レプリカント   作:華麗なイモリ

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「あんのバカガキィ〰︎〰︎ !!! おい!ロー!引き返せ !! シグマのバカを連れ戻すんだ !! そんでもっておれを解放しろ !!! 」

 

「……」

 

「おい!無視するんじゃねェよ!」

 

 

 

 喚き散らすシーザーを無視してローが息を切らし森を抜ける為に能力を使い逃げ続けること数分、漸く開けた海岸沿いに抜け出すことが出来た。

 遮蔽物もなく、無防備な背中を晒したまま鉄橋に向かって走るローの背後へ、ドフラミンゴが挑発じみた野次を飛ばすもローはその挑発を相手にする事なく鉄橋へ向かい真っ直ぐ突き進む。

 

 バカみたいな理由で離脱したシグマの無事も気になるところだが、現状逸れてしまった彼女の身を案じるような余裕はローに無く、あのイノシシみたいなじゃじゃ馬の生存を信じる他に彼に出来ることはない。

 じゃじゃ馬の命を狙っていた謎の男ピグマリオンとの遭遇が危惧されるも、彼女の身柄を保護しようとしていた海軍大将の藤虎が抑止力となれば命の危機は脱する事が出来るだろう。

 隙を伺って逃げる事くらいは出来る筈だ。

 

 ローは一旦シグマの事は脳裏に追い遣って、まずは目先の問題であるドフラミンゴに集中する。

 付かず離れず距離を保つドフラミンゴに歯を食い縛りながら、そのまま狩気分で追って来い !! とローは念じた。

 

 

 

「…ハァ…ハァ……!」

 

 

 

 ローの思惑では、グリーンビットへ向かってくる麦わらの一味の船【サウザンド・サニー号】にシーザー諸共バカ女を放り込んでドレスローザからゾウヘ向かわせる間に橋でドフラミンゴの足止めをするのが当初の考えだった。

 ──だが、パンクハザードからこれまでの事を鑑みて、己の立てた計画が尽く想定外で破綻し続けている現状にローは嫌な予感に背筋を汗ばませる。

 

 どうか近付く船に気付いてくれるな!

 …そんなローの願いは近海から響き渡る悲鳴によって打ち砕かれることとなった。

 

 恐らくグリーンビット周辺にナワバリを張る闘魚の群れに襲われているのだろう。わーわーギャーギャーと騒ぐ船はあまりにも目立ち過ぎる。

 

 

 

「しまった !! …あいつら !! 」

 

 

 

 ローがサニー号との連絡を取っていたのは降り注ぐ隕石とドフラミンゴに追い回されていた時の事。

 その為、グリーンビット周辺に住まう獰猛危険な生き物である闘魚の事をローは航海士であるナミにうっかり伝えそびれてしまっていたのだ。

 

 

 

「……あ〰︎〰︎、そういう事か」

 

 

 

 立ち止まって船を睨み付けていたドフラミンゴは直ぐにローの考える筋書きが読めたのか口の端をコレでもかと吊り上げると、今度はローやシーザーに目を向ける事なく雲に糸を掛けてサニー号へ向かい飛んでいく。

 

 

 

「待てドフラミンゴ !!! あいつらは関係ねェんだっ !!! 」

 

 

 

 ローの叫びを背に受けながらドフラミンゴは笑みを絶やさずにサニー号の上空へ辿り着く。

 

 

 

「フッフッフッ!よく見ていろロー !! 目の前で同盟の一味が無残に死ぬ姿を !!! 」

 

「えええええ !!? ど、ドフ、ドフラミンゴが船の上空にいるぅぅうう !!? 」

 

「何この悪夢 !!? 私達死んじゃうの !!? 」

 

「ぎゃあああああ !!! 」

 

「いやだアァ〰︎〰︎〰︎ !!! 」

 

 

 

 抱き合うチョッパー、ナミ、モモの助と頭を抱えるブルックは涙を流して叫ぶが、彼等の後ろで拘束されたドンキホーテ海賊団幹部である三角眼鏡を掛けた個性的な熟女、ジョーラは心強いと言わんばかりの笑顔で「若様〰︎〰︎ !!! 」と声をあげている。

 

 ──敵の幹部であるジョーラがサニー号にて捕まっている経緯には『サニー号安全確認チーム』の涙なしでは語れぬ奮闘があったらしい。──

 

 ──閑話休題。

 

 もうお終いだ!と眼前に迫る死に怯えるサニー号安全確認チームだが、その危機は『六式・月歩』で空から文字通り駆けつけたサンジによって回避された。

 

 炎を纏わせた足を豪速をもってドフラミンゴに叩きつけたサンジだが、その足もいとも容易く男の折り曲げられた膝に受け止められてしまう。

 

 

 

「「「「サンジ〰︎〰︎〰︎ !!! 」」」」

 

 

 

 滝の様に涙を流し歓声を上げるサニー号安全確認チームの背後でジョーラはハンカチでも噛み締めんばかりの悔しそうな形相を浮かべている。

 

 一方。上空では、歓声に応える余裕もないサンジの追撃がドフラミンゴに繰り出されていた。

 

 

 

「 “悪魔風脚(ディアブルジャンプ)” … “一級挽き肉(プルミエール・アッシ)” !!! 」

 

 

 

 だが、その追撃もひらりと躱されてしまい、灼熱の炎が宙に舞い掻き消えるばかりだ。

 

 

 

「麦わらの一味 “黒足” だな? フフフフフッ !!! 」

 

「 !!! 」

 

「 “五色糸(ゴシキート)” !!! 」

 

 

 

 笑みを崩さず宙で逆さになったドフラミンゴの五指から日の光に照らされてギラつく糸が放出されると、瞬く間にその糸は赤、黄、青、緑、紫の五色に色付き鋭い切れ味でサンジの体を切りつける。

 

