタイを付けたシグマを叱咤するのはお決まりのローである。サングラスにカイゼル髭を付けて変装し、コーヒーを片手に睨み付けてくる彼に涙をちょちょぎらせたシグマは文句を呑み下して歯噛みした。

 

 現在カフェのテラス席に引き渡しチームの5人は腰を掛けてグリーンビットに関する情報を集めている最中だ。

 店主の顔は厳ついが淹れるコーヒーの香りはとても良いこのカフェは賑わい過ぎている訳でも閑古鳥が鳴いている訳でもない至って特徴のない店であり、違和感なく溶け込むのに最適な店だと言える。また、目と鼻の先にグリーンビットへ続く鉄橋がある事も選ばれた要因の一つだった。

 

 では何故悠長にこんな事をしているのかと言えば、実のところローの事前情報だけでは余りにも心許なさ過ぎて不安要素が山の様に浮き彫りになったからだ。それは彼が持っていた下手くそな海図を見れば誰もがそりゃそうだと頷いてくれるだろう。

 そうして実際に聞き込んでみたところ、今では誰一人として近づく事の出来ない危険な島であることが判明したという訳だ。

 …とはいえ、何が危険なのか訳さえ判ればこのメンツ次第ではどうにでもなるので、より詳しい情報をこうして地道に聞き込んでいるのである。

 

 序盤、あまりにも現実離れした光景(生きたおもちゃ達)に驚いて時間を取られはしたが、約束の時間にはまだ余裕があるので、ギリギリまでどうにか詳細を探っておきたいのが全員の総意だ。

 

 情報収集の方法だが、粗雑極まりない変装をした5人の内、一番警戒心の抱かれなさそうなシグマが海に繰り出す学者冒険家を装って道行く人にグリーンビットの事を尋ねるこの方法はハマり役と言っても過言でないだろう。

 なにせ、知識だけは常人の何百倍も持つ頭だ。学者(仮)を演じる事などあまりにも容易い。

 

 

 

「島に危険があるのかしら…それとも道中の橋? だとしたらあの橋はずいぶん頑丈そうだけど? 」

 

「あァ、確かに “鉄橋” だよ。だが今じゃ…ホラ、入り口は見た通り誰も使ってねェ」

 

 

 

 サングラスをかけたロビンの問いに答えた店主の視線を辿れば、鉄橋の入り口には簡素なバリケードが張られており、『keep out(立入禁止)』だの『髑髏マーク(命の保証なし)』の看板が転がっていた。

 国民達はそんな風景に既に慣れてしまっているのか、誰もが気にする事なく側を談笑しながら通り過ぎて行く。

 

 ドレスローザの国民にとって、もはやグリーンビットなんて島は自国領という認識すらないのかもしれない。

 

 

 

「【グリーンビット】の周りには “闘魚” の群れが棲みついててねェ…そいつらが現れるまでは人の往来もあった様だが、まァ200年も昔の話らしい…」

 

「シュロロ…主人、トウギョとは? 」

 

 

 

 つけ髭に帽子を目深く被り、襟巻きとローブを着込んでサングラスをかけた比較的変装しているシーザーは冷や汗を浮かべながら店主へ “闘魚" についてを尋ねれば、店主は突き出した両手の人差し指を頭部へ横づけて 「ツノがある凶暴な魚だ」 と教えてくれた。

 なんでも船で近づけば見境なく襲いかかって来て、まず転覆間違いなしとの事だと言う。

 

 

 

「そんな訳で橋も鉄に強化されたが…ムダだよ」

 

「ムダって…おい !! 鉄の橋でもその魚に倒されるってのか !? 」

 

 

 

 ゴーグルをかけたウソップが店主へ食いつくも、店主は店主で商品の提供が終わったからか、橋がどうなっているかは目にした者にしか知らないし、そもそも橋を渡って帰って来た者も知らないと話を締め括り店内へと戻って行ってしまった。

 店主の言い分をまとめると──グリーンビットへ向かった者はいたが、()()()()()()()()()()──という話である。

 

 

 

「…おいトラ男 !! 今すぐ引き渡し場所を変えろ !! 」

 

 

 