 血を流して頭から逆さに体勢を崩したサンジにドフラミンゴは挑発する様に「守ってみろ仲間を !!! 」と口にして再びサニー号へ向かって飛ぶ。

 

 

 

「サンジ君〰︎〰︎ !! 」

 

「サンジさん !! 」

 

「サンジ〰︎〰︎って、うわぁぁ !! また来たぞドフラミンゴ〰︎〰︎ !!! 」

 

「イヤ〰︎〰︎〰︎ !!! 」

 

「あっち行け〰︎〰︎〰︎ !!! 」

 

 

 

 わーキャーと迫り来るドフラミンゴに騒ぐナミ達を笑みを浮かべながら船へ攻撃を仕掛けようとしていたドフラミンゴは後ろから追ってきたサンジに笑みを引っ込めると、しつこいと言わんばかりに尻目にサンジを睨みつける。

 

 

 

「 “焼鉄鍋(ボアル・ア・フリール)” “スペクトル” !!! 」

 

 

 

 サンジの足から繰り出される無数の炎纏う連撃は、武装硬化したファーコートを自身の身を包むように引き寄せたドフラミンゴによって防がれてしまい、猛攻を凌ぎながらもコートから右手を突き出したドフラミンゴが虚空に指を絡ませる。と、その瞬間、サンジの体は不可視の何かに絡め取られたようにその場でビタリと静止してしまう。その様子はさながら空中に磔にされた罪人の様だ。

 

 

 

「うっ !!! え !? 何だ !? 体が動かねェっ !! 」

 

 

 

 船から上空を見守っていたブルックが「サンジさん空中で止まりましたよ !? 」と騒げば、囚われの身であるジョーラは上機嫌に笑って止まったのではなく動けないのだと言う。

 

 

 

「オッホッホッ !! 若の能力によって、もう蜘蛛の巣にかかった虫も同然 !! ──死を待つだけざます !!! 」

 

「そんな !! サンジ君逃げてーー !! 」

 

「サンジ〰︎〰︎ !! 」

 

 

 

 ナミ達はサンジにその場から離れるよう声を張り上げて伝えるも、不可視の何かによって無理矢理大の字に宙へ固定されるサンジは指一つ動かす事が出来ない。

 …サンジを拘束する不可視の謎の正体とはドフラミンゴが操る糸の事だが、男の能力を知らない麦わらの一味にとってはサンジがなす術なく宙へ浮いているようにしか見えないのだ。

 

 

 

「 “超過(オーバー)” …」

 

 

 

 宙に磔にされるサンジの目の前にいるドフラミンゴの手の平から、熱された鉄の様な鞭が上空へ放出されると、今まで怯えていた安全確認チームのナミとブルックがサンジの助太刀に入る為各々の得物を構えるが、それはサンジの「何もするな逃げろ !!! 」という叫びによって止められてしまう。

 

 そうしている間にも、ドフラミンゴの糸を束ねた鞭がサンジを真っ二つにせんと迫る。

 

 

 

「 “鞭糸(ヒート)” !!! 」

 

「…… !!! 」

 

 

 

 だが、サンジを切り裂こうとした鞭の先は一瞬にしてその場から掻き消えた体を捉える事が出来ずに空振りながら真っ直ぐにドレスローザへ伸びていく。

 

 

 

「 !!? あァ !? …ローの仕業か!」

 

 

 

 ドフラミンゴのサングラスにサンジの腕を掴んで宙を飛ぶローとシーザーの影が映り込んだ。

 

 サニー号の真上にて、ローはサンジに詫びを入れつつ船上にあった樽と3人の位置を入れ替え船へ降り立った…といっても、シーザーとサンジは芝の上に背中から落ちたし、シーザーに至っては腹に座る形で上からローが降って来たので苦しさに悲鳴を上げている。

 

 

 

「トラ男さん !! 」

 

「トラ男〰︎!サンジを助けてくれてありがとう〰︎ !! 」

 

「サンジ君 !! トラ男君 !! 」

 

 

 

 駆け寄って来た3人によってサンジは助け起こされ、ローは自力で立ち上がり船室に早足に入って行くが直ぐに戻って来るとその左手には脈打つ心臓を持っていた。

 

 

 

「黒足屋!『工場破壊』はどうなってる !? 」

 

「場所はわかったが想像以上に大仕事になるとフランキーが、」

 

「父上は !? カン十郎は !? サン五郎っ !! 」

 

 

 

 息を切らしながらローに近況を報告するサンジの足にモモの助が縋りつき錦えもんと同心のカン十郎の所在を尋ねれば、侍…錦えもんも工場におり、カン十郎も事が済めば助かる筈だと幼い子供であるモモの助をぶっきらぼうにではあるが不安にさせないようにサンジなりに気を遣って答えている。

 

 その間にもドフラミンゴはサニー号へ迫って来ているようで、チョッパーの泣き叫ぶような悲鳴が船に響き、シーザーはローの手に収まっている心臓に喧しく口を出すものの、ローの手にある心臓はロー自身のものであり、本来の持ち主であるシーザーの心臓はローの心臓を入れ替えられていた。

 

 

 

「チキショー !! 持ってやがったのか !! 」

 

 

 

 騒がしいシーザーの心臓をつい先日、シーザーからされたようにぞんざいに芝生へ放り投げれば落下して転がった心臓に痛みが走ったのかシーザーは小さく呻きをあげると涙を流しながら自身の心臓を両手で大切に抱え込んだ。

 

 

 

「お前ら、とにかくコイツを連れて今すぐ【ゾウ】を目指せ !! 」

 

 

 

 シーザーを指差してそういったローにナミが鸚鵡返しに聞き返せばローは次の目的地である【ゾウ】へのビブルカードを渡してあった筈だと言う。

 狼狽えるブルックがルフィたちはどうするのかと尋ねるとローは工場破壊が完了次第直ぐに後を追うと説得するが、麦わらの一味の航海士であるナミは船長なしで出航できるわけがないと待つ意志を示す。