 身を低くして、小声で訴えかけるウソップにシーザーも合意すると 「引き渡される身にもなれ! 」 とヤジを飛ばした。それから味方を増やすべく何処か上の空のシグマに同意を求めたが、ずれ下がった瓶底メガネから覗く好奇心に満ちた目を見たシーザーは嫌な予感に身を固くする。

 …その予感は見事に当たっており、シーザーを見据えたシグマは浮かれて期待の入り混じる声を上げた。

 

 

 

「…闘魚、見てみた〰︎〰︎い! 」

 

「バカ野郎! 正気かてめェ !! さっきまで及び腰だったじゃねェかよ! 何でいきなり行く気になってんだ! 」

 

「そうだぞ! お前は味方だと思ってたのによォ !! 鉄橋でもダメなんだぞ! なァおい !! 」

 

「でも、だって魚だろ? 何を怖がるっていうんだ……ドフ…あー…えーと、『ミンゴ』には会いたくもないし怖いけれど」

 

 

 

 “ドフラミンゴ” と言い掛けたシグマは慌ててルフィの考えた略称『ミンゴ』を口にすればシーザーは微妙で複雑そうな顔をしたが、闘魚に思いを馳せるシグマは気付きもしない。

 …確かにドフラミンゴの名を出すのは憚れる場ではあるし、それ以前に闇市場で『名前を安易に口にしてはいけない例のアノ人』的な存在の人間に間違いはないのだが、『ミンゴ』は違うだろ…とシーザーは思うのだった。

 

 

 

「何を言おうが場所は変えねェ。ここまで来てガタガタ騒ぐなお前ら。……そんな事よりおれが心配してんのはこの国の状況だ。王が突然辞めたのに…何だこの平穏な町は… !! 」

 

 

 

 ローに言われて初めてシグマはそう言えばと辺りを見渡した。

 一国の王が突然退位する事は途轍もなく大事である筈なのに、それにしては皆穏やかで日常的な振る舞いをしている。だからか、余りにも普通過ぎる人々の営みにシグマは全く違和感を抱いていなかったのである。

 

 とは言え、シグマはドが付く程の世間知らずであった為 「おもちゃの国ならなんでもありなんだなぁ〰︎! すごーい! 」 と違和感を放り出してしまっていたのだろう。

 

 腕を組みながら席の背もたれに体を預けるローは早くも完全に想定外だ… !! と不安になるような事を何でもないように言うのでウソップはすかさず 「大丈夫なのかよ」 と言及するも、ローはそんなウソップのツッコミを澄まし顔で黙殺した。

 都合の悪い事には聞かぬフリを決め込んだローをジトリと睨め付けるウソップだったが、隣に座るロビンが帽子を深く被って顔を隠す素振りをするのに何してんだ? と疑問に思い名前を呼ぼうとすれば、ロビンは唇に人差し指を当ててウソップの声を遮る。

 彼女は冷や汗を顔に浮かべており、冷静沈着な彼女らしくない様子に何事かとロビンの視線の先を全員が辿れば、そこには長い頭身に白いスーツを身に纏い、奇抜な仮面を付けた3人組が人混みに紛れて歩いていたのだった。

 

 

 

「『CP-0』… !! 何しにここへ…? 」

 

「え… !? “CP” … !? も…もしかして『CP9』と関係が…… !? 」

 

「 ──その “最上級” の機関よ…彼らが動く時にいい事なんて起こらない」

 

 

 

 声なき悲鳴を上げるウソップにロビンがそう伝えれば、耳を傾けていたローも、3人組を横目で捉えながらも眉根を寄せて 「……確かに…」 と同意の意見を口にした。

 

 

 

「サイファーポール…だったね。政府の機関が何故ドレスローザに…」

 

「この、バカッ! 顔を伏せろっ! 」

 

「むぎゅェ !? 」

 

「……何してる、目立つマネはやめろ…! 」

 

 

 

 物珍しげに遠ざかる背を堂々と見つめるシグマの頭を手錠が見えないよう器用に掴んだシーザーがその頭をテーブルへ押し付けると、同じく3人組に視線を向けていたローが非難の声を上げる。

 しかし、必死な様子のシーザーはそんな非難の眼差しを気に掛ける余裕がないのか、冷や汗を浮かべたまま息を殺して『CP0』の姿が見えなくなるまでシグマの頭から手を離そうとはしない。

 

 

 