 しかし、グリーンビットから飛来する軍艦からの砲撃、迫り来るドフラミンゴの糸、果てには上空から降ってくる隕石という魔のデルタアタックを目の当たりにしたナミは瞬間手の平を返すかの如く「トラ男くん! “ぐるわらの一味”出航します !! 」と声高々に宣言したのだった。

 

 

 

「早く行け !! 」

 

 

 

 能力で『 ROOM 』を展開させて迎え撃つ構えのローへサンジがシーザーを遠ざける必要は理解できるし先にゾウへ向かうことも構わないがと口を開く。

 

 

 

「ドレスローザは作戦の()()()の筈だ。共通の目的は『四皇』カイドウの首 !!! ──お前、ドフラミンゴにこだわりすぎちゃいねェか !? 」

 

「 ! 」

 

 

 

 人のことをよく見ているサンジらしい推察の鋭さにローは図星を露わにするものの、サニー号に迫る隕石に泣き叫ぶナミとチョッパーの声に意識を切り替えると、手術室の領域に入り込んだ隕石の軌道を軍艦へと向けて衝突させた。

 さらには超高速で襲来する“超過鞭糸(オーバーヒート)” を刀で抑え込み、雲のない場所を探して進めと声を上げる。

 

 

 

「ドフラミンゴは“イトイトの実”の能力者! 雲に糸をかけて空中を移動している、雲のない場所じゃ追ってこれねェ !! 」

 

「“糸”… !! そうだったのか! 」

 

 

 

 サンジは先程のローへ問いかけたものの、彼の表情に何か思うことがあったのか深く聴きはせず、素直にローの指示で瞬間長距離移動が可能である“風来(クード)・バースト”の準備に取り掛かった。

 その準備の時間稼ぎをする為にローはジョーラの首に刀の刃を突きつけて家族(ファミリー)…とりわけ古参の幹部を大切に思うドフラミンゴの矜持を利用する。

 

 

 

「ロー !! あーたなんて事を !! …っ若様あたくしの事など気になさらずに !!! 」

 

「……………………… !! 」

 

 

 

 ジョーラを盾にされたドフラミゴが歯軋りし、手を出せない状態である間にも“風来(クード)・バースト”の起動準備が出来たのかチョッパーがレバーを引く。

 瞬間、船尾に取り付けてあった大筒のようなところから超強力な空気砲が放たれ、サニー号は文字通り先程の軍艦なんて比じゃない速度で飛び去ったのだった。

 

 ローはジョーラを掴んだまま飛び去る船から飛び降りて能力で鉄橋へ戻ってくれば、ドフラミンゴも後を追うようにローに対峙する形で鉄橋に降り立つ。

 口ではローの行動は無意味だと嘲笑うが、その根底では格下の若造どもに出し抜かれた事で煮えくり返る腑を押さえ込んでいる状態だ。

 

 

 

「ドレスローザにいるもう半分の麦わらの一味、あいつら全員人質にすりゃシーザーなんてすぐ返しにくる !! ロー! お前の行動に何の意味がある…… !! 」

 

「──そうやってナメきって大火傷をした奴らが数知れずいるんじゃねェのか? 」

 

「!」

 

「残念だが、おれと麦わらの一味との『海賊同盟』はここまでだ! 」

 

「あァ !? 」

 

 

 

 困惑を示すドフラミンゴにローは手を組んだ時から麦わらの一味を利用して『SMILE』の製造を止めることだけが狙いだったと公言すると、もし自分がドフラミンゴを打てなくとも上納品である『SMILE』を失い後ろ楯のなくなったドンキホーテファミリーはカイドウの逆鱗に触れて消されるとローは続けた。

 差し違えるつもりの特攻にドフラミンゴは笑みを深める。

 

 

 

「お前が死んだ後の世界の混乱も見て見てェが──おれには13()()()のケジメをつける方が重要だ !!! ジョーカー !!! 」

 

「…………お前の言いてェ事はよくわかった。だが、ジョーラを盾にしたところで意味がないことをお前はよく解っている筈だ」

 

「そうさ、ロー…あたくしは若の為ならいつでも命を…… 」

 

 

 

 そう口にしたジョーラの姿は言葉を言い切る前に突如石の礫へと変わる。

 それはローの能力によって位置を入れ替えられた為であり、鎖を巻かれたままのジョーラは瞬時に状況を理解するとドレスローザの方へ走り去っていった。

 

 

 

「なるべく遠くへ逃げるんだな…」

 

「…………さっき、黒足が現れたが……ウチの作戦にも色々と支障が出ているようだ…」

 

 

 

 ジョーラが走り去ってから、麦わらの一味を一網打尽にする為の作戦に狂いが生じていることにドフラミンゴの額に血管が浮き出ると、悉く麦わらの一味を手助けしているローへの苛立ちがドフラミンゴの内心で渦を巻く。

 

 

 

「お前のやっている事はただの逆恨みだ、ロー !!! 」

 

「恨みじゃねェ…! おれは()()()の本懐を遂げる為! 今日まで !! 生きてきたんだよ !!!! 」

 

 

 

 お互いの激しい剣幕で戦いの火蓋は落とされた。

 『 ROOM 』を展開したローが鉄橋をドフラミンゴこど細切れにしようと刀を振るうが細切れになったのは鉄橋だけで直ぐ様“五色糸(ゴシキート)”でドフラミンゴは反撃する。

 ローの剣戟とドフラミンゴの能力で宙を舞う瓦礫はオペオペの実の能力圏内で攻撃の手段へ早変わりし、ローがドフラミンゴを押し潰さんと瓦礫を“タクト”で操作してけしかけるも、そう容易く押し潰されてくれるわけもなく、直ぐに瓦礫は糸によってサイコロ状に切り裂かれてしまう。

 

 そのまま激しい戦闘が続き、防戦一方のローは体力が削れていく一方でドフラミンゴはいまだに余力を残しているのか目立った外傷ない。強いて挙げるなら、ローの“メス”が掠った目尻の浅い切り傷くらいなものだろう。対するローは相殺しきれなかった糸の衝撃で身体中を打ち付けたり、瓦礫の中を転がったからか全身に血が滲んでいる。

 ふらりと重心を崩した瞬間、ドフラミンゴの蹴りをまともに食らったローが血を吐きながら宙を舞うと、そこに追い討ちをかけるように糸を丸めた弾丸がローの肩を撃ち抜いた。

 

 

 

「さァどうする……ロー。ドレスローザは直ぐそこだぞ。」

 

 

 

 地面に這いつくばるローへ一歩、一歩、ゆっくり近づくドフラミンゴの懐から電伝虫のコールが鳴り響く。

 

 

 

「おれだ」

 

『おいドフィ、ヴァイオレットが裏切りやがったんだ。おかげで麦わら達の作戦はわからず仕舞いよ』

 

「──何かあったとは思ったが…奴らの作戦の事はいい。ディアマンテ、ラオG達を【SMILEの工場入り口】に配備しろ」

 

「 !! 」

 

『バカを言え、あいつらはこれから決勝に出場して会場を沸かせるんだ… !! 」

 

 

 

 電話口で渋るディアマンテを天才のお前が一人いれば充分だと煽てると、ディアマンテは上手く乗せられたのかそこまでいうなら任せとけ!と意気揚々に電伝虫をぶつ切りした。

 

 

 

「ロー……お前は囮で、本命の麦わらの一味が『工場』を破壊する。…お前は死んでもおれはカイドウに追い詰められる。そういうシナリオでいいか?」

 

 

 

 歯を食いしばるローを挑発するようにドフラミンゴは笑みを浮かべたまま、破綻しかけた計画の実情を言い聞かせるように実況すると、利用したと言いつつも麦わらの一味に絶大な信頼を持つローの甘さを理解が出来ないと言わんばかりに謗る。

 なぜそこまで麦わらを信じるのかと問うドフラミンゴにローは疲労を隠しきれない顔で不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

 

 

 

「……『“D”はまた…必ず嵐を呼ぶ』…… !!! 」

 

「 !!! 」

 

 

 

 かつて“あの人”が言った事をローはそのまま口にする。

 『神の天敵』“D”の一族。それがお前の敵だとローはドフラミンゴにそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 女を宝物のように抱えた男が街を歩く。

 一歩、一歩。足を進めるたびに足が重くなり、不思議と体の芯から煮えたぎり血潮が沸騰しているような感覚に襲われる。鼻血が顎を伝うが構うものか。

 

 ──ボト、ボト。

 

 歩く度に体が軽くなる。だが足は鉛のように重たくて思い通りに動かせなくなっていく。

 

 ──ボト、ボト。

 

 何処かで悲鳴が聞こえる。化け物を見たような息を呑む、そんな悲鳴だ。それは老若男女入り混じる恐れの声だ。

 

 

 

「……ハァ、ハァ… !! やはり、お前は素晴らしい……エスメラルダ… !! 」

 

「…………」

 

 

 

 全身の肉が腐り落ちながら歩みを進めるのはピグマリオンの変わり果てた悲惨な姿だ。彼の血液に入り込んだシグマの分解術式であるプラズマは身体中の酵素を異常活性化させ、ピグマリオンの血肉を急速に腐らせていく。

 強い痒みと痛みに襲われながらもピグマリオンは興奮状態にあり、自身の現状を俯瞰することが出来ず、周囲の声など耳鳴りだと思い込んで自身の小舟が取り付けてある港へ向かっている。

 

 ついにピグマリオンの足が腐り落ちてシグマもろともレンガの張り巡らされた地面へ倒れ込むが、体に衝撃を受けてもシグマの硬く閉ざされた瞼は開かない。這いずりながらシグマを物陰に隠したピグマリオンの体はジュクジュクと泡立って骨まで溶けると、そこには赤褐色をした流体のような物体が残された。それは独りでに動き出すとレンガの溝を伝って新しい容れ物を探すように蠢いている。

 

 悍ましい流体。それこそがピグマリオンの本体そのものであり、彼自身が賢者の石と同化した意思を持つエネルギー体なのである。

 彼はその時代に生きる人間に寄生することで200年と数ヶ月もの間社会に紛れて存在してきた無機生命体なのだ。

 

 

 

『……ニク、ニクノ…カラダ……アタラナ、ウツワ……』

 

 

 

 グジュリ、グジュグジュ…。

 泡立ち汁気の混じる声をあげてピグマリオンはドレスローザの市中へ向けて動き出す。

 

 

 

「……ぅ、ここ…何処…?」

 

 

 

 ピグマリオンが去って数刻後、右目に走る痛みと遠くで聞こえる騒ぎの声でシグマは目覚めた。力の入らない体に鞭を打ち、壁伝いに立ち上がると磯のにおいが鼻についた為、港にいるのだと理解するがなぜ自分がこの場にいるのか全く思い出せなかった。

 

 

 

「確か…っ、そうだ、ピグマリオンに負けたんだ、わたし……」

 

 

 

 最後の記憶はグリーンビットでの戦闘で、意識を失う間際に男が何か叫んでいたような気がするがシグマは何故生きているのか不思議で仕方ない。しかし、上手く体が動かせないものの自由に動き回れると考えたシグマは拾った木材を杖にして騒ぎの中心である市中へ向かい歩き出した。

 

 

 

「はぁ、はぁ……彼らは無事作戦を果たせたんだろうか?」

 

 

 