「コイツの顔は()()()()()()()()…! こんな変装じゃ気付かれちまう…! 」

 

「おいシーザー、どう言う事だ。何故錬金屋の顔が政府に割れてる」

 

 

 

 手足をバタつかせるシグマを他所にローがシーザーへ問い詰めれば、簡単な話だとシーザーは答える。

 

 

 

「シグマはエスメラルダのクローン! つまりあのクソ女と同じ顔をしてやがんだよ! 」

 

「だから、何故それが政府に顔が割れてる理由になる」

 

「…まさか、その彼女……もしかして政府に目を付けられていたんじゃないかしら」

 

 

 

 ロビンの言葉にローとウソップは息を呑む。

 確かに、シグマのオリジナルであるエスメラルダはベガパンクに並ぶ科学者、その頭脳に目を付けられていたと言われれば理屈は通るだろう。

 全員の視線が未だに顔を伏せられているシグマの後頭部へ注がれる。

 

 

 

「あァ、そうだ。MADSに所属した時から…いや、それ以前よりクソ女には政府の監視が常にあった。奴は科学力に目を付けられていたんじゃねェ、もっと…何か別の要因だ」

 

「…彼女も、ポーネグリフを? 」

 

「知るかよそんなモン! 政府の犬をひっつけて来たアイツのせいでMADSは解散! 政府に合併吸収されちまったんだから理由なんて知りたくもねェ !! 」

 

「〰︎〰︎あーもぅ! いい加減、離しておくれよ !! 」

 

 

 

 シーザーの手を振り払っておでこを赤くしたシグマは起き上がった。

 

 

 

「顔が似てるから何だって言うんだ! 他人の空似とシラをきれば済む話だろうに! 第一にエスメラルダは生きていれば50歳! どう結びつく! 」

 

「バカ言え! そんな子供騙しでアイツらが誤魔化せるモンかよ! このバカ! エスメラルダは消息不明扱いになってんだぞ !? いわばお前はエスメラルダの娘って事になりクソ女に通ずる手掛かりになるんだ !! そうなりゃお前なんてあっという間にとっ捕まって出処がバレ、おれ共々おしまいだ !! ふざけんなよ巻き込んでんじゃねェぞバカガキ !! 」

 

「む、むきぃ〰︎〰︎ !! 」

 

「お、落ち着けってお前ら! 」

 

 

 

 ガルガルといがみ合うシーザーとシグマをウソップが仲裁するも、案外似たもの同士の義理の親子はバチバチと睨み合う事を辞めない。

 だが、そんなくだらない喧嘩はローの拳によって終息する。

 

 頭にゲンコツを落とされたシグマは涙目でローを睨むも、拳を再び構えられれば大人しくなり、いじけたようにフイと顔を背けた。

 

 

 

「ガキみてェに喧嘩するんじゃねェ。シーザーてめェもだ。随分と錬金屋の事を気に掛けるようになったもんだな? 」

 

「ハァ !? 誰が気に掛けるかよこんなクソガキ! 」

 

「まァ、てめェの心境の変化なんざどうでもいい。──お前ら、あんまり騒ぎ立てるなら口でも縫い付けて静かになるか試すか? 」

 

 

 

 安心しろ、おれは外科医だ。綺麗に縫合してやる。

 

 静かにそう投げ掛けられた2人は慌てて自身の口に手を当てると首を横に勢いよくブンブンと振った。

 ローの脅しがよく効いたのか静かなお利口さんになった2人を見たウソップが 「おっかね〰︎! 」 と声を漏らす横でロビンは口を縫われた2人の姿を想像して 「困ったわ」 と呟く。

 

 

 

「何が困るんだニコ屋」

 

「いえ、口を縫われたら誰とも会話出来ず、何も口に出来ず、孤独のまま助けを求める事も出来ずに餓死してしまうんじゃないかしら… 」

 

「お前はお前で何恐ろしい事言っとんじゃァ !! 」

 

「抜糸すりゃあいいだけの話だろ」

 

「おめェもなに普通に流してんだよ !? 」

 

 

 

 ロビンとローの応酬を聞きながら顔を真っ青にした2人はその後喧嘩することはなかったという。

 

 

 

 ── シーザー引き渡し時刻まであと1時間。

 

 

 

 

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