 震える足を進めるシグマはドレスローザが酷く様変わりしていることに気がつく。どうりで歩きづらい…とそう思っていた地面はデコボコに隆起していたり陥没していたりと地形がめちゃくちゃで、よく上空を見上げれば鳥籠を模した檻のようなものが島全体を囲むかのように四方八方、360度に張り巡らされていた。

 

 

 

「おい、あれって」

 

「金髪に緑の眼……間違いない。あいつ“元天竜人”のエスメラルダだ」

 

「“元”なら、どれだけ攻撃しても報復は来ない」

 

「天竜人……あいつがいるから…この国がこんな事になったのもきっとあの天竜人のせいよ… !! 」

 

 

 

 ざわざわ…。

 

 何やら騒がしい周囲にシグマはようやく辺りを見渡した。

 おざなりな武装をした、おそらく民衆なのだろう。その視線をシグマは一身に受けており、誰も彼もが目を血走らせて憎悪と怒りが燃える剣呑とした眼でシグマを睨みつけている。

 

 

 

「……? 元、テンリュウビト……?」

 

「とぼけるのか、この天竜人め !! 」

 

「お前達に連れて行かれて奴隷にされた人間がどれ程苦しめられたと思っているんだこの悪魔 !! 」

 

「待って、待ってくれ! わたしはシグマ! 出身はパンクハザードという島で、テンリュウビトという人種ではない! エスメラルダもわたしとは別の──」

 

 

 

 ──パァンッ!

 

 乾いた発砲音が鳴り響いた瞬間、シグマの腹部が赤く染まる。

 

 

 

「あ、ぐぅッ !!? 」

 

「は…はは! やったぞ、天竜人を撃った !! 」

 

「お、おれも…! 」

 

「私だって…! 」

 

「オイ! 殺すなよ! ……天竜人には今までおれ達が受けてきた事よりも辛いめにあって貰わなきゃならないんだから… !! 」

 

「……っ……っ… !! 」

 

 

 

 詰め寄る民衆にシグマは怯えた表情を浮かべた。その憐れみを誘うような仕草に余計に火が付いた彼らは今更お前達天竜人がそんな顔をするのかと怒りを露わにする。

 紛う事なく抑圧された民衆の鬱憤が、悪意が、一人の女へ向けられた瞬間だった。

 そしてそれはドフラミンゴが仕組んだシグマ…否、元天竜人エスメラルダ・シュリ・グルドブ・マヘンドラナに対する嫌がらせじみた復讐であり、事はシグマの目覚めるほんの数十分前に起こっていた。

 

 

 

 

 島を囲うように張り巡らされた糸「鳥カゴ」によって電波も切断され、孤立したドレスローザ。

 その上空を覆う檻から垂らされた糸によって操られる民衆、海軍、海賊達は無差別に銃を乱射し、家族やか弱き民間人を刃物で斬りつけた。

 自らの意思に反して駆けづる足は最愛の人に向かって突き進む。何処からか聞こえてくる誰かの悲鳴が恐怖心を煽り、命乞いと嘆きと身を裂くような慟哭が四方八方から響き辺り一面が戦禍のような地獄絵図へと塗りつぶされる。

 銃弾が母子共々を貫いて鮮血が石畳を濡らし、口を戦慄かせた男が振り上げた斧は寄り添う男女を切り裂いた。

 

 ──轟轟(ゴウゴウ)嗷嗷(ゴウゴウ)囂囂(ゴウゴウ)

 

 建物の倒壊する音、機関銃の音が鳴り響く混沌とした地獄の上空にドフラミンゴの姿が浮かび上がる。

 

 

 

『ドレスローザの国民達……及び、客人達……別に初めからお前らを恐怖で支配しても良かったんだ…… !!! 真実を知り!おれを殺してェと思うやつもさぞ多かろう !!

 

 ──だから“ゲーム”を用意した…()()()()()殺すゲームだ !! 』

 

 

 

 取り繕うことをやめたのか、それとも破れかぶれのヤケクソなのか、ドフラミンゴは自らの命でゲームをするとそう言った。

 王宮から逃げも隠れもせず、この命を取れればそこでゲームセットだと啖呵を切るドフラミンゴだが、それと同時にもう一つだけゲームを終わらせる方法があると甘言じみた誘惑をチラつかせる。

 

 

 

『今からおれが名前を挙げる奴ら、全員の首を君らが取った場合だ !!! ──なお、首一つ一つには多額の懸賞金を支払う !! ……殺るか、殺られるか !! この国にいる全員が“賞金稼ぎ(ハンター)” !!! お前らが助かる道は…誰かの首を取る他にない !!!

 誰も助けには来ない… !!! この“鳥カゴ”からは誰も逃げられない。外への通信も不可能。外の誰にも気づかれず…お前達は死んでゆく。

 暴れ出した隣人達は無作為に人を傷つけるだろう──それが家族であれ… !! 親友であれ… !! 守るべき市民であれ…… !! 』

 

 

 

 ドフラミンゴは言う。逃げても隠れてもこの「カゴ」の中に安全な場所など存在しないのだと。

 

 

 

『叫べ…恨め !! お前達は“被害者”だ !!! ──考えろ…おれの首を取りに来るか、我々ドンキホーテファミリーと共におれに楯突く12名の愚か者達に裁きを与えるか……選択を間違えばゲームは終わらねェ…。星一つにつき1億ベリー !!! さァ刮目しろ…!こいつらこそが… !! ドレスローザの“受刑者”達だ !!! 』

 

 

 

 空中に浮かんでいた映像が切り替わるとそこには顔写真と共に所属と名前、そして★が書かれた手配書が映し出される。

 各組織の主犯格はもれなく三ツ星であり、海賊やゴロツキ達からはあまりの大盤振る舞いに歓声が湧き上がった。

 

 

 

『さらに今日おれを…最も怒らせた男がいる…… !! お前らをこんな残酷なゲームに追い込んだ全ての元凶 !! ゴッド・ウソップ !!! こいつの首を取った奴には5億ベリーだ !!!

 ──そして、このドレスローザにはおれの人生を滅茶苦茶にした女もいる。

 ……そいつは“元天竜人”だ…… !!! こいつに関しては賞金はかかっちゃいねェ…ゲームに全く関係のない無価値な女… !! 火炙りにするもよし、磔にするもよし、銃弾の的にするもよしだ…… !!! フッフッフッフッフ… !! お前達に散々苦渋を舐めさせてきた天竜人が堕ちてきたぞ…… !!! さァ、どうする !? ……復讐は、今しかないぞ…フフフフフ! フッフッフッフ !!! 女の名はエスメラルダ、金髪に緑の眼を持つ小娘だ…… !!! 』

 

 

 

 

「やめてっ! やめてくれ…! 」

 

 

 

 髪をわし掴まれて地面に引き倒されたシグマに民衆達の怒りがぶつけられる。銃床で殴られ、蹴られ、唾を吐きかけられるシグマはこの理不尽がいつ過ぎ去るのかわからず、身を丸めてまるで嵐のような地獄の時間を凌ごうとするが民衆の怒りは収まるどころか殴れば殴るだけ湧き上がってきてシグマに対する暴力は終わる気配は見えない。

 

 焼け落ちた残骸の中から熱された鉄骨を取り出し、剥き出しの肌に押し当てられる。杖代わりに持っていた木材で体を強く叩かれる。そんな遠慮のない暴力がシグマを襲い、痛みに麻痺して意識が朦朧とし始めていた。しかし、ふと聞こえた『声』がシグマの脳を揺らし、覚醒を促す。

 

 ──たすけて。

 

 だたの錯覚だったかもしれない。だがシグマは虚になりかけた目を開いて声のした方へ視線を向ければそこには瓦礫に挟まって動けなくなっている子供とその子供を必死に助けようとしている母親の姿があった。

 彼女はこちらに向かってしきりに叫んでいる。誰でもいいから子供を助けてと。でも、助けを請われた彼らは目を血走らせてシグマを痛めつける事に夢中になって気づいていない。

 

 ……こんなの、間違っている。

 

 この場には怒りと悲しみと憎しみしかない。

 どれだけ叫んでも、助けを求めても気づいてもらえない。瓦礫に挟まれた子供も母親も諦めの感情がのぞき始めていた。

 

 

 

「……いて、くれ…」

 

「天竜人め! このっ !! このっ !! 」

 

「くたばれ天竜人 !! 」

 

「──退いてくれ」

 

 

 

 威圧するようにシグマの身から迸った黒い雷が彼女へ暴力を振るっていた人々の意識を刈りとった。

 何かされた様子はなかったはずなのに、突如白目を剥いて泡を吐き倒れた彼らに遠巻きにリンチを傍観していた民衆達は今まで興奮状態から抑制されていた恐怖心が一気に湧き上がったのか、皆が冷や汗を滝のように流している。生物的本能から一斉にシグマへ殴りかかろうと民衆達が足を踏み出すが、彼らが殴り掛かるよりも先に動いたのはシグマだった。

 

 視線をよこす事なく背を向けて歩き出したシグマに逃げる気だと思った彼らがシグマの行く手に先回ろうと視線を向ければ、そこには瓦礫に挟まって動けなくなった子供とその母親がいてシグマはその側へ足を引き摺るように歩みを進めている。そこで漸く民衆は手助けするべき存在がいた事に気が付いたのだった。

 

 親子に歩みを進めるシグマを止めようと罵声を浴びせる者もいたが、振り返った彼女の静かな隻眼に見つめられたその人はまるで金縛りにあったように声の一つも出せなくなってしまい、静かだが憤りを身に纏うその異様な雰囲気に呑まれた他の民衆も黙ってシグマの行動を見守ることしかできない。唯一子供を守ろうと母親だけは気丈にもシグマを鋭く睨みつけていたが、「邪魔だ」という言葉と共に引き抜き打ち捨てられた杭にこびり付いた眼球の残骸を見てか細い悲鳴をあげると腰を抜かしてしまう。

 

 

 

「“(ノーム)”」

 

 

 

 シグマのその一言で子供を挟んでいた瓦礫は最も容易く退かされ、突如自由になった子供はポカンとした表情で血を流しながらも満身創痍のくせに安心させるように薄くはにかんだシグマを見上げている。

 

 

 

「大丈夫かな。怪我は、どこか痛いところは?」

 

「う、ううん。ないよ。全然、大丈夫」

 

 

 

 ありがとう、テンリュービトのねえちゃん。

 子供の感謝を皮切りに先ほどまで怯えていた母親は呼吸を引き攣らせながら額を地面に擦り付けて感謝を口にし続ける。

 だが、その姿は単純に感謝というよりも懇願の姿にしか見えないのはシグマの気のせいではない筈だ。

 周囲を見てもシグマを見る民衆の眼差しは懐疑一色であり、彼らにとっての天竜人がどれだけ悪辣で邪悪な存在であるかが窺い知れる。

 

 

 

「…………別に、ただの気まぐれさ」

 

 

 

 表情に影を落としたシグマはそのまま民衆達に目もくれずに中心街へと足を進めた。一歩歩くごとに孤独が身を苛み、人知れず唇を噛み締めたが今ここで腐っていても何も始まらない。どこかに消えてしまったピグマリオンも探し出さなければならないシグマはただ無心に心を透明にして進み続ける。その足は自然と駆け足になり、気が付けば顔を俯かせて全力で走っていた。

 中心に行けば行くほど人も多くなり、隠れながら進んでも見つかっては石を投げられ、罵声を浴びせられ、銃弾で撃たれたってシグマは足を止めない。

 

 

 

「ハァっ…ハァっ…っ!ぅうう、づらいよ゛ぉ!」

 

 

 

 涙を流し、鼻水を垂らしながら我慢しきれなかったシグマは辛いと弱音を吐き出す。シーザーから向けられていた嫌悪感なんて目じゃない程に、民衆から向けられるシグマへの態度は彼女の心を蝕んだ。

 何度か地響きがあって転びそうになるがそれでもシグマは走り続ける。もうピグマリオンを探すという建前もかなぐり捨ててひたすら現実から目を背けるために走っていた。

 

 

 

「──い! ──グマー! 」

 

「 ! 」

 

「おーーい! シグマーー ! 」

 

「っこの声、麦わらの──って、なんか知らない人いっぱいいる〰︎〰︎〰︎〰︎ !? 」

 

 

 

 声のする方を振り返ったシグマの目に入ったのは大きな闘牛に跨るルフィを筆頭にその後ろから巨人族や馬に跨った人など見知ったローやゾロを除く12人が土埃を上げながら併走してくる様子だった。

 思わず涙が止まって呆然とするシグマだったが、すぐに差し出されたルフィの手に今度は困惑の表情を浮かべる。

 

 

 

「シグマ! 掴まれ ! 」

 

「ぅ、え、でもっわたし…テンリュウビトってヤツらしくって…」

 

「何言ってんだ! お前、天竜人じゃねェだろ! 」

 

「えぇ… !? でも、」

 

 

 

 いつまでも渋るシグマの様子に痺れを切らしたのはルフィで、彼はシグマを真っ直ぐに見据えていう。

 

 

 

「うるせェ !!! 行くぞ !!! 」

 

「──」

 

 

 

 伸びてきた手に掴まれてシグマは宙を舞う。

 たったそれだけ。それなのにシグマの陰鬱とした翳りは一瞬にして振り切られて新しい世界が開けたような感覚に胸が高揚した。

 

 

 

「──本当に、君ってヤツは… !! 」

 

 

 

 眦に浮かんだ涙を指で払ってシグマは笑顔を浮かべる。めちゃくちゃで破天荒な台風の目みたいな男に何もかもを吹き飛ばされてしまったと。

 闘牛、ウーシーの背に下されたシグマはゾロと並んで振り落とされないようにバランスをとりながら皆と同じく王宮へと向かっていく。

 

 

 

「…錬金屋、無事……ではなさそうだな」

 

「医者の君! なんか腰を壊しそうな体勢だけど……ていうか君もボロボロじゃないか! 」

 

 

 

 互いに満身創痍な姿を見て目を瞬かせる。と、次の瞬間ローは目をカッと見開き「この、バカじゃじゃ馬 !! 」と声を荒げた。2人に挟まれたジェット…ターバンを頭に巻いた男がおろおろとシグマとローを交互に見て、どうしようと言わんばかりの表情を浮かべるが相方のアブドーラはそんなジェットに少しばかりの憐れみを含んだ眼差しを送るだけである。

 

 

 

「お前! あれだけの啖呵を切っておきながら満身創痍じゃねェか! だから大人しく運ばれてろと言ったろう! このバカ! 」

 

「んなっ !? そういう君だって! 全部おれに任せとけみたいなこと言っといて干された洗濯物みたいになってるじゃないか! 」

 

「「ブフッ… !! 」」

 

「…っ! 」

 

「「ひィっ! すんませーーん !!! 」」

 

 

 

 シグマの洗濯物発言に思わず吹き出したジェット&アブドーラをローがギロリと音がしそうな程に凄まじい表情で睨みつけると2人は身を縮めて悲鳴をあげながら即座に謝罪を口にした。

 そんな2人の様子に溜飲が下がったのかローは鼻を鳴らして再びシグマに向き直る。

 

 

 

「いいか錬金屋! お前、もう勝手な行動を、」

 

 

 

 とるんじゃねェぞ! …と、多分ローはそう言いたかったのだろうが、彼の言葉は上空から絹を裂くような甲高い断末摩じみた叫びに掻き消されてシグマの耳には入らなかった。

 

 

 

「なんだアイツ、腹でも壊したのかァ… !? 」

 

「腹を壊してあんな声を出すものかよ… !! 麦わらの君ってば、少しズレてる……というか! 何あのデッッカイ生きてる石像 !!! 」

 

「いや、気づいてなかったのかよ !! 」

 

 

 

 地面ばかり見ていたシグマは初めて目にするドンキホーテファミリーの最高幹部の1人であるピーカの街と同化した姿に驚きを隠せない様子で、ゾロは逆にあんなに目立つ石像に気づかなかったシグマに驚きを露わにする。

 

 そんなやり取りをしている間にも、ピーカは()()するように得体の知れない何かが身体に入ってくる拒絶反応と、胸の内を支配する嫌悪感に巨腕で頭を抱えると振り乱した。

 入ってくるなァ! と連呼しながら暴れす姿は王宮から街の様子を見下ろしていたドフラミンゴの目に入り何が起こっていると身を乗り出して原因を探ろうにも判らず仕舞いで、徐々に動きが鈍くなっていくピーカに新王の台地でルフィ達を待ち構える他の幹部達も戸惑いを隠せていない。

 

 

 

「岩の手がこっちに向かって落ちてくる… !! 」

 

「ぴ、ピーカ様ァ! お気を確かに…ヒィィ! もうダメだ逃げろォ! 押し潰されるぞォ… !!! 」

 

 

 

 意識を喪失したのか、巨大な岩石の塊…否、街と同等の塊が敵味方の選別もなく上空から降ってくる。

 圧倒的質量で押し潰されかねないとドンキホーテファミリーの傘下たちは蜘蛛の子を散らしたように安全地帯を求め四方八方へ逃げていくが、王宮をまっすぐ目指すルフィ達の足は止まるどころか寧ろ勢いを増しているようだ。

 しかし、それでも巨大な手は幾ら速度を上げても通り抜けられるものではなく、ならば破壊するまでと八宝水軍の首領(ドン)・チンジャオとプロデンス国王のエリザベローⅡ世が迫り来る岩石を迎え撃つ。

 

 

 

「“八衝拳奥義”“錐龍錐釘(きりゅうきりくぎ)” !!! 」

 

「まだ溜まりきっちゃいないが… “ライト版”“キングパンチ” !!! 」

 

 

 

 2人の拳と頭から放たれた衝撃波は迫り来るピーカの腕を容易く打ち砕く。

 轟音を立てながら崩れていく岩石の腕に部下達は声をあげてピーカの安否を気遣うが、依然としてピーカの口からは呻き声のようなものしか出てこない。

 だが、その呻き声は次第にはっきりとした言葉に変わっていく…しかし、それはとても正気を保った言動とは感じられないものだ。

 

 

 

『お……オ、ォ……オォオオ! はいれた、はいれた…! 入れた入れた入れた… !! ハハハハハハ… !!! 入れた入れた入れた入れた !!! 』

 

 

 

 金切り声をあげながら狂ったように笑い「入れた」と連呼するピーカの姿をした何者かは一頻り笑い声を上げ続けた後、熱に浮かれたようにある人間を探し始めたのである。

 

 

 

『あぁ…何処だ……何処にいる…! エスメラルダ !! 迎えにはせ参じましてございます… !!! さァ、姿をお見せください! 聖地で果てた貴女! 光り輝く私のエスメラルダァ !!! 』

 

 

 

 ピーカの姿をした者が発した言葉に近くにいる人間全員の視線がシグマに注がれる。

 その全てが「おいお前、呼ばれてんぞ」と口ほどにものを言っているのがシグマにはよくわかった。…それでもシグマは声を大にして叫びたいと心の内で思う。「わたしの事だけどわたしじゃない! 」と。

 うだうだと若干の現実逃避をシグマがしていると暫定ピーカ in ピグマリオン(略してピカマリオン)の眼がルフィ…もとい、ルフィと共にいるシグマの姿を捉える。

 

 エスメラルダァァ… !!

 雄叫びのように叫んだピカマリオンの手がシグマを捕らえようと迫り来ると、再び首領(ドン)・チンジャオとエリザベローⅡ世が岩石の腕を砕く為に構えるが、それはゾロによって力の浪費だと制止を受けてしまう。

 

 

 

「元のソプラノ野郎と同じかどうか知らねェが、壊した腕もまた戻る !! 能力の理屈がわからねェままじゃ終わりがねェ !! 」

 

「やい! それじゃァどうしろってん……逃げろ〰️〰️ !!! 」

 

 

 

 八宝水軍のサイがそう叫ぶと同時に掌が地面を抉るように握り込む。

 運よく拳の範囲から免れた10人だったが、何処にもルフィ達が見当たらないことで掌に握り潰されてしまったのではないかと懸念したものの、それはエルバフの戦士である巨人族のハイルディンによってピカマリオンの腕を走り登っている姿を発見されたことで杞憂に終わった。

 しかし、その常軌を逸した行動に皆は一様に大口を開けて驚愕を露わにしている。

 

 一方、ウーシーに揺られるシグマは思い悩んでいた。

 そんなシグマの様子に嫌な予感を感じ取ったのか、ローが余計なことをさせるかと口を挟もうと口を開くが時すでに遅し…シグマは肺いっぱいに空気を溜め込むと耳をつんざくような大声で叫んだ。

 

 

 

「わたしはここだぞ〰︎〰︎〰︎〰︎っ !!! ピグマリオーーーーンっ !!! 」

 

「「何やってんだこのバカ女っ !!? 」」

 

「…はぁ〰︎〰︎〰︎! っんの、バカじゃじゃ馬 !!! おれはもう勝手な行動はするなと、」

 

「麦わらの君! わたし、ここで降りる !! 」

 

「だから! 話は最後まで、」

 

「おう! わかった! じゃあなシグマ! 」

 

「お前らおれの話を聞けェ !! っあ !! おい待て錬金屋ァ !! 」

 

 

 

 ウーシーから飛び降りたシグマの姿はすぐにぐんぐんと小さくなっていく。

 きっと碌なことにならないぞと焦るローにルフィは安心しろと真面目な顔で言った。

 

 

 

「トラ男、ゾロも行った…だから大丈夫だ! 」

 

「ハァっ…もういい…──おれもハラを括った… !! お前らが好きにやるならおれも好きにやらせてもらうからな… !! 」

 

「 !? 」

 

「お前らに持ちかけた作戦は遠回りにドフラミンゴを潰す手段だった… !! だが本当は……おれもあいつに直接、一矢報いたい !!! ──さっきは負けたが今度こそ !!! 」

 

 

 

 ローの脳裏にサンジから言われた「ドフラミンゴにこだわりすぎちゃねぇか !? 」という言葉が過ぎる。

 

 ──ああ、そうだ。黒足屋の言う通りだ。おれは…ずっとドフラミンゴに一矢報いることにこだわってた…あの人の、コラさんの本懐を遂げる為に。ずっと燻ってたんだ。どれだけ実現の可能性が高い策を講じようとも諦めきれなかった。

 

 あの下手くそな、大好きだった恩人の笑顔を瞼の裏に思い浮かべながらローは自身の素直な気持ちを吐き出した。これだけメチャクチャに引っ掻き回されてしまえばもう取り繕う事がバカらしく感じてしまったのである。

 

 

 

「…… !! 13年前、おれは大好きだった人をドフラミンゴに殺されたんだ… !! 彼の名は“コラソン”。元ドンキホーテファミリー『最高幹部』」

 

「え !? あいつの仲間なのか !? 」

 

「──そうだ…おれに、命をくれた恩人で…ドフラミンゴの“実の弟”だ !!! 」

 

 

 

 

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